「景光くんも忙しいのにごめんねぇ。サボらないように見ててくれるだけでいいから！」

「いえいえ。僕としても人がいた方が緊張してやる気が出るので。」

「あらそう？本当に助かるわあ。おやつ持っていくからねえ。」

「ありがとうございます！」

「それじゃあ桃しっかり勉強するのよ。景光くん、よろしくね。」

そう言って台風のように彼女の母親は去っていった。

彼女はその間ずっと、顔を真っ赤にしながら俯いて震えていた。

「あー、えーっと、久しぶり？」

「あっ、久しぶりだね！！元気そうで何より！！」

「大丈夫？なんかすごい緊張してない？」

「ひ、ひーくんと最近ずっと話してなかったから。学校でもすごいモテてるみたいだし、なんか知らない人みたいで…。」

「何言ってるんだよ、幼馴染だろ。」

そう言って彼は笑うが、彼女の顔はこわばったままだ。

「ま、とにかくやろうぜ？見に来たおばさんがびっくりするくらい。」

「うん。よろしくお願いします、先生。」

「こっちこそ。わからないところあったらいつでも聞いて。」

それじゃあお互い頑張ろうか、と言ってそれぞれがノートなりルーズリーフなりへと向かう。

普段はまったく勉強しない彼女だが、机に向かうまでが長いだけで、一度勉強を始めてしまえばそれなりに勉強はするのだ。

クーラーは効いているけれど、外から強い日差しと蝉の鳴き声が聞こえてくる真夏の部屋の中に、しばらく二人の筆記用具を走らせる音だけが響いていた。