TOAチーグルになったりならなかったりする夢
短編
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バチカルで捕らえられていたルーク達を救出し、全員無事にベルケンドで落ち合うことが出来た。そしてその日はジェイドがイオンから預かった禁書を読み込むため、明朝までは自由行動。
「さてどうするか」と声に出しながらも、ユフにはやることが決まっていた。普段より軽装で向かった先は、女性陣が宿泊している大部屋。
二、三度ノックして出てきたのは、ティアだった。
「あら、ユフ。どうしたの?」
「ツキいるかな」
問えばティアは小さく笑って「暑い暑いって言いながら、お風呂に駆け込んだわ」と言う。
バチカル脱出の最中、集合商店前でキムラスカ軍兵士にロッドを投げつけた、とんでもない奴がいた。そのとんでもない奴が、ネコの着ぐるみだった。更に詳しく言えば、そのネコの着ぐるみの中身はツキだった。
理由は本人が語りたがらないため謎のままだが、何故だかツキはその時、神託の盾騎士団の制服姿では無かったのだ。
「風呂って……。あいつ服はどうするつもりだよ。法衣なくして、ネコしか無いくせに」
呆れの入った口調で言うと、ティアが何かに気が付く。一度部屋のバスルームの方へ視線を向けて「そう言えば、」と睫毛を伏せた。
「ツキはずっとあの着ぐるみのままなのかしら?」
「だとしたら、大佐が怒るだろうな」
「そ、そうよね……」
どうして少し残念そうなのだろう。素直なティアの反応に、ユフは頭をかいた。
「だったらツキが風呂の間に、買いに行った方が良いな。それに――」
部屋の中をのぞき見ると、ベッドに腰を下ろしてじっと俯いているナタリアがいた。その様子に、ティアは一瞬でユフがどうするつもりなのか感じ取る。
「ユフって、案外マメなのね。見直したわ」
「そのギャップが良いだろう?」
にやりと笑ったユフは廊下にいながらも、はばからずに「ナタリアー!」と叫んだ。その声はバスルームにいたツキにも届いており、彼女はぎょっとして石けんを落としたとか。
◇
落ち込んでいるナタリアの気晴らしに少しでもなるように、ユフはナタリアを連れ出して街へやって来た。
アドバイザーとしてティアにも付いて来てもらい、ついでにロビーで偶然会ったルークとミュウにも有無を言わさず付き合わせた。
「何で俺まで?女の服なんて分かんねーよ!」
ごもっともな事を言うルークに、ナタリアは目を丸めた。
「まあルーク!殿方がそのような態度では、魅力的にうつりませんわよ。もし意中の女性に贈り物をする際、貴方はどうなさいますの!」
「うっ……」
「ティア、行きましょう」
見事一撃で言いくるめたナタリアは、妙に生き生きとしていた。考えてみれば、自由行動さえ久しい事。
ナタリアはセントビナーの救援へ向かい、大地を降下させたり、戦場を突っ切ってみたり。挙げ句、王女を騙る大罪人として命を狙われたのだ。
時々遠くを見て溜息をつくものの、彼女は確かに今の時間を楽しもうとしている。
ティアとともにショッピングを楽しんでいる姿を見て、ユフはいつから入っていたのか分からない肩の力を、ようやく抜く事ができた。
そしてその後が大変だった。
ミュウとルークを除いた3名が選んだ服は、それぞれタイプが違っていた。
ナタリアが選んだものは、小花柄のフレアドレスにアンダースカートをレイヤードした、清楚なロマンチックスタイル。
ティアはコンパクトなジャケットとミニパンツのすっきりとしたミニマルスタイルだ。
そして最後に、ぐいっと腕を前に伸ばしてユフが見せつけてきたのは、ゆったりと体を包むようなオーバーサイズのニットコートに、ゆとり十分のサルエルパンツ。露出部分の無い鉄壁のガードさに、雪国ケテルブルクでは重宝しそうなコーディネートとなっている。
「ちょっとユフ!あなたふざけているの!?」
「そうですわ!いくら何でも、それでは暑すぎます!」
