魔法って言っていいかな?
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「さてと」
明け方。深い藍色が朝日に溶ける頃、浦原喜助は人知れず穿界門を開く。髭は綺麗に剃られ、髪も心なしか整っているように見える彼を横目に夜一は放った。
「喜助、どうした」
いつもだったらこの時間から眠りに入るのに何か起こっているのか、とでも言いたそうな表情である。
「ちょっと...野暮用で。」
「ふーん?」
大して気にもしていないのだろう。黒猫姿でまたすぐに丸くなってしまった。
彼女が亡くなってから1ヶ月。そろそろ流魂街に着いた頃だろう。早くこの目で存在を確かめたい。会いたい気持ちは日に日に強くなりいてもたっても居られなくなった。目の前に現れたら。どんな顔をするだろうか。驚いて目を丸くする姿が容易に想像できる。彼女のことを考えるだけで頬が緩んだ。
「んじゃ!いってきまーす♪」
ヒラリと真っ黒い羽織を翻し、颯爽と彼女の元へ向かった。
目覚めたらそこは知らない街並みだった。江戸時代を思わせる長屋が続いており、そこに人々が肩を寄せあって暮らしていた。お腹が空き、途方に暮れていたところ好意でおばあちゃんに迎え入れられ、食事が運ばれてきても全く現実味がなかった。ただひたすらここに来るまで何をしていたのかを必死に思い出していた。
カンカンというけたたましい音でふと我に返る。驚いて窓から外をみると、真っ赤な夕暮れが目に飛び込んできた。もう4時になったそうだ。おばあちゃんの心配そうな顔がこちらを覗き込んでいた。
「私、大切なことを忘れてしまった気がしていて。」
「ここに来る人は大体そうだよ。色々なことが急に変わって自分が何をしていたのかわすれてしまう。」
でも大丈夫とおばあちゃんは続ける。
「すぐに思い出せるさ。...でも何十年、何百年という時を重ねて、それは遠い昔の出来事になってやがて忘れてしまうんだよ。」
最後の方はやはりほとんど耳に入っていなかった。ただ、ここに来てから、身体がやけに軽くてふわふわふわふわ宙に漂っているようでどうも落ち着かない。これも何年、何十年と時が経てば慣れてしまうのだろうか。
「ご馳走様でした。」
そう言って、席を立ち外に出る。
「またきっと、戻ってきてくださいね。それに...夜は危ないですよ。」
はい、とだけ言い残し街並みをずんずん進んでいった。
明るいうちに帰れば問題ないだろう。この街がどのようになっているのか気になった。しばらく続く長屋を過ぎると、大きな丘があり桜の木が1本だけ立っていた。もう満開は過ぎて、所々葉桜になっている。吸い寄せられるように分厚い木の皮に触れた。
「きれい...」
思わず目を奪われこぼした言葉と同時に、目からは大粒の涙がぽたぽたとこぼれ落ちた。
「あれ?」
どうしてこんなにも悲しいのだろう。ずっと苦しくて、辛くて、でも支えてくれた人がいた。何度でも生きたいと思わせてくれた人がいた。そうだ、どうしようもなく会いたい人がいたのだ。
「喜助さん。」
込み上げた思いを抑えようと両手で涙を必死に拭った、その時。
「りんさん。」
何度も聞いた声が降ってきた。聞き間違いかはたまた空耳か。驚いて振り向くと同時に大きな腕に包まれる。
「探すのに、丸1日かかっちゃいました。」
大好きな匂いがして更に涙が溢れた。ほとんど涙で見えないがバツが悪そうに頭をかいている。彼の癖だ。
こんなに大切な人を、どうして忘れていたんだろう。
風が音を立てて吹いた。
一瞬で涙も髪も全てをさらっていく風に身を任せ、もう何度したか分からないキスをした。降り注ぐ花びらが、焼けるほどの赤い夕日が、私たちを包み込んだ。
「もう放さない」
