洗礼
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はぁ、はぁ。
薄く霧のかかった闇夜の空気を、私の荒い呼吸だけが揺らしている。
見渡す限りの闇。だんだんと目が慣れてきたけれど、相変わらず視界が悪いことには変わりない。
ここはどこなのか。この場所に来る前、焚き火を囲むキャンプのようなところに突然飛ばされたことを覚えている。そこには自分以外にも人がいて、私のことを見るなり何かを説明してくれようとしていたように見えた。
だけど、彼らが何か口にする前に急に慌て出したかと思えば、「説明は後だ」と言われ、気がついたらここにいた。
「は、……はぁ、っ」
みんなどこに消えたのだろう。混乱と不安と恐怖に呼吸は乱れるばかりで、とりあえず身近にあった建物の中に身を隠しはしたけれど、それ以上何をするべきか全く分からず、動けない。
さっきから呼吸だけでなく心拍までもが音を早めている。こういう時、映画の中の人物みたいに取り乱してしまうものなんだな……なんて、客観的にその姿を見ていた頃の冷静な自分を懐かしんだ時だった。
カン……カン……
(鐘の……音?)
確かに聞こえたその音は、まるで教会の屋根から鳴り響くもののような、耳に残る高い音だった。
小屋の入り口から顔だけを出して周囲を警戒してみるけれど、音の正体と思しきものは何もない。
「でも、確かに今……」
怖くなって、とっさに後ろを振り向く。このボロ屋には反対側にも入口があったことを思い出したのだ。
しかし、そこにも何もいない。安堵して、ふうと細く息を吐き出す。その瞬間、私の限界まで過敏になっていた視覚の端に、得体のしれないものを捉えてしまう。
「え……な、に……」
何もないはずの空間の一部が、陽炎のように歪んでいる。ゆらゆら、ゆらゆら、間違いなくこちらに向かって進んでいた。
まずい。何かおかしい。逃げなきゃ。
頭でははっきりとそう思っているはずなのに、どうしてこういう時に限って身体は固まってしまうのか。
「やだ……何、待ってよ……」
震える声で絞り出しても、「ソレ」が聞き入れてくれることはなく。
カン……カン……と、聞き覚えのある音と共に、陽炎は本来の姿を取り戻した。その光景はまるで、木屑が燃え尽きる様を逆再生しているかのようだった。
腰が抜けてへたりこむ私の脳天目掛けて、骨のような何かが振り上げられる。
「いやっ!」
必死にかぶりを振りながら両手で頭を庇って丸まってみたものの、その行為がどれほどの意味を持つのかは分からない。目の前の存在は、どこか人間離れしていた。容赦なく叩き潰されるかもしれない。
その状態で、十秒か、二十秒か、しばらく時が経ったけれど、鈍痛が走ることはなかった。
恐る恐る目を開ける。思ったよりも近くにボロボロのマスクのようなものを被った顔があって、「ひっ」と喉が鳴る。
怪物と距離をとるように、また両腕で顔を覆う。
「……新人?」
その声に、びっくりして思わず顔を上げた。
言葉の内容に驚いたんじゃない。目の前の人間……と呼んでいいのかも分からない存在から、私も理解できる言語が飛び出したことに驚いたのだ。
「……ねぇ、新人なの?」
「あなた……喋れるの?」
「先に質問したのはこっちなんだけど」
「あ……ご、ごめんなさい……」
低く咎められ、反射的に謝りはしたものの、彼の言う「新人」というのがどういう意味なのかさっぱり分からず、答えようがない。
しばらく黙ったままでいると、彼の大きな手が私の立てられた膝に触れた。恐ろしくて、やめてと口にしようとしたのだけど、すっかり萎縮した唇では言葉を紡ぐことができず。
そのまま彼の手が膝を開かせる。
「こんなことになるのは新人の証拠だろうね」
音を出しても逃げないし、警戒してばかりで行動しないし、新入りですってアピールしてるようなものだったけど。と続く。
そんな彼の目線が食い入る先を追ってみると、そこには股間部分がびっしょりと濡れた私のキュロットがあった。
気づかなかった。わけの分からない状況や恐怖に抵抗することで精一杯だったから、まさかこんな、子どものようなこと……。
頬に熱が集まってくる。
