Chapter1
夢小説設定
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「ったく!クソッ!」
ファウラー警部に呼ばれて署長室に入って行ったアンダーソン警部補は、出てきた時には酷く機嫌が悪かった。
警部と警部補は警察学校時代からの同級生だったと伺っている。そんなに仲良さげな様子ではないから、きっと腐れ縁だとか、そういうことなんだろうとは思うけれど。
そんな警部とどんな話をしてきたのかは知らないが、大方予想はつく。きっとコナーのことだろう。
いつの間にか空いていた取り調べ室をコナーに案内し、戻って来た時には警部補は自席で腕を組んであからさまに不機嫌な様子を示していた。
困ったものだ。
警部補の不機嫌はなかなか治らない。それどころか、少し話しかけ方を間違えただけでさらにへそを曲げ、怒鳴り、最終的にその場を立ち去るのだ。
これがどうしてなかなか厄介なわけだが、そんな彼を窘めるのがパートナーである私の役割なわけだ。
さて、そんなわけで警部補に声をかけようとすると、その前にコナーが前へと躍り出、何をするかと思えばまさかの喧嘩をふっかけた。
胸倉を捕まれデスク横の壁へと打ちつけられたというのにコナーは顔色一つ変えもしない。
まさか明らか不機嫌なアンダーソン警部補に辞職を勧めるだなんて誰が想像できようか。彼はシリウムポンプに毛が生えているに違いない。
『コナー!ちょっと来なさい!』
怒る警部補を窘め午前中に纏めた捜査資料を読んでいてもらうことにし、私は誰もいない仮眠室へとコナーを引っ張って連れてきた。
人を怒るのはあまり好きではないけれど、さすがに今のは許容できない。
『あなた何故警部補にあんなことを言ったの?』
「非協力的な彼は捜査に向いていません。もっと優秀な人材をつけるべきです。それに、いくら輝かしい実績が過去にあったとしても、今の勤務態度では──」
『ストップ。ちょっと待ってコナー』
コナーにとっては変異体の捜査が最も優先すべきことで、その他のことは二の次かもしれないが…プログラムとしては正解だったとしても、状況は最悪だ。
『あなたはもっと人の気持ちを考えるべきだわ。それがいくら非効率的なことでも。
あなたはただの機械ではなく、思考することができるアンドロイドなんだから』
「いえ、私はただの機械ですが…」
『ただのプラスチックが思考する?会話する?捜査をするの?違うでしょう?
機械であることを言い訳にするのはやめなさい』
コナーは眉を下げ困惑を表現する。プログラムされたものだったとしても、本当に良くできているものだ。はたから見たら先輩に怒られ反省している後輩にしか見えないだろう。
『あなたが人とスムーズに会話ができるのも自然と表情が変わるのも、全てその必要性があるからってことじゃないの。
不要な機能は搭載されていないでしょう?今がまさにその使い所だったのよ』
実際わかってくれたのかどうかは私には知り得ないが、コナーは何かを考えるように押し黙り、そして小さく謝罪の言葉を述べた。謝るべきは私ではないけれど、とにかく今のところは受け取っておこう。
タイミングを見て警部補に謝るようにと伝えデスクへと戻った。
『コーヒーどうぞ』
アンダーソン警部補のデスクにコーヒーを置けば、彼は持っていた資料を置いてマグカップへ口をつけた。
警部補にしては珍しく、私が纏めた資料をしっかり読んでくれているようだ。
『変異体が直接人間に被害を与えたのは、どうやら数ヶ月前の事件が最初のようです。ほら、ニュースにもなっていたあの』
「ああ、屋上で子どもを人質にとったあれか」
8月頃だっただろうか。
警部補とパートナーになってすぐのことだったように思う。
ニュースでは詳しいことは言っていなかったけれど、そのとても人間らしい行動にひどく驚いた記憶がある。
話を聞けば、あの時にその変異体と交渉したのがここにいるコナーなんだとか。それもまた驚きだが…。
その変異体は、自分が捨てられるかもしれないと知って変異したのだそうだ。そんなことがきっかけで感情を得るだなんて…なんて悲しい生き物なんだろう。
人質の女の子の安全が確保された時点で、件の変異体はSWATによって射殺されたとニュースでは言っていた。…人質だった女の子の気持ちも分かるが、射殺されたアンドロイドのことを思うと少しつらい。やはり人が死ぬのは嫌だな。
自分で選んだ道だけれど、寿命ではない人の死にダイレクトに関わることになるこの仕事はやはり過酷だ。
『お疲れ様、コナー。
また明日もよろしくね』
「はい。今日はありがとうございました」
定時を迎えて帰宅した警部補を見送り、サイバーライフに帰社するというコナーとも別れ私は帰路についた。