αなんてだいきらい【暗殺チーム】
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あれから私はリゾットと話していると、胸がぐるぐると熱くなることに気付いた。
そわそわとして落ち着かない気分になって、まるで自分が女に戻ったような感覚になる。
私は元から女だからこんな表現はおかしいんだけれど。
「…それで…アリス?どうした」
「あ、えっと…リゾットは今日これで終わり?よかったらご飯一緒にどう?へへ、最近料理にハマってて」
「もう終わりだが…いいのか?」
「うん。私の家でも?」
「…いや、アジトでいいだろう。他の奴らも来るかもしれないしな」
「…そうだよね〜。あ、今日の任務だとホル先輩と…イルーゾォだ。会うかもね…あは」
慌ててへらりと笑みを浮かべて誤魔化す。
う、うわあ。私今完全に下心があったよ…。
なんだか本当にらしくない。冷蔵庫を開けて材料を確認する。…そうだ。
「ねえリゾット…私ってジャポネーゼとイタリアのハーフでしょ?だから…ジャポネーゼの料理作ってみてもいい?食べたくなっちゃって」
「ジャポネーゼか…俺も興味がある。お前の料理で食べてみたいな」
「…っ、嬉しい…ありがと」
「お、旨そうな匂いじゃねえの。アリス、お前自炊すんのか?」
「あ、ホル先輩…そうだよ〜ん。私ってばいつでもお嫁さんにいけるよう修行してるからさ」
「おいおい俺がお前を嫁にいかせると思うか?」
「へへ、やだ、ホル先輩嫉妬?」
「そうだよ…って言ったらどうする?俺の家に来てくれんのか?アリスちゃん」
「あ、そこのお皿とって!」
「……はいはい」
苦笑しながらホル先輩がお皿を取ってくれる。
私は彼のしつこくないところが好きだった。
素直に皿を渡されてお礼を言う。グラッツェ、と言いかけたところで思い切り腰を引かれた。
「…い、イルーゾォ…」
「よお、下らねースタンド使いに媚び売って楽しいか?β」
「おいテメーイルーゾォ、アリスに触んじゃあねーよ、小さくされてえのか?」
「フン、テメーがスタンド発現させる前に鏡にぶち込んでやるよ」
イルーゾォとホル先輩は仲があまりよろしくない。それはチーム全員の共通認識だった。
私としては任務でうまくやっていればいいと思うが、プロシュート兄貴やギアッチョなんかはうざったらしいといつも言っている。
そりゃあ仲が良い方がいいか。
「ホル先輩のスタンドは下らなくないよ。私のほうがくだんないもんね、ホル先輩」
「…そうかァ?まあお前のスタンドは可愛いよな、なんつーか」
「そう?まるで不思議の国のアリスみたいって?」
「そこまでは言ってねーだろうがよォ、しょうがねぇなァ〜」
くしゃ、と頭を撫でられて思わず笑う。
やっぱり彼は優しい。拷問が趣味?なところは凶暴といえるが、普段は基本的に温厚なのだ。
チーム一といってもいいだろう。
そんなホル先輩は私にとっての兄のような存在だった。性別を気にしないでいられる、貴重な。
「…フン、そうやって下らねースタンド使いどうし舐め合ってろよ。で、何作ってんだ?アリス」
「イルーゾォに出すなんて言ってないんだけど…」
「あ?どうせ余るんだろ?この俺が処理してやるって言ってんだから黙って作れよ。β」
「……彼女のとこ行けば?最近出来たって聞いたよ。メローネから」
「…今日は随分突っかかるじゃねーか。なんだ?お前の大好きなリゾットがいるからか?」
「…っ!?」
「…あれ、図星?はは、お前マジかよ?」
「どいてよ…な、鍋取れない」
ホル先輩も黙って私を見てくるのに耐えられなくてつい、イルーゾォを押し除ける。
イルーゾォは笑いながらも目は確実に冷たい色を灯していて怖くなった。
…大丈夫、彼女がいるならもう私に変なことはしてこないはず。
「…彼女だっけ?あの女は彼女なんかじゃあねーよ。ただのセフレだ。あんなΩの淫乱、本気で相手にするわけねーだろ」
「…Ωを馬鹿にする発言はよしたほうがいいんじゃない?」
「…あ?」
「…イルーゾォだってそのΩにイイことさせて『もらってる』んだからさ」
顔を上げて睨みつける。
あえてプライドを傷つける発言をした。いつもの私ならへらへらと笑って誤魔化すが、今日はリゾットとホル先輩もいる。
…もう笑う必要なんか、ないんだ。
「生意気言うようになったじゃねーかよ…アリス」
「…今のは下品だったけど…私がなにか悪い事言った?もうスタンドのこととΩのことを馬鹿にするのはやめて。ホル先輩のことだってそうだよ。彼のスタンドは下らなくない」
そう言い切って鍋に水を入れる。
何故だか気分が軽かった。Ωの私じゃない…ただのアリスとして意見が言えた気がした。
もうイルーゾォなんかにへらへらと笑ってやる必要はないんだ。こうして意見をもってぶつかりあってやる…!前のように!
