君のことなどもう忘れたよ
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『リーバル様』
「…………………」
女神ハイリア、あんたって本当残酷だよ。
観光だかなんだか知らないけど、なんだってこんな僕に未練を残させるような真似をするんだ。
僕を呼ぶその声がこんなにも愛しかったあいつにそっくりだなんて。
僕とメドーを観光地みたいな扱いしたこと、許してあげるからどうか…僕に気づかないままそのまま村に戻ってくれ…。
せっかく1人で逝く決心をしたってのに、僕の決意を揺るがせないでくれよ…。
『もう、いるじゃないですか!』
僕の祈りも虚しくその子はメドーの上にまでやって来て、宙に浮かんだまま僕を見下ろした。
僕の直感が告げている。この子はあいつの生まれ変わりや娘なんかじゃない。あいつ本人だ…。
ずっと頭の中では否定していたけど、もう、ダメだ…。
「……………誰だい君」
『……覚えて…ないですか…?』
その顔を直視することが出来ず、彼女に背を向ける。
「君のことなどもう忘れたよ」
『……っ…!』
息を呑む音が聞こえて数秒。周りの空気が動いた。
村に戻ったか…。
これでいいんだ。彼女は僕とは違って生きてるんだから。
最期に………君の声が聴けて良かったよ…
シナト…。
『この……
あんぽんたーーーん!!!!!!』
「なっ…!!???」
正面に回り込んできたその子の怒声に思わず顔を上げると、今は懐かしい幼い頃のシナトの顔がすぐそこにあった。
『この姿を見て"知らない"じゃなくて「忘れた」って言葉が出るだなんて、私が誰か分かってるからでしょ!!
なんで忘れたフリするの!!この、馬鹿!馬鹿!馬鹿リーバル!!』
なんで子どもになっているのかがすごく気になるけれど、シナトの勢いに押されて聞ける雰囲気じゃない。
『ずっと会いたかったのに…!
これじゃあ私1人だけが会いたかったみたい……』
"ずっと会いたかった"
嬉しい言葉なはずなのに、こんな言い方をされて苛立ちの方が強くなる。
「言わせておけばさぁ、君のためを思って気付かないフリしたってのに、なんだいその言い草は」
『私のためって何!人の所為にしないでよ!』
「大体、会いにくるならさっさと来なよ!
100年も経ってから来るなんてさ、僕がいなかったらどうするつもりなんだよ」
『…それは……』
シナトが言い淀んだ。
あからさまに目を泳がせて言いたくなさそうに見える。
『忘れてた…から…』
あぁ、なるほどね。
「……ほら、やっぱり僕が忘れてた方が君にも都合が良かったんだよ」
『ち、ちが…だって……』
「違くないだろ?
僕が死んでどれだけの年月が経ってると思ってる?100年だよ100年!
メドーが解放されたのは最近だけど、君、村にも1度だって来たことないだろ??」
傷ついた顔でシナトは泣き出す。
あぁ嫌だな。君の泣き顔が見たかったわけじゃないのに。
これ以上君を傷つける前に僕の前から早く消えてくれ…。
『だって……あなたが死んじゃうからじゃん!このあんぽんたん!おたんこなす!はげ!』
「なっ…!?」
『私だって忘れたくなかったのに!それだけショックだったんだから察してよ馬鹿!』
「はっ……?え…」
『馬鹿!馬鹿!大馬鹿者!
私…あなたのこと好きだったんだから!!このボケナスピータン!!』
「え"っ……。……えっ…?」
今、なんて…?
僕を……?
『…ぅうっ……この間…勇者様にお会いしてやっとあなたのことを思い出せたんだもん…!
本当は忘れたくなんてなかったよ……!』
「……悪かったよ」
触れられないことはわかっているけど、シナトの頭を撫でずにはいられなかった。
案の定手は彼女の頭をすり抜けてしまったが、それに気付いたシナトは顔を上げる。
良かった…。一瞬きょとんとした表情を浮かべたが、それはすぐに笑顔に変わった。
幾分か幼い顔立ちだけれど、やはり笑顔は100年前の君のままで、不覚にもドキッとしてしまった。
それを誤魔化すように咳払いを一つ。
「で、なんで君は子どもになってるわけ?」
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