Chapter3
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2038年11月5日:PM11:41
「何故殺した?ガイシャと何があったんだ?」
現場から署へと戻ってきた後は、すぐに容疑者の取り調べをすることとなった。
私やコナーは、リード刑事達と共に待機室からアンダーソン警部補の取り調べの様子を見ているよう指示を受けたため大人しく見学させてもらっているが、容疑者は黙秘を貫き、未だ取り調べに進展はない。
その内、昔ながらの取り調べの定石とでも言おうか、警部補はちらりとこちらを見た後、机を思い切り叩いて容疑者を威嚇した。
「何か言ったらどうなんだ!!」
容疑者であるカルロスのアンドロイドは何の反応も示さずただ俯いている。
待機室に戻ってきた警部補はイラつきを通り越して呆れていた。アンドロイドの尋問なんて馬鹿げている、と。
ただのアンドロイドであれば、聞かれた質問には素直に答えるはずだが、黙秘しているということは変異しているには違いないはずだ。今更何故黙っているのだろうか。
「痛めつけてみりゃいいだろ。
どうせ人間じゃないんだ」
痺れを切らしたリード刑事は鼻で笑いながらそう言い捨てた。
警察にあるまじき発言、流石と言わざるを得ない。
「アンドロイドは痛みを感じない。ダメージは受けますが口を割りはしないでしょう」
『そういう問題じゃないわ。ダメよそんなの』
「ならお前がやってみたらどうだ?」
警部補がそう言うと、一気に周りの目が私へと集中したため少し動揺してしまった。
『私が彼の取り調べを…?』
「自信が無いか?」
『……いえ、警部補がお任せくださるなら…やれるところまでやってみたいと思います』
私が引き受けると、一応念の為コナーも連れて行けとのことで、2人で取り調べ室へと入室した。
挑発的な笑みを浮かべていた警部補だけれど、彼はいつでも部下の身を案じてくれているのだ。
『初めまして。私はミコ。ミコ・クロフォードよ。あなたの名前は?』
そのアンドロイドの真向かいへと座り顔色を伺うも、先程の警部補の尋問の時から一切表情が変わっていなかった。
それにしても酷い傷だ。
火傷に切創、打撲痕。皮膚がめくれ内部のパーツが露出している。最近できたものでは無さそうな傷もあるから、きっと、彼は日常的に虐待を受けていたのかもしれない。
『痛そう…。つらかったわね…』
「………」
『大丈夫よ、私はあなたを傷つけない。約束する。信じられないかもしれないけれど…』
カルロスのアンドロイドは微動だにしない。それはそうだ。人間にこんな酷い虐待を受けていたとしたならば、そう簡単には信じられはしないだろう。
『コナー、このハンカチを濡らしてきてくれない?』
「しかしあなた1人では…」
『大丈夫よ。心配ないわ』
彼は被害者の血に塗れていた。かなり前の血液をそのまま放置していたものだから、黒ずんだまま乾燥している。
コナーが持ってきてくれたハンカチを彼に差し出し顔を拭くよう勧めるも顔を背けられてしまった。
一声かけ、怖がらせないようゆっくりとした動作で優しく彼の顔を拭えば、多少はマシになったと思う。
『思い返したくない気持ちもわかるわ。私もあるから、そういうことが』
「………」
『でも、お願い、話して?でなければあなたは即刻解体に回されてしまうわ』
「………」
『信じられないのも無理はないし、言いたくない気持ちも分かるけれど…あなたを助けてあげたいのは本当よ』
返事は無かったけれど、一瞬だけ彼の眉が寄せられたのを私は見逃さなかった。
しかし、私の後ろに立って待機していたコナーはそんなことは知らない。デスクの横へと立ち、彼の腕へと手を伸ばした。