女性陣から大ブーイングを受けたユフは「えぇー!?」と反応の悪さに驚いた。
「じゃあ逆に言わせてもらうが、何だその露出ぶり!ツキはそう言うタイプの子じゃありませんから!嫁入り前だぞ!」
とユフは言うが、ルークはしかめっ面でティアとナタリアの選んだ服を見る。
露出していると言っても、それは足元だけだ。タイツなどを合わせておけば、問題は無いはず。
機能性を重視したティアと、ツキのイメージタイプを合わせたナタリアと、露出皆無さに命を賭けたユフ。
三人の意見がまとまるツキの服は、果たして今日中に見つかるのだろうか。「長くなりそうだ」と、ルークはひっそりとミュウを連れて店を出て行った。
ルークが宿に戻ると、同じタイミングでツキとジェイドが1階ロビーに降りてきた。 二人でどこかへ出かけるのだろうか。それにしては、ツキの表情が暗い気もする。
「おかえり。ルークたちも出かけてたの?」
ルークの心配をよそに、ツキの声色は明るかった。
さっきの表情は気のせいだったのかと思いこんで「ああ」と答える。そして足元にいたミュウが「みゅみゅ?」と鳴いた。
「ツキさん、その服どうしたんですの?」
「あっ。これ?」
ミュウの問いかけに、ツキはにこりと笑う。彼女が着用している服は、見慣れた神託の盾騎士団のものだった。アニスでもティアでも、勿論アッシュのでも無い、ツキの法衣。
すると今度は、アッシュが階段を降りて現れた。ジェイドが小さく「噂をすれば何とやらですね」と言った。
アッシュは会話の流れが分からず「どう言うことだ」と言う意味合いを込めて、ちらりとツキを見た。
「漆黒の翼のウルシーさんが、私の荷物をアッシュに預けてたの。おかげで着ぐるみ猛暑地獄から卒業!」
「地獄?着替えたかったのか?」
驚いたアッシュが問う。ツキは力強く頷いて「だって暑かったもん」と疲れたように答えた。思い出すだけでも、汗がじっとり吹き出すほどだったようだ。
「あのタヌキ……気に入ってたわけじゃねえのか」
「タヌキ?」
アッシュの呟き全てが聞き取れなかったツキは、目をぱちくりと動かす。ジェイドにはしっかり聞こえたようで、彼は顔を背けて小さく笑った。
頑なに着ぐるみを脱ごうとしなかったツキは、あの姿が気に入っている。そうアッシュは思いこんでいたようだ。だから今まで返さずに、あえて預かっていたのだろう。
ちなみに、タヌキではなくネコが正しい。
「ツキ、そろそろ」
ロビーの時計の針が、随分進んでいる。ジェイドが促すと、ツキははっとして時計を見た。
「どどどどうしましょう!まだみてもらえますかね」
「分かりません。とにかく急ぎましょう」
ツキとジェイドは、向かう先を二人に告げずに慌てて宿から出て行ってしまう。
僅差のタイミングで、今度はユフとナタリアとティアがにぎやかに戻ってきた。ユフは両手に紙袋をいくつも持っている。
荷物の多さに「まさか……」とルークとミュウは思った。
「おおっ、アッシュも一緒か!これから大部屋でツキのファッションショーをするぞ!」
「ツキ?ツキなら今さっき――」
「待てアッシュ!」
言いかけたアッシュの腕を、ルークが強く引っ張る。ぐらりと体が傾き、アッシュはバランスを崩しかけた。
「今それを言ったら、俺達がツキを止めなかった事をナタリア達に責められる!」
「しーっ!ですの!」
「はあ?」
ルークはアッシュから手を離し、バタバタと階段を下りて荷物の半分を受け取った。いやぁー、楽しみだなあ!と大げさに笑うさまは、ご機嫌取りの太鼓叩き。そうでもしなければ、後が怖いのだ。
元はと言えば、このタイミングで外出が出来るように服を返してしまったアッシュにも責任があると言えば、ある。
面倒事に巻き込まれてしまった溜息をつきながら、アッシュはユフの持つもう半分の荷物をぶっきらぼうに受け取ったのだった。
テトラドガール end.
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