愛の分からない僕たちは【暗殺・護衛チーム】
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「ジョア。また行くんですか」
「う、うん…姉さんに頼まれちゃったし」
「あんな女の言うこと聞いてほんっと馬鹿だよなァ〜おめー」
「…じゃあ、行ってくるね。ミスタ、ボス」
「ボスじゃあなくてジョルノと。君にボスだなんて言われると悲しくなるよ」
「…ふふ、うん。ジョルノ、いってきます」
本部から出て街を歩く。平和な風景に、これもジョルノ達のおかげかなあとのんびり思った。
ブチャラティが街を見回りしてくれているのもあるだろう。私はそんな優しいギャングの彼ら達と共に進んでいきたい。
だから、護衛チームとは違う雰囲気の暗殺チームは苦手だ。ギャングなのに、私は昔から人の死が苦手だった。そんな人の死に近い彼らを、あまり好きにはなれない。
でもこうして暗殺チームへのアジトへ行くのは、私の血の繋がっていない『姉さん』の存在があるからだ。
「…ジョアです。姉さんはいますか」
「合言葉は?」
「合言葉…?え、えーと…」
「ああ。『愛してる』だぜ。どうぞ」
「……。…愛してる」
「うんうん最高だ。ほら、ようこそ暗殺チームへ」
私を出迎えたのはメローネだった。
今日は珍しくスーツを着ている。アジトの扉から中に入ってリゾットの部屋へ行く。
後ろからメローネが体を触ってこようとするので必死に避けた。
「なんだよ、アンタの姉さんは喜んで触らせてくれるぜ?」
「私と姉さんは違う…」
「いやいや似てるとこあるぜ?このいやらしい身体とかっわいい顔とかさぁ」
「……血は繋がってないから」
私は思わず苛ついた声をだしてメローネを押し除けた。メローネは大して気にした様子もなく、悪かったよと笑う。
…本当に苦手だ。さっさと帰りたい。
「…リゾットさん。ジョアです。姉はまだ任務から帰ってきていませんか?」
「ああ…ジョアか。あいつはまだ帰ってきていない。今日はイルーゾォとの任務だからもうすぐ帰ってくるだろう」
「…?そうですか。あの…これ。いつも姉がお世話になっているので。共有スペースのほうに置いておくのでよかったら食べて下さい」
「気をつかわせて悪いな」
「いえ。ボスもいつも助かっている、と」
「…そうか。ゆっくりしていけ」
「姉に渡したら帰りますので…リゾットさん。少し目に熊があるようですが…最近寝れていますか?」
私がそう問いかけると、リゾットさんはきょとりとした顔をした。珍しいその表情に、私は首を傾げる。なにかおかしなことを言っただろうか?
「…いや…お前は俺が苦手なんだと思っていた」
「…苦手…?」
「…いつも笑わないだろう。俺の前だと」
「そうですか?私、暗殺チームの中ではリゾットさんが一番親しみやすいですよ。好きです」
「…!…あまりそういうことを軽々しく言わないほうがいい。お前のような女が言うと勘違いしそうになる」
「勘違い…?なにかおかしなことを言いましたか?」
「…いや、「あージョア。アンタ来てたのね」
背後から声がして振り向く。そこには姉がイルーゾォくんに抱きつくようにして立っていた。
イルーゾォくんは鬱陶しそうな顔をしている。
だけど振り解かないところをみると満更でもないんだろう。姉は美しい人だから。
「頼まれたものを持ってきたの」
「あら、早いわね。んーどれ…ってちょっと!これ私が頼んだ種類じゃあないじゃない!」
「え…でも」
「買い直してきて。ほんとドジな子ね、アンタは」
