Chapter2
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2038年11月5日:PM10:05
『…何故あなたがここに?』
シャワーを浴びているとベルが鳴ったため、慌てて服を着て水の滴る髪をそのままにドアを開ければ、そこには風呂上がりの私以上に濡れたコナーが立っていた。
変異体の関連が疑われる事件が起きたとかで呼び出しの電話をしてくれたようだが、私が出なかったため直接来たのだそうだ。
『すぐに支度するから、とりあえず中に入って体を拭いて。濡れたままだと風邪をひくわ』
「私はアンドロイドですから風邪なんてひきません」
『あぁ、まぁ……そうね、そうだったわ』
バスタオルを渡して体を拭いてもらっている間にドライヤーで髪を乾かす。ちらりとコナーを盗み見ると、髪と脱いだジャケットをいそいそと拭いていた。とりあえずシャツは濡れていないようで安心した。…ああ、いや、仮に濡れていても風邪はひかないのか。
全く、病気にならないとは言え雨の日は傘くらいさしたらどうなのか。外でずぶ濡れになって私を待っていたのだと考えると、私に非はないというのに申し訳なくなる。
コナーにビニール傘を渡すと、私の顔と傘を見比べたかと思えば家の鍵を閉める私を待つように立ち、私が横に並んだ時点で傘を開き差し出してくれた。うん、違う、そうじゃない。
せっかく体を拭いたのにまた濡らすだなんて。私は私で自分の傘を持っているというのに。
その傘はコナーにあげたものだから、今後は意味もなく濡れ鼠のようになるのはやめるよう伝えた。
『先に警部補を迎えに行きましょう』
「この時間だと署の近くのバーにいるはずだと伺っています。あの辺りにはバーがいくつかありますが、心当たりがおありですか?」
『もちろん。彼が懇意にしているバーは1つだけよ』
車に乗り込みエンジンをかければ、落ち着いたクラシックが流れ出した。警部補の車は常に爆音でヘヴィメタルが流れているから私はいつも居た堪れない。警部補は警部補で、クラシックは眠くなるから嫌いだと、私の車に乗るのをいつも嫌がっていたものだ。
アンダーソン警部補がよく入り浸っているジミーのバーは、その名の通り店長のジミーが運営しているバーだ。
ジミーもアンドロイドが嫌いだとかでアンドロイドの立ち入りを制限していたり、中で何があろうとも我関せずなその自由なスタイルが警部補も落ち着くようだ。
「おっ、ミコか。何か飲むか?」
『いいえ、今日は警部補を迎えに来ただけ。また今度来るわ』
ジミーは私の背後に目を向けると一瞬だけ眉を寄せたが、特に何かを言ってくることはなかった。
「……またお前達か」
『ええ、 "お前達" がまたお迎えにあがりましたよ、警部補』
「プラスチック野郎との仕事なんて俺はごめんだね」
「では警部補、こうしましょう。
私との捜査は避けられませんが、その最後の1杯を私が奢ります。それでどうです?」
警部補は少し面食らったようにコナーの顔を見ると、持っていたグラスを一気に飲み干し気だるそうに立ち上がった。
怒った相手に追い打ちをかけていたコナーがこんなにも大人な対応ができるとは…。どうやらコナーは学習能力が高いようで私も驚いた。
「ったく、俺は自分の車で行くってのに…」
『酒気帯び運転の現行犯で逮捕しますよ?』
「ハッ、お前はこのプラスチックよりも固いな」
窓の外を眺めながら警部補は笑う。機嫌は治っているみたいで少し安心した。
クラシックの代わりにつけたニュースは、ウォーレン大統領の支持率が33%を越えたと告げた。その一方で、アンドロイドの普及による失業率が40%に跳ね上がったとも。
聞いててあまり面白くはない内容だ。
「現場はパイン通り6413番、被害者はカルロス・オーティス、男性。第1発見者はこの家のオーナーのようで、滞納されていた家賃を請求しに行ったところ発見に至ったようです」
「なるほどな。ただの強盗だろ」
『でも変異体の関連が疑われてるから私達が行くのよね?』
「ええ。彼の所有していたアンドロイドがどこにも見当たらないそうです」
通常、アンドロイドは強盗が押し入った際などの緊急時には自動で通報するようプログラムされているはずだ。少なくとも、私がかつてアンドロイドについて調べた時にはそのように記述されていた。
だから、警察に何の通報もなく遺体の発見が今に至ったということは、そのアンドロイドの身に何かしらの異変があったということだ。
現場に着くと、アンダーソン警部補は濡れるのもお構い無しに車から降りて被害者の家へと入っていった。
