風邪のお返し
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布団の中で穏やかに眠るリーバル様を、隣でじっと見つめた。
ハイリア人である私はまだしも、リト族である彼は風邪をひくことがほとんどないため耐性など無いに等しいだろう。
このまま死んでしまったらどうしよう…。
いや、悪い想像はやめよう。今は私の出来ることをするべきだ。
リーバル様へ布団をかけ直し、当初予定していた温かい食べ物を作るべく鍋へと向き直った。
できれば体に良く消化しやすいものがいいとは思うが、いったい何を作るべきなのか…。
そういえば、以前カカリコ村に行った時に、村のおばあちゃんにオカユという料理を教えてもらったことがある。一度も作ったことはないけれど、ミルクが無くてリゾットも作れないので少し試してみようか。聞いた話だとリゾットと似たようなものだってことだし、きっと体に良いはず。
米と水と卵に少しの塩があればできるのだけれど、どうせならもう少しアレンジを加えたい。ハイラル草は体に良いし、寒さに震えるリーバル様を見るに、ポカポカハーブを少しだけ入れて体を内から温めても良いのではないか。本当はもっともっと色々入れたいが、それで食べにくかったり消化に悪かったりしたら本末転倒もいいところだ。
『ふぅ……』
鍋の中に具材を入れ弱火でひたすら煮込む。
しばらく手は空くけれど、寝込む彼を一人にしてここを離れるのは憚られる。いや、むしろ私が心配で離れたくない。
場所を選ばずにできることはあるだろうかと少し考え、そういえばとその辺に無造作に置いていたぱんぱんのポーチを拾い上げた。
鍋を見守りながらベッドに背中を預ける。やることもないし、食べやすいようにあらかじめイチゴのヘタだけ取っといてあげよう。
『ん……』
髪が揺れる感覚で目が覚めた。
しまった。いつの間にか眠っていたらしい。ヘタは全て取り切れているからその後に寝落ちてしまったのだろう。
鍋の中身は……良かった、無事のようだ。
そんなに長く寝ていたわけではないようで、オカユもちゃんとそれなりに出来上がっていた。
『体調はどうですか?』
未だにわさわさと触られる髪がくすぐったい。リーバル様の方を見るとぼーっとした表情でこちらを見つめている。
「……良くはないね」
『リゾットもどきを作ったんですけど…良ければ食べますか?』
「………食べる」
自分で味見はしていないため若干の不安はあったものの、器によそった分は全て綺麗に食べてくれたため不味くはなかったのだろう。そうと信じよう。
一杯のオカユと何個かのイチゴを食べたリーバル様は、またゆっくりとベッドに横になり布団の中へと潜ってしまった。それほど寒かったのだろうか。リトの羽毛布団を使っているから私でもそれほど寒さは感じないのだけれど。
『リーバル様…?』
せめてもと外套を取りに立ち上がると、布団から伸びてきた腕に手を掴まれそのままグイッと引き寄せられた。横になっているとは思えないほど力強く引かれたため、バランスを崩しベッドに寄りかかるように倒れ込んでしまった。
私を掴む手とは反対の手で布団をめくり、少しだけ顔を出してこちらを見つめるリーバル様の目には涙が浮かんでいる。相変わらず焦点が合っていないから、もしかすると意識が朦朧としているのかもしれない。
『リーバル様?』
もう一度名前を呼んでみる。未だ私の手を握ったままの彼の手は熱い。そのままされるがままにしていると、リーバル様は私の手を持ち上げ自身の頬へとあてた。
「行かないで……僕の隣にいてよ」
不安そうに目を細めながらすり、と手に頬擦りされ、それどころではないというのに心臓が跳ねた。思わず顔を背けてしまう。耳まで赤くなっているのが見なくても分かるため顔を向けられない。
落ち着くまでそのままでいようと次の言葉を待つも、いつまで経っても何も返ってこない。まだ若干熱い頬を押さえながらちらりとリーバル様を見やると、目を瞑って穏やかに寝息を立てているものだから私の気も抜けてしまった。
『どこにも行かないよ、リーバル』
頬にあてられたままの手を少しだけ動かし目元の涙を拭う。
こんなに弱気なリーバル様を初めて見た気がする。それほど体調が悪いのだとは思うけれど……少しだけ、ほんの少しだけ、こんな彼を見られてラッキーだなんて思う私もいたりする。
頬から手を動かし、彼の手を握り直すと同時に布団をかけ直した。その瞬間また手を力強く握られるものだから苦笑してしまったけれど、心細い気持ちは私も痛いほどよく分かるからともう一方の手でも彼の手を握った。
彼の顔を眺めながら布団に頭を預ける。
私も、このまま少しだけ眠るとしようかな。
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