洗礼
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今日は寝覚めがよかったはずなのに、何だろう、瞼が重たい。
ぼんやりする意識の中で見えたのは、切れかけの薄暗い蛍光灯と、拘束具で椅子の肘置き部分に固定されてMの字に開かれた自分の太もも。
「んん……」
瞬きをしても覚めきらない頭で考える。私はなぜ、こんなところでこんな目にあっているのか。
記憶が上手くたどれない。何かを思い出そうとするたび頭の中が痺れるような感じがして、強制的にシャットアウトしてしまい、何も考えられなくなる。
「目が覚めたか?」
背後からの突然の問いかけに、後ろを見ようと首を動かすけれど。ギギギ、と錆びついた音でも聞こえてきそうなくらいスムーズにいかなくて、自分の身体のあまりの重たさに驚いた。
「動きにくいだろう? 少し高めの電圧で、脳の命令信号に制限をかけている」
革靴の底を鳴らしながら男がゆっくりと正面に回り込み、器具のようなものを付けた不気味な顔がグイッと近づいてきた。
電圧? 制限? 単語の意味は分かるけれど、頭の中でそれらが文章として繋がってくれない。言葉が上手く消化できずに右から左へと流れていく。
「……おっと、少々縛りが強すぎたか」
男の手が目の前にかざされる。直後、バツン、と弾けるような刺激が頭皮を伝う。
その瞬間、脳に膜を張っていたモヤが晴れて、記憶の欠片が豪雨のように降り注いできた。
そうだ。私は今回初めてこの病院のような儀式の間に飛ばされた。そして、廊下の角でこの殺人鬼と鉢合わせたんだ。
初めてのフィールドに、初めて出会う殺人鬼。彼の不気味な容姿に圧倒されて逃げるのが遅れてしまい、私はすぐに腕を掴まれた。直後、身体中に耐え難い衝撃が走ったところまでは覚えている。その後のことは分からない。
この部屋に運ばれて椅子に括りつけられるまで、ずっと意識を失っていたのだろうか。
「……記憶が蘇ってきたようだな」
「…………」
「洗礼を始める前に思い出せてよかったじゃないか……わけも分からず抱きすくめられるのは辛いだろう?」
さっきからなぜだかこちらを気遣うような物言いをするこの男を、私は信用していない。単なる直感ではあるけれど、彼の目や声色、状況から考えて、慈悲を期待できるような存在ではないと思った。
白衣に身を包んだ風貌だって、どことなく胡散臭い。この世界に来てから私は随分と疑り深くなってしまったけれど、そもそも相手は殺人鬼なんだ。疑心暗鬼なくらいがちょうどいいのかもしれない。
「っ……」
額にかざされていた手のひらが首元へ、デコルテ付近へと下がっていき、最後には胸元にたどり着く。そして、触れた。
感触を確かめるように控えめに触れていた手のひらは、やがてこちらが動けないのをいいことに好き勝手に這いまわる。下着の上からでは快感はそれほど感じない。ひたすらに羞恥と違和感だけを植え付けられていく。
拘束されているのは太ももの部分だけだ。不躾な手のひらを払い除けることは、やろうと思えばできる。でも、その後はどうする? 抵抗したところで逃げられないのなら、あとで酷い報復をされるかも。
怯える私を見下ろす彼の目に、高揚の色が浮かぶ。
散々まさぐったあとで、男の手はようやく離れていった。
安心はできない。彼との儀式が初めてである以上、洗礼は絶対だ。洗礼がこの程度で終わるはずがない。
案の定、一向に拘束が解かれることはなく、彼は椅子のサイドにある台の上を漁り始めた。
男の背中越しに部屋の内装が伺える。薬品類が並んだ棚、病院に置いてあるタイプのパイプベッドに、オペに使うであろう大きな照明。
やっぱりここは病院なんだろうか。それとも何かの実験施設なのか。