「…はいはい。分かったよ」
我儘で女王様な姉らしい。仕方なく紙袋を手に取ってリゾットさんに頭を下げた。
姉ともう少し話していたかったが、機嫌があまりよくないらしい。少し早いが帰るしかないだろう。
が、扉を開けようと伸ばした腕の前に、イルーゾォくんが阻むように立った。姉は振り解かれたらしい。むすりとしている。
「なァ、ジョア。お前ボスとできてるって本当か?」
「…イルーゾォくん。前から言ってるけど、違うよ。もう帰るから、またね」
「っ、待てよ。どーせ寝てんだろ?だからボスの側近なんてお前みたいなどん臭えガキがやれてるんだ。そうだろ?」
「……違うよ。ボスはそんなことをする人間じゃあない」
「ハッ、随分惚れてんだな?ボスも趣味悪いぜ。お前みたいなトロい女選ぶなんてよォ」
「…そうだね。それじゃあ」
「っ言い返さねーのかよ。弱虫」
「………君になにを言われてもどうでもいい、から」
「な…ッ!」
なんでこんな会話をリゾットさんと姉の前でする必要があるんだろう。
リゾットさんは眉をしかめているし、姉はイルーゾォくんが自分を見ないことに苛つき始めている。私は内心ため息を吐いた。やっぱりここは苦手だ。
そんなことを思っているとイルーゾォくんが拳を握ったのがわかった。…殴られるのかな。
「…ッお前みてーなクソ生意気女、誰も相手しねーだろうからこのイルーゾォが話しかけてやってんだよ!それを無碍にしやがって…!」
「……私は頼んでないし…正直イルーゾォくんがあまり好きじゃない、から。もう話しかけてこなくていいよ。気をつかわせてたならごめん。でも、君の労力は使わなくていいから」
今度こそ部屋から出る。リゾットさんには申し訳ない。姉が次は間違えるんじゃないわよ!と言っているのが聞こえて手をひらりと振った。
…確かに私は弱虫だ。姉に逆らおうと思うこともせずこうしていうことを聞いているのだから。後ろからイルーゾォくんが追ってきているのが見えて本当に頭痛がした。
「…ってめーはほんとにむかつく女だな!!待てっていってんだろうが!」
「…ごめん。もう帰らなくちゃ。また今度にしてもらえる?姉さんが怒ってるよ」
「どーでもいいだろんなことは!…っ飯!飯行くぞ。俺はお前のせいで腹が減ったんだ」
…本当になんなんだろう。姉もイルーゾォくんの後ろから来るのが見えた。やはり姉は私が邪魔だと言わんばかりに睨んできている。
私だって帰りたいんだよ。姉さんの恋路の邪魔をする気はないからね。
「…姉さんと行って来なよ…私はいいから」
「はあ!?なんでそうなる」
「……ごめん。メローネと約束してるんだ。それじゃあ」
メローネ、ごめんね。
共有スペースに座っているメローネの腕を引っ張って外に出る。メローネがにやりと笑っているのが見えて眉を寄せた。
「君って意外と強引だよな」
「…そうかな」
「ああ。だがそんなところも好きだぜ」
「……イルーゾォくんは私を嫌いなのに、どうしてあそこまで構ってくるんだろう」
「え?それマジで言ってる?」
「…?マジってなにが?」
「…イルーゾォがアンタに突っかかってくんのはアンタが好きだからだよ。知ってる?アンタの姉貴がイルーゾォに抱き着こうとするといつもはすぐに振り払うんだぜ。今日振り払わなかったのはアンタに嫉妬してもらうためだ。『下らねー』って人によく言う割に一番下らないのさ、あの男がやってることは」
「ごめん、その冗談姉さんに言ったら貴方殺されると思う」
「…冗談じゃないんだよなァ、はあ」
あのイルーゾォくんが私を好き?