何かが私の中で変わっていく。
それはきっと、いいほうに。
「…リゾットだホルマジオだうるせーんだよお前。そんなに男に尻尾振って楽しいか?俺には寄ってこねーくせに、悪趣味すぎんだろお前」
「さあ。私は大切な仲間だと思ってるよ。イルーゾォのこと」
「は、嘘くせえな」
「……たとえばイルーゾォが死にかけてたらさ、私は助けるよ。それが答え」
イルーゾォはしばらく黙っていたが舌打ちをしてキッチンから出て行った。私はほっとして肩の力を抜く。ホル先輩がねぎらうように肩を叩いた。
「…頑張ったな」
「…へへ、そう?ホル先輩がいたし…殺されはしないかなって」
「さすがにあいつも殺しはしねーだろ…お前あいつのこと殺人鬼かなにかだと思ってる?」
「うーん…意地悪すぎの高慢自慢男」
「ぶっは!お前言うようになったじゃあねーか」
げらげらと笑うホル先輩に釣られて私も笑う。
…本当に嬉しかった。
今の私はまるでΩに囚われていないようで、不思議ともうチームのみんなを苦手だとは思わない。それはΩとしてリゾットが気になりはじめたからかもしれない。
Ωとしてのアリスをやっと受け入れてあげられる気がした。恋は些細なもので始まるものだ、と私は言っておく。
「…最近なんか変わったよなァ〜おめー」
「えっ、なにが?」
「なんつーか…女らしくなったっつーか?前から美人だったけどよォ。おら、このスカートとか」
「うわっ、ちょっとめくらないでよばか!」
「……あとなんか笑顔が増えた。正直、お前すげー可愛いぜ」
「…………ぇ、は…?ぎ、ギアッチョ?熱でもある…?」
「…ッねーよクソ!!!」
クッションを顔に押し付けられてもごもごと抵抗する。ぷはっと顔を上げるとメローネが何故かどんびいた顔をしていた。
「…アリスって鈍感なのか?いや…ただのお子様脳味噌なだけか…」
「…なんかむかつくから殴ろっかな」
「おー怖い。ジャポネーゼは淑女が多いと聞いたんだが…」
「私はハーフだもん。イタリアーノと言ってくれたまえメローネ捜査官」
「それは悪かったアリス刑事。お詫びに飯でも行かないか?母体探しに付き合ってくれよ」
「嫌だよ」
即答して立ち上がる。ギアッチョの背中にダイブして冷たくしてぇ、と喚いた。
なんだか今日は熱くて堪らない。夏か、ついに夏なのかな。
「ギアッチョ〜親愛なるギアッチョ〜」
「…ってめー前言ったこと忘れたんかあぁ!?」
「今だけは私だけのアイスになってよー」
「…っ、ッえっろい台詞吐くんじゃねーよバーーーーーカ!!!」
そう言いながら冷たくしてくれるギアッチョにほっとする。どこがえろいのか全く理解出来なかったがどうでもいい。本当に今は熱くて堪らない…
「…おい、お前が熱あんじゃねぇのか?あちぃぞ、身体」
「…ん、ぇ?あ、つい…?」
「お、おう…つーかお前、まるで」
Ωのヒートじゃねぇか。
「…ッ!!!あ、ギアッチョ!私、リゾットに呼ばれてた!ごめんメローネ、ギアッチョ、またあとで」
リビングの扉を開けて二階の仮眠室に駆け込んで鍵を閉める。ぜえぜえと荒い呼気の中、さっきの台詞にまずいと頭の中で警報がなっていた。…どうしよう、バレた?いや、さっきのはただの例えだ。ギアッチョは気付いてない。メローネは…分からないけど。
