洗礼
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
今思えば、今回の儀式は最初から様子がおかしかった。
飛ばされた瞬間から強烈な眠気に襲われ、常時頭がぼうっとしていた。他の仲間たちも同じ状態だったようで、隣で発電機の修理をしているのにロクに会話もなく、ただフワフワと時間だけが過ぎていくようだった。
「あっ……」
眠気が限界に達した私はうっかり配線を組み間違えてしまい、発電機が眩い光を放ち、爆発音が鼓膜を叩く。
その直後だ。急に周囲の空気が淀み、まるで古いビデオテープでも再生しているかのように、世界から色が失われた。
「え、なに……」
あまりに突然のことに、状況が全く把握できない。よく見るとさっきまで隣で一緒に発電機の修理をしていたはずの仲間もいなくなっている。一体何が起きているのか。
ぼうっとする頭の中に、何かが聞こえてくる。誰かの話し声? ……いや、違う。子どもが歌う声だ。複数の子どもが声をそろえて歌っている声が、遠くの方からゆっくりと近づいてくる。
「夢の世界へようこそ、新入りのお嬢ちゃん」
「……!」
背後から掛けられた声に弾かれるように振り向いた途端、また景色が変わった。
建物の中だろうか。薄暗く、ボイラーのような配管が張り巡らされており、恐らく外へ続いているだろう階段も見える。少し奥ばったところには、一人用のベッドが置かれた必要最低限の生活空間もあった。
「なに、ここ……」
「かつて俺が寝泊まりしていた場所だ」
言いながら、柱の陰から声の主が姿を現した。
特徴的なセーターを身につけてハットを被ったその男は、下品な笑みを浮かべながら指につけた鉄の爪をシャラシャラと鳴らしている。挑発的なその態度に言い表しようのない不快感を覚える。
「あの……私、お嬢ちゃんなんて歳じゃないです」
「ハッ、俺からすりゃあ、お前なんざ小娘に過ぎないんだよ」
鋭い爪の先がこちらに伸びてくる。後ずさりして背後の階段に向かって走り出そうとした瞬間、床から血のような液体が噴き出してきて進路を阻まれた。
狭い通路を塞がれて逃げ場がなくなり、恐る恐る振り向くと、ベッドの上に腰掛けた男がちょいちょいと手招きをしていた。
もうすっかりこの世界のルールに順応してしまった私は、この男に何をされるかなんて分かりきっていた。それを済ませるまでここから出られないということも。
それでも素直に従うことを躊躇ってしまい、拒絶するように後退りをしてしまう。
そのことを咎めるかのように男が人差し指をクイッと曲げると、突然抗いようのない力に全身を強く引っ張られた。
「う……っ!」
為す術のなかった私は、背中を壁に強打した。落ちた先がベッドだったのがせめてもの救いだ。
上手く息ができずシーツの上でうずくまる私のそばに、ゆっくりと気配が近づいてくる。スプリングが軋む。
鉄爪が私の輪郭を撫で、皮膚を切らないようにそっと持ち上げた。
男は相変わらずニヤニヤと笑顔を浮かべたまま、舐めまわすようにこちらの表情を観察している。下手に動けば傷をつけられそうで、私はされるがままだった。
「東洋人は歳のわりに童顔だと小耳に挟んだが……どうやら本当らしいな」
楽しそうに舌なめずりをする姿に鳥肌が立つ。
「……どういう意味?」
「おいおい、そう怖い顔するなよ。褒め言葉で言ったんだ」
「褒め言葉……?」
「俺は幼さの残る顔が恐怖で歪んでいくのを見るのが趣味なんでな」
耳元でまたシャラシャラと爪が鳴らされる。
ずっとこの男に感じていた嫌悪感の正体がようやく分かった気がする。相手を下に見た態度に、蹂躙するような行動、「幼さ」に対するいびつな感情。