「っ……見ないで」
掴まれたままだった膝を無理やり閉じる。
いったい何なんだ。なぜこんな目にあわなければいけないのだ。相変わらずここがどこかも、なぜ自分がここにいるのかも分からないのに。おまけに目の前に怪物が現れて、とんだ辱めを受けて。
これが単なる悪夢であったならよかったのに。いろんな負の感情が、涙となって溢れ出す。
「泣いてるの?」という問いかけに、今度は何も答えなかった。無視を決め込んで、俯いていた顔をさらに背ける。
「……何にせよ、洗礼はきちんと受けてもらうよ、新人はそういうものだから。恨まないでね……無理かもしれないけど」
何を一人でごちゃごちゃと。頼むから今は一人にして、と意思表示をしようとした途端、浮遊感を覚えた。
「えっ、」
急に抱き上げられたかと思うと、そのまま俵を担ぐようにされる。それも片手で。
こうされて初めて気がついたけど、この彼、とても背が高い。腕力も相当なものだろう。どうして武器を振り下ろす手を止めてくれたのかは分からないけれど、やろうと思えば私なんて簡単に殺せてしまうのかもしれない。
体勢が変わったことで、キュロットを濡らしている生温い体液が太ももを伝ったのを感じた。不快感に身をよじる私に構うことなく、彼はそのまま近くの階段から地下に降りて行く。
赤黒い壁、不気味に差し込む光、グロテスクなフック…… 地下室で私を出迎えてくれたものは、どれもこれも不快感を催すものばかり。
ここで何をするつもりなの。そう問いかけるより先に、一番奥のチェストの上に降ろされた。
「あの……何を……」
「さあ、何かな」
言いながら、手に持っていた武器と鐘をそこらに放る。一歩、二歩と歩み寄ってくる彼の顔を見上げるけれど、無表情から真意は掴めない。
彼がしゃがみこむ。ようやく目線が近くなって、マスクの奥の瞳が瞬いたのが見えた。
「仕方ないから、”する”前に教えてあげるよ」
青白い指先が、骨董品に触れるように横髪を撫でる。
「ここはエンティティ様が用意した空間で、ボクはそのエンティティ様に生贄を捧げるためにここにいるんだ」
「エンティティ様……?」
「神様だよ、ボクらのことをいつも遠くから見守ってる」
「神様……」
何だか壮大な話だな、なんてぼんやり思う。
髪を撫でていた指が頬を撫で始める。
「だからキミは、本当はボクらから逃げなければいけないんだよね」
「……?」
「さっき言ったでしょ、生贄が要るんだって」
冷や汗が滲んで、背中の上を伝っていく。話がだんだん繋がってくると同時に、自分の身に起きている状況も輪郭をあらわにする。
「その、生贄ってもしかして……」
「やっと理解した? あ、今さら逃げようと思っても無駄だし、大声出したところで仲間には届かないよ」
「仲間……? ここに来る前に見かけた人たちもここに来ているの? そうなの?」
「いるよ。でも無駄だってば。キミらはボクたち殺人鬼の気配は察知できるからね。わざわざ近寄ってくるようなマネはしないよ」
「そんな……」
ようやく灯った小さな希望の灯火も、呆気なく握りつぶされた。状況が分かったところで、それを打開することができないのなら何の意味もない。
マスクの奥でクスクスと嗤う声がする。人の絶望する姿がおかしくてたまらないというような、堪えきれずに漏れ出すような声。
これから目の前で壊れていくのが待ち切れない、そんな手つきで私の頬に触れていた指が、首元まで滑り降りてくる。
彼は自身を「殺人鬼」と、そう呼んだ。きっとこの手はすぐに私の首を握り潰し、窒息させるのだろう。
息を止め、目を瞑る。だけど、しばらく待ってもその手は首筋を撫で回すだけで、予想したようなことはしてこない。
「ふふ、殺されると思った? 最初に言ったよね、洗礼を受けてもらうって。キミって本当にひとの話を聞かないね」
手のひらが肌を伝って首から胸へ、そして膨らみをかたどるように撫で始めて。私はここまでされてようやく、彼の本当の目的に気づいてしまう。
カタカタと脚が震え出す。「また粗相しないでよ」なんて、からかうような口調でこぼす彼から目をそらすことしかできない。