世界が三角って言われたほうがまだ信じれる気がする。でも、仮にもしそれが本当なら…
「…吐き気がする」
「おお、結構酷いなアンタ」
「違う…イルーゾォくんのことじゃなくて私」
「…?なにが?」
「…私は…ううん。なんでもない。どこに食べに行くの?」
「…ピザがパスタだな。アンタのオススメにいこう」
…もう姉さんの好きな人は奪いたくないから。
『アンタのせいで私の彼はおかしくなったの!!どうしてどうしてどうしてよ!!いつもいつもアンタばっかり!』
『ねえ、さ…』
『許さない。一生許さないから。悪いと思うならこれから先ずっと私の言うこと聞いて』
「嫌…!!!」
「うおっ、なんだオメー…」
「…っ、ここ、は…」
「俺の部屋だよ。つーかオメー酔っ払いすぎだろ。ずっと泣いてたぜ」
「……メローネは」
「アイツも死んでる」
目が覚めるとギアッチョくんが私を覗き込んでいた。メローネも確かにソファでぐったりとして死んでいる。
お礼を言って立ち上がろうとしたが、それは失敗に終わった。
「っ…ごめん、」
「い、いや…大丈夫かよ」
ふらついた身体を抱き留められる。
ギアッチョくんの頬が赤いのが気になった。
彼もお酒を飲んでる?
「君も…よってる?」
「はあ?俺は一滴も飲んでねーつの」
「…でも顔が赤いから…」
「!!う、うるせー鈍感女!」
「っあ…あたま、いたい、から」
「わ、悪ぃ」
ゆっくりとソファに座り直す。今日は申し訳ないけどギアッチョくんの部屋に泊まらせてもらおう。
「えっと…キッチンで水をもらってくる。少し酔いが覚めて来たから」
「俺が行く。おめーは座ってろ」
「…じゃあ一緒に行こっか。ごめん、少しだけゆっくり歩いてもらってもいい?」
「おう」
ギアッチョくんは静かだ。いつもキレているイメージがあったけど、それは違うらしい。
こんなに穏やかな彼は初めて見た。
「そういえば…どうしてギアッチョくんが?」
「…アイツから連絡あった」
「連絡?」
「『お前襲われたくなかったら今すぐ来い』」
「…最低だ…メローネ」
「…なあなんでアイツだけ呼び捨てなんだよ?俺らはくん付けなのに」
「それは…メローネのことをくん付けで呼ぶとすごい興奮して気持ち悪いから…だからやめたの」
「なら俺もすげー気持ち悪く興奮する!嫌ならくん付けやめろ!」
「……、ふ、あははっ。ギアッチョくんが…?」
「!!!」
「…それなら、仕方ないよね。ギアッチョ、これでいい?」
「……っ」
「…?ギアッチョ?」
「……お前初めて笑った」
「…え、そうかな…」
「…笑えよ。す、すげー…か、かかか可愛いから…」
真っ赤な彼に思わず私も顔を真っ赤にする。
…なんだか久しぶりだな、この感覚。
恥ずかしいけど、嫌じゃない。
二人でキッチンに降りていくと、そこには二つの人影があった。
「ぁ、あん!あ、いいのっ、そこ、すごいっ」
「あ、ぷろしゅーとっ、すきい!」
「「…」」
二人で目を合わせて固まる。これは私の姉の声だ。プロシュートと呼んでいるところをみるに、お相手はあの金髪の美丈夫さんで間違いないようだ。物凄くきまづくなって私達はゆっくり扉を閉めた。
あいにく、向こうには気付かれていない。
「き、共有スペースでヤるか、普通…!?」
「……ギャングに普通は通用しないのかも」
「ギャングっつーより猿だろーが…!」
「…ごめん。私の姉さんが、こんな…」
「…お前が謝るのは、ちげーだろ。いいよ、もう寝ようぜ。今日は泊まってくだろ?」
「うん。明日の朝に戻ることにする。今度なにか奢るね」
「………いい。俺が奢る」
「え?でもそれだと、」「いいから」
その日は少しだけよく眠れた。
夜中に目を覚ますことなく、ぐっすりと。
きっと、ギアッチョと話したからだと思う。彼とはいいお友達になれるかもしれない。
朝の5時に目が覚めてしまった。
私は起き上がってゆっくりと隣を見る。
隣にはメローネとギアッチョが雑魚寝で転がっている。二人に毛布をかけてから部屋を出た。