まだろくに探索もできておらず、眠ったまま連れてこられたせいでここがフィールドのどのあたりなのかも分からない。仲間たちも近くにはいないようだし、不安ばかりが増していく。
そんな私の心情に片時も寄り添うことはなく、男は並べられた器具の中から一つを手に取った。
冷や汗が出た。彼がその器具を握るなり、棒状のそれがパチパチと小さな音を鳴らし始めたのだ。ゆっくりとこちらに向き直った彼が、その棒を何らかの形で私に使おうとしていることは明白だった。
「では、診察を始めよう」
「え……?」
手のひらにポンポンと器具を打ちつけながら放たれたその言葉は、あまりにもこの状況に似つかわしくないもので。
だけど、「どういう意味?」と聞き返すよりも前に、私はその言葉が冗談でも比喩でもないことを理解した。
「ひ、っ……!?」
静電気をまとう棒の先がスカートの中に滑り込む。下着の布越しだからか、微電流だからなのか、想像していたような痛みはない。本当に電気が流れているのかと疑うほどに、金属の硬い感触だけしか感じられない。
痛みがないこと自体は安心だ。でもそうなると、痛み以外の別の感覚に意識が集中するわけで。
私は今自分が感じているほの甘い感覚を悟られまいと、必死に目をそらした。こちらの表情を逐一観察する男がくつくつと笑い声を上げる。
「君は今どう感じている? 痛いか? それとも……、」
「…………」
「……答えなければ診察が進まないのだが?」
言いたくない、言えるはずがない。これのどこが診察だというのか。怒りのままに男を睨みつけてみても、囚われの身である私の威嚇なんて何の効力もなかった。
棒先を押しつける手にますます力が込められる。まるで私の反抗的な態度を責めるかのようだ。
自分の身体に異変を感じたのはその直後だった。
それまでほとんど感じなかった電流が肌を刺し、秘部が引き攣った。そして、まだ気配すらも感知していなかった絶頂が急に見え隠れし始めたのだ。
「あ、あ……っ、なん、なんで……うそ……っ!」
男の手つきは相変わらず粗雑だし、前置きもなしに器具を押し付けられて素直に快感に溺れるなんてできない状況のはずなのに、身体はどんどん上り詰めていく。混乱する頭を置いて。
困惑する瞳のまま見上げた先で、殺人鬼がほくそ笑む。
恥骨と棒の先で突起を挟み込まれて、そのままこりこりと撫でられると、息をする暇さえなかった。
快感の大波がせり上がる。視界の中に眩い光が散っていく。
「……知っているか」
主語のない問いかけに、聞き返す元気もない。
達したばかりの熱い頬に、見開かれた彼の目が触れそうな距離まで近づいてくる。
「人は性器周辺の筋肉を収縮させると、オルガズムに到達しやすくなる。そして、筋肉というのは電流を当てれば自動的に収縮する……つまり、どういうことか分かるか?」
彼の思惑は理解できた。同時に、これから散々弄ばれるであろうことも。
理解しました、と素直に口にすることは、その思惑を受け入れることになる気がして口を噤んだ。けれど、男は私が視線を泳がせたのを見て、まるで思考を読んだかのように満足気に離れていく。
口を閉ざしても仕草から感情を読まれ、恐ろしくなって顔を背けても嫌な笑いが鼓膜を震わせる。
密室で椅子に縛られている私は、この男の管理下にある箱庭の中を延々さまよっているのと同じなのだ。
「こ、んなの……拷問と変わらない……」
震える声で吐き捨てる。
「……心配するな、いずれ快楽が上回る。焦る必要などない」
……鬼畜。その言葉がこれほどまでに似合う存在は、この世のどこを探しても他には見つからないだろう。
*
「あ、あっ、あぁぁっ!」
かすれかけの艶声が天井を貫く。三度目の絶頂を迎えても彼が拘束を解いてくれる様子は全くなく、私はひどく落胆した。
縛り付けられている椅子の背は、染み出した汗でベタベタだった。電流と強烈な攻めにより粘液がとめどなく溢れて、下着を濡らすだけではおさまらず、座席まで垂れている。