デトロイトでは雨にうたれるのが流行っているのかしら…。
中にはコリンズ刑事が待っていて、事件の概要を詳しく話してくれた。
…にしても酷い匂いだ。冬場とは言えかなり腐敗が進んでいるところを見ると、少なくとも死後三週間は経過しているのだろう。
どうやら被害者はナイフで殺害されたようだ。コナー曰く28箇所の刺傷があるらしく、犯人は被害者に相当な恨みがあったのだと見受けられる。そしておそらく、これは突発的な犯行だ。あまりにも証拠が残りすぎている。
『レッドアイス……カルロスの物かしらね』
カルロスは麻薬を常用していたようだ。
シリウムを原材料とする合成麻薬のレッドアイスは、摂取した直後は気分の高揚、興奮作用をもたらすが、その効果が切れた後は理性が消失し、妄想や焦燥感に取り憑かれ凶暴性が高まるとされている。
デトロイト拘留センターにも、レッドアイスが原因での暴行事件を起こしたことで逮捕された人が沢山いる。
『凶器のナイフはここにあったみたいね。1本だけ無くなってるもの』
強盗に押し入った家の物を凶器にする強盗など聞いたことがないし、やはり強盗の線は薄いのではないか。
それに壁に大きく書かれた「僕は生きてる」という文字。
推測の域を出ないが、彼の所有していたアンドロイドによる犯行なのではないか。
床に転がったバットには何も付着していない。が、アンドロイドの血液であるシリウム310、所謂ブルーブラッドは揮発性があるのだと聞いたことがあるが…鑑識の到着を待つしかないか?それとも、どうにか可視化する方法はあるだろうか。
『コナー、あなた蒸発したシリウムを可視化する方法なんて知ってたりしないかしら』
「知ってはいますが…何故です?」
『このバット…こんなに不自然な場所に転がってる割に綺麗だから…被害者の血が着いていないのなら、アンドロイドの血はどうかと思って』
コナーは転がったバットをじっと見つめた。
どうやら、私の予想通りバットにはブルーブラッドが付着していたようだ。そしてカルロスの指紋も。
ブルーブラッドの跡はカルロスの遺体の元まで続き、またそれとは別に、遺体とは真反対の浴室の方にも続いている跡があるらしい。
「跡はここで途切れてる」
『待って、もう少し探してみましょう。あなたは浴室をお願い』
浴室の前でブルーブラッドの痕跡は途切れていた。
いえ、でもそんなわけない。急にいなくなるわけがないからきっとどこかに手がかりがあるはずだ。
念の為銃を手に持ちカーテンを開けると、掃除道具が倒れ込んできて少し驚いてしまった。
コナーはと言えば、浴室で何かの像と壁の落書きを発見したようだ。
『あら?これって……』
何かを長年立てかけてできたのであろう壁の不自然な跡。この模様は…そう、丁度ハシゴのような…。
ふと上を見上げると、天井に屋根裏部屋へと続くであろう道を発見した。ハシゴがどこにもなかったところを見るにおそらくは…。
『コナー!ここを見て頂戴』
「……ええ、ありましたよ巡査」
『OK。じゃあ、どうやって上に上がろうかしら』
そうだ、キッチンにまだ使えそうなイスがあったはず。
キッチンのイスを浴室の前に運んでいると、アンダーソン警部補に訝しげな目で見られていることに気がついた。
「お前一体何してんだ」
そうだ、私とコナーで盛り上がって警部補には一切何も説明していなかった。
証拠の状況から推測される事の顛末をコナーと共に警部補へと説明したが、警部補はとりあえずは納得してくれたものの、まだ完全には信じていなさそうだ。
『──それで、屋根裏部屋に続く道にブルーブラッドの痕跡を発見したので少し見て来ようかと』
「馬鹿、犯人がいたらどうするつもりだ。
こういう時にロボット刑事を行かせないでどうする」
『私は平気ですよ』
警部補の制止を振り切り、イスに上って天井に手を伸ばすも、背伸びをしても天井に指が触れる程度しか届かず、結局はコナーを行かせることになってしまった。
誰が行っても何が起こるか分からないのは皆同じなのに申し訳ない。
警部補には笑われてしまった。
しばらく下で待っていると、何かが走るような音が聞こえ警部補と顔を見合わせた。
しまった。アンドロイド法に則れば、当然コナーも銃器を持っているはずがないのに。凶器を持った犯人が潜伏している可能性を視野に入れていなかった。私の銃を今だけでも貸すべきだったかもしれない。
「おいコナー!何か見つかったのか!」
少しの間をおいて、コナーから容疑者を発見したとの報告を受けた。
「……マジかよ…」
正直、まだ潜伏しているとは思っておらず、念の為程度で確認をしようとしていたのに…まさかまだ現場から離れていなかったとは。
