つぶやきログ

 ──定期面談つっても、最近は名ばかりだから。力使ったかどうかの検査はウザいけど……いつも通りホーコクして、ちょっと茶飲み話して即終わり。そうしかめ面すんな。

 春のうららかな昼下がり、そう言い残して扉の向こうへ消えた阿赫を、叶子は回廊でぼんやりと待っていた。
 視線をさまよわせていると、向こうから見覚えのある大小の人影が歩んでくる。ふたりを中心として広がる、興奮と喜びに弾んだ妖精たちのざわめき。慣れたようすであまり気にもならないらしく、今や館で知らぬ者のないかの師弟は穏やかに談笑を続ける。
 一陣の風。
 戦闘本能がたちまち全身の筋肉を硬化させる、よりも早く──そのゆったりとした足取りのままに叶子を貫いた、圧倒的な強者の気。
 苦い記憶が呼び起こされ、同時に問いは独り言のように口をついて出た。
「……おまえの、強さの源は」
 長髪の男の足が止まる。
「天分だな」即答。
「はぁ……」
「意外だよ、お前はすでに裡へ持っているものと思っていたが」
「天分を?」
「いや。残念ながら──そちらは小黒がじきに追い越してしまうだろう」
 頭を撫でられた子猫の妖精は、上機嫌でファイティングポーズを決める。
「ぼくを倒してから通ってね〜!」
(なんだこいつら)
「力そのものではなく、なんのために用いるか。使い手次第とはそういうことだ。お前が何を捨て、何を選んだか、あの一瞬でもよく伝わってきたよ」
「…………」
「とかく、見失わないことだな。これは私の自戒でもある」
「じゃあね!」
 頷きあい、笑いに揺れるふたつの影を、長く差し込む陽の光がやわらかく照らす。そうして、かれらはあくまでゆるゆると遠ざかっていく。

「めずらし。奴らへ絡みにいくとか」
 声の主は阿赫だった。あれほどいたはずの師弟見物の妖精たちもいつの間にやら散り、背後には人影も見えない。
「いたのか」
「な、早かっただろ。何話してた」
「……聞いても聞かなくても、同じことだった」
「ふうん?」
 おのれの身が惜しくない。力が底をつくとも手を伸ばしたい。
 そう思えるただひとりの細い手首をとり、無骨な指でつとめてゆるりと撫ぜる。突然にふれられ、やや落ち着かなげに視線を走らせようとする小ぶりなあたまをかき抱く。光に透ける肌触りのよい髪を、叶子はひたすらに、蕩然として梳いている。
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