Chapter5
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新たに目撃情報があった変異体の調査をすべく、コナーに言われた住所へと車を走らせれば、閑散としたやや古びたアパートへと到着した。
エレベーターに乗り込み階を上がる間、私を見つめる警部補の視線が痛くてつい視線をさ迷わせてしまう。
アンダーソン警部補はなんだかんだ言って優しいから、さっきのこともあり私のことを心配してくれているのだろう。
かと言って、何も聞いてこないのだから本当に気遣いのできる人だ。…単に興味がないだけなのかもしれないが。
『…コナー?降りないの?』
「すみません。サイバーライフに報告していました」
『へぇ、便利…』
「おいコナー、男の情報は?」
「あまり」
近隣の住民から、空き家だというのに物音がするとの通報があったらしい。そしてその問題の部屋へ、こめかみのLEDリングを隠した男が頻繁に出入りしているとの目撃情報があったため、私達が今回ここへと来ることになったわけだ。
物音如きでいちいち捜査なんてしていられないと警部補は言うけれど、デトロイト市民の安全を守るために我々警察がいるのだから仕方がない。
『すみません!どなたかいらっしゃいますか!』
ノックと共に声をかけるも返事はなく、ドアが開く様子もない。
振り返ると警部補とコナーが顔を見合わせていた。
「開けろ!!デトロイト市警だ!!!」
もう一度声をかけようとドアへ向き直ると、背後からコナーの怒声が飛んできたため驚きに肩を震わせてしまった。
瞬間部屋の中から大きな物音が聞こえ、警部補と共に銃を手に構えた。
「俺が先に行く」
ドアを蹴破り警戒しながらルートを確保していくアンダーソン警部補に続いて中へと侵入する。
入口から真っ直ぐ廊下を突き当たった先のドアを開けると、大量の何かが羽ばたいてきて、そのまま私達が今入ってきたばかりのドアへと勢いよく飛んでいった。
部屋の中へと侵入すれば、今飛んで行った物たちの正体が判明した。大量の鳩だ。部屋の中は糞や餌に塗れて匂いが酷く、とてもじゃないが人が住める状態ではない。
「鳩は嫌いだ」
『奇遇ですね、私も今嫌いになりました』
やや薄暗い部屋ではあるが、窓から差し込む日の光で何とか明かりには困らない。
部屋の壁にはそこかしこに迷路のような図が描かれている。そして浴室には、コナー曰く2471箇所に及んでrA9と書かれていた。
『あら…?』
壁に貼られたUFDのポスターが不自然にめくれている。手袋をつけ、めくれた角を掴んで恐る恐る剥がせば、穴のあいた壁に何かの手記が保管されているのを発見した。
「何だそりゃ、迷路か」
中をぱらぱらとめくって確認していると、いつの間にか背後から警部補がノートを覗き込んでいた。壁に描かれたものとよく似た迷路がこのノートにも大量に描かれている。
他にもR.Tと刺繍されたジャケットや免許証が発見されたが、依然として私達の他に人影は見当たらない。
『コナー?何を見ているの?』
「この鳥籠、先程までここに吊るされていた物のようです。私達の侵入に気付き、逃走する際にでも落として行ったのでしょう」
『そんなことまで分かるのね…』
「窓からも脱出不可能ですし、変異体はまだこの辺りにいるのかも」
立ち上がったコナーは、確信があるのかないのかは分からないけれど、天井に空いた大きな穴を見上げじっと見つめた。
「ッ!」
『っ、コナー!?』
コナーから目を離した直後のことだった。
大きな物音と共にコナーの呻き声が聞こえて慌てて振り返ると、室内に残っていた鳩がまた飛び立つ中、帽子を深く被った男が勢いよく逃走するのが目に入った。
「何ぼけっとしてる!奴を追え!!」
警部補の声を聞くや否や逃げた男を追って走り出した。後ろから「馬鹿!お前じゃない!」と聞こえたが、倒れたコナーが起き上がる時間を考慮すると、やはり私の方が動き出しが早い。
制止の声を振り切って部屋を出た。
『ッもう!』
勢いよく部屋を出たため壁に激突した。
それでも尚も男を追えば、彼は棚を倒しながら屋外へと逃げる。