これから署に戻り、容疑者の尋問をしなくてはならない。
まだまだ夜は長そうだ。
『…何故あなたがここに?』
シャワーを浴びているとベルが鳴ったため、慌てて服を着て水の滴る髪をそのままにドアを開ければ、そこには風呂上がりの私以上に濡れたコナーが立っていた。
変異体の関連が疑われる事件が起きたとかで呼び出しの電話をしてくれたようだが、私が出なかったため直接来たのだそうだ。
『すぐに支度するから、とりあえず中に入って体を拭いて。濡れたままだと風邪をひくわ』
「私はアンドロイドですから風邪なんてひきません」
『あぁ、まぁ……そうね、そうだったわ』
バスタオルを渡して体を拭いてもらっている間にドライヤーで髪を乾かす。ちらりとコナーを盗み見ると、髪と脱いだジャケットをいそいそと拭いていた。とりあえずシャツは濡れていないようで安心した。…ああ、いや、仮に濡れていても風邪はひかないのか。
全く、病気にならないとは言え雨の日は傘くらいさしたらどうなのか。外でずぶ濡れになって私を待っていたのだと考えると、私に非はないというのに申し訳なくなる。
コナーにビニール傘を渡すと、私の顔と傘を見比べたかと思えば家の鍵を閉める私を待つように立ち、私が横に並んだ時点で傘を開き差し出してくれた。うん、違う、そうじゃない。
せっかく体を拭いたのにまた濡らすだなんて。私は私で自分の傘を持っているというのに。
その傘はコナーにあげたものだから、今後は意味もなく濡れ鼠のようになるのはやめるよう伝えた。
『先に警部補を迎えに行きましょう』
「この時間だと署の近くのバーにいるはずだと伺っています。あの辺りにはバーがいくつかありますが、心当たりがおありですか?」
『もちろん。彼が懇意にしているバーは1つだけよ』
車に乗り込みエンジンをかければ、落ち着いたクラシックが流れ出した。警部補の車は常に爆音でヘヴィメタルが流れているから私はいつも居た堪れない。警部補は警部補で、クラシックは眠くなるから嫌いだと、私の車に乗るのをいつも嫌がっていたものだ。
アンダーソン警部補がよく入り浸っているジミーのバーは、その名の通り店長のジミーが運営しているバーだ。
ジミーもアンドロイドが嫌いだとかでアンドロイドの立ち入りを制限していたり、中で何があろうとも我関せずなその自由なスタイルが警部補も落ち着くようだ。
「おっ、ミコか。何か飲むか?」
『いいえ、今日は警部補を迎えに来ただけ。また今度来るわ』
ジミーは私の背後に目を向けると一瞬だけ眉を寄せたが、特に何かを言ってくることはなかった。
「……またお前達か」
『ええ、 "お前達" がまたお迎えにあがりましたよ、警部補』
「プラスチック野郎との仕事なんて俺はごめんだね」
「では警部補、こうしましょう。
私との捜査は避けられませんが、その最後の1杯を私が奢ります。それでどうです?」
警部補は少し面食らったようにコナーの顔を見ると、持っていたグラスを一気に飲み干し気だるそうに立ち上がった。
怒った相手に追い打ちをかけていたコナーがこんなにも大人な対応ができるとは…。どうやらコナーは学習能力が高いようで私も驚いた。
「ったく、俺は自分の車で行くってのに…」
『酒気帯び運転の現行犯で逮捕しますよ?』
「ハッ、お前はこのプラスチックよりも固いな」
窓の外を眺めながら警部補は笑う。機嫌は治っているみたいで少し安心した。
クラシックの代わりにつけたニュースは、ウォーレン大統領の支持率が33%を越えたと告げた。その一方で、アンドロイドの普及による失業率が40%に跳ね上がったとも。
聞いててあまり面白くはない内容だ。
「現場はパイン通り6413番、被害者はカルロス・オーティス、男性。第1発見者はこの家のオーナーのようで、滞納されていた家賃を請求しに行ったところ発見に至ったようです」
「なるほどな。ただの強盗だろ」
『でも変異体の関連が疑われてるから私達が行くのよね?』
「ええ。彼の所有していたアンドロイドがどこにも見当たらないそうです」
通常、アンドロイドは強盗が押し入った際などの緊急時には自動で通報するようプログラムされているはずだ。少なくとも、私がかつてアンドロイドについて調べた時にはそのように記述されていた。
だから、警察に何の通報もなく遺体の発見が今に至ったということは、そのアンドロイドの身に何かしらの異変があったということだ。
現場に着くと、アンダーソン警部補は濡れるのもお構い無しに車から降りて被害者の家へと入っていった。
デトロイトでは雨にうたれるのが流行っているのかしら…。
中にはコリンズ刑事が待っていて、事件の概要を詳しく話してくれた。
