第28幕
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
『こんばんは、フガクさん』
火影室の扉が勢い良く開かれ、フガクとイタチ、そして数名の名も知らぬうちはが入ってきた。
全員写輪眼装備中で、まるで私は蛇に睨まれた蛙だ。
威圧感に尻込みしそうになるが、動揺を表に出すわけにはいかない。努めて平静を装い笑顔で彼等を出迎えた。
さすが一族の長なだけあって察しがいい。フガクは私を視認するや否や写輪眼を解き眉を下げて笑った。そんな中で私をどうにかしようと動き出した1人をイタチが止める。
双方のどちらか一方でも血を流したら終わりだ。うちはは勿論こちらも…というかミナトが黙っていられなくなる。
「………全て知られていたようだ」
『あなた方の目的を踏まえた上であなたと2人で話がしたいです』
作戦と呼ぶにはあまりに穴だらけだった。
クーデターを敢えて起こさせ、その上でフガクを説得しミナトと話す時間を作る。簡単に言えばそんなん。
お互いに血を流させないために、今この火影邸には私達以外誰もいない。オビトが全力で人避けし、更にはダンゾウの介入を危惧して警備をしてくれているのだ。
こんなあからさまな状態なのにそれでも乗り込んで来たのは、一族を総べる長として引き返せないと思ったからではないか。そんな彼を私は信じたいと思う。
「火影ならまだしも、今更お前と何を話すことがある!」
「フガク隊長!この娘を人質に取りましょう!!」
私の提案に何人かが反発の声をあげる。
そんな彼等を一瞥もせずにフガクが片手を挙げると、イタチと反発しなかった他の人達がそいつらを連れて部屋を出て行った。イタチ以外に素直に言うことを聞いてくれる人がいるとは思わず目を丸くしてしまった。
「君1人か。四代目がよくこんなことを許したものだな。自分が利用されるとは思わないのか?」
『めちゃめちゃキレられましたよ。それでも譲歩してくれたんです』
おかげで私は最後のわがままを使わされたわけだが。
ミナトはこの火影室が見える場所にいる。
私に何かあれば、あの人は私の持つこのクナイへとすぐさま飛んでくるだろう。
『一歩間違えば兵器となりうる私がこうして今あなたと一体一で話しているのは、私と四代目火影の、うちは一族の長であるあなたへの最大の信頼の証です』
さすがに首を取らせるわけにはいかないので今ここでミナトと話をさせることはできないが。
今言った通り、これは私達ができる最大の譲歩だ。
この部屋にはクシナの防音の結界札が貼られている。腹を割って話すには今この機会しかない。
立場上ミナトから折れることはできないため、どうにかしてうちは側から折れてもらう必要がある。そのための交渉だ。
「…状況から見て、イタチが二重スパイをしていたと見て間違いなさそうだな」
『結果的にはそうなったけど、彼はうちはのことを誰よりも想っています。そこだけは誤解しないであげてください』
イタチは…イタチもシスイも里とうちはの現状を憂いていた。里と一族のどちらも守りたい…そんなジレンマに苛まれながら。
里と一族の名誉のどちらも守るために自分が犠牲になるほどに。
「そうだろうな…。あの子は優しい子だ…一族の中で誰よりも…」
やっぱり。フガクは良い父親だ。
ミナトと同じように、一族の長という立場上行動せざるを得なかっただけで。
『こんなことは意味が無い、叶わないと思うのなら私達を見てください。
これは私達が理想とする関係の縮図です。この和平は夢や幻なんかじゃない。絶対に成し遂げられることなんです』
私やシスイ達が互いの代表として先陣を切るから、どうか皆はそれに着いてきて欲しい。
1度でいいから私達を、ほんの少しでいいから信じるだけの勇気を出して欲しいと思う。
「1つ聞きたい。
君はうちはと直接的には何の関係もないのに、何故ここまで体を張れる?」
『……大切な人がいるんです。うちは一族に』
正直、里のことはどうだっていい。里を守りたいだなんてそんな崇高な精神、皆と違ってこれっっっぽっちも持ち合わせちゃいない。
