TOAチーグルになったりならなかったりする夢
小さな世界(外殻大地編)
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不信感ばかりのダアトで、アッシュにとってツキの存在は、幼い頃から絶対的な安心感を与えてくれていた。諦めていた世界に意味を感じる事が出来たのも、彼女のおかげ。それなのに――
◆4:約束の日
そんなに迷惑な存在だった?
普段決して涙を見せる事の無いあのツキが、今にも泣き出しそうな表情で呟いた言葉が、アッシュはどうにも頭から離れなかった。
迷惑だなんて、そんな馬鹿な話あるわけがない。もし彼女の事を迷惑だと言う者がいるのならば、片っ端からぶっ潰してやりたいくらいだ。
「バカじゃないの?いなくなるのも当然だと思うけど」
「うるせぇ!お前も心配ならツキを探せ!」
アッシュが部屋に戻れば、ツキの姿は無かった。
城砦にもたれかかっているシンクを一睨し、続けて部下達に「お前らも探せ!」と凄みを利かせて怒鳴りつける。彼らはびくりと体を跳ね上げて、一目散に捜索を開始した。
セントビナーの街が狭くて良かったと、アッシュはつくづく思った。いくらツキがタフだからと言っても、病み上がりの体だ。早く見付けなければならない。失踪する前に話していた内容が内容なだけに、心配なのだ。変な気を起こさなければ良いのだが。
唯一の心当たりであるソイルの木へ向かおうとしたアッシュを、シンクが引き留めてきた。
「さっきの話に戻すけどさ」
「何だよ」
アッシュが振り返ると、シンクは腕を組み直す。その一瞬でアッシュは、彼にツキ#のバチカル行きを話してしまった事を後悔した。
「何で勝手に行かせるわけ?しかもわざわざ、あんたが嫌いなあの兄の所に」
「別に何だって良いだろうが」
言い捨てたアッシュは視線を彷徨わせる。抑揚のない声は、驚くほど棘を持たなかった。
「あの出来損ないが原因だよね」
それに比べてシンクの言葉は、鋭く自分に突き刺さった。言い当てられたアッシュの面食らった顔を、彼は仮面の内側で笑う。シンクのこう言う所が、たまらなく気に入らない。
「出来損ないが居るこの件に、ツキをもう関わらせたくない。それなら兄の所においている方が、まだマシって所?」
まるでシンクは、アッシュの心の中にある回答を音読しているようだった。そうして少し前と同じように「バカじゃないの?」と溜息混じりに言った。
確かにバカかもしれないし、とんだエゴだとアッシュは自嘲する。しかし許せないのだ。出来損ないがツキを傷つけた事も、その出来損ないが自分のレプリカだと言う事実も。
彼女を遠ざけるのは自分への罰でもある。
タルタロスで、もう少しあの事態に早く気づいていれば――
「とにかく今はツキの捜索だ。もし導師らと鉢合わせされたら分が悪い」
「ああ、死霊使いか」
死霊使いと名高い、マルクト皇帝の懐刀ジェイド・カーティス。ラルゴがアンチフォンスロットを使って弱体化させたと言うのに、彼はラルゴに重傷を負わせた。そのジェイドは、ツキと顔見知り。仲間にと勧誘する確率も高い。もしくは容赦なく、命を取るかのどちらかだ。
「仕方ないから探してあげるよ。僕もツキがあっちに行くと、都合が悪いからね」
シンクはようやく城砦から背中を離した。
「都合が悪い?」
普段からツキを邪険にしているくせに、何の都合が悪いというのだろうか。
「こっちの話。ツキも僕を敵に回すのは都合悪いと思うし」
だからすぐに見つかるよと、シンクはまた一つアッシュに疑問を根付かせた。
◇
街中をうろつく神託の盾兵士を警戒しながら、ツキとジェイドは未だに路地裏で身を潜め兵士が立ち去るチャンスを伺っていた。
ここからほんの僅かな距離にあるマルクト軍基地がルーク達との合流場所。だがお日様の光を堂々と浴びて基地へと向かうわけにはいかず、かれこれ数分経っている。
「あの、ときにジェイドさん。一つ相談があるんですけど」
「何ですか?」
ツキは出来るだけ声のボリュームを落として、ジェイドに話しかける。
「バチカルへの同行は構いませんけど、港で合流は駄目ですか?カイツールまではアッシュと一緒に行く事になっているので」
それだけ言って、再びツキは寂しい気持ちになった。
――そんな事言わないで。理由を教えて。バチカルへ行きたくない。
ツキは様々な言葉を、あの時アッシュの前で飲み込んだ。口にすればきっと、自分は幼稚に駄々をこねている姿になる。それが容易く目に浮かんだのだ。
どんどん大人になっていくアッシュに、聞き分けのない子供みたいな真似は出来なかった。
(このまま追い越されて、置いて行かれたくないもん)
一緒に歩んでいきたいのに、止まったままの体と心。自分も大人にならなければ取り残されてしまう。ツキにとって、それは恐怖なのだ。
だから納得できないまま、承諾した。
やや間を開けて、ジェイドは「ツキ」と名前を呼んで、彼女の肩を叩いた。そうして、ここからさほど遠くない位置の城砦を指さす。そこには腕組みをして、アッシュと何やら言い争いをしているシンクの姿があった。
「鮮血のアッシュと烈風のシンク。確かシンクは貴女の上司でしたよね」
「げっ!」
咄嗟にツキはジェイドの背中へ回って、彼を盾にする形で自分の姿を隠す。やれやれと眼鏡を押し上げながら「そんな事しなくても、向こうからは死角ですよ」と彼は言った。
その言葉にほっとツキは胸をなで下ろした。アッシュはともかくとして、シンクには非常に今は会うのが怖い。命の危機すら感じてしまう。
「まあ、私がツキの背後に回って肩を押せば、貴女は自ずと前のめりになって見つかりますけどね」
「えっ?」と思う前にくるりとジェイドはツキの背後に回って、彼女の両肩に手を乗せた。先ほどとは立場が真逆になる。
「ちょっ!絶対に押さないで下さいよ!」
「カイツールで合流?いやあ、ツキも冗談が上手くなりましたねぇ~」
じわじわとジェイドはツキの肩を押して脅していく。無論、彼が楽しそうな事は言うまでもない。
重ね重ね犯した任務の失敗でシンクに文句を言われるのも恐怖だが、今ここでピョコンと姿を現してしまえば、必ずジェイドの存在も気づかれてしまう。
(それはジェイドさんにも迷惑がかかる!)
ぐっと両膝に力を入れてツキはどうにか踏みとどまる努力をする。
いくら立場が敵同士とは言え、ジェイドは恩人だ。和平のために動いている彼が戦争を企んでいる可能性のある神託の盾に見つかったら、それこそ大変な事になる。