紙にありがとう、と書いて机に置いておく。
「アンタ、昨日見たでしょう?」
「!…姉さん」
「ふふ、私達わかったわよ。すぐにアンタたちだって」
「…ごめん、たまたまだよ。それよりもう出ないと…」
「プロシュートもイルーゾォもギアッチョもメローネもホルマジオもリゾットも私のよ。アンタには渡さない」
「…?渡さないって…なにを」
「だから!あいつらは私の男にするの!アンタには渡さない!」
「…興味ないよ。でも人を無碍に扱うのはよくない…彼らも姉さんと同じ人なん、っかは…!」
「誰に説教してんの?お前」
姉が肩で息をしながら私を見下ろしている。
口元からつうっと血が垂れた。
どうやら拳で殴られたらしい。かなり痛いが、姉の視線の方が痛かった。
「私はアンタのせいであの人を失ったのよ。アンタさえいなきゃあの人といたのに…こんなとこいなかったのに」
「あの人をたぶらかしたアンタは私に口答えする権利ある?父さんも母さんもアンタしか愛さない、可哀想なお姉ちゃんにアンタはまだ反抗するの?」
「ねえどうしてアンタは『月』を継いだのに私は継いでないの?どうしていつもアンタばかり幸せになろうとするの?私を置いてくの?ねえジョア…」
姉が涙を零しながらそう叫ぶ。
私はぼんやりとした視界のまま姉を見ていた。
…本当に、悪いのは私なんだろうか。
姉はただ、私にそう罪を着せることで保っているだけなんじゃないのか。
でも真実はどうでもいい。
姉には、私が必要なのだ。私の不幸な姿で、やっと姉は幸せになれるんだから。
「ごめん…姉さん」
「う、うん…姉さんに頼まれちゃったし」
「あんな女の言うこと聞いてほんっと馬鹿だよなァ〜おめー」
「…じゃあ、行ってくるね。ミスタ、ボス」
「ボスじゃあなくてジョルノと。君にボスだなんて言われると悲しくなるよ」
「…ふふ、うん。ジョルノ、いってきます」
本部から出て街を歩く。平和な風景に、これもジョルノ達のおかげかなあとのんびり思った。
ブチャラティが街を見回りしてくれているのもあるだろう。私はそんな優しいギャングの彼ら達と共に進んでいきたい。
だから、護衛チームとは違う雰囲気の暗殺チームは苦手だ。ギャングなのに、私は昔から人の死が苦手だった。そんな人の死に近い彼らを、あまり好きにはなれない。
でもこうして暗殺チームへのアジトへ行くのは、私の血の繋がっていない『姉さん』の存在があるからだ。
「…ジョアです。姉さんはいますか」
「合言葉は?」
「合言葉…?え、えーと…」
「ああ。『愛してる』だぜ。どうぞ」
「……。…愛してる」
「うんうん最高だ。ほら、ようこそ暗殺チームへ」
私を出迎えたのはメローネだった。
今日は珍しくスーツを着ている。アジトの扉から中に入ってリゾットの部屋へ行く。
後ろからメローネが体を触ってこようとするので必死に避けた。
「なんだよ、アンタの姉さんは喜んで触らせてくれるぜ?」
「私と姉さんは違う…」
「いやいや似てるとこあるぜ?このいやらしい身体とかっわいい顔とかさぁ」
「……血は繋がってないから」
私は思わず苛ついた声をだしてメローネを押し除けた。メローネは大して気にした様子もなく、悪かったよと笑う。
…本当に苦手だ。さっさと帰りたい。
「…リゾットさん。ジョアです。姉はまだ任務から帰ってきていませんか?」
「ああ…ジョアか。あいつはまだ帰ってきていない。今日はイルーゾォとの任務だからもうすぐ帰ってくるだろう」
「…?そうですか。あの…これ。いつも姉がお世話になっているので。共有スペースのほうに置いておくのでよかったら食べて下さい」
「気をつかわせて悪いな」
「いえ。ボスもいつも助かっている、と」
「…そうか。ゆっくりしていけ」
「姉に渡したら帰りますので…リゾットさん。少し目に熊があるようですが…最近寝れていますか?」
私がそう問いかけると、リゾットさんはきょとりとした顔をした。珍しいその表情に、私は首を傾げる。なにかおかしなことを言っただろうか?
