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この霧の森で生存者の拠点として使われている建物は、ボロボロの木造建築だった。壁は薄く、防音性に欠ける。一応部屋はいくつかあるが、どの部屋も作りは同じだ。
環境が環境なので、音が筒抜けという問題は生存者たちの共通の悩みだった。
そんな拠点のとある部屋のドアの前。壁面にピッタリと耳をくっつけ、息を殺す者たちがいた。
ドワイトにデイビッド、ネア、そしてメグの四人が、上下左右にひしめき合いながら各々真剣に聞き耳を立てている。
「あ……んん、もう少し上……」
「もう少し……このへんか?」
「うん……そこでいいよ、お願い」
「分かった」
彼らが盗み聞きをする部屋の中にいるのは、ジェイクと名前の二人だ。交わす会話と僅かな布ズレのような音が、ドアの向こうから時折聞こえてくる。
何やら意味ありげなそのやり取りに、ドアに張り付くメンバーたちは顔を見合わせる。
最初にここを通りかかったのはデイビッドだった。何気なく廊下を歩いていたところ、ジェイクの部屋から女性らしき声が聞こえることに気づき、つい足を止めてしまった。
あのジェイクが自室に女性を連れ込んでいる。どうやら声の主は名前らしい。しかも、何だかいい雰囲気に聞こえなくもない。そこまで分かった時、反対側から歩いてきた他の三人に見つかってしまい、今の状況ができあがったというわけだ。
「ねぇ、もうやめようよ……二人に失礼だよ、こんなの……」
不安げにおどおどと提案するドワイトの肩を、デイビッドが拳で小突く。
「何だよドワイト、お前だって最初は気になってたくせに」
「だ、だって、何だか……」
「おいおい、さてはお前、変な想像してるんじゃねぇか?」
「なっ……べ、別にそんなことっ……! というか、内容が何であれ失礼なものは失礼だよ……」
「だったらお前だけ離れたらいいだろ」
「ねぇ、二人ともうるさいんだけど」
ネアの一声で、デイビッドとドワイトの小声での争いがピタリと止む。
失礼だと物申したドワイトだったが、結局彼もその場から離れることはせず、ドアに耳を当て直した。人付き合いの苦手な彼でも、仲間内の恋愛模様は気になるらしい。
部屋の中からは相変わらず二人の声が聞こえてくる。蕩けきった声というわけでもなく、かといってドライな感じでもない。まるでピロートークや前戯のような声色に、一同はどうしても「そういう行為」を想像せずにはいられなかった。
もちろん、部屋の中が見えるわけではないため、具体的に何が行われているのかは想像するしかない。そのもどかしさが、彼らをドアから離れがたくする。
「なあ、アンタはどう思うんだよ、ネア」
「どうって?」
「アイツら、部屋ん中でヤってると思うか?」
とうとう身も蓋もないことを言い出したデイビッドに、一瞬引き気味な表情をしたネア。ドワイトとメグも振り向いて、三人の視線が一気に彼へと集まる。
「さあ……セックス中なら、もっとうるさいんじゃないの」
「口淫だけしてるとかかもしれないぜ? それに、アイツらの性格を考えればこれくらい静かな方がイメージに合うだろ」
「はぁ……アンタってほんと、」
その時、ネアの言葉を遮るようにして、「痛っ!」と一際大きな名前の声が響いた。そして直後に「あっ、悪い」という焦りを含んだジェイクの謝罪が被せられる。
デイビッドに向けられていた彼らの視線が、瞬時にドアの方へと向かう。
「痛かったろ? 大丈夫か……?」
「う、うん、大丈夫……もう少しだけ優しくしてくれる?」
「えっと……こうか?」
「ん、……ふふ、それだとくすぐったい」
「んー、力加減が難しいな……」
もはやそういうことをしているとしか思えないやり取りを聞いてぽかんとする一同を他所に、ドアの向こうの二人の会話はどんどんエスカレートしていく。
「でもジェイク、前より上手くなったよね。何度もお願いしてるからかな?」
「そうか? まあ、いつも俺だけがいじってもらうばかりだと悪いしな」
「そんな、いいのに……私はやりたくてやってるんだから」
「物好きだよな、こんなこと頼んでもしてくれない人の方が多いってのに」
もはや言い逃れなどできないほどに、二人の会話は赤裸々だった。
デイビッドはニヤニヤしながら「へぇー」「ふぅん」と一人で相槌を打ち、ネアはまさかあの二人が……というような驚きの表情のまま固まり、メグは頬が潰れてしまいそうなほどにドアに押し付け、ドワイトは顔を真っ赤にしてわなわなと震えている。
ドワイトの耳が林檎のように火照っていることに気づき、デイビッドが「おい、大丈夫か?」とからかうように肩に手を乗せる。彼の声など耳に入らないほどに茹で上がっていたドワイトは、ビクリと全身を震わせると、そのままバランスを崩してしまった。
ガタン。
大きな音を立てて尻もちをついたドワイトを筆頭に、三人が次々とバランスを崩していく。
部屋の中の会話がぴたりと止む。まずい、早くここから逃げなくては。四人がそう思って腰を上げたのと同時に、部屋のドアは開かれた。
「え、……みんな何してるの? 大丈夫? すごい音がしたけど……」
部屋の前でしゃがみこむ奇妙な四人を前に、困惑気味の名前。彼女は下着姿でもなければ、衣服に乱れの一つすらない。いつもと何ら変わらないその姿を見て、四人は一気に身体が脱力するのを感じた。
ドアノブに手を置く名前の腕越しに、ベッドに腰掛けたまま睨むような目付きをしているジェイクが見える。何がなにやら分からない様子の名前と違って、勘の鋭い彼はだいたいの事情を察したらしい。
そしてもちろん、名前と同様に彼もしっかりと服を着込んでいる。
部屋の中で情事が行われているに違いないというのは四人の盛大な勘違いだったわけだが、かといって本当は何をしていたのかなんて改めて聞ける雰囲気でもない。
「あー……えっと、私らは、その……」
「……? ジェイクに何か用でもあった?」
「えっ? あー、そうそれ! 私たち用事があったんだけど……ここに来たら忘れちゃって。だからその、またねっ!」
「へ? ちょ、ちょっと……!」
終始視線が泳ぎっぱなしだったネアが、言い終わるなり三人の背中を押して走り去っていく。わけも分からないまま取り残されてしまった名前は、黙って彼らを見送ることしかできず……
必死な様子で駆けていく四人は、殺人鬼に追われている時よりも素早く動けているように見えた。
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