風は翼が欲しい
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私には不思議な力があった。
風を思うがままに操る力、制御する力。
族長様には、「それはおそらく、伝承にも記されていた風の巫女の持つ力じゃろう。もしかしたらお前は巫女の生まれ変わりなのかもしれないのぅ」なーんて言われたけれどいまいちピンとこない。
この力は生まれた時から持っていたものなのか途中で得たものなのか、それすらも分からないけれど、リトの村のヒト達に拾われた時にはすでに、小さな私の体を包み込むようにして風が吹いていたらしい。それが自分の意思によるものなのだとしたら何ともうまく操っていたものだけれど、今は全然だ。
風を吹かせることは出来る。物を吹き飛ばすことも、木を揺らして木の実を落とすことも出来る。
でも、けれど、私が最も求めているものは、リト族のみんなのように自由に空を駆け巡るための翼は、未だ得られないままだ。
「君には無理だね。
翼もないのに僕らと同じように空を飛ぼうと思うだけでもおこがましいくらいさ」
幼馴染のリーバルは、発着場で佇む私の周りをその綺麗な紺色の翼を自慢するように飛び回っている。
出たよ。私が悲しんだり凹んだりしてる時に限って彼はこうして私を煽るんだ。私のことが嫌いならば無視して放っておいてくれればいいのに。嫌なやつ。
『うるさいよ馬鹿リーバル!放っておいてよ!』
「ヒトに当たるのはやめてほしいね。僕は事実を言ったまでだぜ?」
『だから怒ってるんだよ馬鹿!!』
射落としてやりたいところだけれど、私にそんな弓の腕はないので諦めるしかない。
愉快そうに笑うリーバルは無視して、私は発着場を後にした。リーバルが私に向かって何か言っていたけれど、そんなの知らない。聞き返してあげるほど私は優しくない。
『ねぇ族長様、なんで私は空を飛べないの?
昔の巫女様はリト族と一緒に飛んでたんでしょ?』
「さぁねぇ…お前のペースで行けということなんじゃないかのぅ」
『それって、私がまだまだ未熟ってこと?』
いつもそうだけれど、族長様は気だるげに返した。いつもなら気にならないが、今日はリーバルの所為でイライラしているので若干語気が強くなる。
「焦るでないよ。お前は努力が出来る子なのだから、いつかきっと、その努力は実を成すだろうさ」
『……でも、族長様…。リーバルが…』
族長様は私の言葉のその後を察してくれて、私を馬鹿にするリーバルのことを呼び出して叱ってくれた。途中で私は族長様の部屋を出るように言われたからリーバルの情けない姿は最後まで見られなかったけれど、私のことを睨むリーバルの悔しそうな顔が見られたので良しとする。
「全く、君の所為で怒られた!」
『馬鹿にしたのは本当じゃん。リーバルが悪いよ』
馬宿のおじさんからもらったりんごを家で黙々と頬張っていると、族長様のお説教が終わったらしいリーバルがすごい勢いで乗り込んできた。
私が言い返すとリーバルはぐっと言い淀む。あれ、馬鹿にしてたのは認めるんだね意外。事実を言って何が悪いとか言われたら今しがた食べ終わったりんごのゴミを全力でぶつけてやろうと思ってたのに。
「…っ分かった。僕が悪かったよ。だからもういい加減機嫌を直しなよ」
『別に、もう怒ってないもん。虫の居所が悪いだけだもん』
「それを怒ってるって言うんだよ!」
しばらくの間、怒ってない怒ってるの言い合いが続き、それはついに私の沈黙によって終わりを迎える。
「ほら、黙るってことはやっぱり僕が正しいんじゃないか」
『っはぁ~~…。
あのさぁ!私怒ってないって言ってんじゃん!それを何?あなたは私に怒っていてほしいの?
というかなんであなたはここにいるの?私りんご食べるのに忙しいからあっち行ってくれないかなぁ!』
「なっ………!」
ホント、リーバルは昔っから女心が読めない!スルーしてくれればいいのにもう!
部屋を出て行こうにも、私の家唯一の出口はリーバルによって通せんぼされている。
みんなが私のために建ててくれたこの家は、ハイリア人の私でもこの寒さに耐えられるよう、みんなの家とは違って壁がある。だから、リーバルがどかないことには私は1歩も外に出られないわけだ。
『どいて!』
「嫌だね」
『なんでよ!どいてってば!!』
「族長に君のことを頼まれた」
『は?意味分かんな……はあっ?!!』
「うるさいな、急に叫ばないでくれよ」
顔をしかめたリーバルの言うことには、私が風を使って自由に飛べるようになるまで面倒を見てやれと、族長様に言われたそうだ。それも、私が部屋を出された後に。ということは、私の意思は関係ないということですね、分かります。
「君にこうやって当たり散らされても迷惑だからね、仕方がないから引き受けてあげたんだ」
『えぇー…』
「ほら、パラセール持って。行くよ」
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