プロローグ
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食事を終えてから寮を出れば、すっかり日が暮れていた。
さっさと学園長に伝えてしまおうと、学園内を探すが見つからない。
「あいっかわらず、あの人捕まんない…!」
「この時間に学園長室や、鏡の間にもいらっしゃらないとなると分かりませんね」
他の生徒が寮に帰って、誰も居ない校内の廊下を自由に飛び回りながらニックが言う。
結局今までも学園長が捕まらないから、なあなあにしてきた所がある。
学校行事も多いし、それに授業中に突撃訪問してくる事があるから、学園長の姿自体は定期的に見るけど、行事中や授業中に捕まえて、異世界から来ましたー!なんて他の生徒たちの前で話せるわけも無いし。
「見つかんないし帰るかぁ……って、ああもう。雨まで降り出したし……」
窓の外をからザアザアと雨音がし始めた。
校舎から寮へ帰るための鏡がある鏡舎まではそれなりに距離がある。
「しょうがない。もう少し雨足が弱まるまで学園長探すかー」
そう思い大食堂の方へと足を向ける。人は居ないが、もしかしたらゴーストはいるかもしれない。
ゴーストがいれば、学園長の目撃情報もあるかもしれないし。
暗く誰も居ない廊下を雨音をBGMにニックと2人のんびり進んでいたのだけれど……。
「若様っー!!どちらにいらっしゃるのですか!!」
雨音が掻き消されるくらい大きな声が廊下に響いた。
「ひっ、」
驚いたニックは私の肩の後ろに隠れた。
「むっ、そこに誰かいるのか!」
そんな大声と共につかつかと足音が聞こえ、暗い廊下の闇の中から金の目と若草色の髪を持った背の高い男子が現れた。
着ている物が式典服なので、恐らく新入生であろう。
いつもの私なら逃げる所だが、あいにく今日は人探しをしている最中だし、学園長を見ていないかこの人に聞かないといけない。
「おい、人間!若様を見かけなかったか!!」
「うっ、」
まるで雷でも落ちたかのような大きな声で話されて耳が痛い。
「聞いているのか!人間!!!」
「聞いているからもう少し小さな声で喋ってくれないかな!この子も怖がってしまっているし!」
私の肩にしがみつき、ぷるぷると震えるニックをそっと撫でれば、彼はその特徴的な金の目の瞳孔を開いた。
まるで、獣のような子だと思っていれば、彼の眉間に深いシワが刻まれていく。
「貴様!何故妖精を連れている!」
先程よりか少しばかり声が小さくなったので、気を使ってくれたのだろうから悪い子ではなさそうだが、それにしたって随分と横柄な態度である。
「何故って……」
「当然、パニーさまが私のマスターだからですよ!」
「マスター、だと!?この人間が!?」
ニックがふふんと得意げに言えば、彼は随分と驚いたように私を見た。
「貴方、先程から人間人間と随分と失礼ですね。パニーさまは、れっきとした鏡士であらせられます!故に鏡精である私を生み出したんですから」
大声にビビり散らしていたのが嘘のように彼の前に飛び出したニックはえっへん!というように胸を張った。
「かがみし……?魔法士ではないのか?しかも、生み出したとは……」
「ああ、魔法の鏡を作る家系の生まれでね。我が一族が作る鏡から生まれる妖精が彼ら鏡精なのさ」
実際は違うが、異世界の事を説明するのはめんどくさ……大変なのだ。こちらの世界に合わせた適当な事を言っておく。
「む、僕も知らない妖精族が居たとは。まだまだ勉強不足だな」
納得したのか、勝手に自己反省を始めた彼に、ところで、と声をかける。
『誰か探して居たのでは?』
そう言えば彼はハッ!と顔を上げた。
「そうだ!貴様、若様を見ていないか!!」
『若様って?』
「若様は若様に決まっておろう!我らが茨の谷の次期当主、マレウス・ドラコニア様に他ならん!」
マレウス・ドラコニア。その名前を聞いて、ニックはピューっと素早い動きで私の肩の後ろに隠れた。
『マレウス先輩か。私は見かけていないけれど、おそらく校内にはいないよ』
「なにっ、何故そのような事がわかる?」
『この子が震えていないから。あの人が近くに居ると強い魔力に反応してぷるぷると震え出すんだよ』
「なるほど。確かに小さい妖精達には若様の偉大なお力は震え上がるものだろうな」
『流石に、この時間なら寮に戻ってるんじゃないかい?キミ、見たところ新入生でしょう?鏡舎の場所が分からないのであれば……』
「必要ない!先程ジャミル先輩に教えて頂いた」
『ああ、スカラビア寮の子なんだ』
「違う!僕はマレウス様と同じディアソムニア寮だ!!」
え?じゃあなんでジャミルくん??
出身が一緒とか……には見えないな。ジャミルくんはカリムくんと一緒の熱砂の国って暑いところ出身って言ってたし、それにしてはこの子の肌は白い。
いや、まあ、どうでもいいか。
『そうか。じゃあ迷わないようにね』
「ふん、一日に2度も同じ鉄をふむものか!」
ああ、答え出た。
迷子になった所をジャミルくんが助けたんだな。あの人この学校には珍しく親切な人だし。
「では、世話になったな、人間!」
そう言って踵を返す。
うん、一応礼は言えるんだな。上からだけど。ってじゃなくて、
『待って待って!学園長見てない!?』
「学園長?知らん!」
彼は顔だけこちらに向け、潔い返事がだけが帰ってきた。
『そっかあ……。ありがとう、行っていいよ』
「ああ。ではな」
そう言って声の大きい男子生徒は暗闇へ続く廊下の先へと消えていくのだった。