余録
兎と鷺の話 制作秘話・裏話 ~Part.1~
2026/05/26 20:20兎と鷺の話
●2026/05/22
さて、話せば長くなるのですが、まずリエーヴとエグレという二人のキャラクターが生まれた経緯から。
きっかけは入試問題です。何の??……順を追って話していきますね。
社会人になってからも月に一度の頻度で、生存報告を兼ねて高校・大学時代のリア友とオンラインで会合をしておりまして。彼女たちとは、まぁ性癖・趣向の点においても、推しの傾向もCPも、生息ジャンルも創作スタイルも、笑ってしまうくらい違うのですがしかし桃園の誓いのように「われら棲む沼や性癖は違えども、爆死するときは同じ日同じ時を願わん」みたいな感じで、まぁ馬が合いまして。毎回それぞれ色んなものを持ち寄り、時に一方的に語り、時に傷を舐め合い、楽しく暮らしておるのでありました。第一話、完。
そんな会合で、私が昔から悪ふざけでやっているものが前述の「入試問題」。腐女子大学という架空の大学の入試問題と銘打ち、性癖のリトマス試験紙みたいなものを作ってはリア友に解かせて楽しんでいる、腐女子の腐女子による腐女子のための遊びです。正答や正解はありません(重要)。で、そんな入試問題に登場したのがこの二人だったのでございます。以下、令和○年 腐女子大学入試問題 より抜粋。
ーーーーー
【問1】次のCPのプロポーズの言葉を考えなさい。ただし、CPの受け攻めが分かるようCP名とプロポーズの言葉を発した者の名前も述べること。
(中略)
③
リエーヴ
どんな戦場からも無傷で帰還するエースパイロット。桁違いの撃墜数と戦績を有し、その甘いマスクと爽やかで隙のない振る舞いから熱烈な女性ファンも多い伊達男。しかし本当は誰よりも臆病で怖がりな、ただ死にたくないから生き延びてきた「回避と殺しの天才」。愛機のコクピット内には魔除けやお守りがいくつも飾られ、いつも縋るように握りしめられる操縦桿やボタンなどは摩耗して塗装も剥げてしまっている。
エグレ
戦場を知らない機体整備士。以前は設計部門の隠れた名手であったが、組織内の派閥争いで整備部門へ左遷された。内地の上流階級出身であるため、戦地の現状も凄惨な戦闘もどこか別の世界のことのようにしか思えず、平和ボケした発言をすることもしばしば。何も知らない、けれどリエーヴの機体のことなら世界でただ一人、誰よりも知っている。
ーーーーー
と、まぁこんな風に。問題を作った当時は、まさか自分がここまで自家中毒で狂い、小説まで書くとは思っておりませんでした。ちなみに腐女子大学入試問題は現時点で過去3年分くらいございまして、我々の間でしか存在しない一次創作オリジナルBL概念が他にも山ほどあるという事実。いつかどこかで何らかの形で公開出来たらいいですね。願書受付中です(?)
以前、更新履歴でも少し触れた、二人の名前の由来について。
リエーヴは、フランス語の「野兎(Lievre)」から取っております。名づけにあたり、彼は「逃げることしか抗う手段を持たない被食者」というイメージがありましたので、鼠・小鳥・鹿などの候補の中から兎を選びました。軽薄でプレイボーイな印象、詐欺の由来、ラビッツ・フットというお守りの存在、鳴き声の小さな実験動物、寂しがりで臆病な愛玩動物……思い返してみれば、存外かなりキャラ造形に合致したネーミングにできたように思います。スペルは恐らく「Lieve」となるのですかね。オランダ語でまた違う意味の形容詞になるそうですが、それも含めて彼らしいように思います。うーん手前味噌。
エグレは、英語の「白鷺(egret)」から取りました。更新履歴で述べた「兎の対となる生き物は鷺」という私の摺りこみ誤認識が由来ですが、少なくともリエーヴの対としては良いネーミングになっている…と思いたい。浮世離れするほどに白い翼の、水際に立つ美しい鳥。リエーヴではなく、あえて彼に鳥の名を冠した皮肉も、いい味になっているのではないでしょうか。なってたらいいな。
敏い読者の皆様はもう気づいておられるかもしれませんが、二人のビジュアルについても触れておきましょう。
彼らが正解のない「入試問題」出身のキャラクターである、というのが多分に影響しているのですが、あえて二人の見た目については言及を避けています。白い塗り絵のようなものです。輪郭だけを決めて、目の色、髪の色、そういった特徴描写を封印して読者に委ねる形で本編を綴りました。視覚情報を制限しても成立するのは、小説という表現形式の大きな利点ですね。似たようなことを以前『百夜通ひて(金カム・尾月 遊郭パロ)』でも試みましたが、今回は少し意図が違います。
直近でAC6にハマっていたことも影響している気がしますが、当方の意図としては「あなた(読者)の想像する二人を愛してあげてください」。そう、宙船でございます(?)
