第20幕
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苦しい。なんと言うか、まるで何かに体を締め付けられているみたい。
身動きが取れない。金縛りにあっているとでも言おうか。実際になったことってないから想像なんだけど。
それにしてもリアルな夢だ。普通の夢ならまだしもこんなにリアルな感覚の悪夢を見るなんて、最悪以外の何物でもないけどね。
段々と息苦しくなってきたためもがくとすぐさま解放された。
『……なんで?』
あまりの衝撃に眠気は宇宙の彼方へと吹っ飛んだ。
もがくうちに顔にかかっていた布団が捲れ、その眩いばかりに光を放つご尊顔と対面してしまったのだ。布団が捲れた瞬間目の前にミナトの顔があってごらんよ。そして今まで抱きしめられて寝ていたということを自覚してごらんよ。死ぬぜ?
もぞもぞ動いて後方を確認すると、同じように抱きしめられた状態で寝息を立てるナルトとクシナの姿があった。
前を向き直すとゆっくりとミナトが目を開ける。
「おはよう」
いや、この場合は"おそよう"の方が正しいのかな?
なんて、とてもいい笑顔で言われても。まだこの衝撃を受け止め切れていないからちょっと一旦黙って欲しい。
そもそも、2泊3日だって言ってたから帰って来るのは明日のはずなのに。何か急遽やらなければいけない仕事とかが出来たのであれば、ミナトがこんなところでのんびり布団にくるまっているわけはないし。
私の疑問にミナトは変わらぬ笑顔で答える。
「いくら温泉に入ってもやっぱり子ども達がいない布団は寒くてね」
『なるほど、ナルトはたしかにあったかかったですかんね…』
「全く君は…。君達がいなくて寂しかったって言ってるんだよ」
おいおいこんなんでこの先子離れ出来んのかいこの人。
うーん、いくら目を凝らしてもそんな未来は見えないな…。
「さて、オレはせっかくだから寝直そうかと思うんだけど、君はどうだい?」
『えぇ……自分の部屋行って寝ますよ…狭いし』
たしかにあったかかったしこれ以上ないほどぐっすり寝られたけど、親子3人積もる話…というか積もる眠気もあるだろう。私がお邪魔する訳にもいかないじゃない?
ナルトを中心に川の字になればいいんだよいつもみたいにね。
よっこいしょ、と年寄りのような掛け声と共に布団から出ようとすれば、すかさず腕を掴まれ布団の中へと引き戻された。そして逃がさんぞとでも言わんばかりに腕の中に閉じ込められる。
『なんですかもー…愛息子を抱っこしてくださいよもー』
「愛息子は母さんが抱いているからオレは愛娘の方を…と思ってね。嫌だったら逃げてもいいよ」
『いや別に……嫌じゃないけど…』
私の返答ににこにこと微笑むミナト。
くそっ…腹立つなその顔ッ!さてはこの人私の返事が分かってて言いやがったな…っ!
その大いなるご尊顔が自分の武器となることを分かってる人ってさ、腹黒いよね。黒すぎて逆に白く見えるくらいにはさ。
悔しいからミナトには背を向ける形で丸くなった。するとよしよしと背後から頭を優しく撫でられる。
『…………なんですか』
「なんとなくだよ」
なんとなくってなんだよ。なんとなくで普通人の頭撫でるか??別にいいけど。
…………別にいいけどさ、
なでなで
なでなで
…………なんか長くない?
ちらっと少しだけ振り返ってミナトの顔を見ると、とても真面目な、でも慈しみが溢れるような、まるで聖母のような顔をしたミナトと目が合った。
ミナトは薄く目を細め、口角を少しだけ上げて笑う。
『ッ…??!!!』
慌てて前を向き目をギュッと瞑った。
危ない。一応娘なのに危うく惚れるところだったぜ。とんでもない破壊力だわ…我が父ながら恐るべし…。
これからは顔面兵器と呼ぶことにしよう。
「頑張り屋な君だから…」
『…?』
優しい声音が頭上から降ってくる。
「何を言っても、今後も頑張って、無理をし続けるんだろう?
でも、これだけは覚えておいてほしい。
オレもクシナも、そしてナルトも。今までもこれからも、ずっと君の味方だから。
それに、血の繋がりがあろうとなかろうと、君も大切なオレ達の娘だから。忘れないで」
何の脈絡もないのにこんなこと言ってくるんだもんなぁ…。
ほんとに、人のことをよく見てる。
別に、愛情が欲しいとか、ナルトが妬ましいとかそんな感情これっぽっちもないけれど。
ただ、みんなとはどうしても一線を引かずにはいられなかった。
『……忘れたことなんて一度たりともないよ』
原作を知っている私は、この世界においては言わば部外者なわけで。積極的にキャラクター達と関わってはいても、やはり一歩引いたところで傍観者のようになってしまうのはもはや癖のようなものだった。
だから、こんな風に声をかけられると、部外者の私でも、"ここにいていいんだよ"って、そう言われているようで。とても心が暖かくなるのを感じた。
実はクシナもこの時起きていて、私とミナトの掛け合いをばっちり見て聞いていたのだけれど、妙な安心感と心地良さ、そして気恥しさから既に寝る体勢に入っていた私には知る由のないことだった。