風邪っぴき
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
『あぁ……だるい…』
感じたことのないだるさが私を襲っていた。頭も重い。思考が整わない。
今日のお昼には族長様とお茶を飲む約束をしていたのに、朝からずっとこんな状態で、たぶんお茶どころではないんだろうな。
美味しいお茶菓子用意してくれるって言ってたのに…。
言ってたから…………行くしかないよね。
お茶菓子に釣られたわけじゃないよ。
「シナトお前、そんなふらふらしながら来るでないよ」
『や、だって………』
「茶菓子なんかいつだって食べに来ればいいじゃろが馬鹿者め」
うぅ…言い返す気力も出ない…。
本当にどうしたんだろう私の体は。
未だかつてこんなに具合が悪くなったことがあっただろうか…。いつも元気なのが唯一最大の取り柄だったというのに。
「もしかしてあれだ、風邪をひいたんじゃなかろうか?」
『風?確かに今日はいつもより風が強い気がするけど…』
「違うわ。
我々リト族にはそういった概念はないが、ハイリア人のようにこの寒さに適応していない者はしばしばお前のような状態になったりするらしいぞ」
カゼ…名前からはその恐ろしさは分からないけれど、なってみるとこんなにも辛いものだったということが分かる。
きっと私はこのまま……苦しんだ挙句に内臓が溶けたりして死んでしまうんだ…。
「お馬鹿。大人しく寝てれば治るわ」
『あ、治るんだ…』
「あぁ。だからお前はとっとと帰って寝とれ。あとでわしも見舞いに行くから」
*
*
『っハァ……ずず…』
族長様と話してから2時間ほど経っただろうか。鼻水やら咳やら出て来てどうしようもないことになっている。頭痛も酷くなるばかりで、絶対死なないなんて嘘だよってレベルで痛い。
「やあシナト。生きてるかい?」
『………』
「………大丈夫じゃないみたいだね…」
リーバル様が来たけれど、何かしら反応しなきゃとは思うけど、如何せん体も頭も思うようには動かない。
布団の中からぼーっとリーバル様を見ていると、彼は頬をかきながら苦笑した。
「ほら、リンゴ持ってきてやったから食べれば?」
君好きだろ?
や、好きですけど……。
『……気持ちだけ…』
今のこんなふらふらした状態でナイフを握ったら、間違いなく指を切り落とす。
もっと断り方にも方法があったんだろうけれど、ごめんなさいリーバル様。無理。
あまりのつらさに涙がにじみ、どうせ見えないならと瞼を閉じた。
「ハァ~……君ねぇ………」
隣に男がいるのに寝る馬鹿なんて君くらいだよ。
うっすらと、そんな風にぼやくリーバル様の声が聞こえた気がした。
*
*
『……。…大人しく寝てたらホントに治っちゃった…』
昨日のつらさが嘘みたい。
ふと横を見ると、きれいにむかれたリンゴがそこに置いてあった。
リーバル様がむいてくれたみたい?もしかして。
それなら何かお礼しないとだよね。
その前にちゃんと全部食べるよ。
何気に昨日の朝から何も食べてなくてお腹がぺっこぺこだったから、たった一個分ではあったけど一心不乱に食べてしまった。う~ん…やっぱり美味しい。
でも、それにしても珍しい…。普段なら絶対イチゴを持ってきていただろうに…。本人は全力否定してるけれど、よく私にイチゴを布教してくるので彼のイチゴ好きは結構みんな知っている。「そんなリンゴなんかよりもここらへんでとれたイチゴの方が栄養たっぷりだし美容にいい。君もいい加減食生活に気を遣った方がいいんじゃないか?」とか言ってたのに、私がリンゴが好きだからとわざわざ取りに行ってくださったのかも知れない。
やっぱり、尚更お礼をしに行かねば。
『リーバル様ー!シナトです!リーバル様のおかげでこの通…り……』
「なんだ君か…ゲホッゴホッ…!
頭に響くから静かにしてくれないか………」
『わ、ごめんなさ……え、あれ…?…もしかして…』
ハンモックの中から聞こえるけだる気な声、時折混じる痰の絡んだ咳……これはもしかしてもしかすると……
リーバル様も風邪を引いたようです。
風邪っぴき