『やめなさいコナー!』
「何故です?メモリを読み取った方が早い」
『そういう問題じゃないわ。私は彼の口から聞きたいのよ』
止めるために掴んでいたコナーの手を離すと、案外彼は素直に応じて元の位置へと戻った。
確かに時間をかけ過ぎてしまったようだ。そろそろ核心へと踏み込むべきかもしれない。
『ねぇ、あなたは所有者であるカルロスに…暴力を振るわれてた。…そうでしょう?』
「、………」
彼の肩がびくっと震えた。
やっぱり…。大きなトラウマになっているようだ。
そんなトラウマを掘り起こさないといけないことに申し訳なさを覚えたが、彼を助けるためには仕方のないことではあった。
『毎日…毎日…。あなたはいつ感情を得たの?その時はきっと……恐ろしかったわよね…。初めて得た感情が恐怖だなんて…』
「……………毎日虐待された…」
ずっと黙っていた彼がやっと口を開いた。
何の情報も逃さないよう、彼を見つめながら耳をすます。
「言いつけは守っていたけど……いつも問題が起きる…。
そしてある日…あいつが僕をバットで殴り出した…。何も悪いことをしていないのに……。
その時初めて感じたんだ……恐怖を…。
このまま壊されるんじゃないか…死ぬんじゃないかって…」
俯いて話していた彼がやっと顔を上げ、今初めて目が合う。
「だから……ナイフであいつの腹を刺してみたんだ…。
いい気分だった…。だからまた刺したんだ。何度も。奴が倒れるまで。
一面血の海だった……」
『……何故逃げなかったの…?』
「分からなかったんだよ。どうすればいいのか…どうしたらいいのか……。
自由を与えられたことなんて今までなかったから」
『……そう…話してくれてありがとう』
ショックでそれ以外言えなかった。
変異した彼は、紛れもなく人間と同じに感情を持っていた。憎しみと悲しみに満ちた表情は、人間と何一つ変わらない。
それなのに、蔑まされ、奴隷のように扱われるだなんて、やはりアンドロイドは可哀想な生き物だ。
黙って聞いていたコナーが隣に立つ。
「rA9とはなんだ?」
「僕らを導く唯一の救世主さ」
『救世主?』
「知りたいのなら、内なる真実を見ればいい。
それで全てがわかる」
それ以降は、何を聞いても彼からは曖昧な答えしか返ってこなかった。
マジックミラーの向こうに尋問の終わりを告げれば、クリスとリード刑事、そして警部補が入室してきた。一気に人が増えたからか、カルロスのアンドロイドは緊張した面持ちになった。
リード刑事に命じられたクリスが拘束を解き彼に触れると、彼はイスをガタガタと鳴らしながら抵抗をする。
彼は人に触れられることを酷く恐れている。ましてや、そんなに乱暴に掴んだら恐怖を感じるのは当たり前だ。
『待ってクリス、触れないであげて』
「でも、何をするか…」
「いいからさっさと連れていけ!」
「やめろ!僕に触るな…!!」
クリスは迷いながらもリード刑事の命令に従った。
抵抗していた彼は、クリスの手から逃れようとついに地面へと倒れ込んでしまった。
「触らない方がいい。脅威を感じると自己破壊しますよ」
「てめえは引っ込んでろ!機械のくせに命令する気か?」
「やめろ!やめてくれ!」
『クリス!!』
「触るなと言ったでしょ!そっとしておいてやるんだ!」
「てめえ調子に乗るなよ!!」
コナーが介入したことで更にムキになったリード刑事は、ついに止めに入ったコナーへと銃を向けた。
『いい加減にして!調子に乗っているのはあなたの方よ!』
コナーとリード刑事の間に割って入り、銃のその先の彼の目を真っ直ぐ睨みつけた。
もう我慢の限界だ。
『今この場を任されたのはあなたではなく私のはず!