「ここに来たばかりの新入りはさ、みんなこうして抱かれるんだよ、ボクたちに。いつからかは忘れたけど、いつの間にかそれが仕来りになってたんだ」
服の上から撫でていただけだった指が、あわせの部分から侵入し、直に肌を撫で始める。本当に血が通っているのかと疑うほどにその指は固く、冷たく、それでいて艶めかしく厭らしい。
下着の中で探り当てた突起を執拗に擦られて、否が応でも吐息が漏れてしまう。
「ボクは元々こういうことに興味がなかったんだけど、せっかくエンティティ様が許してくれたことなんだし、やってみようかなって。最初はそんな感じだったんだけど……」
私の目線のすぐ下で、ブラウスのボタンが丁寧に外されていく。黙って見ていることしかできない自分に嫌気がさす。
「でも、だんだん気持ちいいって思えるようになってきたんだ……だからさ、せっかくだからキミも楽しもうよ、エンティティ様が見てるんだし。そうやって大人しくしていれば、痛くしないって約束するからさ」
「…………」
怯える相手を前にして、無邪気に「楽しもうよ」だなんて。ああ、この人は本当に根っからの殺人鬼なんだな。どこか他人事のようにそう思った。
明け広げられた胸元はじっとりと汗ばんでいた。僅かな光を受けててらてらと光る様は、自分の身体ながらどこか不気味だ。冷たい手のひらが感触を確かめるようにペタペタと触れて、そのまま下着のカップをずり下げる。
唇を噛んでそっぽを向く。お願い、せめて何も言わないでいて。心の中の懇願など届くはずもなく、汗かいてるね、ここ立ってるね、と目の前の男はいちいち言葉に変えていく。
「こっちはどうかな」
徐々に息が乱れてきた私に満足したのか、胸を揉みしだく手を止め、視線を下げた。いまだ失禁で濡れたままのキュロットが脚の付け根に張り付いている。
彼が言っているのはそのさらに奥のこと。分かっているからこそ、伸びてきた手を拒むように脚を閉じた。
「ダメだよ、そんなこと許さない」
「あ、……!」
閉じ切っていた脚を無理やりこじ開け、キュロットの隙間に彼の指が入り込む。下着をずらし、指の腹を滑らせると、くちゅ、とハッキリと音がした。
「聞こえたよね? ほら」
何度も何度も指を往復させる。くちゅ、くちゅくちゅ、淫らな水音が鼓膜を攻め立てる。
私の様子を一瞬たりとも見逃すまいと、マスクの奥の瞳で、至近距離で見つめながら。
「ん、……ふ、あ……っ」
「キミも少し興奮してきた?」
「っ……ちが……」
「こんなふうになってるのに、まだ否定するの?」
膨張気味のクリトリスをきゅうと摘まれて、耐え難い快感にガクガクと痙攣する。本当は怖くて不安で、早く終わらせたいはずなのに、粘膜に触れられると当然のように気持ちよさを感じてしまうのが悔しい。鼻の奥がツンと熱くなる。
「……また泣いてるの? 怖がりだなぁ、ちゃんと慣らしてから挿れてあげるから安心して」
滲んだ涙を見て身勝手な勘違いをした男の指が、柔らかな内側へと静かに沈んでいく。
「あ、あっ……ん、!」
得体の知れない、見知らぬ存在の身体の一部が、私の中を擦っている。押し広げるようにグイグイ指を押し込まれて、彼が指を曲げる度に私の中でなにかが上ずっていった。
必死になって頭を振って「やめて」と意思表示をしてみても、震える手で彼の手を押し戻そうと頑張っても、彼は快感を送り込むことをやめてくれない。逃れられない。弾けてしまう。
「だ、だめ……もう……っんん、」
「イきそう?」
そう言って、意地悪するみたいに指の動きを早めるものだから、私は彼の瞳に真っ直ぐ射抜かれたまま、呆気なく果ててしまった。
身体中の力が抜けて、力んでいた両足がだらりと垂れ下がる。そのまま倒れてしまいそうだった上半身が抱きとめられ、同時に下着とキュロットを剥ぎ取られてしまった。チェストの冷たさが素肌に染みる。
まだ身体がふわふわと落ち着かない。額を抱え込むようにして息を整えていると、手の隙間から、自分の下半身に巻かれた包帯をせっせと解いている彼が見えた。
存在を主張する中心部分が窮屈な布切れから解放される。むせるような雄の匂いと、独特な色を表出している。大きい。
私は、今からこれを……。
「バテるにはまだ早いよ」
大きな手に肩を掴まれ、顔を上げさせられる。また不気味なマスクと目線が合う。