「あぁ…くそ…っ、周期みすったのかな…」
とにかく薬…薬を飲まなきゃ。でも飲むにはこの部屋から出ないといけない。まして、アジトから出る途中にまた二人と会ったら次はアウトだ。犯されて終わる。
そんなのごめんだ。仲間の二人に苦しい思いをさせる訳にはいかない。
頼りたくないけど…もう方法は思いつかなかった。
よろよろと仮眠室の鍵を開けて奥の部屋の扉をノックする。そこは、イルーゾォがよく使っている鏡が置かれた部屋だった。
必死になりながら待っているとガチャ、と扉が開く音がする。
「あ?なん…アリス?」
「……鏡の中に入れて…イルーゾォ、」
「…っ、お前…なんだよこの香り…!?」
「…イルーゾォ、助けて」
「…っ、マンインザミラー…アリスを許可する!」
体がなにかに浸る感覚に襲われた。それでさえぞくりと快感がのぼってきて唇を噛み締める。
気付くとそこは鏡の中で、目の前にはシャツを着たイルーゾォが立っていた。
「…Ωだったのか、お前」
「……ちがう、スタンド攻撃、にあった。βからΩになる…スタンド」
「…お前知ってるか?お前は嘘つくとき左に目をそらすんだぜ、アリス」
「……イルーゾォ、一生のお願い…私を鏡の中から家まで送って…薬がある、の…もう、だめ、じりきで、かえれない、」
「…チッ、これは貸しだからな。お前はもう俺に逆らえないぜ、分かったな」
「ん…それで、いい」
ぐい、と抱き上げられて声が漏れる。
その声にイルーゾォが動揺したように腕の力を込めた。
「ん…っ、」
「…はァァ〜くっそ、このイルーゾォがよぉ、なんでこんな…お前じゃなかったら抱いてる」
「…ふ、ふ…私でよかったね…だいっきらいな私で…」
「………逆だばーか」
「…ぁ、いるーぞぉ、あんまり、ゆらさな、いでっ、だめ、」
「〜ッ…ああくそ!!お前もう黙ってろッ!」
「ひゃ、う…どなら、ないで…っ」
ぞくぞくとする耳についにイカれたのかと錯覚する。イルーゾォの低い声にじんわりと股が濡れた。最悪。最悪…やっぱりΩなんだ、私。
「…ん…、やくそく、して」
「…なんだよ」
「だれにも、いわないで…」
「………言う訳ねーだろ。せっかく見つけたお前の最高の弱み、俺だけのモンだ」
やっぱりクズだ。
でもその無遠慮な意地悪さが今は心地いい…
私は薄れていく意識にそっと身を任せた。
「…ん…」
「…やっとかよ。お前どんだけ寝るんだ?」
「……イルーゾォ…あの、ここ…」
「俺の家。お前んちから薬持ってきて飲ませてから寝かせた。意外とちけーな、徒歩で十分くらいだぜ」
「嬉しくない情報ありがと…」
「…マジで言うようになったなてめー…」
そう言いながらイルーゾォの顔は別に怒っていない。なんなら前より普通に話せている気がした。それに少しほっとしながら体を起こす。
丁寧に毛布をかけてくれていて、何故だか少し恥ずかしくなった。
「…俺もやばかった。見ろよこれ」
「…!!うそっ…なにこれ、なにしてるの!?」
「こうでもしねーとお前襲いそうだった。このイルーゾォ様の鋼の精神力に感謝しろよ」
