第29幕
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「あれ、今日もやってんのか」
ふと背後から声をかけられた。
汗を拭いながら振り返れば「よっ!」と手を挙げたオビトと目が合う。
『まーね。時間ある時にやんないとじゃん?』
「気ぃ詰め過ぎんなよ」
『ふふ、あざす』
オビトはこういう所は本当に鋭いと思う。普段は鈍臭いというのにどこに鋭さ発揮してるんだか。
「首尾はどうだ」
ここ数日、任務やら警務部隊の仕事の合間にいつもの川原で修行に勤しんでいた。主に氷遁の。
と言うのもこないだ根の者に襲われた時、氷遁が意図しないタイミングで暴発したため危機感を覚えているわけだ。
『んーや、芳しくない』
憎悪とも呼ぶべき激しい怒りの感情に呼応するかのように、サスケを人質に取った根の者を瞬間冷凍したあの力は必ず自分で制御出来るようにならなければいけない。
たまたま別に死んでもいいやと思ったやつが相手だったから良かったものの、あれでサスケを巻き込んだり、粉砕したあいつが殺してはいけないタイプの人間だったなら大問題だった。
自分の中に秘められた恐ろしい力。今更放棄することなどできない。今後も付き合っていかなきゃならないのだから、どうにか手懐けなければ。
『まぁ、もうちょい頑張ってみるよ』
幸いにも、根が解体されてから私を監視する目も無くなったため、今では気兼ねなくそこらで氷遁を使えるのは嬉しい誤算だった。
森の奥深くに入ってしまえばそうそう人なんて来ないし。
「あれ、印を結ばなくても術が使えるのか?」
『あ、うん氷遁はね。そもそも氷を自由に扱えるし操れるからさ』
私が奮闘する様子をオビトは近くの木の根元に座りながら静かに眺めていたが、どうやら興味津々のようだ。
氷像作りもその他の術も、ぶっちゃけ印を組む必要はない。
ノーモーションで発動することはできるが、ただ相手の油断を誘うためにと適当に組んでいるだけだ。いざとなった時に不意をつくことが出来るから。
術の名前も、ただどんな攻撃だったのかを自分が覚えておくためにつけているだけだし。
「俺の木遁と同じような感じか」
『木遁?…あ、そっか、そういえば使ってたね』
「お前みたいに自由自在にとはいかないがな」
そういえばオビトも、かつて九尾と戦った時には木遁で縛ったり何だりしていたもんね。
私の氷遁ほどレパートリーはないものの、多少は印を組まなくとも扱えるのだという。
1人で模索していてもどうにかなる気配がないため、一縷の望みをかけてオビトにアドバイスを貰うことにした。
「怒りに呼応して術が暴発することがあるか、か…」
顎に手を当てて眉間に皺を寄せながらオビトは首を傾げた。…ないか。慌てることはあれど何気にいつも冷静なんだもんなそういうところは。ガチギレしているところは見たことがない気がする。
「…いや、あるな」
『えっ、あんの?』
「ガキの頃に1回だけあった」
よくよく話を聞けば、それは私がカカシの雷切に貫かれた時のことらしい。原作と同じように、激しい怒りと悲しみから木遁が暴走し、その場にいた私達以外の奴らを皆殺しにしたのだと。…思えば、リンを助けるためとは言え、それはそれでオビトには大きな爪痕を残したものだ。申し訳ないな。
『どうやって制御してる?』
「あれ以来そんなに激しく怒ったことがないからな……強いて言うなら、常に冷静でいることじゃないか」
『それができたら苦労しないんだけど』
精神エネルギーはその名の通り精神状態に大きく左右される。殺意が加われば術の殺傷能力も高くなるのは、術という仕様上仕方のないことだ。
本来ならば自分の精神状態さえもコントロールするのが望ましいらしいのだが……私は名ばかりの忍なので忍べないわ。詰んだね。
「自分の行動原理をよく考えてみるんだな」
『んん、ちょっと何言ってんのかよく分からないな』
「例えば、俺は俺の守りたいものを守るために強くなりたい。誰かを殺すためじゃなくてな」
隣に座るオビトは、木に背中を預けながら空を仰ぎ、遠くを見つめながら語った。
俺は "守るための手段として術を使い、相手を殺す" のだと。
どんなに弱くても、大切なものを守れるのならばそれでいい。でも、奪い奪われのこの世の中では強くなければ誰も守れないから。だからオビトは修行を欠かさないし、絶対に諦めないのだそうだ。
『………なんだか懐かしいことを思い出したよ』
「あぁ、お前が珍しくなっさけなく泣いてた時のことか」
『泣いてないわ』
初めて人を殺してしまった時、どうしようもなく打ちひしがれている私を叱咤したのはオビトだった。
そうだそうだ、あの時も結構悩んだっけ。
「お前が "誰かを守る時だけ殺すようにする" って言ってたから、今では俺もそれが強くなる理由になっちまった」
『なるほどね』
やっと分かった気がする。
私はこの力をただただ制御してやろうと思ってた。思い通りにならないからと、どうにか手綱を握ろうとして。
でも、そうじゃない。それじゃダメなんだ。
この力は私が誰かから借りているものではない。零尾に成り代わった今では、この力こそが私なのだから。
元々は私だって、自分の大切なものを守るために強くなりたかったのに、いつから目的と手段が入れ替わっていたのだろうか。
人を殺してしまうことも、決して生半可な気持ちで決意したことでは無かったのに、いつからか忘れられてしまっていた。
『…私が迷った時、導いてくれるのはいつもオビトだね』
「人の道を外れた時も俺が連れ戻してやるよ」
『それは踏み外さないから安心しろ』
原作であんだけ盛大に道を踏み外したくせによく言うよ。
そんなこと、私以外に知る者はいないけれど。
私がほんのちょっと軌道修正してあげただけで、今度はこうしてオビトが誰かを導いてくれる存在となったのだから嬉しい限りだが。
今後も、こうして皆でお互いに助け合って導き合って、一悶着も二悶着もありながらそれでも平和に穏やかに過ごせて行けたらいいのに。
私のこの力は、大切な皆を、そしてこの平穏な日々を、守るために使っていこう。