風は翼が欲しい
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「全く……。翼の無い君達は大変だね?僕だったらこんな道ひとっ飛びなのに」
リーバルの嫌味を無視して黙々と歩く。
今、私達は飛行訓練場に向かっていた。言わずもがな私の飛行訓練をするために。
嫌だなぁ。リーバル、すぐ馬鹿にするし文句言うし。…面倒くさいし。どうせだったらもっといい先生がほしかった。
『ついたけどこれからどうすんの?』
「習うより慣れろだよ。ほら、さっさと行ってきな」
顎で訓練場を指すリーバル。雑だ。
それに、慣れろって言われても、パラセールで飛ぶのなんかいつもやっていることなのに、何を今更慣れさせるつもりなんだろうね。
彼の言う事を素直に聞くのは癪だけれど、幼いながらも大人顔負けの飛行能力を誇る彼の指南ならば、きっと間違いはないのだろうけれど。
「シナト!そのままパラセールをしまってみなよ!」
しばらくふらりふらりと飛んでいると、今まで見ているだけだったリーバルがこちらに向かって指示を叫んだ。
「ここは元々風が強いからね、君の力が足りなくても多少なら体が浮くんじゃないか?」
『なるほど。やってみる』
リーバルに言われた通りにパラセールをたたんでみる。その瞬間、一瞬だけ脳みそが浮かんだかのような感覚に包まれ、そのまま落ちた。
落ちた。
『きゃああああ!!!!!』
「ッの馬鹿!!」
すぐにパラセールを開けば良かったんだろうけれど、その時の私の頭にはそんなこと浮かんで来なかった。やばい、死ぬ。走馬灯とともに、そんな言葉が出て来た。
「…そんなにしがみつかれると飛びにくいんだけど」
気がつくと私はリーバルの背中に必死でしがみついていて、無言のままひたすらに涙を流していた。
地面にぶつかると思った時、頭も視界も真っ白になった。駄目だと思った。もう死ぬのだと、確実にそう思った。
『りいばるぅうう……』
だから、リーバルに助けられて陸に戻された時には本当にほっとした。それでもさっきのことを思い出してまた怖くなって、そんな思いをさせたリーバルにも、すぐに対応できなかった私自身にも怒りが湧いてきて。色んな感情が混ざってぐちゃぐちゃなまま、困ったような表情で頬を掻く彼にしがみついた。足が震えてうまく立てず、リーバルを巻き込んで倒れてしまったけれど、どうか許してほしい。
「なっ、なんだよ…!」
『寒かった…。私死ぬんだって…!体が一瞬で冷たくなって…それで……。でも……
………助けてくれて…ありがとう…!』
「………、…」
リーバルのお腹に両腕を回して泣いて縋る私を、普段の私が見たならばきっと嫌な顔をしていたに違いない。それだけいつものリーバルは嫌な奴なのに。
なんで。
「…僕がいるからもう寒くないだろ」
なんで。
「君のことは僕が守ってあげる。助けてあげる。…だからもう泣き止みなよ」
なんでこんなに優しいんだ。
赤ちゃんをあやすようにぽんぽんと背中をさするリーバルの手を、こんなにも心地良いと感じる日が来るだなんて。
リーバルが一定のリズムで背中をとんとんする中、段々冷静さを取り戻し、涙もおさまってきたので体を起こした。
よく考えたら私、とんでもない醜態を晒したんじゃない?…いや、考えないでおこう。
『……ごめん、ありがとう…』
「いや……僕こそごめん。………怖い思い、させて…」
え。
いやいやいや、なんでリーバルが謝るの?私のためを思って指南してくれていたのに。それに、さっきのは落下し始めた時点で私がパラセールを開けば済んだだけの話であって、全然何もリーバル悪いことなんかしていないのに。
それを伝えれば、リーバルは手のひらを返したかのようにころっと良い笑顔になり、
「そうだよね、僕が謝るのもおかしな話だよね。
じゃ、気を取り直してもう一回行ってみようか」
リーバルはやっぱりリーバルだった。
けれど、今度は陸で見ているだけでなく、私と一定の距離を保ちながら飛行し、すぐ近くでアドバイスを出してくれた。と言っても、彼は風を操って飛んでいるわけではないから具体的な助言ではなかったけれど、リーバルが隣にいる安心感からか、そこからあまり時間も経たずに、一人で風を纏って飛ぶことが出来るようになった。
「やっぱり僕の教え方がうまいからだよ。感謝してほしいね」
『うん!する!ありがとうリーバル!あなたのこと、大好きになったよ!』
「ッ!!……それはどーも」
言葉には出さないけれど、幼馴染だから分かる。リーバルも内心では私が飛べるようになったことを喜んでくれている。それもまた私が喜ぶ要因になるわけで、今日1日でリーバルへの評価は真逆になった。
怖かったけど、リーバルが人並みの優しさを持ち合わせていることも知れたし、結果的には念願の翼を手に入れることも出来たし、良かった良かった。
「………チッ」
調子に乗って飛行訓練場を縦横無尽に飛び回る私をリーバルが陸からじとりと見つめていたけれど、喜びで胸いっぱいの私はそれに気づかず空を駆け巡るのだった。
風は翼が欲しい