言葉や行動の端々からにじみ出る支配欲を、私は直感で嗅ぎ取っていたのだ。
その鋭い爪を使って、今までにどんな獲物を仕留めてきたのだろう。嫌な想像ばかりが過ぎってしまい、身体がカタカタと震え出す。
「心配するな、すぐに良くしてやる」
「やっ、!」
またもや見えない力が働いて、うずくまっていたはずの私の身体が反転した。ベッドの上に叩きつけられた両手は自由な状態に見えるのに、縫いつけられたかのように持ち上げることができない。
鉄爪がまた伸びてくる。今度は私の目の前じゃなく、無防備な胸元へと向かっていった。ワンピースがビリビリと引き裂かれ、ボタンがあちこちに飛び散って、ブラジャーの中心部分は容赦なく断ち切られてしまった。
お願いやめて、と震える声で訴えれば訴えるほど、男の口角はますます持ち上がっていく。溜まっていた涙がこぼれ落ちたと同時に、下品な高笑いが上がる。
「従順なのもいいが、そうやって抵抗されるのも悪くねぇな」
「う、っ……うっ……クズ、へんたい……」
「何とでも言え」
涙声で罵倒したところで、男には微塵もダメージが入らない。むしろ、肌をなぞる手つきがさっきよりもずっと楽しそうですらあった。
素肌を直に伝う爪は、力加減を間違えば呼吸で上下する膨らみを破りさいてしまうかもしれない。できるだけ身体を動かさないようにしたいのに、緊張でますます息は上がっていくばかり。
恐怖が頂点に達した私は、うわ言のように繰り返した。お願い、どこを触ってもいいし、何時間でも相手をするから、せめて鉄の爪をしていない方の手で私に触れて、身体は傷つけないで……と。
しばらくの沈黙の後、固く閉じていた瞼を男の舌先が撫でる感触がして、弾かれたように目を開けた。生意気言って怒らせてしまったかと思ったが、どうやらそうではないらしい。
彼は少しつまらなそうな表情をしつつも、右手にはめられた鉄爪を渋々と外し始めたのだ。
どういう風の吹き回しか。
そんな当たり前の疑念を持つこともせず馬鹿正直に安堵に満ちた私の耳に、男の口元が寄せられる。
「自分が言ったことを忘れるなよ」
***
上手い話なんてあるはずがない。そんなことすぐに気づくべきだったと、腰を揺さぶられながらぼんやりと思う。
恐怖からくる無意識の命乞いだったとはいえ、いくらでも相手をすると口走ってしまった私は、それはもうぐちゃぐちゃにされた。
ベッドに固定されたまま硬くなったものを挿入され、一度果てたかと思えば、今度は身体を横にされて片足を持ち上げられながら二度目の挿入。その後も洗面台に突っ伏せての立ちバックや、身体ごと抱えられての挿入など、息つく暇もなく相手をさせられた。
これが夢だというのなら早く覚めてくれと、何度願ったことだろう。
もはや膣の入口のあたりは感覚が麻痺していたが、子宮を揺らされる快感だけはいつまでたっても色褪せず、律動に合わせて掠れた声が漏れるのを止められない。
だんだんぐったりとしてきた姿が面白くないのか、彼は一度中のものを抜き取ると私をベッドに横たわらせた。
「ん……、」
陰茎の形に合わせてすっかり広がってしまった膣の中から、温かいものがこぼれ落ちるのを感じる。
キャンプへの帰還がおそくなってしまったら、このまま妊娠してしまったりするのだろうか。だとしたら一秒でも早く帰りたい。殺人鬼の、よりにもよってこんな変態の子どもを妊娠だなんて、願い下げだもの。
「く、くく……」
また不愉快な笑い声が聞こえてくるけれど、今は睨む気力もない。視線を向けるので精一杯だった。
「なにがおかしいの……」
「いや、何もおかしなことなどないさ。ただ……」
「……ただ?」
