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デッサン sg×kwkm




「へぇ、芸大生って課題大変なんだね。」

「そうなんです。だから、」

"左手だけ貸してください"

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グループ内でも群を抜いて素晴らしく美しい手指を持つ川上さんに、左手だけ貸してください。と、文字列だけ見れば思い切り変態的なことを一日中懇願し続け、やっとお許しを得ることが出来た。

オフィスには運良く、川上さん1人だけだった。

デッサンの課題なのだと伝えたら、それはそれは嫌がりながらも仕方ないという風に左手を差し出してくれた。

川上さんの手に何度も何度も触れながら、手の甲の骨が1番美しく見える角度に細かく調整していると、

「これ、思ったより時間かかるやつじゃん、やっぱり辞めたい。」

と、至極嫌そうに言われたが、
すぐ終わりますから。なんて誤魔化しながらやっとの事で描き始めるまでに至った。

右手は好きなことをしていて下さい。と言うと、シャーペンを持ち、記事の内容を考え始めたようだが、見られているという状況になかなか集中できないようだ。

描き始めて数分しか経っていないというのに、まだ?と何度も聞かれている。

「そんなに早くは出来ませんよ、」

と言うと、小さく溜息をつきながらも、動かないでじっとしてくれている川上さんは優しい。


僕は、川上さんの美しい手がとても好きだ。

指の長さ、血管が透ける皮膚の薄さ、関節の太さ、整った爪。

全ての要素が美しくここに揃っている。

それを長時間眺め、さらに描いてもいいと言う許しを得たことには、当然だが興奮してしまう。

手自体が色気を放ちすぎているおかげで、まるで、見てはいけない部位を見ているような気持ちになるほどだ。




「爪は頻繁に切られるんですか?」

「うん…」

「中指、逆剥け出来てますね。痛そう。」

「ん…、」

「へぇ、こんな所にホクロあったんですね、知らなかった。」

「…ちょっと、全部口に出して言わないで、」

なんか恥ずかしいから、と耳を少し赤くしながら言う川上さん。その気まずそうな表情に抑えていた劣情が、ほんのわずか、揺すられる。

川上さんもやっとデッサンの本質に気付き始めたようだ。

今、言葉にされるのが恥ずかしいと自分で言ったその特徴を、僕は描いているんですから。

川上さんが普段何気なく使っている手を、川上さんの常識が染み付いたこの手を、
こんなにも深く眺めて、それを細部まで今ここに描き起こしているんです。
デッサンってそういうことなんです。

