うぃーす、キヨでーす。


つっても今日はゲームの実況じゃなくて、同窓会の実況でもしようかと。

え？なに冷めた風に客観視してんのかって？
いやさ〜、久し振りに彼女に会えると思ってそれ目当てで来たのに挨拶すら出来てねえの。そんな事ある？彼氏なのに。
あ、俺の彼女は名前な。最高に可愛い！

近頃その可愛い名前が仕事に追われててあんまり話せてないんだよ、だから同じ所に居るなら勿論話したいわけ！

さっきからちらちらって視線寄こしてもあいつと一向に目が合わねぇ……。
あ〜くそ、二人きりで話したいのに。
今日は一段とオシャレしてるみたいで、俺の目にはどんな物より輝いて見える。今日も可愛いな…。



「おい、キヨ！」

友人の呼び掛けではっと我に返る。やべ、見蕩れてた。
俺がぼーっとしてる間に、どうやらゲームをやろうという話になったらしい。ふっふっふ、俺にゲームで挑もうとは！愚かだな！

「じゃあスタート！皆引いて引いて〜。………王様だ〜
れだ！」
「俺！」

ま、まあ最初は譲ってやるのが本当の王様ってもんよ。

「じゃー5番！昔の好きな人暴露〜！」

「えー、誰誰！？」

「あ、私だ〜」

該当者が立ち上がると、周囲がきゃあきゃあと騒いで囃し立てる。うっわ〜、俺ならこんな公衆の面前で暴露とか無理〜。でもしっかり耳を傾ける。


「私が好きだったのはっ……、キヨくんですっ！」


……は？きよ、と言いました？
顔を赤らめて熱烈に俺の方を見詰める元クラスメイト。
いやいやいやいや、公衆の面前で告白される高校生の気分で超絶恥ずかしい！！
唐突な告白と集まる視線に思わず頬が熱くなる。

「付き合ってください！」

はあああ！？昔の好きな人じゃねーのかよ！

「いやちょっと……。」

「え〜いいじゃんか、キスでもしてやれよ〜！」

と、友達がとんでもない発言をする。何勝手に話進めてんの。俺が彼女居るとは伝えてないのも悪いけど、いくらノリとはいえど疑わしい事なんてしたくねぇ…。──！そうだ、言えばいいじゃん！


「俺！彼女が……名前と付き合ってるから。」

「ッそっかあ……それならしょうがないね。」

割とあっさり引き下がった元クラスメイトはそのまま大人しく席に座り、周りも次の王様決めを始めようとしている。
良かった……って、これ名前に見られてやしねぇかな。
と再び愛しい彼女が居る席へ目を向け───って居ねえ！見てないならいいけど、一体どこ行ったんだ？
忙しなく目を動かしくまなく捜すも一向に見つけられない。

「じゃあ、次のくじ引くぞー」

彼女の事が胸に引っ掛かりながらくじを引く。
もう少し待ってみて、それでも居ないならLINE入れるか。





「王様誰だ〜！」

盛り上がりも最高潮になりつつある。それに比例するように友人達のボルテージも高くなってる。

……が、俺は違う。
数十分後に再び彼女を漸く見つけたと思ったら、何故か隣に男が陣取ってた。
確かに学生時代その男とよく話してるのを見たような気もするが……ちょ、酒飲むな！お前酔うと顔が赤くなって呂律が回らなくなってそれから………あー！なんで俺じゃない奴と飲んでんだよ！！

苛々やら心配やら嫉妬やらでごちゃごちゃした俺の頭はもう王様ゲームどころじゃない。
抜けて俺も話し掛けに行こう。

「俺ちょっと抜けるわ。」

「は、何でだよ」

「えーやだあ」

全く引き下がってくれない友達にあの手この手で言い訳をして、どうにかこうにか宥め終わった。
よっし、俺も名前に話し掛けよう！と心を入れ替えて胸を高鳴らせながら辺りを見渡す。
…………居ねえ！！！なんて日だ！！！

よくよく捜すとどうやら男も名前も居ないらしい。
お持ち帰り！？まさか名前に限ってそんな……。

急いで店外へと走り出る。途中何度も人にぶつかりそうになったりして大変申し訳ないと思いつつ、彼女の事を考えると走らずにいられなかった。

道端に出て駅方面を向くと、遠くに人影が見えた。
その人影が女だか男だか判別する時間もないまま、それは建物の陰に引っ込む。
あの辺に道なんてあったか……？
なんとなく胸騒ぎがして、すぐに影の方へ向かった。


声が聴こえてきて、足音を潜めた。
誰かいる………。
小道や路地裏を覗きながら音源を探す。

居た！
影は一つだけではなく、二つ。
しかも男女らしい。
月明かりが途切れた闇の中で話す影を慎重に観察しながら進む。



「あのさ、俺は昔からずっと、名前が好き。」

………名前？
男の口から彼女の名前が紡がれ、俺の心臓がどくりと強く脈を打った。

「俺だったらもやもやさせないし、ちゃんと愛するよ。」

………もやもやって？

「わ、私は……」

「……それでもあいつがいいの？」

「……うん。好き、だから。」

名前が答えた途端に男はぐんと迫った。

「あんなチャラチャラした奴のどこがいいんだよ……！俺は高校の時から、名前がっ……！」

閑静な街には場違いな苛立ちを含んだ声が空気を切り裂いた。仄かにヤバい雰囲気を感じて、焦りを覚えながら駆け寄った。緊張感と相変わらず煩い胸の鼓動でその後のやりとりは聞いてる場合じゃなかったが止めなきゃいけないという意志は強く生きていた。