私には私の幻覚が、あなたにはあなたの幻覚があります。どちらも正しくて間違っているから、信じたいものを信じてくださいね、という。こうあってほしい、こうだったら嬉しいな、という余地こそが我々オタクの踊り場ですから、解釈というオールでしばき合いながらLet’sダンス!! 踊らにゃ損。
あなたの頭の中に浮かんだ二人の姿は、どんなものでしょうか。文字書きが生んだ塗り絵を楽しんでいただければ幸いです。二次創作、三次創作、感想、すべて大歓迎です。お前も鬼にならないか。
タイトルは無題のままでいいのか? という問題。
現時点では無題です。いいタイトルが浮かべば付けるかもしれませんが、なんだかタイトルをつけてしまうのも違う気がして。あとなんか一次創作オリジナルBL小説にタイトル付けるの恥ずかしくないですか? そんなことない?? そうか。
呼称が無いのは不便なので便宜上は『兎と鷺の話』と呼ぶことにします。今決めました。タイトルではないです。
ノベルゲームみたいにEND分岐にはそれぞれタイトル付けてもいいかな、とは思うんですけどね。タイトルというよりエンディング名か。本編は『蒼穹エンド』、IFルートは『鳥籠エンド』みたいな。
好きなものを好きなだけ全部盛りした一次創作オリジナルBL小説を書くにあたり、改めて己の性癖と向き合うなどしていたのですが、なんだか自伝を書いている気分になりました。
全体的な空気感のウエイトを占めているのは宮崎駿監督だと思います。知ってた。『風立ちぬ』であったり、『風の谷のナウシカ』であったり、『紅の豚』であったり。『君たちはどう生きるか』『天空の城ラピュタ』『ハウルの動く城』『ゲド戦記』あたりのエッセンスも沢山。そこに『永遠のゼロ』やら、『聞けわだつみの声』やら、『この世界の片隅に』やら、『ゴジラ -1.0』やら、戦争文学関連。付随して『平家物語』なんかの軍記物語も…? 私自身、出身が某県であり、身近に触れられる環境だったことも影響しているでしょう。
今まで推してきたCPや二次創作も欠片が練りこまれております。意図せず焼き直してしまった場面や描写も多く、そういうのが好きなんだな、と改めて。風呂シーン書くの好きすぎでは??とか、お前また尊厳破壊ネタか… とか。全くもってごもっともです。三つ子の性癖百まで。
シャンデリアが砕けるさまが見たいのだ、という話はしたでしょうか。記憶がない。会合の場で話しただけ? いい機会なのでここでも話しておくことにします。
美しく煌びやかで、誇り高く高価で、繊細で脆い。けれど誰の手も届かぬところにあるもの。きらきらと輝きを降らせるもの。そんなシャンデリアが落ちることを望む性癖を患っています。自重に耐えられず、あるいは誰かに撃ち落されて。華々しい破壊音とともに砕け散る、そんな概念。位置エネルギーによる破壊力であったり、観衆の前で壊れて踏みにじられるさまであったり、そういうのが好きなのでございます。破壊の美学、破滅の美学、散る桜、大艦巨砲主義、落城、盛者必衰。
人と神の概念、星の光、赤とんぼ構文、春風、燕雀安くんぞ鴻鵠の志を知らんや。私の性癖…というか作風には、そういったものがよく表出しますが、その中で最も暴力的なのがシャンデリアへの眼差しかもしれません。私はこれを少なくともお空の兄上、FGOのコンス11世に向けてきました。何の話をしているのかさっぱり分からねぇぜ!! って方はすみません。過去作を読んでいただければ言わんとすることは分かるはずです。分かる……はずです。分かるか?? うーん。性癖のベース部分というか、蒸留すると出てくる成分というか。いや~~言語化が難しくてェ……(ろくろを回す仕草)
