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レリー記念研究所の端にある、鍵のかかった部屋の中。椅子に腰掛ける男の膝に跨りながら、私は夢中で彼の唇を食んでいた。唇と唇の間のわずかな隙間から抜け出す熱い呼気が、後戻りなどできないほどに興奮を高めていく。
普段の彼は痛々しい開口器具を付けている。それを外す時というのは、例えば食事の時、誰かと言葉を交わす時、コーヒーを飲む時や就寝時。
今はその中に、私とキスをする時、私の性器を舐める時、私に淫靡な言葉をかける時、というのが加わっていた。
数週間前、私はここで彼と取引をした。まだ霧の中に迷い込んで間もないウブな私を、彼は甘ったるい声で誘惑したのだ。
今後君に手出しをしないし、この世界で絶対に味わうことができない快楽を与えると約束しよう。その代わり、儀式の際は私に協力をしろ、と。
頭では分かっていた。右も左も分からない新入りであるということを、都合よく利用されているだけなのだと。
それでも私は従った。突然こんな場所に連れてこられて気が動転していた私は、悪魔の囁きに乗せられてしまったのだ。
「ん……、」
心地よいキスに蕩けていた私の腰を、男の指先がトントンと叩く。
彼は何か言いたいことがある時、いつもそうやって口付けをやめさせる。残虐な殺人鬼らしく強引に引き剥がしたらいいのに。
「っ、……何ですか」
「もう十分だろう」
「嫌でした……?」
「そうではない……だが、いくら何でも長すぎだ」
「すみません、ドクターがこれを外してくれるのが嬉しくて、つい……」
顎の横にぶら下がる開口器具にそっと触れる。ぬるりとした生々しい体液の感触は、さっきまでこの器具が彼の粘膜に接していたという証拠。
正直それだけでくるものがある。お腹の奥が何かを求めるようにヒクヒクと収縮した。
「それくらい、言えばいつでも外してやるが」
「ダメです……私の前でこれを外す時は気持ちよくしてくれる時だという前提があるからこそ、器具を外してる姿に興奮するんですから」
ほんの一瞬だけ、ドクターの表情が緩んだ。
「……パブロフの犬、か」
「ぱ、ぶろふ……?」
「いや、何でもない」
「ん、」
腰がぐっと引き寄せられて、再び唇が重ねられる。
結局のところ、彼も私とのキスは嫌いではないのだ。長すぎると文句を言いつつも、こうして私が満足するまで付き合ってくれるのだから。
唾液で光る舌先を舐め合い、身も心も蕩けてきたら、今度は小鳥のように啄んで。リップ音を鳴らしながら、彼の唇が少しずつ頬へとズレていく。一つ、二つと小さく押し当てたあとで耳元までたどり着き、「続きはどうする」と囁いた。
「今日は、最後まで……」
熱っぽい私の瞳を真っ直ぐに見つめるドクターが、口の端の唾液を舐めとる。
この仕草が、いつも私たちの取引が始まる合図だった。
「……他の奴らの持ち物は?」
「えっと……クローデットが救急キット、ジェイクが工具箱を。ネアは手ぶらでした」
「中身の状態は?」
「……、確認してません……」
「そうか……残念ながら、今回はお預けだな」
「…………」
私の言葉にため息を一つ吐いて、ドクターの視線が逸れた。
そう。これは決して慈善事業なんかでも、純粋な愛から成る行為でもない。あくまで取引なのだ。私は殺人鬼である彼に協力し、その報酬として快楽を得る。ドクターが望むものを用意できないとなれば、私が求めるものだって手に入らない。そういう関係だ。
「さあ、下りろ」
用済みだとばかりに、私を膝の上から下ろそうと脇腹に両手が差し込まれる。
だが、私の中に焦りの気持ちは全くなかった。
脇腹に当てられた両手を制止して、驚く彼の首に腕を絡める。
「ドクター……実は、もっといい情報を用意してます」
ピクリ。反応したドクターの手が下がり、私の腰を抱き直す。口にこそ出さないが、聞く気があるから話せ、という意図なのだろう。心の中でほくそ笑む。
「レリー記念研究所での、私たちの作戦表を持ってきたんです」
「……そんなものを持ち出せば、裏切り者がいるとすぐにバレるんじゃないか?」
「これは書き写しなので平気です。立ち回りと役割分担、何かあった時に落ち合う場所が書いてあります。これが分かれば、今回だけでなく今後しばらく有利に動けますよ。全部で三枚あります」
「ほう……」
「これが一枚目です」と渡した紙切れを、ドクターは隅から隅までじっくりと眺めた。この書き写しが本物であると証明できるものは何もない。だが、緻密な書き込みと現実的な内容からフェイクではないと察したのか、彼は満足気な様子だ。
「……で、二枚目以降はどこにある?」
訝しげに放たれた言葉に、口端が持ち上がるのを抑えられない。興奮から心臓が早鐘を打ち始めるのを感じながら、私は両手を大きく広げる。
「……?」
「探してください」
「何?」
「服の下のどこかにあります。あなたの手で脱がせて、見つけてくれませんか?」
「……フッ、」
皆まで言わずとも、私の思惑を理解したらしい。ドクターは至極楽しそうに高笑いをすると、私を抱えて診察台へと移動した。
直前までのドライな態度はどこへやら、彼の手のひらが無遠慮に身体のあちこちを這い回る。これでようやく、疼いた身体を慰めてもらえる。
「ん、ん……ドクター……」
「……紙切れを見つけた後は、そこで止めてしまってもいいか?」
「や……、意地悪しないでください」
「安心しろ、冗談だ」
この関係をいつまで仲間にバレずに続けられるのかは分からない。こんなもの、危険な賭けでしかないのだから。自ら彼を求めるようになってしまった以上、脅されたという言い訳も通用しないだろう。
それでも私はスパイを続ける。
彼がその手で与えてくれる刺激的な快感を、忘れることなんてできるわけがないから。
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