「はいストーップ。」

名前と唇が重なる直前に滑り込み引き攣る喉で声を絞り出す。
ぱちぱちと零れそうな瞳でぼんやりとこちらを見つめる彼女を引き寄せ、俺の腕の中に収める。──昔からずっと好きだったのは俺もなんだよ。でも今は、

「こいつ、俺のだから。」

敵意を剥き出してそれだけ言い放つと、名前をグイグイと連れ出した。



漸く二人きりになった。何か話さなきゃという気持ちと、あの男が言ってたもやもやって何なんだという気持ちが交差して一向に纏まらない。俺何かやっちまったかな。会いに行かなかったから？ゲームばっかしてるから？やべぇ思い当たる事がどんどん出てくるのに何で今更気付いたんだよっ…！

「キヨっ、」

「……なに。」

思考に飲み込まれてた俺は大切な彼女を置いて早足で歩いてた事に気がついた。おまけに低い声！そういうところがまたもやもやの原因になるんだろうな……。どうにも俺は感情が先走るタイプらしい。

「まだ足が震えるから、待って……。」

ぴたりと歩行を止めた。足を止めたら口を動かさずに居られなくなって、つい。

「……お前さ、なに甘えた顔してんの？」

「え？」

「あの男の前で。お前いつもは酒あんま飲まねえからと思って安心してたけど、なんでよりにもよって男の前で飲んだんだよ。」

出来るだけオブラートに包みたいのに考えるより先に堰を切った言葉が止まらなかった。

「それは落ち込んでた私を元気づけるために…。」

「落ち込んでた？」

何に。不安で思わず振り向いた。僅かに見える俯いたこいつの表情からは何も読み取れない。

「………。」

「なに、言えって。」

「………キヨ、と。今日は、キヨと話せると思ったのに……。さみ、しくて…。嫉妬した自分が鬱陶しくて……。」

「嫉妬…？」

「だからっ…、王様ゲームで告白されたとき、キヨが照れてるの見えたからっ……。」

「……あ！ちが、あんなの人前でやられたら普通に恥ずかしいだろ！なんだよ公開告白って、俺JKじゃねえし。」

嫉妬！可愛いけどあの高校生みてぇなノリの告白現場見られてた…！

「………キス、したんじゃないの？」

「え…俺がしたと思ったってこと？いやするわけなくない？お前が居るんだから。あれは適当に流した。」

デカい声で誰かがキスしろって言ったのも聞こえてたのか…！こんなんでもやもやさせてたなんて、最初から名前の隣に居ればよかった。それなら心臓だってこんなどくどくしなかった……のは嘘。コイツの隣はいつもドキドキする。ただ、今日のはちょっと心臓に悪かった。

「ほんと？よかったあ……。」

「はー……よかったじゃねえよ。ぼやぼやしてっから、暗いとこ連れて行かれんだぞ。」

「バッグ、持って行かれて、」

「はあ…お前は俺の側から離れんな。ほんっとに危なっかしいなあ……。」

「うん、キヨの側にいる。」

「……あのさ。俺だって、お前と話したいと思ってた。なのにさ〜、お前全然こっち見てくんねえんだもん。」

俺の視線にも気付かないとか、バッグ持って行かれるとか、本当にぼんやりしてるよな。目が離せないこっちの身にもなれよ。

「え、」

「しかもなに？可愛くしてんの近くで見れねえし、俺より先に他の男に見られるし。かと思ったらすげえ迫られてるし。」

「え、え…？見てたの？」

「見てたけど。酔ってふわふわってあの男に笑いかけてたとことか。」

「ええっと、それは……。」

「ね、俺と約束して。男の前では酒飲まないこと。甘えるのは俺だけにしてほしい。」

あんまり束縛は嫌いな俺だけど、こうでもしないとしっかり守れなさそうで。こいつの甘えた表情を俺だけのものにしたいってのが本音なのはここだけの秘密。

「うん、約束する。」

「ん、いい子。お前明日休みだろ？俺んち行こうぜ。」

「いいの？行く！」

「ほら、またその可愛い顔。そんな顔俺以外に見せんな。つーか、なにアイツに触らせてんだよまじで。……お前覚えてろよ！」


二度と男に近寄らせねー！
新たなる使命を胸に抱く。可愛い顔で少し戸惑ってる名前が愛しくて自然と口角が上がった。どちらからともなく指を絡め、歩き出す。

「あ、」

「どうしたの？」

「名前、好きって言ってくれて嬉しかった。俺も……あいしてる、」

「！もう一回言って！」

「は！？やだ、調子乗んな！！」