二度目の死
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勇者様とお姫様が厄災を封じてから数年、ハイラル王国は復興の兆しを見せていた。それもこれも、全てはお2人がハイラル中を巡り尽力してくださったおかげだ。
リトの村に戻った時、余りのショックに膝の力が抜けてしまった。
監視砦から村に戻る最中、遠巻きにもヴァ・メドーがいなくなっているのは見て分かっていた。ヘブラ周辺の鳥望台でマップを解放する時には確かにいたはず。それなのに。
地に落ちたわけでも空を飛んでいるわけでもない。それどころか、村の皆に確認してみるとその存在さえも忘れているようだった。
あのテバさんでさえ。
いや、それよりも。
テバさんの背に、よく見知った弓が背負われている。
リーバル様の相棒だった、オオワシの弓。数年前、リトの村を救ってくれた勇者様へと当時の族長さんが授けたはずなのに。
勇者様が返納した?それとも模造品?どちらも有り得なくはない…けれど……嫌な予感がする。聞きたくない。
「そんなにこの弓が気になるのか?」
弓を見つめたまま固まる私に、テバさんは勝手に語り出した。この弓は代々村で一番の戦士に授けられてきた弓なのだと。
そうだ。確かにそれはそうだ。リーバル様が生きていた頃は間違いなくそんな慣習があった。けれど、彼が亡くなって以降は相応しい戦士が現れず、そうして結局勇者様が継ぐことになったというのに。何故。
返納したのなら私が知らないはずがないのに。
その弓をどう入手したのか確認すると、持つに相応しい者が現れるまでずっと村で保管していたのだと返ってきた。
他者の──勇者様の手に渡ったことなどないのだと。
嘘や冗談を言っているようには見えなかった。
おかしい。
何かが。
いや、何もかもが。
村からも皆の記憶からも消えてしまったヴァ・メドー。村に保管されていたオオワシの弓。
そのどちらもリーバル様に関連する物だなんて、気付かなければ良かった。気付かなければ……咄嗟に口からその名前が零れてしまうこともなかったのに。
「リーバル?あの広場がどうかしたのか?いや、それよりお前今日はどうしたんだ?何か変だぞ」
『……ッ、』
それ以上テバさんと会話を続けることができず、こちらへと伸ばされたテバさんの手を払い除け、逃げるようにその場を後にした。
あんなに一緒にリーバル様のお話をしたのに。あんなにリーバル様のことを尊敬して、近付こうと必死に鍛錬していたのに。それなのに。
それなのに……そんなテバさんがリーバル様を知らないような素振りを見せることが私には耐えられなかった。
『リーバル…』
階段を駆け下りる中リーバル広場が目に入り立ち止まってしまう。
名前は確かにここにあるのに。あるはずなのに…。
私の大好きな名前が、皆にとってただの広場の名前でしかなくなってしまったことがただただ悲しかった。
リーバル様が生きていた証を見つけたい。
そう思って自分の家に帰って棚を探してみたけれど…前にテバさんからいただいたはずのリーバル様の日記は…いや、日記は疎か、リーバル様からもらった物全てが消え去っていた。
棚も何もかもをひっくり返しても、リーバル様に関連する物だけが。まるで最初から無かったかのように綺麗さっぱり消えている。
動揺した私は、家から走り出たその勢いのまま風を纏い、全速力で村を出た。
リトの村にいたくなかったのもあるけれど、監視砦でプルアさんやロベリーさんに会うためだった。私と同じように100年前の大厄災を経験した彼等なら、きっと覚えているはず。
そんな淡い期待を、今思えば抱くべきではなかった。期待すればするほど、その期待が外れた時の悲しみは大きいのに。
結論から言えば、プルアさんもロベリーさんも、私が抱いた期待には応えてくれなかった。
忘れてると言うより、最初から知らなかったとでも言うような。そんな印象。ふざけているのかと思ったけれど、逆にこちらが心配されてしまい、私の困惑は加速するばかりだった。
他の英傑様達も同じなのかもと思い、ゾーラの里やゲルドの街、ゴロンシティにも行ってみたけれど…。ミファー様もウルボザ様もダルケル様も、皆ちゃんと覚えていた。一縷の望みをかけて彼らにリーバル様のことを尋ねてみたけれど、やっぱり知っているはずがなくて。
そんなことはないと信じたいけれど……何かの意図を感じざるを得なかった。女神ハイリア様の所為だと思いたくはないけれど…。けれど、どうしても……そうだとしか思えない……。
残る希望はお姫様と勇者様だけれど……。お2人とも、ハイラル城地下の探索に出て以降行方不明になっており、未だに見つかっていない。
ああ…。
やっぱり見つからないんだ…。
彼が生きていた証も……。
私が………。
村に戻ってきた時のことは覚えていない。気が付くと、かつてメドーが止まり木にしていたリトの巨塔の上にいた。
こんな時にまでリーバル様の面影を探してしまうだなんて。
涙に濡れた頬が外気に冷やされて寒い。でも、それ以上に心が寒い。
『リーバル……』
一切誰にも語られない、思い返してももらえないだなんて、そんなの…もう一度死んだも同じことじゃないか…。
…ああ……そうか…リーバルはまた……死んでしまったんだ。
何故かは分からないけれど。皆の心から…記憶から……死んでいなくなってしまったんだ…。
『うぅ…』
私は………自分のこの記憶がもう信じられなくなってる。私1人の記憶にしか存在しないのなら…本当に彼が生きていたのかどうかも怪しい。
ただ1人の愛した人をこんな風に疑いたくはないけれど……もう…自信がもてない。
せめて、彼が遺してくれた何かがあったのなら……彼の存在を信じ、後世にリトの英傑を語り継いでいくことも考えたけれど。
いくら探しても見つからないんだ。あなたが生きていた証も……私が生きている理由も…。
彼を覚えているただ1人の人間として生きていくのはつらい。
私の中のリーバルが死んでしまう前に。愛する人の存在を心から否定してしまうようになる前に…。空にいるはずのリーバルに会いに逝こう。
『弱い私を許してね…。
愛してる』
二度目の死