「……この先のことを考えると、笑いが込み上げてな」
ああ、やっぱりまだ続ける気なんだ、この男は。解放されることを期待していたわけではないけれど、改めてハッキリと意思表示されると力が抜ける。
悪夢はまだ終わりそうにない。
限界が近い私の身体を、男はうつ伏せの体勢へと変えさせた。下腹とベッドの間には枕を押し込まれ、腰を軽く突き出した形になる。
「この状態なら疲れていてもできるだろう?」
愛おしそうに腰を撫で回す男は、やたらご機嫌だ。突き出されたお尻に下腹部を擦り付けられる。体液に塗れたままの硬いそれが、割れ目の部分をぐちゅぐちゅと前後に滑っている。
妙な焦らし方をせずに、入れるならさっさと入れてほしい。早いとこ終わらせて帰りたいのに。そう願っても、彼はいっこうに挿入しようとしない。
腰の動きは止めないまま覆い被さるようにすっぽりと身体を覆われて、湿った息づかいが鼓膜を揺らす。
「お前……これまでに何人の殺人鬼とヤった?」
急な問いかけに、咄嗟に言葉が出なかった。だが「そんなのあなたには関係ない」と、そう突っぱねてしまえば、何をされるか分からないという恐怖があった。
「……さん、にん……」
「くく、そうか、三人か。……なら、お前もそろそろ普通にヤるのにも飽きてきたころだろう?」
「……? それって、どういう……、」
パチンと指を鳴らす音がして、「横を見てみろ」と促されるままに首を動かした。薄暗い壁に、いつの間にか三人の人間がツタのようなもので縛り付けられていた。
何度かまばたきをすると疲労でかすんでいた視界が晴れてきて、ようやくその三人が仲間の生存者であることに気づく。
咄嗟に起き上がろうとするも、男に体重をかけられてしまい動けない。
お願い、どうか幻であって。そう願いながら再び壁の方に目をやる。縛り付けられている仲間の一人であるジェイクが、「名前……!」と心配そうに私の名前を呼んだ。
その時、彼の手に握りしめられていたライトが床に落ち、転がった。一緒に発電機を修理していた時、ジェイクがそれを手に持っていたのを覚えている。
彼らは幻なんかではなく、本物の仲間たちだ。
そうか、これはただの夢じゃない。夢であると同時に、紛れもない現実なんだ。
「や、いやっ! 離して! ねぇお願い、こんなの絶対に嫌……!」
「おいおい、どうした? 急に元気になったじゃねぇか! アイツらに見られながらヤるのがそんなに嬉しいのか?」
「違、っ……あっ、あっ!」
男の陽根が容赦なく侵入してくる。散々ほぐされてびしょびしょになっている秘部から、ぐちゅ、ぐちゅという淫猥な音がとめどなく流れる。
いやだ、見られたくない、聞かれたくない。頭ではそう強く思っているのに、お腹の奥で子宮をこつんと叩かれると吐息混じりの声が漏れてしまう自分が憎い。
「あ、あっ、やぁ、だ……あぁ、っ!」
これまでとは違う角度の挿入が、私を快楽の海に沈めていく。せめて表情だけは見られまいとシーツに伏せようとした顔を、男は無理やり彼らの方を向かせると、そのまま動かせないように上から押さえつけた。
ぬちゅ、くちゅ、と弾ける水音も、甘ったるい声も、肉体がぶつかり合う音も、きっとぜんぶ聞かれている。私の耳に聞こえているのとまったく同じように、ぜんぶ。
「さっきより締まりがいいな……口では嫌だと言いつつも、興奮してるんじゃないのか?」
「う、あっ、ちがっ……やだ、のっ……あぁ、ああっ!」
嘘をつくな、とでも言うように、律動が加速する。
嘘なんかじゃない。こんな姿、仲間の、しかも男性に見られるなんて耐えられない。でも、こんな状況でさえお腹の中がどうしようもなく気持ちいいこともまた事実だった。
