魔法って言っていいかな?
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最後に2人で過ごしたのは涙が出そうな朝焼け。
幼い頃からほとんどをこの病室で過ごして、痛くて怖くて辛いだけだったこの部屋があなたに出会ってからいつの間にか明るくて暖かい場所に変わっていた。
あなたの誕生日が終わって新年を迎えた初日の出。まだ一緒にいたい。あなたの体温を覚えていたい。離れたらすぐに心臓が止まって、冷たくなってしまいそうだ。あなたの温もりが消えてしまうのが怖くてたまらなかった。朝日に照らされた儚くも崇高な喜助さんの横顔。握った手のひらの感触、頬をくすぐる髪の柔らかさ、そして胸の鼓動は病気のせいではない。表情から仕草、一つ一つを今も鮮明に覚えている。あれから何週間か経ったらしい。
喜助さん。
心の中でそっと呟いた。
鳴り止まない電子音、両親の泣き叫ぶ声。最近新しく入った看護師さん、仲のいい看護師さん、ずっと診ていてくれた先生。大丈夫だよ。もういいよ。笑ってよ。
私はもう死ぬのだろう。いや、もしかしたらもう死んでいるのかも。タバコの煙が宙に舞うように、角砂糖がコーヒーに溶けていくように、私もこの世界と一体になるのだろう。そんな不思議な感覚。苦しくはなかった。もう怖くもなかった。
人は死んだらあの世に行くらしい。
「みんな言うけど、あの世ってどんなところ?」
「んー。みんな優しくていい所ッスよ〜ん?」
喜助さんはいつものように素っ頓狂だった。
「そっか〜」
なんて適当に返しながら暫く考え込んでいたっけ。
出会った日のことを思い出していた。
あれは、ちょうど一年前。
私の寿命がもう長くはないと知った日。
1人で帰りたいと言って、糸の切れた凧のようにふわふわふわふわ街の中を彷徨っていた。気づいたら夕暮れをとうにすぎ空は深い深い藍色に変わってしまっていた。空を見上げていたがふと我に帰る。気づくと歩道橋の真ん中に立っていた。手すりに捕まり下を通り過ぎる車を何台も見送る。ここから飛び降りたら、なんて想像はもう何百回もしているが今日こそは本当に飛んでしまおうか。寒くて暗くてひたすらに怖くて震えていた。動悸が強くなっていく。そっと足をかけた。息ができない。苦しい。
「はっ....はぁはぁ....っ....」
手に力がこもる。動悸が早く、強くなり額から首から汗が吹き出してきた。ああ、やっと。やっとか。そのまま片足に力を込めて、上半身から宙に浮いて頭から落ちていき、地面か車か、硬い何かにぶつかってそのまま.....だが、それは想像で終わった。勢いよく後ろから手を引かれたのだ。気付くのには些か時間がかかった。多少の痛みとともに我に帰る。力強い腕。誰だろう。身動きが取れないほどに誰かに後ろから肩を抱かれていた。
「待ってください。」
その力強さとは大きく異なり、柔らかい声が上から降ってくる。噛み締めるような、諭すようなそんな佇まいで私はしばらく動けずにいた。
抜け出そうにも抜け出せず、動悸はおさまったが緊張からか恐怖からなのか鼓動が早くなるのがわかった。
「あ...あの...離していただけませんか」
どれくらい時間が経ったのだろう。私の声に、相手も我に帰ったのか驚いたように
「...あっ!...すいません。つい〜...。」
と、すぐに手を離して何だかバツが悪そうに顎をポリポリとかいて彼は目を背けた。向かい合うと、風が強く吹いた。まるで私たちの出会いを歓迎しているように風が2人の髪を弄んで通り過ぎて行く。180はあるだろうか、見上げるほどの身長差がある。ミルクティーのような優しい色の髪が寒風に揺れている。整った顔をしているのに、作務衣と下駄とはどう言う趣味だろうか。こんな年明けにサウナ帰り?...色々巡らせているうちにここから飛び降りようとしたことなどとうに忘れていた。
それが彼、喜助さんとの出会いだった。
1年一緒に過ごして分かったことがある。
「死にたくなったらとりあえず、明日死のうって思うのはどうっスかね?日々、今日を生きられたらそれで良いじゃないの。」
「あのね、喜助さん。そんなに楽々生きていけないよ。月に叢雲、花に風って知ってる?」
死ぬことは怖いこと。
もはや、嵐よ。考えるだけで他のことはどうでもよくなる。何もできなくなる。
そう言うとあなたはいつもこう言うのだ。
「あの世もいいところですよ。りんさん?」
死についてなんの恐怖もないのだろうか。
大好きな手が長い黒髪を撫でて、頬に手が触れる。目を閉じるといつも甘いキスが降ってくる。
ねぇどうしてあの時私を助けたの?
