Chapter1
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アンダーソン警部補は昼を過ぎても来なかった。
仕方がないので、昼食を買いに行くがてら警部補のお宅に伺うことにした。
この時間帯ならばまだジミーのバーも開いていないし、おそらく自宅にいらっしゃるのではないか。彼はいつも電話を携帯していないからいくらかけても繋がらないし、結局のところ彼に会いたければとにかく足を動かすしかないのだ。
捜査は足からとはよく言ったものね。
『アンダーソン警部補がいつも食べているものをお願い』
「また来たのか。あんたも大したもんだな」
『ええ、よく言われる』
ここチキンフィードは、よくアンダーソン警部補が食べに来ているハンバーガー屋だ。オーナーのゲイリーとは古い知り合いだとかで、いつも無料でハンバーガーを受け取っていた。もちろん私はちゃんとお金を支払うけれど。
彼の家に伺う時には、ここで彼がいつも食べているバーガーとジュースを調達してから行くようにしている。もはやルーティーンとも言えるだろう。
差し入れを持って行くのと行かないのとでは、ほんの少しだけ対応が違うような、そんな気がする。……いや、よく考えたら気のせいかも。
『さぁ乗って。警部補のお宅に向かうわよ』
ハンバーガーが出来上がるまでの間、律儀に車から降りてきていたコナーは車の横でコイン遊びをしていた。そんなに暇なら乗っていても良かったのに。見てるこっちは楽しいけれど。
『アンドロイドも暇を持て余すことってあるのね、知らなかったわ』
「暇だったわけではありません。あれはキャリブレーションの役割があるんですよ」
『キャリブレーション?』
「言わばボディの調整ですね」
よくは分からないけれど、とにかく必要なことらしい。
言ってることは機械みたいなのに、やってることはまるで手持ち無沙汰の人間だ。
警部補の家の前には彼の愛車が止まっていた。入れ違いも困ると思っていたけど、どうやらご在宅中のようで少し安心した。
『アンダーソン警部補!ミコ・クロフォードです!』
「……いらっしゃらないのでは?」
呼び鈴を鳴らすが、何度鳴らしても訪れるのは静寂のみ。
アンダーソン警部補とパートナーになってすぐの頃は、諦めるかドア前でずっと待機をしていたものだ。
でも彼とバディになって3ヶ月が過ぎた今、私はもう最適解を知っている。
『裏回るわよ』
小さなBBQコンロの置いてある裏庭へと回り窓からリビングを覗き込めば、ラフな姿でテーブルに突っ伏したまま眠る警部補の姿を発見した。
初めてあの姿を見かけた時は、本当にどきっとしたものだ。だって死んでいるようにしか見えないのだから。
眠るアンダーソン警部補の姿を確認し、今度は警部補の寝室の前へと移動する。
大丈夫、やはり気付かれていないようだ。背後で私を見守るコナーへと振り返り、人差し指を口に当てて音を出さないようにとジェスチャーのみで注意を促せば、彼は黙ったままこくりと頷いた。
寝室の窓へと手を当てそっと横にスライドさせれば、窓は難無く開き簡単に侵入することができた。ブラインドをかき分けながらそっと室内に侵入する私にコナーが続く。
前に家に上げて貰った時に、警部補には秘密でこの寝室の窓の鍵だけ開けておいたのだ。毎回毎回外で待っているのも馬鹿らしいし。
「これは不法侵入ではないでしょうか」
『そうとも言うわね』
声をひそめるコナーを連れて廊下に出る。
すると音を聞いたのか匂いで駆けつけたのかはわからないが、警部補の愛犬スモウが私目掛けて飛びかかってきた。コナーは少し驚き後ずさっていたけれど、スモウは唸ったり吠えたりなど一切せずに、私の体に前足をかけてただただ尻尾を左右に振っていた。ちゃんと私のことを覚えてくれているようだ。
『ふふ、いい子ね』
スモウの頭を軽く撫で、警部補のいるリビングへと向かう。
