TOAチーグルになったりならなかったりする夢
小さな世界(外殻大地編)
【名前変換】
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
親善大使に任命されてからのルークは、とにかくアクゼリュスへ急ぐことで頭がいっぱいだった。それが純粋に救助活動への意欲からであれば良いのだが、理由は別の所にある。
彼はヴァンと再会する事だけを目的としている。救助活動の事など、二も三も後回し。
◆12:waltz
口にするつもりはなかったが「あの発言はマズかったよなぁ」と、気が付いたらユフは呟いてしまっていた。それに反応したのは、最後尾を歩いていたジェイド。
「微妙な国勢や各要人の立ち回りから縁遠いとはいえ、さすがに失言でしたね」
苦言したジェイドは「いや、さすがの失言と言うべきか」と言い改めた。先頭を歩くルークは、後ろから見ても気が立っているのが分かる。どうやら失言の自覚は無いようだ。
ユフは「確かに」と苦笑する。
アクゼリュスへ行くには、デオ峠を越えなければならない。
峠へ到着したての際に、師匠に追いつけなさそうだな、とルークは愚痴をこぼした。そこまでは良い方だったが、彼はイオンを救出するためにザオ遺跡へ寄った事を「寄り道」と表現したのだ。これがジェイドの言う、さすがの失言。
今はイオンがいなくても、親善大使である自分がいれば戦争は起きない。
この思い上がったルークの発言に、玉の輿計画で猫をかぶっていたアニスも「あんた……バカ?」と呆れかえった程。
調停役のイオンあってこその平和。抑止力のある彼の存在は、キムラスカとバチカルの両国にとってはとても大きい。たとえそれがユリアの預言のおかげでもだ。
「こう言う重苦しい雰囲気は苦手なんだ。もっとこう……せっかくだからピクニック感覚で楽しみたいと思わないか?」
腑に落ちない顔でユフが言い、ジェイドは曖昧に笑った。
「それなら今一人で楽しめば良いじゃないですか」
「……少しはこの雰囲気を察しろ。場違いにも程があるだろ」
話す相手を間違えたと、ユフは不愉快な想いをはき出すように溜息をついた。
ツキがいたら絶対に理解してくれるのに。きっと彼女なら、楽しそうに歩いてくれる。
ジェイドが同意したのは、それだけだった。
峠は思っていた以上に整備されていた。それでも山道は厳しいもので、体の弱いイオンには負担が大きすぎたようだ。膝を付いたイオンに、すかさずアニスとティアが彼の体を支える。イオンは「大丈夫です」と、顔色の悪いまま無理に笑った。
「みんな、ちょっと休憩!」
パンパンと手を叩いてアニスが言うと、ルークが不機嫌な顔いっぱいにして振り返り「休むだと!?」と反発した。
「何言ってんだよ!師匠が先に行ってんだぞ!」
少しでも早くヴァンに追いつきたいルークは、これ以上の「寄り道」は望んでいない。自ら先頭に立って歩いているのも、その気持ちからだ。
「ルーク、よろしいではありませんか」
「そうだぜ。キツイ山道だし仕方ないだろう」
ナタリアとガイが言うと、ルークは更に眉根を寄せる。その瞬間、ユフは後悔した。
もう少し早くルークの苛立ちをフォローしておけば、未然に防げたかも知れない。
だがそれはもう無意味で、彼は顔を赤くして憤慨している。
「親善大使は俺なんだぞ!?俺が行くって言えば行くんだよ!」
「ア……アンタねぇ!」
アニスは拳を握ってルークを睨んだ。イオン以外の他メンバーは、その身勝手な発言に再び呆れかえる。ユフはちらりとティアを盗み見る。彼女もアニスのような鋭い目をしていたが、その中に哀しみが宿っていた気がした。
「では、少し休みましょう。イオン様、よろしいですね」
勝手に話を進めていくジェイド。ああ、彼も怒っているなとユフは思った。ルークのフォローに徹していたガイも、疲れた表情を浮かべている。
「すみません、僕のせいで……」
イオンは木陰に移動しながら、細い声でルークに言う。
「ったく、分かったよ……。少しだけだからな」
拗ねたように言い放って、彼はミュウも連れずに乱暴な足取りでどこかへ行ってしまった。
ますますユフが期待するピクニックから遠ざかる。
山は雲の流れが速く、見ていて飽きない。
一面に生い茂った野原にごろりと寝ころんで、ユフはぼんやりとそれを眺めていた。
そうしているのは自分とミュウだけで、他のメンバーは木陰や切り株に座って休憩している。
誰も喋らない中で、ナタリアがそっとユフに近づいて腰を下ろした。
横座りになって、小さく黄色い野花を素肌で撫でる。グローブを外した細くて真っ白だった彼女の手は、以前より随分と傷が出来ていて、ユフは少し申し訳ない気持ちになった。
「どうかしましたか姫様」
上体を起こし、体に付いた草と土を簡単に払う。ユフがにこやかに聞くと、ナタリアは野花から手を放し膝に置いた。
「先ほど、ふっと思い出しましたの。私、貴方の妹に城でお会いしましたわ」
「……えっ?」
髪の毛にくっついた草を取る手が、思わず止まった。いやむしろ、時間がピタリと止まったのでは無いのかとも思った。形をどんどん変えて流れていくあの白い雲も、そよそよと吹く柔らかい風も。
ツキとナタリア。一歩間違えれば、アッシュを巡って泥沼的展開にもなりかねない組み合わせ。まさか既に何かマズいフラグでも立ってしまったのでは無いだろうかと、心臓が跳ねる。
「あのですね……妹のツキも決して悪気があってあのデコと一緒にいるわけじゃないんですよ。と言うか二人がデキているなんて、俺が許しませんから!絶対に!その辺はご心配なく!」
ドンと胸を張って言いきったユフに、ナタリアは怪訝な顔をして首を捻る。
「でこ……?」
「ですから、ツキと――」
アッシュが、そう言いかけてユフははっとした。そうだ、まだ彼女はアッシュとルークの事を知らない。どきっとして、慌てて弁解する。
「いやいやいや!今の事は忘れて下さい!俺のとんだ勘違い的なもので……」
「何の話ですの?はっきりお言いなさい!」
弁解は墓穴を掘る行為になってしまった。彼女の詰問は一層厳しくなる。
助けを求めるような眼差しをガイに送ったら「ご愁傷さま」と言わんばかりの苦笑を彼は浮かべた。なんて薄情な親友。悪役さながら「覚えてろよ!」とユフはガイを睨んだ。
ああ、失敗だ。本当に大失敗だ。
「そ、それより城でツキに会ったそうですけど……」
無理矢理、話をナタリアの方へ戻す。
今にもユフに掴みかかろうとしていた腕を静かに下ろして、彼女は「そうでしたわ」と、釈然としない気持ちのまま話を続ける。
「ユフの話していた通りね。すぐに分かりましたわ」
声はどこか、苦笑を含んでいた。
昔から、ガイとルークとナタリアは、ユフからツキの話を聞かされていた。
――柔らかい桜色の髪の毛がピョンピョン跳ねていて、目鼻立ちや性格なんて俺そっくりだ。
いつも嬉しそうに話すユフ。本当に妹を大切に想っている事が、ナタリアにもよく伝わっていた。
「そんなにツキの話をしていましたか?」
恥ずかしそうにユフは笑った。ナタリアは穏やかに目を細めて「もう口癖のように」と答える。