本当は、こんなに厭らしいことなんですよ、と教えてあげたくなってしまう。


「手がちょっと緊張してるのが分かります。」

思わずクスッと笑みが漏れてしまった僕を、睨みつけるような冷めた目付きをする川上さんだが、耳は依然として赤いままだ。


「ちょっと、間違えたからここ消したいんだけど、左手使っていい?」

緊張した空気から逃げようとしているのか、川上さんは消しゴムを指さして誤魔化すようにそう言うが、この緊張した空気感はもう少し楽しんでいたい。

「ダメです。手の形が崩れると、また一から書き直しになっちゃいますよ。」

なんて言って脅しながら

「僕が紙押えてますから、右手で消して下さい。」

と言うと、渋々、と言った感じで右手に消しゴムを持つ川上さん。

紙を押さえてあげたはいいものの、実際書いている内容はあまり進んでいない。

冷静な川上さんでも、こういう空気にはちゃんと動揺してくれるんだな。


「あとどれくらいで終わるの、、」

書いていた文字を消しながら僕の表情を窺う川上さんの表情にも、やっぱり緊張感が滲んでいる。

「まだ、皮膚の質感を出すには書込みが必要ですね、あと特徴的な骨や血管の影と、さらに爪の、

「っ分かった、早くして、」


川上さんは言葉で言い聞かせられるのが何より恥ずかしいらしい。
そんな反応をされると余計に嗜虐心が煽られてしまうのになぁ。




「川上さんは右手が利き手ですけど、左手の方が器用にできることって何かありますか?」

デッサンを進めながらそう問うと、もう丸っきり記事には集中できなくなったらしい川上さんがハテナをうかべた顔でこちらを見る。

右手はもうシャーペンを指先で弄るだけになってしまったが、僕としては目に嬉しい光景だった。


「例えば僕は、お札を数える時や、スマホを触る時は利き手と逆の方が上手くできるんです。」

というと、あぁ、と納得したような声を上げたあと、川上さんは自分の左手を眺めながら

「俺は電卓とかなら左の方が早い。あとスマホは、どっちでもフリックできるかな。」

と、普通の話題に少し安心したような口調で答えた。左手の緊張も解けてきて、とても分かりやすい。

利き手じゃない方も動かした方が認知症対策になるらしい、とか、雑学を言えるくらいには緊張も落ち着いた様子。

左手は未だ、僕にこんなにも厭らしく視姦されていると言うのに。

無防備に話す川上さんに、もうそろそろこれがどういう行為かを知ってもらいたい欲求が湧いてきてしまう。


「そう言えばね、僕の友達は利き手じゃない方で自慰行為するらしいんです。僕にはそれがあまり理解出来なくて。利き手の方が的確に動かしやすいはずなのになぁ。」

そう言うと、川上さんは驚いたように目を開いた。

唐突にでた自慰行為と言う言葉に、手にも顔にも緊張が戻ったのが分かる。

スルーされないように、どう思います?とすかさず問う。

「…知らないよそんなの。」

心做しか語尾が掠れ、それを咳払いで誤魔化そうとする川上さんからは、激しい動揺が見て取れた。

「川上さんは、どっちでするのが得意ですか?」

ちなみに僕は、右手です。と畳み掛けるように言ってみると、川上さんは紅潮した顔を隠すように俯く。

「そんなこと、なんで言わなきゃならないの、」

鬱陶しそうに答える口調が全くもって平静を保てていない。

「川上さん、さっき左手器用だって言ってたし、左かな?」

と言ってみると、肯定するかのようにあからさまにシャーペンを取り落とす川上さん。
それは反則でしょう。わかり易すぎて思わず笑みが零れる。

「はは、図星なんですね。てことは、、

僕が今描いてる方の手で、普段からオナニーしてるんだ?」

敢えてオナニーと言う直接的な言い方に変えて、羞恥を煽る。

恥ずかしさで一杯になりながらも逃げ場のないこの2人の空間で、真っ赤になったままの川上さんは、僕に対して理解できないとでも言うような目を向ける。



「たかが手のデッサン、って、心のどこかで思ってたでしょう。手って言うのは、何にでもまず触れる場所なんですよ。つまり、ここが、川上さんの入口って言うことなんです。」


初めは単に左手を貸すだけ、
たったそれだけのお願いだと思って受けてくれただろう川上さんは、

僕にこんな思いをさせられるだなんて思っていなかっただろう。


「ちなみに、僕はずっと川上さんの手をそういう目で見ながら描いていましたよ。」

「…もう、終わり、やめる。」


さすがにもう恥ずかしさには耐えきれなくなったと見えて、左手を引っ込めてしまった川上さん。

「あぁ、もうおしまいですか?まぁいいや、あとは目に焼き付けた分でなんとか描きます。」


出来上がったら、見せますね。と微笑みかけてみると、子供のように首を振って拒否をされる。その表情は僅かだが絶望を滲ませていた。


「デッサンの奥深さ、わかりましたか?」

左手を、右手でぎゅっと隠すようにしている川上さんは、なんだかあと一手で泣き出しそうなくらいの表情で固まっている。

これが、実は課題ではなく僕の趣味だと言ったら川上さんはどんな顔をするんだろうか。




「あ、そう言えばね、耳にも利き耳ってのがあるらしいんですよ、」



耳にかかる川上さんの綺麗なハイトーンの髪を退け、そっとそこへ口元を近づける。


"今度は、耳のデッサン、お願いしますね。"


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