以前伺った時から2週間ほどだろうか。ある程度は以前片付けたままだが、おそらくスモウが自分で破いたのだろう、ドッグフードの袋が無造作に破られ中身が飛び散っていた。
警部補もだいぶ参っているようだ。散らかったテーブルの上にはウイスキーと伏せられた息子さんの写真、そしてリボルバーが置かれている。
『警部補。アンダーソン警部補。こんなところで寝ていては風邪をひきますよ』
「んん…」
『ほら、起きてください。せっかく可愛い後輩がわざわざお迎えに来たんですから』
「ったく………。…なんだってんだ……くそっ…」
背中を軽く叩いて起こせば、警部補はゆっくり起き上がったのちに私とコナーの顔を見比べ、そして怪訝そうに眉をしかめた。
仕事を奪われたとかってわけでもないのに、何故か彼はひどくアンドロイドを嫌っている。リード刑事のような人もいるけど、アンダーソン警部補は理由もなく人を嫌うような人ではない。
もしかしたら、本人から聞いたわけではないから憶測でしかないけれど、息子さんの事件とアンドロイドは何かしらの関連があるのかもしれない。
そんな彼にアンドロイドをパートナーとするべくけしかけるだなんて、ファウラー警部もなかなか人が悪い。
「なんで機械が俺の家をうろついてる?」
『警部補がなかなか出勤なさらないものですから』
更には電話も持ち歩いていないものだから、ファウラー警部も説明しようにもできず、結局私にのみ伝えられることとなったのだ。
『コナー、こちらはハンク・アンダーソン警部補よ』
「私はコナー。変異体捜査の補佐をするべくサイバーライフから派遣されました」
「プラスチック野郎の補佐なんざいらねぇよ。とっとと失せな」
『でも警部補、彼はきっと捜査の時に力になってくれるはずですよ』
「だったらお前と2人でやりゃいいだろ」
『それができたら苦労しませんよ』
警部補は私をなんだと思っているのか。巡査なんて警察組織の階級の中でも1番の下っ端なのに。そんな私が捜査に赴いたところで現場スタッフに軽くあしらわれて終わりだ。むしろ追い出される可能性さえある。
『最悪警部補はいてくれるだけで、なんなら私達を現場に入れてくれたらあとはもう車で寝てていいですから』
「ハッ…お前上司の扱いが雑になってきたじゃねぇか」
『それほどでもありませんよ』
肩を竦めて見せれば、彼は少しだけ口角を上げた。
買ってきたハンバーガーとジュースをアンダーソン警部補の前に広げると、彼は言葉を返しながらももそもそと食べ出した。用意した私が言うのもおかしな話だけれど、よく寝起き一発目であんなカロリー爆弾を食べられるものだ。
無言でハンバーガーにかぶりつく警部補と、その様子を眺めるコナーをよそに散らかった床を掃除する。ご飯を食べている人の横で箒をはくのもどうかとは思うが、最近では警部補も何も言わなくなった。もう諦めたのだろう、いくら言っても私がやめないから。
でもそれも仕方のないことだ。休憩が終わる13:30前には署に戻らなくてはいけないのだから。もちろん警部補を連れて。
彼が食事を終えるのを待ってから掃除なんてしてたら、とてもじゃないが時間内に帰れない。
本当はスモウともいっぱい遊びたいのに、そんな時間はあるはずもない。
「そういやお前、また不法侵入しやがったな。
毎度毎度当たり前のように入ってくるが、それが警察官のやることか?」
『あら、では次は警察官らしくドアを蹴破って入りますね』
シャワーを浴び、服を着替えて戻ってきた警部補に軽口を叩く。
最初不法侵入した時にはひどく驚かれ怒られたものだ。何なら今でもお節介だ!と怒られてはいるけれど、今のところは本当に拒否されている感じではないのでまだやめる気はない。お節介も不法侵入も。
でもそろそろ…鍵を閉められた時のことも考えなくては…。
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