あなたは私の神様だった
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あの日。
このハイラル王国全土が混乱に陥ったあの日。
厄災ガノンが目覚めてしまったあの日。
あの日から、幾日が経ったんだろう。
もう何日も、何ヶ月も、何年も経っているような、そんな気さえしてくる。
それなのに。
まだ、リーバル様は帰らない。
リトの上空からもハイラル城はよく見えた。
中央ハイラルに放たれた火は、何日も降り続いた雨によって既に消えている。
けれど、ハイラル城に取り憑いた怨念──ガノンはいつまで経っても消えなかった。
それが意味することは1つ。
厄災の討伐は失敗したということだ。
それを肯定するかのように、ある日、族長様へと伝令が届いた。
「厄災の怨念によって四神獣が乗っ取られ、退魔の剣を持つ勇者も瀕死の重傷となり回生の祠へと収容された」
神獣が…厄災に乗っ取られた…?
族長から伝えられた言葉がぐるぐると脳内を巡る。
消えない厄災。
様子のおかしいメドー。
そして…帰らないリーバル様。
薄々感じとってはいた。
ただ、信じたくなかった。
信じられなかった。
リーバル様が死んだなんて。
そんなまさか。
いや、でも。
状況が全てを物語っている。
でも、でも…やはり、信じることができない。
もしかしたら、神獣の中で生きているかもしれない。生きていてほしい。
「シナト!」
私は、族長様の声を無視して空へと飛び立った。
族長様にも伝令の方にも聞いてはいた。
厄災に乗っ取られた今ではもう、神獣は私達に取って危険なものでしかない、絶対に近寄ってはいけない、と。
実際、メドーへと様子を見に行ったリトの仲間も、皆反撃を受けて諦めて帰って来ていた。
それどころか、高度を上げて飛ぶだけでも狙撃されるのだそうだ。
ある程度近付いたところでメドーは大きく反応した。
周囲にはバリアが張られ、メドーを囲むように設置された固定砲台からは、私に向かって赤い光の筋が伸びていた。
その光の筋は、私が動くのに合わせて的確に動き、いつでも私の首を──急所を狙っていた。
そしてその次の瞬間、青いビームが私に向かって放たれたのだ。
ある程度距離があったため避けることはできたけれど。あれがあたったらと思うとゾッとする。
リーバル様はこんなこと絶対にしない。
そうと分かっているから、信じたくなかったというのに、どんどん信じざるを得ない状況へと変わっていくのだった。
それでも…。
それでも、一目でも…リーバル様に会いたい。
リーバル様の神獣相手に私が出来ることなんてないだろうけれど。
狙われてからあのビームが放たれるまでは結構時間がある。
その間に近付いて、中は見られなかったとしても、せめてメドー周囲を見ることは出来ないだろうか。
いや、できる。できるはず。
だって風は私の意思そのものだから。
何より、空の飛び方を教えてくれたのは、他でもないあの英傑リーバル様なのだから。
できる。絶対できる。
覚悟を決め、警戒圏外から一気にメドーへと近付き、力の限りで彼の名を呼んだ。
何度も。
何度も。
けれど、でも、リーバル様は姿を現してくれなくて。
終いには視界に涙が滲んでしまう。
涙を袖で拭いながら何度目かの接近をする。
彼の名を叫ぶごとに心がすり減っていくのが分かった。
そんな中で、メドーの背中のある石柱に、見覚えのある姿が寄りかかっているのが見えた。
『リーバル様!!』
間違いない。私が見間違うはずがない。
あれはリーバル様だ。
リーバル様がいた。いてくれた。
生きてた。
生きて……
生きて……た……?
あれだけ呼んだのに?
一言も返事がないのに?
ピクリとも…動かないのに…?
生きててほしいけれど、これまでの事実が現実を突きつけてくる。
よく見ればリーバル様の周りに真っ黒な染みができている。
それはリーバル様自身にも、石柱にも、メドーの背中の至る所にこびりついていて。
乾いた血痕だと理解するのに時間はかからなかった。
あの出血量では助かることなどできなかっただろう。
頭では分かってる。
分かってるけど。
『リーバル様…!!』
私が、もっと早くに様子を見に来ていたら。
もしかしたら。
『リーバルっ……!』
もしかしたら、彼を助けることができていたかもしれないのに。
『リーバ─っく、ぁあッ!!』
動揺によって咄嗟の反応ができずに回避が遅れた私の脇腹を、メドーのビームは掠めていった。
一瞬何が起こったのか理解出来なかったけれど、脇腹がかっと熱くなるのを感じて状況を理解する。
途端に風の制御ができなくなった私は空へと投げ出された。
待って、やだ、まだ……まだリーバルが中に…!
中にいるリーバルを。…リーバルの体を…。せめて、せめて……せめて故郷に…リトの村に……一緒に帰りたい…。
『リーバルーーーーー!!!!!!!』
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