左手から血がだらだらと流れている。
テーブルには果物ナイフが置かれていて、イルーゾォがこれで手を切ったことは明らかだった。まさか理性を保つために切ったのか。
「…なんで…ここまで、」
「……お前襲ったら俺はあの世行きだったからな。流石にこの最強なスタンドでも暗殺チーム全員は敵わねーだろ?」
「…ふふ、確かに。あはは、最強でもあの人たちには敵わないか」
「…!」
「?…手当てさせてよ、イルーゾォ。ありがとう、ほんとに…今日はありがとう」
自然と溢れる笑みに、昨日までだったら有り得なかったなあと思う。
イルーゾォとこうして普通に会話しているのも、なにかの運命だったんだろうか。
仲間として近づけた気がする。
イルーゾォが顔を赤くしていたので、私は慌てて離れた。
「もしかしてまだフェロモンでてる!?」
「…はぁ!?」
「だって顔赤いよ?イルーゾォ」
「…ッ、ち、ちげーよ!!いいからさっさと帰れ!もう大丈夫なんだろ!?」
「えっ、折角だしご飯食べようよ。奢るよ」
「…っ、っ、て、てめー俺のこと嫌いじゃあねぇのかよ!?少し助けたらこんな簡単に尻尾振るようになんのか!?あ!?」
「え、そりゃそうだよ。だって私、イルーゾォのこと結構悪くないかもって思っちゃったもん。尻尾振るのも、いいかな」
イルーゾォの言葉を借りてそう笑えば、イルーゾォががちりと固まってしまった。
顔が真っ赤でだらだらと汗をかいている。
私は少し近づけたことに嬉しくなりながら立ちがった。ベッドシーツが汗で濡れていたので、回収しようと手を伸ばす。
その手を掴まれた。
「…いい。俺が洗う」
「えっ…い、いや、でも恥ずかしい、し…」
「いいっつってんだろ。俺が 洗う」
ものすごい威圧に屈しそうになりながら首を横に振る。さすがに、いやだ。
仲間に自分の汗で濡れたシーツを洗ってもらうのは。ましてやイルーゾォのベッドシーツだ。
「な、なんで?」
「…………」
「イルーゾォ…?」
「……いいから外出とけ。俺のシーツなんだから俺が洗う権利あんだろ」
「……ね、ねえほんとにやだ…私、自分で洗いたい…恥ずかしいの」
「っ、いいっつってんだろしつけーな!」
バタンと家の外まで連れて行かれて扉を閉められる。待ってろ!と怒鳴られたしゅんとした。
…なんであんなのこだわるの、ばか。
私は気になってスタンドを出した。小さく空いている小窓から中に入って鍵を開ける。
そっと寝室まで戻ると、イルーゾォがベッドの側に立っていた。顔を手で覆っている。
「…くそ…あの馬鹿女…人の気も知らねーで…」
「…」
「はァ〜…ちくしょう。このイルーゾォが…これしきのことで…情けねえ」
そう言うとベッドからシーツを剥ぎ取ってじっとシーツを眺めた。
五分くらい立っただろうか。黙って眺めているイルーゾォに私も飽きてくる。もう声を掛けようかな、と思っていると突然イルーゾォがそのシーツに顔を突っ込んだ。深く息を吸っている。
「…っ!?」
「…あーー…アリス…」
「…!?…!?」
私のスタンドも困惑した顔をしている。
…え?新手の嫌がらせ!?
さっき見直した私が馬鹿だったの…!?
