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夢、だと思ってた。
都合のいい夢。
今ではもう見慣れてしまったメドーの上で、生きてるリーバル様と会えるなんて。
すぐに覚めてしまうものだとしても、もう一度会うことができた。ただそれだけで嬉しかった。
それなのに、とてつもなく禍々しい姿をした魔物がリーバル様に襲いかかっている。
夢だったとしても、耐え難い光景だった。
『リーバル様に…近寄らないで!!!』
気が付くと、私は腰に携えていた風切羽の剣を抜き、無我夢中で魔物に斬りかかっていた。
驚くことに、夢の中だというのに切った感覚も風が巡る感覚もしっかり感じる。
ビームを避けながら魔物の背後に近付いていく。
弓は戦闘に活かせるほどの実力をつけられなかったけれど、勇者様に教わったおかげで剣術の方は大分上達したと思う。
村の皆と試行錯誤しながら考えた、風の力を使いながらの剣術は勇者様にも褒められたほどだった。
『はあっ!!』
プルアさんの実験によって幼い姿になってしまったがために、今の私には5、6歳ほどの力しかない。だから、パワーを出せない代わりにスピードを、そして手数を増やすことに力を入れてきた。
リト族の皆が持っている風切羽の剣は、私には大き過ぎるからと私でも持てるくらいのサイズにしたものを作ってもらい、今では随分と手に馴染んでいる。
「シナト!避けろ!」
背後から降ってきた声にすぐさま魔物から距離をとった。それと同時に魔物へと爆弾矢が降り注がれる。
『テバさん!?』
体勢を建て直しながら声の方向を振り返ると弓を構えたテバさんがいた。
何故テバさんが私の夢に??
確かにリトの村に引っ越してきてからというもの結構な頻度でお世話になっているけれど…夢に出てくるほど??
『テバさんが何故ここに?』
「何が何だかは分からんが、一先ず今は戦いに集中した方がよさそうだ」
テバさんの言葉を合図にその場を離れ、降り注ぐ矢の雨を避けながら魔物を狙う。
遠距離攻撃の中接近戦の私がいたら邪魔かとも一瞬思ったけれど、流石は弓の名手、2人とも、上手いこと私に当たらないようにしてくれていた。
リーバル様からは時々舌打ちが聞こえてきたけれど、この人の性格は分かっているし、特に気にするほどのことでもない。
「君さぁ!射線に入らないでくれるかなぁ!邪魔なんだけど!」
『1本も私には当たっていないので大丈夫です!さすがリーバル様!』
とりあえずおだてておくに限る。
またもやチッと大きな舌打ちが聞こえた。
テバさんにも聞こえたようで苦笑している。
「フラフラと厄介なやつだな」
『私に任せてください』
2人に魔物から離れるようにと告げ、私自身も距離をとった。
そして魔物へと両手をかざし、魔物の周囲へと風の渦を作り上げるとたちまち魔物の姿は大きな竜巻の中へと紛れ互いに視認できなくなった。
ただ1箇所を除いて。
『リーバル様!お願いします!』
「分かってる!」
すかさず空高くへと舞い上がったリーバル様が、竜巻の真上から中の魔物目掛けて爆弾矢を放つ。
一瞬の間を置いて連続した爆発音が聞こえた。
やったのだろうか?
『わ、全然効いてない…』
竜巻を解除すると、まるで何事も無かったかのように魔物が飛び出してくる。
「クソッ!あれでもダメか!」
「ああ。けど……
どうやら僕達にも風が吹いてきたみたいだよ」
リーバル様の視線を追えば、勇者様やそれに続いてお姫様がメドーの上へと現れた。
なんてカオスな夢なんだ!
とは言え、リーバル様と共に敵を相手にすることは、100余年を生きてきて初めてのことだったため、なんと言うか…心が踊るのを感じてしまった。楽しい…と言うと語弊はあるけどね。
本人は否定するとは思うけれど、リーバル様の力になれることが嬉しかった。
夢は願望を映すのだとどこかで聞いたことがあるけど、ここまで鮮明な夢を見るあたり、本当に私はリーバル様が好きなんだなぁと自分でも呆れを通り越して感心してしまう。
勇者様達の加勢もあって無事に魔物を退けることができた私達は、他の英傑様達を助けに行く班と平原の魔物達を殲滅する班との二手に分かれることとなった。
『リーバル様!』
目覚めるまでの間、少しでも長くリーバル様と一緒にいたかったので私はメドーに残ることにした。
これは私の夢なのだから、どうせなら好き勝手やりたい。そんな思いと、あまりにもリアル過ぎる生きたリーバル様の姿に、つい体が動き出してしまった。
「うわっ!」
航路を変更する間にテバさんと話をするリーバル様の背後から勢いよく腰に抱きつくと、彼はビクッと大袈裟なぐらいに体を震わせた。
子どもの体でのハグは、彼の細い腰にすら腕を回すことができず、ただしがみついているだけになってしまう。
抱きついた瞬間とても懐かしい香りが鼻腔をくすぐり、遠い昔の記憶が一気に蘇ったことで私の涙腺は崩壊してしまったらしい。
『うええええええんリーバルの匂いだあぁぁうぅぅぅ…!!』
「なっ、おい!嗅ぐな!!」
「お前!馬鹿!いくら英傑様に会えたのが嬉しいからって…!」
リーバル様にハグをする私を見たテバさんの驚きは続けて焦りへと変わり、わたわたとリーバル様の顔色を伺いながら私を彼から引き剥がした。
『何でよ!私の夢なんだから好きにさせてよ!
この馬鹿馬鹿あんぽんたん!離して!』
両腕を持って宙に吊るされ、できる抵抗はと言えば足をばたばたさせることと、みんなを怪我させないレベルのそよ風を起こすくらいだ。
「落ち着け馬鹿!
これが夢だと?気持ちはわかるが現実だ!」
『え?……え、いッ─たいっ!痛い痛い!』
地面に降ろされたかと思えばぐいぐいとほっぺをつねられ左右に引っ張られる。
痛い。まさか本当に夢じゃない?
だとしたら…さっき私は……
『わーー!!!!!やだもう恥ずかしいごめんなさーい!!!!』
「全く…」
夢ではなく現実だと知り、テバさんどころか本人にまで見られてしまった自分の痴態に急激に顔が熱くなった。
こんなことならいっそ逆に夢だった方が良かったかもしれない。
…いや、でも私が知っている彼ではなくとも助けることができのだから良かった…のかな。や、良かったよね。そうだよ、そう思わないと恥ずかしさで死んでしまう。
「ねえ君、さ…」
テバさんから一通りの説明を聞いた後、それでも尚リーバル様の顔を直視できず両手で顔を覆う私の頭上から声が降ってくる。
「その名前と力に覚えがあるんだけど……彼女の子孫…ではないよね?」
『……本人です』
「はぁ〜全くなんでそんなことになってるんだか…」
「え?どういうことです?」
状況を把握できていないテバさんに今度は私から説明をする。
プルアさんの実験に巻き込まれ子どもの姿になったということだけ簡潔に。
リーバル様は100年前のプルアさんを知っているからか頭を抱えてため息をつくだけだったけれど、テバさんはそれはもうとても驚いていた。
それはそうだ、と言ってあげたかったけれど、正直タイムスリップがありならもうなんでもありな気がしてきている。
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