それでもなお、彼は”診察”を続けた。
「気持ちいいか?」「どこがいい?」「他に触れてほしいところは?」……これまで彼が口にした言葉の数々が、頭にこびりついて離れない。診察といえば聞こえがいいけれど、こんなものは淫猥な言葉責めでしかない。
くだらない……そう思い、最初は返事なんてしてやるものかと抗い続けていたけれど、二度目の絶頂を迎えてからは彼の言葉に逐一応えてしまっていた。素直に応じれば診察もすぐに終わるだろうと、まだ心のどこかで期待していたのかもしれない。
もちろん、その期待は私の願望を投影したものでしかなくて。「気持ちいい」「ここをもっと」と口にすればするほどに、男の行動を助長させるだけだった。
「も、っ……やめ、て……変になる、おかしくなる、からっ……!」
「なぜだ? 気持ちいいのは好きなのだろう? 君自身が言っていたことじゃないか」
「ち、が……それは、っ……あっ、ああっ!」
まだ否定の言葉を並べようとする私の秘部に、留めの一撃が放たれた。
痙攣する身体に合わせて椅子が揺れる。ひとしきり床を鳴らしたあと、ぐったりと椅子にもたれた私の頬を、抱えきれなかった涙が伝った。
下だけじゃない、顔も涙と汗でぐしゃぐしゃだ。限界をとうに超えていることは明らかなのに、目の前のヤブ医者はどこ吹く風。邪魔になった下着を破り捨て、びっしょり濡れた膣の具合を確かめるように指を浅く出し入れする。
「ん……」
「フッ……もうこの程度の刺激では感じなくなったか」
声とともに微かに聞こえる金属音は、ベルトを外す音だろうか。ぐったりと項垂れながらも目線だけを向けると、彼がバックルに手をかけながら手に持っていた棒を台の上に置くのが見えた。
やっと電流から解放された……緊張しっぱなしだった身体から力が抜ける。
男は支配欲に満ちた笑みを浮かべたまま、空になった方の手で私の恥丘を撫でている。親指の先が愛おしそうに突起の包皮をめくりあげ、押し潰す。
直後、バツン、と敏感なそこに鋭い衝撃が走った。棒状の器具が手放されたことで安堵していた私は、混乱のままに彼の顔を仰ぎ見る。ゲスな高笑いが部屋中に響き渡る。
「な、……や、あ……っ」
「この電撃は器具に伝わせた時よりも、直の方が電圧が高い。強い痛みは感じないよう調整はするが、気を抜いている暇などないぞ」
「ひ、っ……」
衣服の中から取り出された張り詰めたものが、男の手の中で擦られてさらに質量を増していく。これを入れられて、その上でより強い電流を当てられたら、私は……
「いや、いや!」と、めいっぱい身体を捻る。そんなことでガッチリと拘束された太ももが抜け出せるわけでもないと分かっていながら、衝動のままに身をもがいた。
揺れる椅子の足が床を叩く。男はしばらくその様子を黙って見ていた。だが、いよいよ椅子ごと倒れてしまいそうになった時、暴れる私の手首を掴み、黙れ、とでも言いたげに乱暴に唇を食んだ。
「ん、んんっ……!」
口腔を貪られる下では、固いものがぐっと押し付けられて。十分すぎるほどに解された膣口が、熱いそれをぐちゅぐちゅと飲み込んでいく。
「ふ、……っ、ん、んーっ……!」
手のひらが太ももの付け根を這い上がる。少しずつ少しずつ上ってきて、恥骨の上にたどり着き、同時に埋められた熱も子宮口まで到達した。
口の端を伝う唾液、こめかみを流れる汗、頬を濡らした涙を、彼の舌先が丁寧に拾っていく。
添えられた手からはまだ電流は流されていないけれど、流すタイミングは彼次第。私はただ、いつかくる刺激と感覚に備えることしかできない。極度の緊張に身体が力む。
「随分と締まりがいいな……電流など必要ないくらいだ」
「ああっ、あっ!」
「心の内では、強制的なオルガズムを待ち望んでいるのではないか?」