右手は涙でぐちゃぐちゃの頬を撫でつけながら、空いた左手は陽根を握り、私の性器に擦りつけて器用に愛液を絡めている。熱くて、硬い。指とは全く違うもの。
「あっ、は……んっ、」
ぐっ、と腰が押し付けられると同時に、肉を割って入ってくる塊。ぐち、ぐち、と進めるごとに水音がして、お腹の中がいっぱいになっていって、果てたばかりだからすごく気持ちよくて。
質量による痛みや苦しさの何倍もの快楽で、頭の中が一気に満たされていく。今までよりもいっそう甘ったるい声が出る。我慢ができない。
「は……、すっかり堕ちちゃったみたいだね、いい顔してる」
「んんっ、やだ……見な、いで……っ」
「ダメだよ、ボクのもので気持ちよくなってる姿、もっと見たいもの……エンティティ様にもよく見えるように、ね」
上に乗っている私ごとチェストの向きを変えたかと思えば、起こしていた上体をその上に寝かされた。挿入したものが抜けないようにと、さらに腰を押しつけられて、声も出せずに背中を反らせる。
すぐに始められた律動が、お腹の奥の奥をコツコツと刺激する。何も考えられなくなって言葉は浮かんでこないのに、声帯が壊れてしまったみたいに「あっ、あっ」という嬌声だけが次から次へと溢れ出た。
「は、はっ……ふ、……っ」
彼も夢中で腰を振る。息づかいだけが暗い地下に反響して、さらに興奮を高めていく。
私の脚を掴んでいる彼の手が、もはやどちらのものか分からない汗で滑って。そのたびに離れてしまわないようにと深く深く腰を打ち込まれる。たまらない。
「あっ、あ……ん、ああっ……」
「ん、……は、ねぇ、気持ちいい? キミの言葉で、教えてよ……っ」
律動を止め、言葉を促すように子宮口をぐりぐりと押し潰される。
「あ、っは……そこ、……あっ!」
「ねぇ……どうなの、ねぇ?」
「あっ、あっ、ん……いい、いいよぉ……!」
「っ、はは……やっとキミも、楽しめたみたいだね……ほら、もっとくっついて」
支えられていた両脚を彼の細い腰へと誘導され、言われるがままにそこに巻き付けた。
お腹の奥が気持ちいい。ぐちゅぐちゅと音を立てながら子宮を揺すぶられると、目の前がチカチカした。
自分が自分でなくなったような、おかしな感覚だ。でももう、そんなの何だっていい気さえしてくる。目の前の彼が何者であろうとも、ここまで来たら、もうどうだっていい。
興奮が最高潮に達した彼が覆いかぶさるように力任せに抱きしめてきて、数回ひときわ強く突かれた時、頭の中が白く明滅した。
***
身体中を纏う、強烈な眠気と倦怠感。固くて冷たい、とても寝心地がいいとは言えないチェストの上にぐったりと倒れたまま、霞む視界の中で彼が身なりを整える様子をただ見守っていた。
私自身の身なりは既に整っている。彼が元通りにしてくれた。最後まで大人しく抱かせてくれたから特別に、だそうだ。
行為中に恐怖や混乱で暴れ出す者もいたということだろうか。その人たちが暴れたせいでどんな酷い目にあわされたのかは、あまり考えたくはない。
「じゃあ、ボクは行くよ。またどこかで会ったらよろしくね」
カン……カン……
鐘の音を合図に、彼の身体が空間に溶けていく。足音が途中で止まり、陽炎が向きを変えた気配を感じた。
「……ところで、キミの名前はなんていうの? まだ聞いてなかったよね」
透明な靄に、掠れた喉で出せる精一杯の声量を振り絞り、「名前」と告げる。
「へぇ、覚えておくよ……またね、名前」
程なくして今度こそ陽炎も足音も消え、ようやく一人きりになったのだと実感する。
このあと私は何とか他の仲間たちと合流し、震える足でこの場を脱出したのだけど、同時にこの世界そのものから逃げるすべはないという絶望的な現実を知ってしまった。
他の生存者たちが新入りの私を労わってくれる優しい人たちばかりなことだけが、唯一の希望だ。
焚き火を囲み、みんなの話を聞くうちに、さっきの彼が「レイス」と呼ばれているらしいことも分かった。
しばらくの間、私はその名前を忘れることができそうにない。
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