第19幕
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「ミノリ!ミノリ!オレについてきて!」
あれ以来ハクア君に懐かれたようで、毎日私を村長の家まで迎えに来るようになってしまっていた。
彼に付きっきりだと他の子から情報が得られなくなるし、それも困るからと、みんなで集まれるように声をかけて回る日々。
まあ、それが功を奏したようで、今では村の子ども達もハクア君を避けることなくみんなで遊んでいるようだ。
ある日の夕方、どうしても見せたいものがあると言われ連れてこられたのは眼下に海が広がる岬で、広大な水平線に丁度日がかかっているところだった。
海か…この世界に来て初めて見た。久しぶりに見たからか感動も大きい。
「仲良い子だけ連れて来てるんだ」
そう言ってハクア君は笑った。
ところで、村からだいぶ離れたこんな辺鄙なところをよくこんな10歳そこらの子どもが見つけられたものだ。
どうやって見つけたのかと聞けば、本当は秘密にしておくようにって言われたんだけど…と話し出した。
「隣に住んでるお姉さんが教えてくれたんだ。
お姉さんにとっても大切な場所だから、仲良い子にだけ教えてあげてねって」
いやこんな危険なところに子どもだけで来させんなよ。
ハクア君は本当にそのお姉さんのことが大好きみたいだから言わないけれど。
もう暗くなるから帰ろう、と声をかけようとした時、ぼふんという音と共に辺りの景色が一瞬にして暗い場所へと変わった。
吃驚しているハクア君の手を握り辺りを見渡すと、どうやらここはどこかの洞窟のようだ。私達の立つ地面には大きな術式が書かれており、その傍らには怪しげなおっさんが立っていた。
どうやら口寄せをされたらしい。おそらく、あの岬の足元にも似た術式が書かれていたのではないか。…夕日見てて気づかんかったけど。
「今日は2人か…。おいガキ、騒いだら殺すぞ」
『オッケー静かにしてマース』
とりあえず神隠しの正体は分かったし、あとは他の子どもたちの居場所を突き止めて、壊滅させて報告すれば終わり、と。あとハクア君家の隣に住むお姉さんにはちょーーっとお話を聞きに行こうかな。
「ミノリ…?!か、髪が…!」
『うん?……ん"ッ?!』
チャクラを流して誤魔化していた髪の色が元の水色へと戻っていた。どうやら今日は新月の日らしく、日が沈んだと共にチャクラが練られなくなったようだ。
という事は、だ。さっき考えていた一連の行動は実行出来なさそう。
普通の野党とかが相手でここに私しかいないのならばしばき倒すことなど訳ないが、ここにはハクア君がいるし、口寄せの術が使えるところを見ると、おそらくこのおっさんは忍なのだろう。勝ち目がない。やめておこう。
大丈夫、明けない夜はないからね。
「ハクアぁ…」
2人仲良く縛られ放り込まれたのは岸壁をくり抜いて作ったかのような牢屋。中には数人の子ども達が入れられていた。
でも、報告を受けていたより人数が多いみたい?てことは蛍村以外からも攫って来ているのか。
「みんな…!他の子は…?」
「わかんない…どっかに行っちゃった…。うぅ…お母さん…!お父さん…!」
子どもたちの反応から察するに、蛍村の子どもは3人。女の子が3人足りない。
その女の子が泣き始めると、他の子まで泣き出した。おいおいおいまずいぞ。
案の定見張り役の男はあからさまにブチ切れ持っていたコップをこちらへぶん投げてくるし、そして騒ぎを聞きつけて他の男までもが集まってきた。
「うるせえんだよクソガキがァ!!黙らねえとぶち殺すぞ!!」
いやお前逆効果だよ馬鹿。
やはりそんなことで子ども達が泣き止むわけもなく、むしろ叫ぶように泣き出した。地獄。まさに地獄。もうやだ私も泣きたいわ。ぴえん。
イライラがピークに達した彼らの中の1人が牢の鍵へと手をかけた。
あーーー、まずい。非常にまずい。
「可哀想になァ?お前らがうるさいからこいつは殴られるんだから」
牢屋の中へと入ってきたその男は1番近くにいたハクア君の髪を無造作に掴んだ。
そしてまさかのことに驚いたハクア君は男の脛を蹴りあげてしまった。ナイッシュー!
突然脛を襲った激痛に男は悶絶する。
そして、落ち着いた頃に何やら怒声を上げながら拳を勢いよく振り上げ、そのまま振り下ろした。
ゴッ
『………ッつ……』
それをそのまま見過ごせるわけもないから顔面に1発喰らわざるを得なかった。
報復を阻止され激昂する男がもう一度ハクア君へと拳を振り上げたため、すかさずその無防備な股を蹴りあげてやった。本人は2度目の悶絶をするも、周りのガヤは面白がってはやし立てている。
『無抵抗の子どもしか殴れないなんて、どこまでへなちょこなんだ』
これでいい。こっちへ意識が向いてる間は他の子どもたちに危害は及ばないだろうから。
これでいい。いいけど……。
はぁぁぁぁ…嫌だなぁ…。いくらクシナの鉄槌と比べたらへなちょこパンチだとは言え、痛いものは痛いんだから。
「こッ…のクソガキがァア!!!」
『ぅぐっ…!』
牢から引きずり出されそのまま壁へと叩きつけられる。
それを見ていた子どもたちはもちろんハクア君までもが泣き出した。
おいせっかく私が身を挺して男を引き付けているんだからもう泣くのはやめてくれという願いを込め、子どもたちへと全力の微笑みを向ける。
『明日になったら助けが来るから大丈夫!それまでは静かに目を瞑って耳を塞いでてね。ハクア君、みんなをよろしく』
「ぶっ殺してやるこのクソアマァ!!!」
男は刀を取り出し刃先をこちらへと向けた。そんなものでビビるとでも思っているのだろうか。
刀を目にしても動じない私に、男はさらに苛立ちを募らせているようで、脅しなのかなんなのか、周りが止めるのを無視して私の顔に刃を滑らせた。
「…あん?てめェ…」
そして気付かれてしまった。傷がすぐに治るということを。
男は何か面白いおもちゃでも見つけたかのように楽しげな、そしてとてもムカつく気持ち悪い笑みを見せた。
長い夜が幕を開けた。
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