咄嗟のことではあったが、飛び乗ることで棚は回避できた。
自慢ではないけれど、警察学校時代体力育成の授業では成績が良かったんだ。
とは言え、棚を倒されたり壁を乗り越えられたりなどし、そんな中自分でも通れる道を探す手間もあったりで、なかなか男との距離は縮まらなかった。
『あっ…!くそ…!』
距離感をキープして追ってはいたが、ある場所に差し掛かったところで足が止まってしまった。さすがにこの先は行けない。
男が滑り降りて行った斜面の先には何の建物も無く、それでも強行した男は自暴自棄になったのだと思った。
すると、男は斜面から落ちる手前で丁度通りがかった電車の屋根へと身軽にも飛び移ったのだ。
追いたいけれども…落ちたら間違いなく命はない。
「あなたは別の道を探して!」
『えっ、コ、コナー!?』
逃げる男の背中を睨みつけることしか出来ないでいると、凄い勢いで横を何かが通り過ぎていき、男のように斜面を滑り降りて行ったかと思えば、同じように電車の屋根へと飛び移っていった。
あれは間違いない。ジャパニーズニンジャだ。サイバーライフは極秘裏にニンジャを作り出しているのかも知れない。
そんな場合ではないと言うのに少しドキドキしてしまった。
遠ざかるコナーと男の背にハッと意識を戻される。追い抜かれざまにかけられたコナーの言葉に従うため、向こう側に渡るための近道を探した。
『警部補!彼等はどちらへ?!』
「ルート的にUFDのプラントだろうな。先回りするから着いてこい」
警部補と合流し、警察という職権を駆使しながら彼等が向かったであろう先へと向かう。
「おい動くな!!」
階段を駆け上がっている際、先に屋上へと到達した警部補の怒声が聞こえた。どうやら丁度逃げた男と出くわしたようだ。
「うわあっ!!」
『警部補!!』
屋上に出た瞬間、日の光で一瞬目が眩んでしまった。その一瞬の間に聞こえたのは間違いなくアンダーソン警部補の声だ。
視界がクリアになったところで警部補の姿を探すと、彼は屋上の端に掴まり落ちそうになっている。慌てて駆け寄ると、丁度そこへトウモロコシ畑の中から颯爽とコナーが現れ、一瞬男を目で追った後にこちらへと合流し、一緒に警部補を引き上げてくれた。
「クソ…ああ、チクショー!もう少しで…クソ!」
「私のせいです。もっと急いでいれば…」
悔しそうに悪態をつく警部補にコナーは眉を下げた。
それを言うならば、私が1人で警部補を引き上げられなかったことが、「ここは任せて男を追え」と言えなかったことが大きな敗因となったのでは。
「俺が足引っ張ったんだよ」
『でも顔は分かりました。すぐに見つかりますよ』
とは言え、ここで誰が悪かったかを議論していても過ぎたことは仕方がない。男の顔は私達も、そして何よりコナーも見ているはずだから、すぐにアンドロイドの型を調べることも可能なはずだ。
「おい、お前ら」
屋上を後にしようとしていた警部補が振り返る。
お前らと言いつつ、主にコナーを見ながら何かを言おうと逡巡するも、「なんでもない」と言い向こうを向いてしまった。
ああ、なるほど。
やはり警部補は素直ではない。厳つい見た目の割に可愛いところがあるものだ。
『ふふ、どういたしまして。ねぇ?コナー』
「ええ。当然のことをしたまでですよ」
当然のこと、ね。
正直、コナーは任務遂行のためにも手伝ってくれないのではないかと一瞬考えてしまった。しかし、私の浅はかな考えとは裏腹に、人命の方を優先して動いてくれたので本当に良かったと思う。そしてそれを、嘘か本当かは分からないけれど "当然のこと" と言ってくれるものだから、午前中とは別人なのではないかなんて疑いつつも、倫理観を学習してくれたことが素直に嬉しい。
警部補は鼻で笑った後、そのまま振り返らずにひらひらと手だけ振り返してくれ、思わずコナーと顔を見合わせ笑ってしまった。
アンドロイドを毛嫌いしている警部補だけれど、何だかんだこれからもやっていけるような、そんな気がした。
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