TOAチーグルになったりならなかったりする夢
小さな世界(崩落編)
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「……どう言う事ですか、これ?」
アッシュと話し合って研究所へ戻ってきたツキは、目を丸くして立ちすくんだ。これから荷物をまとめてガイと二人でルークを迎えに行くはずだったのだが、この状況を見ては中断せざるを得ない。
ツキと同じように困惑しているのは、イオンとアニスとナタリア。そしてむすっと年甲斐にもなくふて腐れているのはユフで、ジェイドは普段通り、飄々としている。いくら目をこらしても、表情も人数も変わらない。
金髪の彼、そう、ガイ本人がいないのだ。
「先に行ったみたいだな」
アッシュの言葉を、ツキは珍しく疑いたくなった。
◆16:ワイヨン鏡窟
任務で置いてけぼりを喰らった事は幾度もあるツキだったが、仲間にまでそうされるとは夢にも思わなかった。しかし彼女の不運は続く。ベルケンドの街を出発して港へ続く街道で体調不良を訴え、長く保っていた人間姿もピリオドを迎えてしまったのだ。
『何で嫌な事って重なるんだろ……』
「良いじゃねえか。こっちの方が持ち運び便利なんだし」
ユフのリュックから顔だけ出しているツキは、荷物扱いされている自分自身に溜息をもらした。歩かなくてすむのは楽なのだが、一応、人としてこれはどうなのだろうか、とも思う。
「あっ、やべぇ……ガイに薬預けたままだ」
『薬?』
ツキの大きな耳が、ぴくりと動く。
「ああ。忘れないうちに、シンクからもらったツキの薬を預けたんだ。でも結局、先に出発したからあいつが持ったままで――」
『ストップストップ!えっ!?ななな、なに!?なんで!?』
突然の爆弾発言に、ツキはリュックを抜け出して彼の肩によじ登った。シンクからもらった薬が何なのかは聞くまでもない。それは自分が一番よく分かっている。問題なのは、何故彼がシンクと接触して薬まで渡されたのかだ。
『いつ、シンクに会ったの?』
「バチカルでツキを捜してる時。早く治せよーとか言ってた気がする」
ツキの混乱とは裏腹に、ユフは淡々としている。幸いなことに、それが風邪薬か何かと思いこんでいるようだった。嘘をついているようには見えない。
一気に体中の力が抜けて、転び落ちそうになった所をユフが手で支えた。地面との衝突はまぬがれてまた一つ安堵した時、ちょいちょいと彼の指が耳を撫でた。
「それより見てみろよ、前」
促されて前を見た。アッシュとナタリアが、揃って歩いている。
◇
「どうしてユフにはツキの言葉が分かるのでしょう」
ツキ達より前を歩いていたナタリアは、不思議そうに呟く。彼女の隣にいるアッシュも、それは昔から謎だった。
ソーサラーリングを装着していないツキは「みゅうみゅう」と鳴いているだけ。唯一言葉の分かるユフが彼女と会話をしているのは、端から見れば異様な光景だ。
アッシュも簡単な意思疎通くらいは出来るが、あれほどスムーズに会話は成り立たない。
「さあな」と素っ気なく返したが、ふいにベルケンドでのツキとの会話をアッシュは思い出す。
お互い向き合わなければいけない事がある、と。
恐らくこれは、ナタリアの話を聞けと言ったユフの言葉も同じ意味合い。兄妹揃ってお節介すぎだ。今も背中から、二人分の妙な視線が突き刺さっている気がした。
「ベルケンドの街にレプリカの施設があったなんて、私……自分の国ですのに、知らないことが多すぎますわね。王女として失格ですわ…」
ナタリアは肩を落として落ち込んだ。
「……城の中にいるだけじゃ何も分からないって事は、ガキの頃に学んだだろ」
「あ……あの時の事は覚えていますわ!あなたが私を初めて城の外に連れ出してくれて――」
初めて繋がった思い出話に、ナタリアの表情は明るくなった。同時に、後ろでこっそり話を聞いていたユフとツキの表情もゆるむ。
これで良い。少しずつアッシュは、自分の過去と向き合おうとしている。それがツキには嬉しかった。
『でもちょっと変な感じ。私、今はじめてアッシュを……ううん、ルークを見た気がする』
何年も一緒にいたはずなのに、国の行く末を案じている目の前の彼は、自分の知らない人だった。
心にずっしりとくる重量感が、何なのか分からない。分かってしまうと、自分の嫌な部分を見てしまいそうで、ツキはその気持ちを心の奥へとしまった。
「あなたは何も変わりませんわね」
「勘違いするな……俺は昔の俺じゃない」
わずかにアッシュは振り向いたが、ぐっと目を閉じてこらえているツキは、それに気が付かなかった。
◇
海風が吹き込むせいか、ワイヨン鏡窟の中は暗くじめじめと陰気な雰囲気を漂わせていた。
しかし入り口には桟橋があり、人の出入りがあるのは明らか。ここでフォミクリーの研究が行われている可能性は高いかもしれない。
「ツキ、ここについてあの馬鹿から何か聞いていませんか?」
タルタロスにイオンを残し、鏡窟の奥へと進む道中。ツキはジェイドに話しかけられた。あの馬鹿とは、言わずもがなディストの事だろう。
『すみません、私も詳しいことは何も……』
首を振って、知らないことを伝える。有り難い事に、ユフが「知らないみたいだぞ」と通訳した。
聞けばペチャクチャ何でも喋ってくれるディストの話を、もう少し真面目に聞いていれば良かったと後悔するなんて。これも、夢にも思わなかった事だ。
「何してるのー!早く来てよ!」
アニスの呼ぶ声が鏡窟に響く。頷き合って、彼女の声がした方へ進んだ。
着いた先は目論見通り、フォミクリーの研究施設があった。しかし人の気配は無く、何の譜業も作動していない。既に廃棄されているようだった。
「演算機はまだ生きてるな」
アッシュが器用に演算機を起動させる。画面に表示されたのは、フォミクリーの効果範囲についての研究。ジェイドによれば、データ収集範囲を広げることで巨大な物のレプリカを作ろうとしていたらしい。
「大きなものって……家とかですかぁ大佐?」
「もーっと大きなものですよ。私が研究に携わっていた頃も、理論上は小さな島程度ならレプリカを作れましたから」
ジェイドは楽しそうに答える。
『島も作れちゃうなんて……すごいねフォミクリーって』
「ああ。情報さえあれば、こっちにハワイだって作れるんだよな」
『あー。それいいね』
「だろ?」
ローカルトークを繰り広げる異世界兄妹。そうこうしているうちに、黙々と演算機を動かしていたアッシュの手が止まった。ヴァンが研究中であろう、最大レプリカ作成範囲をみつけたようだ。ジェイドが画面を見て眉をしかめる。
「……約三千万平方キロメートル!?このオールドラントの地表の十分の一はありますよ」
『十分の一!?』
予想の範疇を越えた数字に耳を疑った。そんな大きなレプリカを作っても、置き場所などあるわけが無い。どういう事なのだろう。
次にアッシュが画面に表示させたのは、採取保存したレプリカ生製情報の一覧。マルクト軍で破棄した筈のデータのようだが、ディストが持ち出したようだった。
それは、今は消滅してしまった、ホドの住民情報。
そこで一つの仮説が浮かぶ。ヴァンは、ホドをレプリカで復活させようとしているのかもしれない、と。