Chapter1
夢小説設定
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『既に挨拶したかもしれないけれど、まずは署長室へ行きましょう』
「わかりました」
警部が1人になるのを見計らい、ガラス張りの部屋へ続く階段を上がる。いつも思うのだけど、プライバシーの侵害もいいところよね、この部屋。
『ファウラー警部、お忙しいところ失礼します』
「おお、ミコ。早速アンドロイドと仲良くやってるみたいだな」
『はい、お陰様で。
ところで今お時間はよろしいですか?』
警部はいつも忙しい。デトロイト市警警察署長という立場上仕方のないことだが、毎日毎日電話、部下への指示出し、そして書類処理に追われている。
私の問いに、警部は1度ちらりとデスクの書きかけの書類を見やったのち、苦笑いで肩をすくめた。
やはり今日も忙しいようだ。
『アンダーソン警部補が出勤する前に彼に署内を案内したいと思っています。つきましては証拠保管室、取り調べ室などにも開いていたら入りますのでよろしくお願いいたします』
「あぁ、わかった」
『それだけお伝えしたかっただけなので。
では失礼します』
空いている時でないと入れないため先に取り調べ室を確認するも、この時間にしては珍しく使用中であったため、他を先に回ることにした。
『あら、クリス?』
「やぁミコ。元気か?
アンダーソン警部補は今日もまだ来てないみたいだな」
『えぇ、この調子だと家までお迎えに上がることになりそうだわ』
「アンダーソン警部補のことは尊敬してるけど、俺にはやっぱ無理だったな。変わってもらって正解だったよ」
なんとも言えない彼の言葉にとりあえず笑って返した。
クリスは私の同期だ。4月からここで共に働いている友人の1人でもある。5歳年上ではあるけれど、やはり同じ時期の入職なだけあって、打ち解けるのも早かった。
警部補と関わることは、大変でないと言えば嘘になるけれど、それでも相方をクリスと変わってもらったことは、私にとってもこの上ない幸運だった。
「ところで、アンドロイドなんて連れてどうしたんだ?見たことないタイプのモデルだけど」
『彼はコナー。今日から私とアンダーソン警部補の補佐に入ってくれることになったのよ。
コナー?彼はクリス・ミラー』
「サイバーライフから派遣されました。よろしくお願いします、ミラー巡査」
クリスと別れ、続けて部署内にいる他の先輩方へと順にコナーを紹介して回る。
私もかつてはこうして回ったものだ。
入職して間もない頃はやはり私も心細かったから、そんな思いを後輩にはさせたくない。…コナーは気にしなさそうだが。
放っておいたらきっとコナーはただ署内を探索して終わりだっただろうけれど、挨拶回りはなんだかんだ相手からの印象アップに繋がるのだから、ぜひ皆と顔を合わせてほしかった。
何年か前からうちでも警備用アンドロイドを配備しているそうだが、やはり皆からのアンドロイドへの印象は良くない。見た目は同じ人なのに、あからさまに見下し軽率に暴力を奮う人もいる。程度は違えど署内でもそれは同じだ。
そんな中をコナー1人で行かせたならば、きっと嫌がらせをされるに決まっている。同行はそれの阻止も兼ねてだった。
『そういえば、階級は言わなかったのによく知ってるわね』
「フェイススキャンシステムが搭載されているんです。スキャンしたデータを即座にデータベースと照合することができます」
『へぇ。便利な機能ね。捜査にとても役立ちそう』
挨拶回りはそれなりに順調だった。
反応は三者三様だったけれど、思っていたよりは悪くなさそうだ。
続いて証拠保管室へ向かおうとすると、後ろから皮肉混じりに私達を呼び止める声が聞こえた。
「おいおい、俺には挨拶もなしか?」
『…………。
お疲れ様ですリード刑事。すみません、気が付きませんでした』
「この目障りなアンドロイドはなんだ?ハッ、新しい男だとは言わないよな?」
『…………。彼の名はコナーです。そういった発言は彼にも私にも失礼ですよ』
ギャビン・リード。
尊敬できる先輩方が多くいる中、申し訳ないが1秒たりともお近付きになりたくないランキングNo.1の先輩だ。
無意識に後ずさってしまった足を引き戻し、すかさずコナーの前へと進み出た。
「おお怖い。
なら女の陰に隠れるヘタレな新人君に、先輩である俺が1つアドバイスをしてやろう。
調子にだけは乗るなよ。リコールセンターに送られたくなきゃな」
『先輩!!
もう行きましょうコナー!』
「お気遣いどうも。シリウムポンプに銘じておきましょう」
やはりリード刑事は変わっていない。あの頃も今も、嫌みで偏屈で、セクハラの酷さも。何一つ変わらない。
聞くに耐えない牽制の言葉に、すかさずコナーの手を取りその場を後にした。
『不快な思いさせちゃったわ。ごめんなさいね』
「いえ。私は機械ですから何も感じません」
『だとしても。…本当にごめんなさい』
先輩相手に同僚であることが恥ずかしいだなんて思うこと、きっとこれが人生で最初で最後だわ。
証拠保管室の鍵を解錠し中を見せる。一見何も無いただのスペースだが、モニターで指紋を称号しパスワードを打ち込むと証拠品が現れる仕組みになっている。
「彼と何かあったのですか?」
『いいえ。ただ、元々は彼が私のパートナーだったってだけよ』
既に見られたのでもう遅いが、身内の恥をこれ以上大っぴらにするのも気が引ける。適当に濁して話を逸らすべく部屋の説明をした。
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