あなたの方こそ口を挟まないでいただきたい!!』
「くそが!お前も女の分際で生意気なんだよ!!」
私が前に立ったことでリード刑事は銃を納めはしたが、その代わりとでも言うように彼は私の肩を突き飛ばした。後ろにいたコナーに支えられたため転びはしなかったが…。
「いいや、そいつが言ってることの方が正しいな。この場は俺が他でもないミコに任せたんだから」
すると、それを見ていたアンダーソン警部補がついに割って入ってきてくれた。
「後悔させてやるぞ!」
『………ありがとうございます警部補。コナーも』
「いえ…」
刑事が退室すると、その後を追うようにクリスも出て、取り調べ室の外で待っていてくれた。
『ごめんね、怖かったでしょう…。
もう大丈夫よ。私の目を見て』
脅威は去ったというのにLEDリングを赤に点滅させて震える彼の背中をさする。
更に怖がらせることのないようゆっくりと、安心させるように。
夜寝られない子どもに話しかけるように穏やかな口調で語りかけるうち、リングは黄色へと戻ってきた。
『ほら、もう大丈夫。落ち着いてね。大丈夫…大丈夫よ…』
「すまない……すごく…怖かったんだ…」
『ええ、大丈夫よ、分かってるわ。
…彼について行くことはできそう?大丈夫、さっきみたいに乱暴なことはしないわ』
黙ったままこくこくと頷きたどたどしい足取りで彼は歩き出したが、入口付近で立ち止まると、彼はくるりと振り返り私を見て口を開いた。
「……君みたいな人が僕の所有者だったなら……きっとこんなことにはならなかっただろうね…」
『………』
悲しげにLEDリングを黄色く点滅させる彼だったが、口を開けどかける言葉は見つからず、ただ黙ることしかできなかった。
「とにかく、ありがとうミコ。…僕を人として扱ってくれて…」
薄く微笑んだ彼は、クリスに続いて尋問室を後にした。
彼は……人を殺してしまった以上解体を避けることは恐らく難しいだろう。
いつか、アンドロイドにも公平な裁きが下される世の中になるといいのだけど…。
世論が変わればともするかもしれないが、今現在増え続けていると言われている変異体の事件に、世間はどのような印象を持つのだろうか。
「良くやったな。お前にも見習ってほしいぜ、コナー」
「ええ、善処します」
彼等が去った方向をしばらく見つめていると、私の背をポンと叩きながら警部補はコナーへ悪態をついた。
コナーの表情から感情は読み取れないけれど、いつか……いつの日か彼も、感情を手にする時が来るのだろうか…。
私達が初めて担当したこの変異体の事件は、アンドロイドに対する私達の意識へと波紋を呼ぶ一つの大きな原因となった。
これはまだほんの始まりに過ぎない。
何故だか、漠然とそう感じた。
「何故殺した?ガイシャと何があったんだ?」
現場から署へと戻ってきた後は、すぐに容疑者の取り調べをすることとなった。
私やコナーは、リード刑事達と共に待機室からアンダーソン警部補の取り調べの様子を見ているよう指示を受けたため大人しく見学させてもらっているが、容疑者は黙秘を貫き、未だ取り調べに進展はない。
その内、昔ながらの取り調べの定石とでも言おうか、警部補はちらりとこちらを見た後、机を思い切り叩いて容疑者を威嚇した。
「何か言ったらどうなんだ!!」
容疑者であるカルロスのアンドロイドは何の反応も示さずただ俯いている。
待機室に戻ってきた警部補はイラつきを通り越して呆れていた。アンドロイドの尋問なんて馬鹿げている、と。
ただのアンドロイドであれば、聞かれた質問には素直に答えるはずだが、黙秘しているということは変異しているには違いないはずだ。今更何故黙っているのだろうか。
「痛めつけてみりゃいいだろ。
どうせ人間じゃないんだ」
痺れを切らしたリード刑事は鼻で笑いながらそう言い捨てた。
警察にあるまじき発言、流石と言わざるを得ない。
「アンドロイドは痛みを感じない。ダメージは受けますが口を割りはしないでしょう」
『そういう問題じゃないわ。ダメよそんなの』
「ならお前がやってみたらどうだ?」
警部補がそう言うと、一気に周りの目が私へと集中したため少し動揺してしまった。
『私が彼の取り調べを…?』
「自信が無いか?」