…にしても酷い匂いだ。冬場とは言えかなり腐敗が進んでいるところを見ると、少なくとも死後三週間は経過しているのだろう。
どうやら被害者はナイフで殺害されたようだ。コナー曰く28箇所の刺傷があるらしく、犯人は被害者に相当な恨みがあったのだと見受けられる。そしておそらく、これは突発的な犯行だ。あまりにも証拠が残りすぎている。
『レッドアイス……カルロスの物かしらね』
カルロスは麻薬を常用していたようだ。
シリウムを原材料とする合成麻薬のレッドアイスは、摂取した直後は気分の高揚、興奮作用をもたらすが、その効果が切れた後は理性が消失し、妄想や焦燥感に取り憑かれ凶暴性が高まるとされている。
デトロイト拘留センターにも、レッドアイスが原因での暴行事件を起こしたことで逮捕された人が沢山いる。
『凶器のナイフはここにあったみたいね。1本だけ無くなってるもの』
強盗に押し入った家の物を凶器にする強盗など聞いたことがないし、やはり強盗の線は薄いのではないか。
それに壁に大きく書かれた「僕は生きてる」という文字。
推測の域を出ないが、彼の所有していたアンドロイドによる犯行なのではないか。
床に転がったバットには何も付着していない。が、アンドロイドの血液であるシリウム310、所謂ブルーブラッドは揮発性があるのだと聞いたことがあるが…鑑識の到着を待つしかないか?それとも、どうにか可視化する方法はあるだろうか。
『コナー、あなた蒸発したシリウムを可視化する方法なんて知ってたりしないかしら』
「知ってはいますが…何故です?」
『このバット…こんなに不自然な場所に転がってる割に綺麗だから…被害者の血が着いていないのなら、アンドロイドの血はどうかと思って』
コナーは転がったバットをじっと見つめた。
どうやら、私の予想通りバットにはブルーブラッドが付着していたようだ。そしてカルロスの指紋も。
ブルーブラッドの跡はカルロスの遺体の元まで続き、またそれとは別に、遺体とは真反対の浴室の方にも続いている跡があるらしい。
「跡はここで途切れてる」
『待って、もう少し探してみましょう。あなたは浴室をお願い』
浴室の前でブルーブラッドの痕跡は途切れていた。
いえ、でもそんなわけない。急にいなくなるわけがないからきっとどこかに手がかりがあるはずだ。
念の為銃を手に持ちカーテンを開けると、掃除道具が倒れ込んできて少し驚いてしまった。
コナーはと言えば、浴室で何かの像と壁の落書きを発見したようだ。
『あら?これって……』
何かを長年立てかけてできたのであろう壁の不自然な跡。この模様は…そう、丁度ハシゴのような…。
ふと上を見上げると、天井に屋根裏部屋へと続くであろう道を発見した。ハシゴがどこにもなかったところを見るにおそらくは…。
『コナー!ここを見て頂戴』
「……ええ、ありましたよ巡査」
『OK。じゃあ、どうやって上に上がろうかしら』
そうだ、キッチンにまだ使えそうなイスがあったはず。
キッチンのイスを浴室の前に運んでいると、アンダーソン警部補に訝しげな目で見られていることに気がついた。
「お前一体何してんだ」
そうだ、私とコナーで盛り上がって警部補には一切何も説明していなかった。
証拠の状況から推測される事の顛末をコナーと共に警部補へと説明したが、警部補はとりあえずは納得してくれたものの、まだ完全には信じていなさそうだ。
『──それで、屋根裏部屋に続く道にブルーブラッドの痕跡を発見したので少し見て来ようかと』
「馬鹿、犯人がいたらどうするつもりだ。
こういう時にロボット刑事を行かせないでどうする」
『私は平気ですよ』
警部補の制止を振り切り、イスに上って天井に手を伸ばすも、背伸びをしても天井に指が触れる程度しか届かず、結局はコナーを行かせることになってしまった。
誰が行っても何が起こるか分からないのは皆同じなのに申し訳ない。
警部補には笑われてしまった。
しばらく下で待っていると、何かが走るような音が聞こえ警部補と顔を見合わせた。
しまった。アンドロイド法に則れば、当然コナーも銃器を持っているはずがないのに。凶器を持った犯人が潜伏している可能性を視野に入れていなかった。私の銃を今だけでも貸すべきだったかもしれない。
「おいコナー!何か見つかったのか!」
少しの間をおいて、コナーから容疑者を発見したとの報告を受けた。
「……マジかよ…」
正直、まだ潜伏しているとは思っておらず、念の為程度で確認をしようとしていたのに…まさかまだ現場から離れていなかったとは。
これから署に戻り、容疑者の尋問をしなくてはならない。
まだまだ夜は長そうだ。