とりあえずIFルートの執筆を頑張ります。現時点で7割ほど粗で書き上がっておりますので、運が良ければ今月中には完成させられるのではないかと。しっかり煮詰めた地獄にできますように。乞うご期待。
追記
●2026/05/26
IFルート『鳥籠』、初稿が完成したので追記をば。
リア友とオンライン会合をし、その場で本編『蒼穹』を読んでもらってリアルタイムに感想をいただきました。至福。嬉し恥ずかし高笑い。おかげさまでIFルートの筆が爆速で進みました。ありがとう。
本編『蒼穹』は、ハッピーエンドです(重要)。戦火に翻弄された、美しく切ない純愛です。言葉にすると陳腐になってしまいますが、これを正史とさせていただきます。異論は認めん。闘争を求める方は、ぜひ解釈と二次創作で殴り合いましょう。何度も言いますが、兎と鷺の話はフリー素材叩き台なので二次創作・三次創作 その他何でも大歓迎です。
対してIFルート『鳥籠』は、存在しなかった異聞とでもいいますか、最悪のバッドエンドを目指した公式の二次創作と思って下さいまし。ご安心ください、こんな未来は無かった、いいね? 「存在しない世界線なら何をやってもいいと思ってるのか!?(※意訳)」みたいなことをリア友から言われた気もしますが、本編はハッピーエンドですからそれでいいじゃないですかハハハ何を仰っているのやら(最悪!!)
本編は「生きる理由/死ぬ理由を得た鳥が、エグレのために空を飛ぶ」話。
IFルートは「その生きる理由のために、鳥が空から引きずり下ろされ、地上でゆっくりと殺されていく」話。うおぉおぉ『On Your Mark』!!(?)
対比が三度の飯より好きなので、できるだけ対になるように書いたつもりです。表裏一体の地獄。救いを得て手が届かない場所へ行ってしまった鳥と、手が届く場所にいるのに救うことができない鳥…といった風に。エグレの描く翼も、真逆の意味を帯びていきます。俺の性癖、通奏低音が『よだかの星』と『かたあしダチョウのエルフ』なのです。自己犠牲の鳥が好きすぎる。
以下、支離滅裂ですがつらつらと。自己分析と振り返りのターン。
あえてIFルートへの分岐点をこの基地放棄からにしたのは、より逃げ場が無くなるから。この時点のリエーヴは、既にエグレによる修復を経て、「飛ぶ理由」を手にしています。命の賭け時さえ得ればあの蒼穹に躊躇いも恐怖もなく上がれたはずだった。でもそれは訪れなかった。だからこそエグレへの愛が鎖になってしまう。 読者に嫌な予感を抱かせ、エグレと同じ衝撃を味わってもらうために序盤は特に丁寧に畳み掛けていったつもりです。
前線基地と内地の対比。理不尽な死が日常と隣り合わせにあるからこそ、前線基地には生に満ちた喧騒がありました。出撃サイレン。喪鐘。油。煤。怒号。格納庫の熱。IFルートの舞台はそれと真逆で、安全な内地にありながら閉塞・停滞して命を腐らせる静寂がある。
研究員たちは何も間違ったことを言っていないのも肝です。きっと彼らの根っこの部分はエグレと同じ。人の可能性を信じ、命を尊び、平和を願っている。エグレの無垢で無知な白い手は、同じ原罪を背負っています。人間の醜さから生まれた兵器、発明の母たる戦争を伴侶とした技術者の業。まだその自覚をもって職務を全うしている彼らの方が真摯かもしれません。
「飛行機は美しくも呪われた夢だ」、『風立ちぬ』の影響が強いですね。
美しく死ぬべきだったものを蘇らせ、生かしたままに腑分けしていく惨さ。IFルートにおいて、エグレの「白」には多くの意味を投射しています。整備士。技術者。研究員。納棺師。医師。聖職者。『ネクロの花嫁』のように、暴かれた棺桶というモチーフを散りばめております。