『……いえ、警部補がお任せくださるなら…やれるところまでやってみたいと思います』
私が引き受けると、一応念の為コナーも連れて行けとのことで、2人で取り調べ室へと入室した。
挑発的な笑みを浮かべていた警部補だけれど、彼はいつでも部下の身を案じてくれているのだ。
『初めまして。私はミコ。ミコ・クロフォードよ。あなたの名前は?』
そのアンドロイドの真向かいへと座り顔色を伺うも、先程の警部補の尋問の時から一切表情が変わっていなかった。
それにしても酷い傷だ。
火傷に切創、打撲痕。皮膚がめくれ内部のパーツが露出している。最近できたものでは無さそうな傷もあるから、きっと、彼は日常的に虐待を受けていたのかもしれない。
『痛そう…。つらかったわね…』
「………」
『大丈夫よ、私はあなたを傷つけない。約束する。信じられないかもしれないけれど…』
カルロスのアンドロイドは微動だにしない。それはそうだ。人間にこんな酷い虐待を受けていたとしたならば、そう簡単には信じられはしないだろう。
『コナー、このハンカチを濡らしてきてくれない?』
「しかしあなた1人では…」
『大丈夫よ。心配ないわ』
彼は被害者の血に塗れていた。かなり前の血液をそのまま放置していたものだから、黒ずんだまま乾燥している。
コナーが持ってきてくれたハンカチを彼に差し出し顔を拭くよう勧めるも顔を背けられてしまった。
一声かけ、怖がらせないようゆっくりとした動作で優しく彼の顔を拭えば、多少はマシになったと思う。
『思い返したくない気持ちもわかるわ。私もあるから、そういうことが』
「………」
『でも、お願い、話して?でなければあなたは即刻解体に回されてしまうわ』
「………」
『信じられないのも無理はないし、言いたくない気持ちも分かるけれど…あなたを助けてあげたいのは本当よ』
返事は無かったけれど、一瞬だけ彼の眉が寄せられたのを私は見逃さなかった。
しかし、私の後ろに立って待機していたコナーはそんなことは知らない。デスクの横へと立ち、彼の腕へと手を伸ばした。
『やめなさいコナー!』
「何故です?メモリを読み取った方が早い」
『そういう問題じゃないわ。私は彼の口から聞きたいのよ』
止めるために掴んでいたコナーの手を離すと、案外彼は素直に応じて元の位置へと戻った。
確かに時間をかけ過ぎてしまったようだ。そろそろ核心へと踏み込むべきかもしれない。
『ねぇ、あなたは所有者であるカルロスに…暴力を振るわれてた。…そうでしょう?』
「、………」
彼の肩がびくっと震えた。
やっぱり…。大きなトラウマになっているようだ。
そんなトラウマを掘り起こさないといけないことに申し訳なさを覚えたが、彼を助けるためには仕方のないことではあった。
『毎日…毎日…。あなたはいつ感情を得たの?その時はきっと……恐ろしかったわよね…。初めて得た感情が恐怖だなんて…』
「……………毎日虐待された…」
ずっと黙っていた彼がやっと口を開いた。
何の情報も逃さないよう、彼を見つめながら耳をすます。
「言いつけは守っていたけど……いつも問題が起きる…。
そしてある日…あいつが僕をバットで殴り出した…。何も悪いことをしていないのに……。
その時初めて感じたんだ……恐怖を…。
このまま壊されるんじゃないか…死ぬんじゃないかって…」
俯いて話していた彼がやっと顔を上げ、今初めて目が合う。
「だから……ナイフであいつの腹を刺してみたんだ…。
いい気分だった…。だからまた刺したんだ。何度も。奴が倒れるまで。
一面血の海だった……」
『……何故逃げなかったの…?』
「分からなかったんだよ。どうすればいいのか…どうしたらいいのか……。
自由を与えられたことなんて今までなかったから」
『……そう…話してくれてありがとう』
ショックでそれ以外言えなかった。
変異した彼は、紛れもなく人間と同じに感情を持っていた。憎しみと悲しみに満ちた表情は、人間と何一つ変わらない。
それなのに、蔑まされ、奴隷のように扱われるだなんて、やはりアンドロイドは可哀想な生き物だ。
黙って聞いていたコナーが隣に立つ。
「rA9とはなんだ?」
「僕らを導く唯一の救世主さ」
『救世主?』
「知りたいのなら、内なる真実を見ればいい。