年長者だからなのか、悔しいけれど彼の腰使いは的確で。こつんこつんと奥の奥を執拗に押し潰す動きが、本当にたまらない。
寝そべる背面から打ち付けるこの体位を最後に選んだのも、これまでの私の反応から目ざとく好みを探り当てたからなのかもしれない。
そうでなければ、こんなに……
「あっ、あ……は、待って、だめだめっ……い、く……っ!」
「もう限界か? ここまできてまだ抵抗するとは、往生際が悪いな」
「ひ、あっ、だって……、」
壁にへばりつく彼らを見る。目線こそそらしてくれているものの、その顔は薄明かりの中でも分かるくらいに真っ赤に染まっている。
「くく、ヤツらはお前が良さそうにしてる顔が見たいのさ」
汗で乱れた髪が絡みつく耳元に、男の悪魔のような囁きが吹き込まれる。
「な、……や、あ、そんな……こと……っ」
「お前にも見えるだろう? アイツらの火照った顔が」
「あ、……っ……」
「お前がアンアン言ってるのを聞いて興奮してるんだよ、聞かせてやれ」
催眠にかけられたみたいに、男の囁きと、膣を出入りする陰茎の感触だけが私の五感を支配する。
強すぎる快感から逃げるようによじった腰に、さらに深く挿入された。一番奥のところを先端でグリグリと押し潰され、視界がチカチカと明滅し始めて、思考がすべて吹き飛んだ。
「あ、あっ、むり、それだめっ……あっ、あっ、もう……っ!」
いっちゃう、いっちゃう、と同じ言葉を壊れた玩具みたいに繰り返し始めた私を、殺人鬼がどんな表情で見つめていたのかは分からない。
ただ一言、耳たぶに触れてしまいそうなくらい近くで吹き込まれた「ああ、イけ」という声は、この上なく楽しそうだった。
最後の最後に自分自身を保つことができず、仲間の男性たちに醜態を晒し、殺人鬼の思惑に飲み込まれてしまった。
私は、悪夢に打ち勝つことができなかった。
***
「名前……、名前」
誰かが私の名前を呼ぶ声で目が覚めた。
顔を上げてみると、目の前には薄らと輪郭のぼやけたジェイクの顔。その後ろには、険しい表情をしたデイビッドと、あさっての方向に視線をそらしているドワイトが見える。
「大丈夫か? とりあえず、これを着て」
ぼうっとする頭でジェイクの言葉を噛み砕き、彼の上着を受け取ろうと手を伸ばして、自分の脚が目に入った。
何か刃物のようなものでズタズタに引き裂かれたあとのあるワンピースの裾が、体勢を変えたことで太ももから滑り落ちた。
瞬間、夢の中での記憶がよみがえり、息が止まる。
下着までもが切り裂かれ半分露出していた胸元を、ジェイクが差し出してくれた上着で慌てて覆い隠す。身も心も傷ついているはずなのに、不思議と涙は出なかった。放心状態といった感じだ。
「立てるか?」という問いかけに少し迷ったあと首を横に振ると、ジェイクは何も言わずに私をおぶってくれた。
既に開いているゲートに向かってジェイクが歩き出すと、他の二人も後に続く。
心地よい背中の振動に揺られながら、殺人鬼の言葉を思い出す。
夢の世界へようこそ——彼はそう言っていた。
だから私は、早く悪夢から覚めてほしいと願った。目が覚めてしまえば、全てなかったことになるはずだと。
でも、結局彼の夢は現実と地続きだった。目が覚めてもなお薄ら火照ったままの肉体と、ボロボロの衣服がそれを証明している。
「……っ」
唇を噛んだ。何が悪夢だ。あんなもの夢でもなんでもない、地獄そのものじゃないか。心は怒りと嫌悪に塗れているのに、身体は刻み込まれた快楽をハッキリと記憶していて、まだわずかに疼いている。
そのことが悔しくて、悲しくて、キャンプファイヤーの明かりが見えてきた今になって、私の瞳から大粒の涙が溢れ出した。
4/7ページ