「…いや…お前は俺が苦手なんだと思っていた」
「…苦手…?」
「…いつも笑わないだろう。俺の前だと」
「そうですか?私、暗殺チームの中ではリゾットさんが一番親しみやすいですよ。好きです」
「…!…あまりそういうことを軽々しく言わないほうがいい。お前のような女が言うと勘違いしそうになる」
「勘違い…?なにかおかしなことを言いましたか?」
「…いや、「あージョア。アンタ来てたのね」
背後から声がして振り向く。そこには姉がイルーゾォくんに抱きつくようにして立っていた。
イルーゾォくんは鬱陶しそうな顔をしている。
だけど振り解かないところをみると満更でもないんだろう。姉は美しい人だから。
「頼まれたものを持ってきたの」
「あら、早いわね。んーどれ…ってちょっと!これ私が頼んだ種類じゃあないじゃない!」
「え…でも」
「買い直してきて。ほんとドジな子ね、アンタは」
「…はいはい。分かったよ」
我儘で女王様な姉らしい。仕方なく紙袋を手に取ってリゾットさんに頭を下げた。
姉ともう少し話していたかったが、機嫌があまりよくないらしい。少し早いが帰るしかないだろう。
が、扉を開けようと伸ばした腕の前に、イルーゾォくんが阻むように立った。姉は振り解かれたらしい。むすりとしている。
「なァ、ジョア。お前ボスとできてるって本当か?」
「…イルーゾォくん。前から言ってるけど、違うよ。もう帰るから、またね」
「っ、待てよ。どーせ寝てんだろ?だからボスの側近なんてお前みたいなどん臭えガキがやれてるんだ。そうだろ?」
「……違うよ。ボスはそんなことをする人間じゃあない」
「ハッ、随分惚れてんだな?ボスも趣味悪いぜ。お前みたいなトロい女選ぶなんてよォ」
「…そうだね。それじゃあ」
「っ言い返さねーのかよ。弱虫」
「………君になにを言われてもどうでもいい、から」
「な…ッ!」
なんでこんな会話をリゾットさんと姉の前でする必要があるんだろう。
リゾットさんは眉をしかめているし、姉はイルーゾォくんが自分を見ないことに苛つき始めている。私は内心ため息を吐いた。やっぱりここは苦手だ。
そんなことを思っているとイルーゾォくんが拳を握ったのがわかった。…殴られるのかな。
「…ッお前みてーなクソ生意気女、誰も相手しねーだろうからこのイルーゾォが話しかけてやってんだよ!それを無碍にしやがって…!」
「……私は頼んでないし…正直イルーゾォくんがあまり好きじゃない、から。もう話しかけてこなくていいよ。気をつかわせてたならごめん。でも、君の労力は使わなくていいから」
今度こそ部屋から出る。リゾットさんには申し訳ない。姉が次は間違えるんじゃないわよ!と言っているのが聞こえて手をひらりと振った。
…確かに私は弱虫だ。姉に逆らおうと思うこともせずこうしていうことを聞いているのだから。後ろからイルーゾォくんが追ってきているのが見えて本当に頭痛がした。