それで全てがわかる」
それ以降は、何を聞いても彼からは曖昧な答えしか返ってこなかった。
マジックミラーの向こうに尋問の終わりを告げれば、クリスとリード刑事、そして警部補が入室してきた。一気に人が増えたからか、カルロスのアンドロイドは緊張した面持ちになった。
リード刑事に命じられたクリスが拘束を解き彼に触れると、彼はイスをガタガタと鳴らしながら抵抗をする。
彼は人に触れられることを酷く恐れている。ましてや、そんなに乱暴に掴んだら恐怖を感じるのは当たり前だ。
『待ってクリス、触れないであげて』
「でも、何をするか…」
「いいからさっさと連れていけ!」
「やめろ!僕に触るな…!!」
クリスは迷いながらもリード刑事の命令に従った。
抵抗していた彼は、クリスの手から逃れようとついに地面へと倒れ込んでしまった。
「触らない方がいい。脅威を感じると自己破壊しますよ」
「てめえは引っ込んでろ!機械のくせに命令する気か?」
「やめろ!やめてくれ!」
『クリス!!』
「触るなと言ったでしょ!そっとしておいてやるんだ!」
「てめえ調子に乗るなよ!!」
コナーが介入したことで更にムキになったリード刑事は、ついに止めに入ったコナーへと銃を向けた。
『いい加減にして!調子に乗っているのはあなたの方よ!』
コナーとリード刑事の間に割って入り、銃のその先の彼の目を真っ直ぐ睨みつけた。
もう我慢の限界だ。
『今この場を任されたのはあなたではなく私のはず!
あなたの方こそ口を挟まないでいただきたい!!』
「くそが!お前も女の分際で生意気なんだよ!!」
私が前に立ったことでリード刑事は銃を納めはしたが、その代わりとでも言うように彼は私の肩を突き飛ばした。後ろにいたコナーに支えられたため転びはしなかったが…。
「いいや、そいつが言ってることの方が正しいな。この場は俺が他でもないミコに任せたんだから」
すると、それを見ていたアンダーソン警部補がついに割って入ってきてくれた。
「後悔させてやるぞ!」
『………ありがとうございます警部補。コナーも』
「いえ…」
刑事が退室すると、その後を追うようにクリスも出て、取り調べ室の外で待っていてくれた。
『ごめんね、怖かったでしょう…。
もう大丈夫よ。私の目を見て』
脅威は去ったというのにLEDリングを赤に点滅させて震える彼の背中をさする。
更に怖がらせることのないようゆっくりと、安心させるように。
夜寝られない子どもに話しかけるように穏やかな口調で語りかけるうち、リングは黄色へと戻ってきた。
『ほら、もう大丈夫。落ち着いてね。大丈夫…大丈夫よ…』
「すまない……すごく…怖かったんだ…」
『ええ、大丈夫よ、分かってるわ。
…彼について行くことはできそう?大丈夫、さっきみたいに乱暴なことはしないわ』
黙ったままこくこくと頷きたどたどしい足取りで彼は歩き出したが、入口付近で立ち止まると、彼はくるりと振り返り私を見て口を開いた。
「……君みたいな人が僕の所有者だったなら……きっとこんなことにはならなかっただろうね…」
『………』
悲しげにLEDリングを黄色く点滅させる彼だったが、口を開けどかける言葉は見つからず、ただ黙ることしかできなかった。
「とにかく、ありがとうミコ。…僕を人として扱ってくれて…」
薄く微笑んだ彼は、クリスに続いて尋問室を後にした。
彼は……人を殺してしまった以上解体を避けることは恐らく難しいだろう。
いつか、アンドロイドにも公平な裁きが下される世の中になるといいのだけど…。
世論が変わればともするかもしれないが、今現在増え続けていると言われている変異体の事件に、世間はどのような印象を持つのだろうか。
「良くやったな。お前にも見習ってほしいぜ、コナー」
「ええ、善処します」
彼等が去った方向をしばらく見つめていると、私の背をポンと叩きながら警部補はコナーへ悪態をついた。
コナーの表情から感情は読み取れないけれど、いつか……いつの日か彼も、感情を手にする時が来るのだろうか…。
私達が初めて担当したこの変異体の事件は、アンドロイドに対する私達の意識へと波紋を呼ぶ一つの大きな原因となった。
これはまだほんの始まりに過ぎない。
何故だか、漠然とそう感じた。