ただ、内戦が起きればここぞとばかりに他国が攻めてきて、そして大きな戦争が誘発される。
そうなったら…私は増えに増えた大切な人達を全て守りきる自信はない。
『私は1度、大切な親友を失っています。まぁ、結局生きて戻って来てはくれたんですけど』
生きてるとは知っていたけど、それでも訃報を聞いた時のショックは大きかった。私がうちはだったら写輪眼を開眼していたことだろう。
あんな思いは二度としたくない。家族も仲間も友達も…誰かを犠牲にする覚悟は、私にはない。
大事に大事に抱えていても、容量を超えた大切なものは意に反してどんどん腕の隙間から零れ落ちていくものだ。
失いたくないと思い抗っても、どうにもならないこともある。優先順位をつけ、そうして取捨選択するしかできないことが。
零れるものが私の命だったならって、すごく思う。きっと皆は怒るけど、私は私の守りたいものを守る為なら何だってできる。
『 "火影ってのは、いてェの我慢して、それでも皆の前を歩いてる奴のことだ。"
自分の命でも家族でも…。どんなに失う物が多くても、それでも里を、里で暮らす人間を守るのが火影なんだそうです』
フガクがとった行動は一族のためであって、木ノ葉の里ではない。 "うちは一族の長" である彼はどう足掻いたって "火影" にはなれない。
『うちは一族も木ノ葉の里で暮らす仲間だと思ってます。
私達はあなた方を失いたくない』
「……中忍試験で君を初めて見た時から、この子は他と何かが違うと確信していた」
『えっ…?』
どこか遠くを見つめていたフガクはやがて目を伏せ、そしてもう一度開いた時にはその両目は赤い光を放っていた。
『万華鏡写輪眼…っ』
「この目のことを知っているとは…君には驚かされてばかりだ…。とても10代のお嬢さんとは思えない」
私も驚きだよ。まさかこんだけ話して、しかもミナト見てるっつってんのにそれでも尚クーデターを続行させようとするだなんて。
「君の言いたいことは理解したつもりだ。
でも、一族皆が皆理解出来るわけではない。それだけの信頼を木ノ葉に寄せることはもうできないのだよ」
フガクの目はなんと言うか…悲しみに揺れていた。
あぁ、この人もまた、イタチや皆と同じように葛藤を抱えていたのか…。
幻術をかけられるかもしれないとは思いつつも、フガクから目を逸らすことは出来なかった。
『じゃあ、里が信頼出来ないんなら─』
ミナトのイスから立ち上がりフガクの前へと歩み出た。
私だって、無条件でこの里を信じているわけじゃない。嫌な思いもいっぱいした。簡単に人には言えないような後暗い事情もあるし、しかも里の皆も信じるに値するような人ばっかじゃない。
ただ、私はミナトを信じてるだけだ。
あの人なら大丈夫、きっと導いてくれる。って。
『私のことを信じてはもらえませんか』
真っ直ぐその赤い双眸を見つめる。
そして、見慣れた黒髪にするためにと常に流している微量のチャクラも全て遮断した。その瞬間おでこにかかる黒髪は色素の薄い水色へと変わった。
それはつまり、私が完全に武装を解除したことを意味する。
最後の手段だしあまり使いたくはない方法だったが仕方ない。
『公式的に私は氷結の獣こと零尾の人柱力であるとされていますが…。
…人柱力なんかではなく、私こそが零尾本体です』
「……!」
フガクが一瞬息を飲んだのが分かった。
これは、ミナトと三代目しか知らない私の秘密だった。別に知られたところでただの情報でしかないからどうだっていいが。
「……何故それを俺に?」
『里とあなた方の心は離れ過ぎてる。木ノ葉とうちはのどちらか一方が歩み寄るだけでは足りないんだって。
だから、いっそあなたが信じてくれるまで私から歩み寄ろうかなと』
なんだか、開き直ってしまったのかさっきまでの緊張はなくなっていた。
自然と笑顔が溢れてしまう。
あぁ、たぶんドーパミンがドバドバ滝のように出てるんだろうな。それかついに気が触れたかだ。
『ついでに私の弱点もお教えしますね!