次に会ったら聞いてみようと思う。
きっとどこかでまた。
幼い頃からほとんどをこの病室で過ごして、痛くて怖くて辛いだけだったこの部屋があなたに出会ってからいつの間にか明るくて暖かい場所に変わっていた。
あなたの誕生日が終わって新年を迎えた初日の出。まだ一緒にいたい。あなたの体温を覚えていたい。離れたらすぐに心臓が止まって、冷たくなってしまいそうだ。あなたの温もりが消えてしまうのが怖くてたまらなかった。朝日に照らされた儚くも崇高な喜助さんの横顔。握った手のひらの感触、頬をくすぐる髪の柔らかさ、そして胸の鼓動は病気のせいではない。表情から仕草、一つ一つを今も鮮明に覚えている。あれから何週間か経ったらしい。
喜助さん。
心の中でそっと呟いた。
鳴り止まない電子音、両親の泣き叫ぶ声。最近新しく入った看護師さん、仲のいい看護師さん、ずっと診ていてくれた先生。大丈夫だよ。もういいよ。笑ってよ。
私はもう死ぬのだろう。いや、もしかしたらもう死んでいるのかも。タバコの煙が宙に舞うように、角砂糖がコーヒーに溶けていくように、私もこの世界と一体になるのだろう。そんな不思議な感覚。苦しくはなかった。もう怖くもなかった。
人は死んだらあの世に行くらしい。
「みんな言うけど、あの世ってどんなところ?」
「んー。みんな優しくていい所ッスよ〜ん?」
喜助さんはいつものように素っ頓狂だった。
「そっか〜」
なんて適当に返しながら暫く考え込んでいたっけ。
出会った日のことを思い出していた。
あれは、ちょうど一年前。
私の寿命がもう長くはないと知った日。
1人で帰りたいと言って、糸の切れた凧のようにふわふわふわふわ街の中を彷徨っていた。気づいたら夕暮れをとうにすぎ空は深い深い藍色に変わってしまっていた。空を見上げていたがふと我に帰る。気づくと歩道橋の真ん中に立っていた。手すりに捕まり下を通り過ぎる車を何台も見送る。ここから飛び降りたら、なんて想像はもう何百回もしているが今日こそは本当に飛んでしまおうか。寒くて暗くてひたすらに怖くて震えていた。動悸が強くなっていく。そっと足をかけた。息ができない。苦しい。
「はっ....はぁはぁ....っ....」
手に力がこもる。動悸が早く、強くなり額から首から汗が吹き出してきた。ああ、やっと。やっとか。そのまま片足に力を込めて、上半身から宙に浮いて頭から落ちていき、地面か車か、硬い何かにぶつかってそのまま.....だが、それは想像で終わった。勢いよく後ろから手を引かれたのだ。気付くのには些か時間がかかった。多少の痛みとともに我に帰る。力強い腕。誰だろう。身動きが取れないほどに誰かに後ろから肩を抱かれていた。
「待ってください。」
その力強さとは大きく異なり、柔らかい声が上から降ってくる。噛み締めるような、諭すようなそんな佇まいで私はしばらく動けずにいた。
抜け出そうにも抜け出せず、動悸はおさまったが緊張からか恐怖からなのか鼓動が早くなるのがわかった。
「あ...あの...離していただけませんか」
どれくらい時間が経ったのだろう。私の声に、相手も我に帰ったのか驚いたように
「...あっ!...すいません。つい〜...。」
と、すぐに手を離して何だかバツが悪そうに顎をポリポリとかいて彼は目を背けた。向かい合うと、風が強く吹いた。まるで私たちの出会いを歓迎しているように風が2人の髪を弄んで通り過ぎて行く。180はあるだろうか、見上げるほどの身長差がある。ミルクティーのような優しい色の髪が寒風に揺れている。整った顔をしているのに、作務衣と下駄とはどう言う趣味だろうか。こんな年明けにサウナ帰り?...色々巡らせているうちにここから飛び降りようとしたことなどとうに忘れていた。
それが彼、喜助さんとの出会いだった。
1年一緒に過ごして分かったことがある。
「死にたくなったらとりあえず、明日死のうって思うのはどうっスかね?日々、今日を生きられたらそれで良いじゃないの。」
「あのね、喜助さん。そんなに楽々生きていけないよ。月に叢雲、花に風って知ってる?」
死ぬことは怖いこと。
もはや、嵐よ。考えるだけで他のことはどうでもよくなる。何もできなくなる。
そう言うとあなたはいつもこう言うのだ。
「あの世もいいところですよ。りんさん?」
死についてなんの恐怖もないのだろうか。
大好きな手が長い黒髪を撫でて、頬に手が触れる。目を閉じるといつも甘いキスが降ってくる。
ねぇどうしてあの時私を助けたの?
次に会ったら聞いてみようと思う。
きっとどこかでまた。