「クソ可愛いな…ちくしょう、アイツ…」
ぼそぼそと何か言っているが聞き取れない。
怖くなって外に出た。…やっぱり私は相当イルーゾォに嫌われているらしい。あんな陰湿な嫌がらせをするなんて。
私が恥ずかしいと言ったから嫌なことを積極的にしたのだ、あのイルーゾォは。
やっぱり無理かな、仲良くなるの…。
「…おい、なに突っ立ってんだ行くんだろ。飯はもちろんお前が奢れよォ〜?間抜けアリス」
「……」
「?んだよその目は。おいアリス」
「……」
そわそわとして落ち着かない気分になって、まるで自分が女に戻ったような感覚になる。
私は元から女だからこんな表現はおかしいんだけれど。
「…それで…アリス?どうした」
「あ、えっと…リゾットは今日これで終わり?よかったらご飯一緒にどう?へへ、最近料理にハマってて」
「もう終わりだが…いいのか?」
「うん。私の家でも?」
「…いや、アジトでいいだろう。他の奴らも来るかもしれないしな」
「…そうだよね〜。あ、今日の任務だとホル先輩と…イルーゾォだ。会うかもね…あは」
慌ててへらりと笑みを浮かべて誤魔化す。
う、うわあ。私今完全に下心があったよ…。
なんだか本当にらしくない。冷蔵庫を開けて材料を確認する。…そうだ。
「ねえリゾット…私ってジャポネーゼとイタリアのハーフでしょ?だから…ジャポネーゼの料理作ってみてもいい?食べたくなっちゃって」
「ジャポネーゼか…俺も興味がある。お前の料理で食べてみたいな」
「…っ、嬉しい…ありがと」
「お、旨そうな匂いじゃねえの。アリス、お前自炊すんのか?」
「あ、ホル先輩…そうだよ〜ん。私ってばいつでもお嫁さんにいけるよう修行してるからさ」
「おいおい俺がお前を嫁にいかせると思うか?」
「へへ、やだ、ホル先輩嫉妬?」
「そうだよ…って言ったらどうする?俺の家に来てくれんのか?アリスちゃん」
「あ、そこのお皿とって!」
「……はいはい」
苦笑しながらホル先輩がお皿を取ってくれる。
私は彼のしつこくないところが好きだった。
素直に皿を渡されてお礼を言う。グラッツェ、と言いかけたところで思い切り腰を引かれた。
「…い、イルーゾォ…」
「よお、下らねースタンド使いに媚び売って楽しいか?β」
「おいテメーイルーゾォ、アリスに触んじゃあねーよ、小さくされてえのか?」
「フン、テメーがスタンド発現させる前に鏡にぶち込んでやるよ」
イルーゾォとホル先輩は仲があまりよろしくない。それはチーム全員の共通認識だった。
私としては任務でうまくやっていればいいと思うが、プロシュート兄貴やギアッチョなんかはうざったらしいといつも言っている。
そりゃあ仲が良い方がいいか。
「ホル先輩のスタンドは下らなくないよ。私のほうがくだんないもんね、ホル先輩」
「…そうかァ?まあお前のスタンドは可愛いよな、なんつーか」
「そう?まるで不思議の国のアリスみたいって?」
「そこまでは言ってねーだろうがよォ、しょうがねぇなァ〜」
くしゃ、と頭を撫でられて思わず笑う。
やっぱり彼は優しい。拷問が趣味?なところは凶暴といえるが、普段は基本的に温厚なのだ。
チーム一といってもいいだろう。
そんなホル先輩は私にとっての兄のような存在だった。性別を気にしないでいられる、貴重な。
「…フン、そうやって下らねースタンド使いどうし舐め合ってろよ。で、何作ってんだ?アリス」
「イルーゾォに出すなんて言ってないんだけど…」
「あ?どうせ余るんだろ?この俺が処理してやるって言ってんだから黙って作れよ。β」
「……彼女のとこ行けば?最近出来たって聞いたよ。メローネから」
「…今日は随分突っかかるじゃねーか。なんだ?お前の大好きなリゾットがいるからか?」
「…っ!?」
「…あれ、図星?はは、お前マジかよ?」
「どいてよ…な、鍋取れない」
ホル先輩も黙って私を見てくるのに耐えられなくてつい、イルーゾォを押し除ける。
イルーゾォは笑いながらも目は確実に冷たい色を灯していて怖くなった。
…大丈夫、彼女がいるならもう私に変なことはしてこないはず。
「…彼女だっけ?あの女は彼女なんかじゃあねーよ。ただのセフレだ。あんなΩの淫乱、本気で相手にするわけねーだろ」
「…Ωを馬鹿にする発言はよしたほうがいいんじゃない?」
「…あ?」
「…イルーゾォだってそのΩにイイことさせて『もらってる』んだからさ」
顔を上げて睨みつける。
あえてプライドを傷つける発言をした。いつもの私ならへらへらと笑って誤魔化すが、今日はリゾットとホル先輩もいる。
…もう笑う必要なんか、ないんだ。
「生意気言うようになったじゃねーかよ…アリス」
「…今のは下品だったけど…私がなにか悪い事言った?もうスタンドのこととΩのことを馬鹿にするのはやめて。ホル先輩のことだってそうだよ。彼のスタンドは下らなくない」
そう言い切って鍋に水を入れる。
何故だか気分が軽かった。Ωの私じゃない…ただのアリスとして意見が言えた気がした。
もうイルーゾォなんかにへらへらと笑ってやる必要はないんだ。こうして意見をもってぶつかりあってやる…!前のように!
