あなたは私の神様だった
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このハテノ古代研究所でプルアさんにお世話になり、もう何年経ったんだろう。100年くらいは経ったかな。
プルアさんと初めて会った時はすごくパワフルな人だなと思ったけれど、助手として一緒に過ごす中で、私に姉妹がいたらこんな感じなのかなと思ってしまうほどとても良くしてもらった。
今更言葉では言えないけれど…こんな私を受け入れてくれて……感謝してもしきれない。
時々変な実験に巻き込まれるのはいただけないが。
ついこの間もそうだ。
アンチ…エ…エイ……とにかく、若返りだかなんだかの実験でまさかの白羽の矢を立てられてしまうとは。
恐らく……5、6歳くらいだろうか?ヨボヨボだった姿から一転、今では幼い少女だ。
それでも自分で歩けないほどの年齢にされなかっただけよっぽどマシだと思う。それに、私への実験結果があったおかげでプルアさんは求めていた年代への若返りに成功したのだから。
『なんだか村が騒がしいですね?』
「あぁ、旅人が来てるのよ」
それもすごくイケメンだって噂よ!
と井戸端会議中の奥さんはそう付け足した。
食料品の買い出しの帰り、なんだか少し村の雰囲気がどこか違って、いつもならばすぐに研究所に帰るところだけれど、今日は少しだけ寄り道をしてしまった。
いつもは井戸端会議に混ざろうとすると嫌な顔をされるのだが、今日はその噂のイケメンとやらに心を踊らせているからなのか快く話を聞かせてくれた。
でも、特にそれ以外何も無さそうだ。
イーガ団の出没もあり、プルアさんから村への出入りには目を光らせておくようにと言われているけど、怪しい人はそもそも村へ入る前に門の前で追い返されるからね。
私はいつものように道端のリンゴを齧りながら帰路へとついた。
「あの、すみません」
来客が訪れたのはその数時間後。もう日も落ちてきた時のことだった。
フードを深く被っていて顔はよく見えない。
けれど、どうやらプルアさんを訪ねてカカリコ村からやって来たらしく、立ち話もあれなので飲み物を準備することにした。
私のいない間になんだか盛り上がっているらしい。
実験の時以外であんなにテンションが上がっているプルアさんは珍しいかもしれない。
最初は全然入れ方の分からなかったコーヒーも今ではお手の物だ。
来客用とプルアさん専用のマグカップにコーヒーを注ぎ、買い物の時におまけでもらったちょっとしたお菓子を用意し2人の座るテーブルへと並べた。
「ありがとう!」
『どういたしまし………あ…………?』
やけに嬉しそうに声を弾ませるものだからとそのお客の顔を盗み見ると、一瞬脳裏に何かがちらついた。
あれ…?何か……開けてはいけない箱の鍵を見つけてしまったかのような…。
なんだかザワザワする。
「シナト…?大丈夫?」
見たことがある。この人。どこかで。
そうだ、あの時。あの時もあの人とお揃いの水色の服を着て村に………あの時?あの人?
あの時っていつ?
あの人って誰?
プルアさんが心配そうに私の顔を覗き込んでくる。
待って。これは…。
何かを………思い出しそう。
私にはプルアさんと出会う前の記憶がほとんどなかった。
誰かに預けられたのだと聞かされていたけれど、特に何の疑問も抱かずにこうしてプルアさんと共にハテノ村で100年を生きてきた。
どこか心にぽっかり穴が空いたかのような感覚があったとしても、記憶がなくても、普通に生活して来れた。思い出さなくても平気だった。
それなのに。
今、何かが、見たこともない景色が、聞いたこともない誰かの声が、頭の中を忙しなく巡っている。
広い空、爽やかな風、一面の銀世界。
何故だか、心が苦しくなってくる。
『ぁ…あぁぁ…!ぁぁあああ!!!』
「シナト!落ち着いて!」
だめ。
頭が激しく警鐘を鳴らしている。
思い出してはいけないと。
思い出しちゃいけないのに。
大きな弓
風に揺れる三つ編み
髪飾りと同じ色の鋭い瞳
そして
「シナト」
私を呼ぶ
愛しい、声。
『リーバ、ル……』
「シナトあんた今…!」
あぁ。
私は全てを思い出してしまった。
リトの村での生活を。
大嫌いで大好きだった、リーバルと過ごした日々を。
そんな彼が……死んでしまったことを。
『ごめんなさい、プルアさん。
もう大丈夫です。全部…思い出しました』
プルアさんはまだ心配そうにしていたけれど、本当に私が平気だとわかると席についてコーヒーを一口飲んだ。
あぁ、そういえば急に目の前で取り乱してしまって驚かせたかな。申し訳ないとは思いつつ、久しぶりに会う彼に改めて挨拶をした。
『お久しぶりです、勇者様』
あなたは私の神様だった