太陽の光が反射も含め一切無い時、つまり新月の日の夜が狙い目ですよ!』
親指を立ててGoodサインを作る。
もう自分でも何言ってんのか良くわかんない。なんだよ狙い目って。何のだよ。
もうやけだやけ。
段々とテンションが上がってきた私とは反対にフガクの表情は険しい。
「でも、俺達はここまで来てしまった…。今更引き返すことなど……」
『あぁ、別にそんな茨の道を引き返さなくていいですよ。
その代わり、私を信じて着いてきてください』
血塗れになったその足でまたもう一度同じ茨を踏むことはない。私にだって別の道から元の場所に案内することぐらいはできるはずだ。
戻ってきたらそっからまた新しい道を選べばいいし、道が無ければ最悪作れば良いじゃないか。
『お望みならいくらでも先導しますけどね。
私を信じてと言った責任は取りますよ』
ノリでウインクとかもしてみた。…まぁ完全にスルーされたけど。
今まで険しい顔をしていたフガクは、いつの間にか何かを決意したかのような清々しい顔になっており、両目も元の黒い状態に戻っていた。
分かってくれたんだろうか…?
フガクは黙ったまま踵を返し火影室のドアを開けた。
うぇっ、嘘!嘘っ!?そうなる!!!???このまま私を拘束する気なのか!なんだよあの清々しい顔!紛らわしい!!!
「このクーデターは失敗だ。
全ては俺が責任を取る。皆は武装を解除して今すぐうちは地区に戻るんだ」
「たっ、隊長!一体何を…!まだ終わってなんていません!」
「皆には申し訳ないと思う。同時に…俺を信頼してここまで着いてきてくれてありがとう」
あ、あぁ、なるほどね…強行するわけじゃないのね焦ったぁ…。
なんだか映画のワンシーンを見ているみたい。主にフガクが。
外の人達は全く話の内容が聞こえていないはずだから、急に諦めたフガクを見てわけも分からず狼狽している。
ついでに私も狼狽している。何この空気。なんでフガクそんな死亡フラグみたいなこと言ってんの。
「俺は……もう一度だけ信じてみようと思うのだ」
「今更何を馬鹿なことをッ!
この娘に何を言われたのですか…!」
いくら私達以外に人がいないとはいえ、そんな大声で騒がないで欲しい。もし誰か人が来たらどうすんだこの状況。誤魔化すこっちの身にもなれよ。
「お前は…。臨戦態勢の敵の前に1人、丸腰かつ自らの弱点を晒しながら立つことはできるか?」
「はっ……?」
「この手を取れと、敵に笑顔を向けることが出来るのか?」
言い淀む仲間をフガクは問い詰める。
や…やめたげてー!そんなの普通の精神状態じゃ出来るはずないんだから。てかしちゃダメだよ忍なら特に。そんな当たり前のことを聞いて一体どうしたフガクさんよ。イタチでさえこっち見て「え…?何急に?」って顔してますけど?でもごめん私も分からない。
何を考えてるか分からない分、さっき対峙していた時よりも100倍恐怖を感じる。
『フ…フガクさん…?』
「俺でさえそんなことはできない。
…だが、彼女は俺の写輪眼を前にそうして見せた」
里と我らの心は離れ過ぎている。どちらか一方の歩み寄りでは足りない。
さっき私が伝えたことを、フガクは皆に言い放つ。
「我等に歩み寄ってきてくれた彼女を、彼女の覚悟を、俺は信じたい」
「でも…そんなっ…」
いや…分かるよ名も知らぬうちはの皆さん。そんな急に言われても困るよね。自分たちなりの正義振りかざして来たんだもんね。分かる、分かるよ…。今まで何度も不当な扱いを受けてきたのにそんな簡単に信じられるわけないっていう気持ちもね。
「里や彼女を信用できないのなら…ならばまずは俺を信じてくれ」
.