何かが私の中で変わっていく。
それはきっと、いいほうに。
「…リゾットだホルマジオだうるせーんだよお前。そんなに男に尻尾振って楽しいか?俺には寄ってこねーくせに、悪趣味すぎんだろお前」
「さあ。私は大切な仲間だと思ってるよ。イルーゾォのこと」
「は、嘘くせえな」
「……たとえばイルーゾォが死にかけてたらさ、私は助けるよ。それが答え」
イルーゾォはしばらく黙っていたが舌打ちをしてキッチンから出て行った。私はほっとして肩の力を抜く。ホル先輩がねぎらうように肩を叩いた。
「…頑張ったな」
「…へへ、そう?ホル先輩がいたし…殺されはしないかなって」
「さすがにあいつも殺しはしねーだろ…お前あいつのこと殺人鬼かなにかだと思ってる?」
「うーん…意地悪すぎの高慢自慢男」
「ぶっは!お前言うようになったじゃあねーか」
げらげらと笑うホル先輩に釣られて私も笑う。
…本当に嬉しかった。
今の私はまるでΩに囚われていないようで、不思議ともうチームのみんなを苦手だとは思わない。それはΩとしてリゾットが気になりはじめたからかもしれない。
Ωとしてのアリスをやっと受け入れてあげられる気がした。恋は些細なもので始まるものだ、と私は言っておく。
「…最近なんか変わったよなァ〜おめー」
「えっ、なにが?」
「なんつーか…女らしくなったっつーか?前から美人だったけどよォ。おら、このスカートとか」
「うわっ、ちょっとめくらないでよばか!」
「……あとなんか笑顔が増えた。正直、お前すげー可愛いぜ」
「…………ぇ、は…?ぎ、ギアッチョ?熱でもある…?」
「…ッねーよクソ!!!」
クッションを顔に押し付けられてもごもごと抵抗する。ぷはっと顔を上げるとメローネが何故かどんびいた顔をしていた。
「…アリスって鈍感なのか?いや…ただのお子様脳味噌なだけか…」
「…なんかむかつくから殴ろっかな」
「おー怖い。ジャポネーゼは淑女が多いと聞いたんだが…」
「私はハーフだもん。イタリアーノと言ってくれたまえメローネ捜査官」
「それは悪かったアリス刑事。お詫びに飯でも行かないか?母体探しに付き合ってくれよ」
「嫌だよ」
即答して立ち上がる。ギアッチョの背中にダイブして冷たくしてぇ、と喚いた。
なんだか今日は熱くて堪らない。夏か、ついに夏なのかな。
「ギアッチョ〜親愛なるギアッチョ〜」
「…ってめー前言ったこと忘れたんかあぁ!?」
「今だけは私だけのアイスになってよー」
「…っ、ッえっろい台詞吐くんじゃねーよバーーーーーカ!!!」
そう言いながら冷たくしてくれるギアッチョにほっとする。どこがえろいのか全く理解出来なかったがどうでもいい。本当に今は熱くて堪らない…
「…おい、お前が熱あんじゃねぇのか?あちぃぞ、身体」
「…ん、ぇ?あ、つい…?」
「お、おう…つーかお前、まるで」
Ωのヒートじゃねぇか。
「…ッ!!!あ、ギアッチョ!私、リゾットに呼ばれてた!ごめんメローネ、ギアッチョ、またあとで」
リビングの扉を開けて二階の仮眠室に駆け込んで鍵を閉める。ぜえぜえと荒い呼気の中、さっきの台詞にまずいと頭の中で警報がなっていた。…どうしよう、バレた?いや、さっきのはただの例えだ。ギアッチョは気付いてない。メローネは…分からないけど。
「あぁ…くそ…っ、周期みすったのかな…」