「そ、んな……ちが、……っ」
「試してみるか」
男の手が青白く光り、お腹の奥がビクビクと震えた。
中を前後する彼の凹凸一つ一つがハッキリと分かるほどに締め付けて、そのせいでより鋭い快感を感じて。口の端から流れた唾液を飲み込むこともできず、一分と経たずに呆気なく絶頂を迎えてしまう。
感覚が馬鹿になる。このままじゃ本当に、彼の言うように電流を待ちわびる身体になるかもしれない。
だが、ちぎれかけの理性で最後の抵抗を試みた時には、身体を満足に動かすことができなくなっていた。
「どこが一番感じる? 奥か? 一番いいところを突いてやる」
「やぁ、やだ……だめ、……う、うっ、」
「……診察で嘘をつくのは感心しないな。君は今こんなにも蕩けているじゃないか、何が不満だ?」
握りしめた白衣に深いシワが刻まれる。咎めることもせず興味深そうにこちらを見下ろす彼を見上げ、上手く呂律の回らなくなった唇で「おかしくなる、こわいの、もうやめて、ゆるして……」と、泣きながら訴えた。
その程度でやめてくれるなんて、端から期待はしていない。それでも、まさか私の必死の懇願に対してこれまでで一番楽しそうな笑みを浮かべられるとまでは思ってなかった。
最低。鬼畜。ゲス。頭の中では声にならない罵倒を唱えているのに、身体は不安と恐怖に支配され、上目遣いの涙目で唇を噛み締めるという、彼がさらに喜びそうなささやかな抵抗を示すことしかできなかった。
「は、……ああ、あぁっ!」
ズン、ズン、と奥の奥が何度も持ち上げられる。
いっそ激痛にでも見舞われてしまえばよかったのに。それなら今度こそ本気で暴れて逃げられたかもしれない。
……でも。早く終わってほしいとあんなに願ってたのに、太いものに突き当たりをごりごりと押されると、どうしようもなく気持ちよかった。相手は最低最悪の鬼畜殺人鬼だというのに、焦らされていた私の中は与えられる快楽を余すことなく拾い集めてしまう。
快感がすべての感情を上回ってしまうだなんて、それじゃあ彼の言った通りじゃないか。
結局私は、拒んでいたはずの彼の思い通りになってしまうの? そんなの絶対嫌なのに、嫌なはずなのに、そうなりつつあることを否めないのが怖い。
「は、あ……ん、」
「ようやく良くなってきたか?」
「ちが、う……っ、あっ、んん、違うぅ……!」
「嬌声混じりに訴えても説得力に欠けるな」
お腹に添えられた手がピリピリと発光する。また電流がくる、収縮させられる……この先を想像した途端、まだ流されていないにも関わらず、お腹がぎゅーっと縮まって不意にふわりと上り詰めてしまった。
「あ、あ、いっ、ちゃ……あっ、は……っ……!」
握り締めていた白衣に咄嗟に顔を埋め、声を押し殺した。それでも、中にいる彼には私が果てたことはハッキリと伝わっているだろう。ひくひくと独りでに引き攣る膣壁の動きは、誤魔化しようがないのだから。
「……堕ちたか」
まるでこの結末が分かっていたみたいに、ただぽつりと呟かれる。さっきのような高笑いでも、小馬鹿にするような笑みでもない、納得したような静かな一言は何よりも生々しかった。
白衣に埋めた顔を上げられない。はらはらと涙を流しながら絶頂の余韻に浸る私は、なんて滑稽なんだろう。
いや、それだけならまだマシだった。もうどうにでもなれとついに開き直ってしまった私は、握り締めていた白衣から手を離し、繋がったままの男の背に腕を回した。我慢できません、もっとください、とおねだりするように。
無言の懇願を汲み取った彼が、また腰を打ち付け始める。
やめてというお願いは一度も聞いてくれなかったくせに……理性が完全に消え去る前に、私は心の中で最後の悪態をついた。
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