かつてエグレだけが知っていた、リエーヴがエグレにだけは許した「中身」。それが無数の視線に晒され、詳らかにされている。本編の純愛に対して、IFルートはNTR(寝取られ)やBSS(僕が先に好きだったのに)の要素を強調してるつもりです。悪趣味でしょう。得意げ。完成前に冒頭2000字を会合にて共有した際、リア友は「最低」「最悪だ…」と罵倒を連呼してくれました。ありがとう(満面の笑み)。
IFルートの一つの主軸は、エグレの罪と罰 です。このあたりは『かぐや姫の物語』からの影響かもしれません。
IFルート全体の隠れたモチーフとして、日本最後の朱鷺 キンのエピソード があります。詳しくは関連書籍や記事を読んでみてください。オデ、この話、大好き。
エグレがいなければリエーヴという鳥が鳥籠に捕らわれることは無かった。本編のように空で最期を迎えていたはずだった。でも、そうはならなかった。このIFルートでは。そして逆もまた然りで、リエーヴが飛び立ってしまえば、きっとエグレの夢は美しい翼になっていたはずです。彼が遺し、願った、平和な空を自由に羽ばたく鳩のような、美しい翼に。でもIFルートではそうならない。リエーヴと一緒に地べたで汚れていく。エグレの白い夢が、リエーヴの苦痛で染まっていく。縋る彼の手が、手垢を残していくことになるわけです。
物語中盤。読者に、そしてエグレに、僅かな希望をチラつかせる章を重ねております。丁寧丁寧丁寧に(新宝島ステップ)。きちんとしっかり容赦なく地獄に沈めるための下ごしらえ。まだ間に合うかもしれない。まだ助けられるかもしれない。だってまだ、リエーヴは壊れてない。そう信じたくなるように。それでも嫌な予感は募っていくわけです。腐臭が誤魔化せなくなっていく。そしてエグレの手は前線の物理的な汚れではなく、白いまま、かつてリエーヴが見た純粋な「白」から遠ざかっていく。
本編でもそうですが、IFルートにおいても同様に、手のモチーフはこの物語において重要な役割を担っております。……すみません、そこまで大仰なものではないです。ただ俺が手の描写を書くのが好きなだけです。繋いだ手が救いになる、戒めになる。だから手放すことにも違う意味が乗ってくる。「幸」という字の由来は手枷ですからね。二人の握手から物語が始まるのもある種、象徴的な意図があるわけです。なんちゃって。
そして物語後半、救いも希望もない泥沼に沈んでいきます。泥濘の水際に佇む白鷺。だってもう運命の分岐はとっくに通り過ぎてしまったから。もう戻れない場所に来てしまったと、この二人はどう足掻いてもこの道しか辿れないのだと、読者にも思い知らせていく。いえーい。九相図をリスペクトしています。
リエーヴは飛ぶことでしか生きられないし、エグレは無力ゆえに何も守れない。本編と変わらぬ彼らの本質を、最悪の形で描くのがこのIFルートってなわけ。 これ以上傷つかないで、とか、何もかも捨てて逃げてくれ、とか、そういった読者とエグレの祈りは届きません。叶いません。リエーヴはどうしたって滅びゆく美しい生き物なんです。だからこそ痛いほどに胸を打つんですョ、彼というキャラクターは。義務教育だしオタクみんな好きでしょう、『敦盛の最期』。
本編のエンド名は『蒼穹』ですから、IFルートの情景は地上に降る雨にしたかったんです。卯の花腐し。本編ではエグレの描こうとした翼は美しい夢のままだった。リエーヴがそれを手放したから。でもIFルートでは縋った。手垢がついて、彼の苦痛を吸ったそれはもうどうしようもなく重たい。そしてエグレも変わった。見送り、待つしかできなかった彼が、IFルートではリエーヴを迎えに行きます。紛れもない愛なんですが、それはやってはいけないことだったんですよね。だって手が届いてしまう。帰らないものを取り戻せてしまう。二人のいる場所が地面であり、リエーヴがもう飛べないことを証明してしまう。繋いだ手を離せないから、空が遠いんです。
