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あなたが並々ならぬ執着心を持っていることは知っていた。
一度目をつけたらその命が尽きるまで徹底的に追ってくる。どんな攻撃を受けても立ち上がって迫ってくると、あなたの妹であるローリーからそう聞いていたから。
それでも私は、あなたの大きな手に、広い背中に、強い力に、漏れ聞こえる息遣いに夢中になってしまった。
やめておけばいいのに、あなたの姿を見かけるたびにそっと後を着け、時にはわざと切られてみたりもした。その大きな手のひらに捕まれ、たくましい肩に担がれる瞬間は、何にも替えがたい幸福だったから。
そんな馬鹿な私だから、あなたの興味の矢印が徐々にローリーから私へと移り変わりつつあることに喜びを感じてしまった。
逃げ惑うローリーの背中を庇おうとしても前はすぐに地面に切り伏せられてしまっていたのに、今ではターゲットを私に切り替え追ってくる。嬉しくてたまらなかった。
ある時、試しに好意を示してみたら、あなたはそっと歩み寄り、力強く抱きしめてくれたっけ。作業着に染み込んだ血の匂いがあんなに心地よく感じる日が来るなんて思ってもみなかった。私も大きな背中に腕を回した。
数日前には、森の中で摘んできたらしい綺麗なジャスミンをプレゼントしてくれた。いい香りのする可愛らしい花びらが少しだけ血で汚れていたのが美しく見えた。
ごく普通の生存者の一人だというふりをしながらこっそり行うあなたとの逢瀬は、思考が蕩けるほどに楽しくて、私はすっかり浮かれてしまっていた。
「う、……マイ、ケル……」
これはきっと、その報いなんだろう。
肉フックにかけた後も目の前から離れようとしないマイケルが、周囲になんて目もくれず、私だけをただ真っ直ぐに見つめている。
この状態になってから、いったい何分が経過しただろう。長時間の激痛に耐えきれず失禁した私の足もとで、地面に注ぐ体液が跳ねている。その飛沫が彼の靴にも飛んでいるのに、彼はそれを気にもとめない。
吊ったことで目線の高さが合うようになったことを喜ぶように、マイケルはその場からピクリとも動かなかった。
今思えばこうなる兆候はあった。ひと月ほど前から、マイケルは吊られた私を救助してくれた生存者を確実に仕留めるようになったのだ。相手が男でも女でも彼は容赦なく刺していたが、男の場合は特に執拗だった。
自分以外の男に守られながら並んで走り去っていく私の姿に、マイケルは深く嫉妬し、感情が爆発してしまったんだろう。
確かに、こうして目の前にピッタリ張り付いていれば、誰も私を救助できない。
エンティティの目がある以上吊らないわけにはいかないが、かといって自分以外の人間に肩を支えられて逃げる私を見たくない……これは、そんな彼が見出した妥協点なんだ。
「あ、……うあ……痛い、いたい……」
フックが突き刺さる背中の傷口がジンジンと痛んで、たまらず声を出してしまう。
意識を手放すまいと荒く呼吸を繰り返していると、すぐ近くの物陰から足音が微かに聞こえた。目線だけを動かして見る。生存者たちの姿がほんの一瞬目に入る。
彼らは仲間のうちの誰かを囮にしてでも私を助けようとしてくれている。迂闊で、間抜けで、どうしようもなく馬鹿な、こんな私を。
殺人鬼なんかに惚れ込んでしまったがために起こった状況なのだということも知らずに。
マイケルが私の視線をたどった。ダメだ、バレている。今回はもう無理だ。
せめて私以外のみんなには無事に逃げ延びてほしい。こんな私のために犠牲になる必要なんてない。最後の力を振り絞って、みんなに「逃げて」と伝えようとした。
そうして口を開いたのとほとんど同時くらいだった。マイケルがマスクの口元を捲りあげた。
「ん、ん……っ!?」
熱くてぬるぬるしたものが、私の乾いた唇に擦り付けられる。いきなりのことに驚いて背けようとした顔が、大きな両手に包み込まれて動かせなくなる。
「ふ、っ……あ、マイケ、……んっ」
震える手で肩を押しても、彼は口付けをやめてくれない。視界の端に仲間たちの絶句する表情が見えて焦ったけれど、たぶんもう手遅れだ。今までずっと仲間たちに隠していた彼との関係が、これで全て知られてしまった。
これはきっと試練であり、罰だ。くちゅくちゅと唇を侵されながら、ぼんやりとそう思った。
あなたの異常なまでの執着心を知りながらまんまと心を許してしまった私が背負うべき当然の罪なんだ。
今日から私は、殺人鬼でも生存者でもない、中途半端で居場所のない存在にならなければいけない。いや、あるいはもうなっていたのかもしれない。敵であるマイケルに心奪われてしまったその瞬間から。
「んん、……は、あ……」
物陰に潜む生存者たちに見せつけるように続く口付けが、どんどん激しさを増していく。やがてカランと包丁が落とされて、自由になった彼の手のひらが私の身体の線をなぞるようにまさぐり始めた。
複数の足音が遠のいていく。
ああ、みんなどんな気持ちで逃げたのだろう。絶望と安堵が入り混じった複雑な感情が溢れ返って、身体から力が抜けていく。
「う、うっ……っ、」
「…………」
いよいよ独りになってしまったのを実感して急に怖くなる。震える手でマイケルの肩にしがみついた途端、堰を切ったように涙が出てきた。
頬を伝い、顎の下に落ちていく無数の涙の粒を、マイケルは不思議そうに眺めている。私が何を恐れているのか、彼にはよく分からないのだろう。
はらはらと流れて止まらない涙を、彼の熱い舌が絡め取る。舐めても舐めても止まることなく流れ続けるそれを見て、彼は再び私の唇をそっと塞いだ。
何も解決していない絶望の中でも彼のその小さな気遣いに温もりを感じてしまう私は、筋金入りの馬鹿だと自分でも思う。
それでもやっぱり、彼を愛する気持ちは止められそうにない。だからこそ苦しいのだ。
二人の周りを取り囲むようにして現れた真っ黒な節足は見えないふりをして、私は目の前の筋肉質な首に両手をまわした。
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