とにかく薬…薬を飲まなきゃ。でも飲むにはこの部屋から出ないといけない。まして、アジトから出る途中にまた二人と会ったら次はアウトだ。犯されて終わる。
そんなのごめんだ。仲間の二人に苦しい思いをさせる訳にはいかない。
頼りたくないけど…もう方法は思いつかなかった。
よろよろと仮眠室の鍵を開けて奥の部屋の扉をノックする。そこは、イルーゾォがよく使っている鏡が置かれた部屋だった。
必死になりながら待っているとガチャ、と扉が開く音がする。
「あ?なん…アリス?」
「……鏡の中に入れて…イルーゾォ、」
「…っ、お前…なんだよこの香り…!?」
「…イルーゾォ、助けて」
「…っ、マンインザミラー…アリスを許可する!」
体がなにかに浸る感覚に襲われた。それでさえぞくりと快感がのぼってきて唇を噛み締める。
気付くとそこは鏡の中で、目の前にはシャツを着たイルーゾォが立っていた。
「…Ωだったのか、お前」
「……ちがう、スタンド攻撃、にあった。βからΩになる…スタンド」
「…お前知ってるか?お前は嘘つくとき左に目をそらすんだぜ、アリス」
「……イルーゾォ、一生のお願い…私を鏡の中から家まで送って…薬がある、の…もう、だめ、じりきで、かえれない、」
「…チッ、これは貸しだからな。お前はもう俺に逆らえないぜ、分かったな」
「ん…それで、いい」
ぐい、と抱き上げられて声が漏れる。
その声にイルーゾォが動揺したように腕の力を込めた。
「ん…っ、」
「…はァァ〜くっそ、このイルーゾォがよぉ、なんでこんな…お前じゃなかったら抱いてる」
「…ふ、ふ…私でよかったね…だいっきらいな私で…」
「………逆だばーか」
「…ぁ、いるーぞぉ、あんまり、ゆらさな、いでっ、だめ、」
「〜ッ…ああくそ!!お前もう黙ってろッ!」
「ひゃ、う…どなら、ないで…っ」
ぞくぞくとする耳についにイカれたのかと錯覚する。イルーゾォの低い声にじんわりと股が濡れた。最悪。最悪…やっぱりΩなんだ、私。
「…ん…、やくそく、して」
「…なんだよ」
「だれにも、いわないで…」
「………言う訳ねーだろ。せっかく見つけたお前の最高の弱み、俺だけのモンだ」
やっぱりクズだ。
でもその無遠慮な意地悪さが今は心地いい…
私は薄れていく意識にそっと身を任せた。
「…ん…」
「…やっとかよ。お前どんだけ寝るんだ?」
「……イルーゾォ…あの、ここ…」
「俺の家。お前んちから薬持ってきて飲ませてから寝かせた。意外とちけーな、徒歩で十分くらいだぜ」
「嬉しくない情報ありがと…」
「…マジで言うようになったなてめー…」
そう言いながらイルーゾォの顔は別に怒っていない。なんなら前より普通に話せている気がした。それに少しほっとしながら体を起こす。
丁寧に毛布をかけてくれていて、何故だか少し恥ずかしくなった。
「…俺もやばかった。見ろよこれ」
「…!!うそっ…なにこれ、なにしてるの!?」
「こうでもしねーとお前襲いそうだった。このイルーゾォ様の鋼の精神力に感謝しろよ」
左手から血がだらだらと流れている。
テーブルには果物ナイフが置かれていて、イルーゾォがこれで手を切ったことは明らかだった。まさか理性を保つために切ったのか。
「…なんで…ここまで、」
「……お前襲ったら俺はあの世行きだったからな。流石にこの最強なスタンドでも暗殺チーム全員は敵わねーだろ?」