「…ってめーはほんとにむかつく女だな!!待てっていってんだろうが!」
「…ごめん。もう帰らなくちゃ。また今度にしてもらえる?姉さんが怒ってるよ」
「どーでもいいだろんなことは!…っ飯!飯行くぞ。俺はお前のせいで腹が減ったんだ」
…本当になんなんだろう。姉もイルーゾォくんの後ろから来るのが見えた。やはり姉は私が邪魔だと言わんばかりに睨んできている。
私だって帰りたいんだよ。姉さんの恋路の邪魔をする気はないからね。
「…姉さんと行って来なよ…私はいいから」
「はあ!?なんでそうなる」
「……ごめん。メローネと約束してるんだ。それじゃあ」
メローネ、ごめんね。
共有スペースに座っているメローネの腕を引っ張って外に出る。メローネがにやりと笑っているのが見えて眉を寄せた。
「君って意外と強引だよな」
「…そうかな」
「ああ。だがそんなところも好きだぜ」
「……イルーゾォくんは私を嫌いなのに、どうしてあそこまで構ってくるんだろう」
「え?それマジで言ってる?」
「…?マジってなにが?」
「…イルーゾォがアンタに突っかかってくんのはアンタが好きだからだよ。知ってる?アンタの姉貴がイルーゾォに抱き着こうとするといつもはすぐに振り払うんだぜ。今日振り払わなかったのはアンタに嫉妬してもらうためだ。『下らねー』って人によく言う割に一番下らないのさ、あの男がやってることは」
「ごめん、その冗談姉さんに言ったら貴方殺されると思う」
「…冗談じゃないんだよなァ、はあ」
あのイルーゾォくんが私を好き?
世界が三角って言われたほうがまだ信じれる気がする。でも、仮にもしそれが本当なら…
「…吐き気がする」
「おお、結構酷いなアンタ」
「違う…イルーゾォくんのことじゃなくて私」
「…?なにが?」
「…私は…ううん。なんでもない。どこに食べに行くの?」
「…ピザがパスタだな。アンタのオススメにいこう」
…もう姉さんの好きな人は奪いたくないから。
『アンタのせいで私の彼はおかしくなったの!!どうしてどうしてどうしてよ!!いつもいつもアンタばっかり!』
『ねえ、さ…』
『許さない。一生許さないから。悪いと思うならこれから先ずっと私の言うこと聞いて』
「嫌…!!!」
「うおっ、なんだオメー…」
「…っ、ここ、は…」
「俺の部屋だよ。つーかオメー酔っ払いすぎだろ。ずっと泣いてたぜ」
「……メローネは」
「アイツも死んでる」
目が覚めるとギアッチョくんが私を覗き込んでいた。メローネも確かにソファでぐったりとして死んでいる。
お礼を言って立ち上がろうとしたが、それは失敗に終わった。
「っ…ごめん、」
「い、いや…大丈夫かよ」
ふらついた身体を抱き留められる。
ギアッチョくんの頬が赤いのが気になった。
彼もお酒を飲んでる?
