第19幕
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
『あーそーぼー』
ドンドンと不躾にその噂の子の家の戸を叩く。
恐る恐るこちらを伺うように戸を開け、そして私を見るや否やすぐさま戸を閉めようとしたため、押し売りセールスマンよろしく戸の間に足を捩じ込みそれを阻止した。
「なっ…なんだよお前!」
『なんだかんだと聞かれたら、答えてあげるが世の情け』
怖がらせないようにっこり笑って名乗るが、まあこちらは戸を閉められないように必死だから、相手からしたら怖くないわけがないよね。
そしてこちらはただ話を聞きたいだけだと言うのに、それはもう本当に必死で戸を閉めようとしてくるものだから、ちょっと方向性を変えて意地悪をしてみる事にした。
『い"って!!』
向こうは必死で戸を閉めようとしているので、急に足を引き抜いたらそれはもうすごい勢いで戸が閉まるわけじゃん。だから戸が閉まるその瞬間に思いっきり叫んでおいた。
『うぅぅ…痛いよぅぅ…!』
そしてかます嘘泣き。我ながら大根だとは思うが、さすが子ども。疑う様子もなく、むしろ心配そうにこちらの様子を伺っている。
そのまま俯いて嘘泣きを続けていると、そろりそろりと近寄ってきて私の顔を覗き込み始めたので、すさかずその細い腕を掴んでやった。
はっはっは。大人を舐めるでないよ。
『つっかま〜えた〜♡』
「お、お前ッ!騙したな!!」
騙される方が悪いんだよ、という言葉は飲み込み、少年の手を掴んだまま彼の家へと上がり込んだ。
一部屋のみの小さなその家は、布団以外家具と呼べるものは一切なく、埃の積もったその空間はどちらかと言うとまるで物置小屋だ。
いや病気になるよこんなの。
「なんなんだよお前はさ!何がしたいのさ!」
家の中をまじまじと観察する私にキレる少年。まぁ怒る気持ちも分からなくはない。私だって押し売りセールスマンが相手ならキレる。
ただ、穏便に話がしたいって気持ちもあるためとりあえず申し訳なさそうな顔をして謝っておいた。すると少年はいきなり黙り込み気まずそうな顔をする。
彼の罪悪感にかこつけて距離を縮めようともう一度名乗れば、少しの沈黙の後、少年は控えめに「ハクア」と呟いた。
『ハクア君ね!よろしく!』
仲良くなりたいと思う気持ちに嘘は無い。
握手をするべく笑顔で手を差し出すと、その手は掴まれることなく宙をさまよった。え?ここ握手する場面じゃね?
差し出された私の手を見つめながら、彼は両手で服の裾をぎゅっと握る。
まるでやり切れない想いでも抱えているかのように見える。
「オレとは…仲良くならない方がいいよ」
理由を尋ねるもハクア君は言い淀む。
が、私がそんなことを許すわけがないだろう。子どもの口を割らせるなんてか〜んたん。
私と友達になるのは嫌ってこと?と眉を寄せつつ首を傾げてそう問えば、案の定ハクア君は「そんなことないよ!!」と大きな声を出し、そしてハッとするように両手で口を押さえた。
そんなことする必要ないのに。たしかにちょっとびっくりはしたけど。私の方がよっぽどうるさい自信があるわ。
それを本人に伝えると、ハクア君は首をふるふると横に振り、そして勢いよく外へと飛び出しそのまま走り去って行った。
『君は逃げるのが好きだねぇ』
あまりの勢いに少し怖気付いてしまい、追いかけるのが遅れてしまったが無事に捕まえることができた。
村の外へと出てしまったが、内緒話には丁度良いからと、ハクア君を捕まえたその場所からまたさらに村から離れる。始終腕を掴んでいたが、観念したのかもう抵抗されなかった。
蛍村を見下ろせる丘までやって来たが、ハクア君の表情は相変わらず暗いままだった。何が君にそんな顔をさせるのか…綺麗な顔立ちなのに勿体ない。
めちゃめちゃ怪しいところばかりだけれど、どうしても悪い子には見えないんだよね。なーんの根拠もないただの勘だけど。
『どうして君と仲良くなっちゃいけないの?』
「だって…」
ハクア君は口篭りながらも話し出す。
どうやら、彼と仲良くなった子がことごとく失踪しているため、もしかしたら自分が気付かないうちに何かをしているのではないか、自分と友達にならなければ大丈夫なんじゃないか、と考えてのことだそうだ。
やっぱり優しい子だ。この年代で、自分が一人ぼっちになってでも他の人の安全を優先させる子なんてそうそういない。
『そっか…それはつらかったね』
でも大丈夫。私は外部の人間だから狙われないだろうし、何より強いから。
霊的な現象だったらどうにもならんけどね。
涙ぐむハクア君を慰め、この村への滞在中は友達として一緒にいるよと声をかけた。
.