「…ふふ、確かに。あはは、最強でもあの人たちには敵わないか」
「…!」
「?…手当てさせてよ、イルーゾォ。ありがとう、ほんとに…今日はありがとう」
自然と溢れる笑みに、昨日までだったら有り得なかったなあと思う。
イルーゾォとこうして普通に会話しているのも、なにかの運命だったんだろうか。
仲間として近づけた気がする。
イルーゾォが顔を赤くしていたので、私は慌てて離れた。
「もしかしてまだフェロモンでてる!?」
「…はぁ!?」
「だって顔赤いよ?イルーゾォ」
「…ッ、ち、ちげーよ!!いいからさっさと帰れ!もう大丈夫なんだろ!?」
「えっ、折角だしご飯食べようよ。奢るよ」
「…っ、っ、て、てめー俺のこと嫌いじゃあねぇのかよ!?少し助けたらこんな簡単に尻尾振るようになんのか!?あ!?」
「え、そりゃそうだよ。だって私、イルーゾォのこと結構悪くないかもって思っちゃったもん。尻尾振るのも、いいかな」
イルーゾォの言葉を借りてそう笑えば、イルーゾォががちりと固まってしまった。
顔が真っ赤でだらだらと汗をかいている。
私は少し近づけたことに嬉しくなりながら立ちがった。ベッドシーツが汗で濡れていたので、回収しようと手を伸ばす。
その手を掴まれた。
「…いい。俺が洗う」
「えっ…い、いや、でも恥ずかしい、し…」
「いいっつってんだろ。俺が 洗う」
ものすごい威圧に屈しそうになりながら首を横に振る。さすがに、いやだ。
仲間に自分の汗で濡れたシーツを洗ってもらうのは。ましてやイルーゾォのベッドシーツだ。
「な、なんで?」
「…………」
「イルーゾォ…?」
「……いいから外出とけ。俺のシーツなんだから俺が洗う権利あんだろ」
「……ね、ねえほんとにやだ…私、自分で洗いたい…恥ずかしいの」
「っ、いいっつってんだろしつけーな!」
バタンと家の外まで連れて行かれて扉を閉められる。待ってろ!と怒鳴られたしゅんとした。
…なんであんなのこだわるの、ばか。
私は気になってスタンドを出した。小さく空いている小窓から中に入って鍵を開ける。
そっと寝室まで戻ると、イルーゾォがベッドの側に立っていた。顔を手で覆っている。
「…くそ…あの馬鹿女…人の気も知らねーで…」
「…」
「はァ〜…ちくしょう。このイルーゾォが…これしきのことで…情けねえ」
そう言うとベッドからシーツを剥ぎ取ってじっとシーツを眺めた。
五分くらい立っただろうか。黙って眺めているイルーゾォに私も飽きてくる。もう声を掛けようかな、と思っていると突然イルーゾォがそのシーツに顔を突っ込んだ。深く息を吸っている。
「…っ!?」
「…あーー…アリス…」
「…!?…!?」
私のスタンドも困惑した顔をしている。
…え?新手の嫌がらせ!?
さっき見直した私が馬鹿だったの…!?
「クソ可愛いな…ちくしょう、アイツ…」
ぼそぼそと何か言っているが聞き取れない。
怖くなって外に出た。…やっぱり私は相当イルーゾォに嫌われているらしい。あんな陰湿な嫌がらせをするなんて。
私が恥ずかしいと言ったから嫌なことを積極的にしたのだ、あのイルーゾォは。
やっぱり無理かな、仲良くなるの…。
「…おい、なに突っ立ってんだ行くんだろ。飯はもちろんお前が奢れよォ〜?間抜けアリス」
「……」
「?んだよその目は。おいアリス」
「……」