「君も…よってる?」
「はあ?俺は一滴も飲んでねーつの」
「…でも顔が赤いから…」
「!!う、うるせー鈍感女!」
「っあ…あたま、いたい、から」
「わ、悪ぃ」
ゆっくりとソファに座り直す。今日は申し訳ないけどギアッチョくんの部屋に泊まらせてもらおう。
「えっと…キッチンで水をもらってくる。少し酔いが覚めて来たから」
「俺が行く。おめーは座ってろ」
「…じゃあ一緒に行こっか。ごめん、少しだけゆっくり歩いてもらってもいい?」
「おう」
ギアッチョくんは静かだ。いつもキレているイメージがあったけど、それは違うらしい。
こんなに穏やかな彼は初めて見た。
「そういえば…どうしてギアッチョくんが?」
「…アイツから連絡あった」
「連絡?」
「『お前襲われたくなかったら今すぐ来い』」
「…最低だ…メローネ」
「…なあなんでアイツだけ呼び捨てなんだよ?俺らはくん付けなのに」
「それは…メローネのことをくん付けで呼ぶとすごい興奮して気持ち悪いから…だからやめたの」
「なら俺もすげー気持ち悪く興奮する!嫌ならくん付けやめろ!」
「……、ふ、あははっ。ギアッチョくんが…?」
「!!!」
「…それなら、仕方ないよね。ギアッチョ、これでいい?」
「……っ」
「…?ギアッチョ?」
「……お前初めて笑った」
「…え、そうかな…」
「…笑えよ。す、すげー…か、かかか可愛いから…」
真っ赤な彼に思わず私も顔を真っ赤にする。
…なんだか久しぶりだな、この感覚。
恥ずかしいけど、嫌じゃない。
二人でキッチンに降りていくと、そこには二つの人影があった。
「ぁ、あん!あ、いいのっ、そこ、すごいっ」
「あ、ぷろしゅーとっ、すきい!」
「「…」」
二人で目を合わせて固まる。これは私の姉の声だ。プロシュートと呼んでいるところをみるに、お相手はあの金髪の美丈夫さんで間違いないようだ。物凄くきまづくなって私達はゆっくり扉を閉めた。
あいにく、向こうには気付かれていない。
「き、共有スペースでヤるか、普通…!?」
「……ギャングに普通は通用しないのかも」
「ギャングっつーより猿だろーが…!」
「…ごめん。私の姉さんが、こんな…」
「…お前が謝るのは、ちげーだろ。いいよ、もう寝ようぜ。今日は泊まってくだろ?」
「うん。明日の朝に戻ることにする。今度なにか奢るね」
「………いい。俺が奢る」
「え?でもそれだと、」「いいから」
その日は少しだけよく眠れた。
夜中に目を覚ますことなく、ぐっすりと。
きっと、ギアッチョと話したからだと思う。彼とはいいお友達になれるかもしれない。
朝の5時に目が覚めてしまった。
私は起き上がってゆっくりと隣を見る。
隣にはメローネとギアッチョが雑魚寝で転がっている。二人に毛布をかけてから部屋を出た。
紙にありがとう、と書いて机に置いておく。
「アンタ、昨日見たでしょう?」
「!…姉さん」
「ふふ、私達わかったわよ。すぐにアンタたちだって」
「…ごめん、たまたまだよ。それよりもう出ないと…」
「プロシュートもイルーゾォもギアッチョもメローネもホルマジオもリゾットも私のよ。アンタには渡さない」
「…?渡さないって…なにを」
「だから!あいつらは私の男にするの!アンタには渡さない!」
「…興味ないよ。でも人を無碍に扱うのはよくない…彼らも姉さんと同じ人なん、っかは…!」
「誰に説教してんの?お前」
姉が肩で息をしながら私を見下ろしている。
口元からつうっと血が垂れた。
どうやら拳で殴られたらしい。かなり痛いが、姉の視線の方が痛かった。
「私はアンタのせいであの人を失ったのよ。アンタさえいなきゃあの人といたのに…こんなとこいなかったのに」
「あの人をたぶらかしたアンタは私に口答えする権利ある?父さんも母さんもアンタしか愛さない、可哀想なお姉ちゃんにアンタはまだ反抗するの?」
「ねえどうしてアンタは『月』を継いだのに私は継いでないの?どうしていつもアンタばかり幸せになろうとするの?私を置いてくの?ねえジョア…」
姉が涙を零しながらそう叫ぶ。
私はぼんやりとした視界のまま姉を見ていた。
…本当に、悪いのは私なんだろうか。
姉はただ、私にそう罪を着せることで保っているだけなんじゃないのか。
でも真実はどうでもいい。
姉には、私が必要なのだ。私の不幸な姿で、やっと姉は幸せになれるんだから。
「ごめん…姉さん」
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