喜助さんも泣いていた。
もう一度存在を確かめるように、キスをくれた。
明け方。深い藍色が朝日に溶ける頃、浦原喜助は人知れず穿界門を開く。髭は綺麗に剃られ、髪も心なしか整っているように見える彼を横目に夜一は放った。
「喜助、どうした」
いつもだったらこの時間から眠りに入るのに何か起こっているのか、とでも言いたそうな表情である。
「ちょっと...野暮用で。」
「ふーん?」
大して気にもしていないのだろう。黒猫姿でまたすぐに丸くなってしまった。
彼女が亡くなってから1ヶ月。そろそろ流魂街に着いた頃だろう。早くこの目で存在を確かめたい。会いたい気持ちは日に日に強くなりいてもたっても居られなくなった。目の前に現れたら。どんな顔をするだろうか。驚いて目を丸くする姿が容易に想像できる。彼女のことを考えるだけで頬が緩んだ。
「んじゃ!いってきまーす♪」
ヒラリと真っ黒い羽織を翻し、颯爽と彼女の元へ向かった。
目覚めたらそこは知らない街並みだった。江戸時代を思わせる長屋が続いており、そこに人々が肩を寄せあって暮らしていた。お腹が空き、途方に暮れていたところ好意でおばあちゃんに迎え入れられ、食事が運ばれてきても全く現実味がなかった。ただひたすらここに来るまで何をしていたのかを必死に思い出していた。
カンカンというけたたましい音でふと我に返る。驚いて窓から外をみると、真っ赤な夕暮れが目に飛び込んできた。もう4時になったそうだ。おばあちゃんの心配そうな顔がこちらを覗き込んでいた。
「私、大切なことを忘れてしまった気がしていて。」
「ここに来る人は大体そうだよ。色々なことが急に変わって自分が何をしていたのかわすれてしまう。」
でも大丈夫とおばあちゃんは続ける。
「すぐに思い出せるさ。...でも何十年、何百年という時を重ねて、それは遠い昔の出来事になってやがて忘れてしまうんだよ。」
最後の方はやはりほとんど耳に入っていなかった。ただ、ここに来てから、身体がやけに軽くてふわふわふわふわ宙に漂っているようでどうも落ち着かない。これも何年、何十年と時が経てば慣れてしまうのだろうか。
「ご馳走様でした。」
そう言って、席を立ち外に出る。
「またきっと、戻ってきてくださいね。それに...夜は危ないですよ。」
はい、とだけ言い残し街並みをずんずん進んでいった。
明るいうちに帰れば問題ないだろう。この街がどのようになっているのか気になった。しばらく続く長屋を過ぎると、大きな丘があり桜の木が1本だけ立っていた。もう満開は過ぎて、所々葉桜になっている。吸い寄せられるように分厚い木の皮に触れた。
「きれい...」
思わず目を奪われこぼした言葉と同時に、目からは大粒の涙がぽたぽたとこぼれ落ちた。
「あれ?」
どうしてこんなにも悲しいのだろう。ずっと苦しくて、辛くて、でも支えてくれた人がいた。何度でも生きたいと思わせてくれた人がいた。そうだ、どうしようもなく会いたい人がいたのだ。
「喜助さん。」
込み上げた思いを抑えようと両手で涙を必死に拭った、その時。
「りんさん。」
何度も聞いた声が降ってきた。聞き間違いかはたまた空耳か。驚いて振り向くと同時に大きな腕に包まれる。
「探すのに、丸1日かかっちゃいました。」
大好きな匂いがして更に涙が溢れた。ほとんど涙で見えないがバツが悪そうに頭をかいている。彼の癖だ。
こんなに大切な人を、どうして忘れていたんだろう。
風が音を立てて吹いた。
一瞬で涙も髪も全てをさらっていく風に身を任せ、もう何度したか分からないキスをした。降り注ぐ花びらが、焼けるほどの赤い夕日が、私たちを包み込んだ。
「もう放さない」
喜助さんも泣いていた。
もう一度存在を確かめるように、キスをくれた。