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それはそれは見事な眺めだった。それこそスクリーンでしか見たことのないような。フレームのない、視界いっぱいの、見渡す限りの、花畑。思わず足を止めたところから、二人は先にその中に足を踏み入れた。
「すご…現実にもこんなのあるんだ」
「あ、それ僕も思った」
「ゲームでもこういうの凄いって思いますけど、実際にこうして自分が立ってみるのは当たり前だけど感動が違いますね」
「しゅーくんはゲームかぁ」
「あれ、百々人先輩はどうなんです?」
「え?うーん…僕は、絵とかかなあ。えーしんくんは?」
数歩ほど先に進み入ったところから百々人が振り返り問うた。
「そうだな。俺は、映画のようだと思っていたところだ」
「ふふ、みんなバラバラだね」
「でも似たようなもんでしょ」
じゃりじゃりと靴を鳴らしながら二人が笑う。
よく晴れた春の日の、一面の花畑、日没二時間前。手には一台の小型のカメラが前を行く二人を記録している。指示は二つ。適切に当たり前で、自然であること。そしてそれをカメラに納めること。渡されたカメラは三人で一つで、離れたところからカメラマンが別で全体的に撮っている。MV用の撮影なのでここでの会話は全て上書きされるがもし使えるようなら他の媒体で使おうというのは秀の提案だ。とは言ったものの。
「何を話せばいいのか分からなくなりますね、これ」
「秀、自然体だ」
難しく考え込みかけてる秀に声を掛けると口角を引き攣らせた。
「あ、えーしんくんずるいなぁ。貸して」
百々人の手がひらりと伸びてきてカメラが向きを変える。レンズが真正面から向けられた。
「今の顔もう一回やって」
「それは自然なものでは無くなるだろう」
「そうかなぁ?」
カメラを挟んだ向かい側で二人が期待するようにモニターからこちらへ目を向ける。そのようにされては応えるしかない。二人に向けて表情を変えると二人してうわあと声をあげた。
「今のズルすぎますって」
「ほんとにずるいよ」
「何がだ?何も出し抜くようなことはしてないが…」
「絵になりすぎてるってことですよ」
合点がいかない。こちらは本当に何もしていないのだ。
「それを言うならこの花畑のおかげだろう」
「そうなんですけど」
「僕、えーしんくんほど似合う自信ないなあ」
「そんなことはない。俺が撮ろう」
カメラに手を伸ばすも躱されて、百々人は背後に回った。
「だーめ。今は僕の番。えーしんくんはさっき撮ってくれてたでしょ?ほら、先行って」
促すように背中を押されて順路を歩く。先頭の秀が百々人から見えるよう少し傍に寄って進む。振り返ればこちらよりもかなり遅い歩調で百々人がカメラ越しに手を振る。そこからまた数歩進んでから再度振り向けば先程から変わらない位置でしゃがんだりカメラをぐるりと回したりしていたので流石に足を止める。少し先の所で秀も振り返って百々人との距離に驚いた様子で来た道を戻る。
「ちょっと!百々人先輩!」
「あはは、ごめんね?でもいいの撮れたと思うよ」
「でしょうね、もう、貸してください」
先に百々人の元に着いた秀が半ばひったくるようにカメラを手に取る。
「さっきの、」
「え?」
秀はカメラを調整しながらモニターの中の百々人に話しかけた。
「似合うか自信ないって言ってたじゃないですか」
「ああ、あれね。…どう、かな……?」
不安そうに百々人の手が頬や首に添えられては泳ぐ。はにかむ様子を真剣にモニターで確認しながら秀が答える。
「似合うに決まってるじゃないですか。だって、花園百々人、ですよ?」
真面目に言い放たれたことにモニター内で百々人が要領を得ないという顔をしている。
「成程。今のは百々人の持ち前の魅力と花園の苗字を掛けているのだな」
「え?…あっっ!」
気付いような声を上げたのは二人同時だった。百々人が肩を震わせ笑い出す。
「…違ったか?」
「あの、そういうつもりで言った訳じゃなかったんですけど、ああもう、いいですそういう意味で」
「ねえ、えーしんくん、今のしゅーくん撮ってあげて」
「同意だな」
「え、ちょっと鋭心先輩!」
しがみ付こうと踏ん張る秀からやや強引にカメラを奪い、百々人からもモニターが見えるように移動する。
「あは、しゅーくん照れてる」
「良い表現だと思ったのだが」
「あの揶揄うのやめてもらえませんか?めっちゃ恥ず…」
「流石秀だなと」
「うん、さすがしゅーくん」
「だからもういいですってば…!」
なんで俺だけ、とモニターの中の秀が拗ねる。ひとしきり笑った百々人がモニターから目を逸らした。
「しゅーくん、ありがとう」
百々人の一言で面食らったように表情が変わりゆく様子をカメラに収める。
「…どういたしまして。……今の俺じゃなくて百々人先輩を撮るべきじゃなかったですか?」
「そんなことない。とても良いのが撮れた」
「…まあ、それならいいですけど。だとしても今度は俺の番です。俺、まだ二人のこと撮ってません」
差し出された手にカメラを渡すと秀は後ろを向いたまま順路を歩こうとした。
「危ないぞ」
「うん、ちゃんと前見た方が…」
「いや、ダメです。だって二人ともずっと後ろから撮ってたじゃないですか。俺、嫌ですよ二人の顔が見えないの。ちゃんと前から撮らなきゃ」
はた、と百々人と顔を合わせる。そういえばそうであったと。そして、今まで気付かなかったのは、二人の背を見て歩くことになんの不自然を感じて無かったからだと。
「?どうかしました?」
「いや、言われるまで気付かなかったなと…」
「ねえ、これ並んで撮れないかな」
ひらけたような声の百々人の提案は同時に思ったことと同じだった。秀は既にカメラを下ろしていた。
「戻りませんか?多分器具があるはずです」
「急ごう。暗くなる前に」
言い終わるや否や揃って駆け出した。
三人で並んで振り出しへ逆走するのも悪くない心地がした。
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