プロローグ
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入学式には在校生は寮長しか参加しないし、他の生徒たちは各寮でお留守番だ。
「うわっ、お前それずりぃぞ!」
「何をおっしゃいますやら。出たアイテムを使うのは当然でしょう!」
「って、ニックのせいでパニーに抜かれただろ!」
「お先に〜」
モニターの前で、コントローラーを握る2人のイグニハイド寮生と、体のサイズにあっていないコントローラーの周りを忙しなく飛びながら1匹の
「くっそー!負けたー!1年前はタブレットも知らなかった癖にー!!」
「ふふふっ。これぞ勤勉な精神で鍛えたゲームテクニックよ」
「さすがパニーさまです!」
こっちに来て、イグニハイド寮生達に教えられたおかげですっかりゲームというものに私もニックもハマりこんでしまった。
他所の寮のことは知らないが、うちの寮は進級と共にの部屋替えはない。……せっかく1年掛けて慣れたのに、新しい人とコミュニケーションとるなんて無理と言う生徒が殆どで、余程のことがなければ部屋割りを変える生徒はいなかった。
うちの部屋も、私はもちろんのことニックも同室の彼とすっかり仲良くなったし、わざわざ部屋を変えることはなかった。
今年変わったのは、寮長になったイデア先輩が一人部屋(オルトくんもいるから本当に1人部屋なのか?)になったくらいだ。
「あー、白熱したら、腹減ったな」
「そうだね。キッチンで何か作って来ようか」
そう言って、座り込んでいた床から立ち上がる。
「まじ?パニーの飯美味いんだよなー!」
「ありもんで作るからリクエストは聞けないよ」
イグニハイド寮生は校内の食堂で食事する子が少ないので、寮内のキッチンで自分の食事を作る子が結構いる。……まあ、そもそも栄養ドリンクだとかゼリーだとか、バーで済ますような子の方が多いんだけど……。
んで、その寮で食事を作る人たちが、私の貧乏さを見かねて、余った食材を自由に使っていいよ、と冷蔵庫に残して置いてくれる事があるのだ。
「おー、何でもいいぜ」
「んじゃ、ちょっと作ってくるわ」
ニックは…と見るとレーシングカーのカスタマイズにお熱だ。
置いてっても、彼となら仲良くゲームをしてる事だろう。そう思い、声をかけずに部屋を出て寮のキッチンへ向かった。
キッチンの冷蔵庫を開け、通称ご自由にお使いくださいゾーンとなっている1番下の段をみる。
「わ、なんだこの冷ご飯の量。誰か炊きすぎたな?使いかけの玉ねぎと、卵と、豚肉の細切れが少し……あ、レタスもあるね。これは、もう残り物の定番焼き飯を作るしかありませんなー」
まな板と包丁を用意して材料をそれぞれ細かく切っていく。
「ん……?」
人の気配がして手を止める。キッチンをぐるりと見回したあと、出入口の方へ包丁を持ったまま向かうと、入り口すぐの壁に引っ付いてうずくまっているイデア先輩が居た。
「ひっ、パニー氏……!決して覗いてたわけでは……!」
「何してるんですかこんな所で……、入学式おわったんですか?」
「お、終わった…!入学式も寮案内も終わった……というか、あの包丁おろして下さらんか」
「あ、」
包丁持ってたの忘れてた。
しかし、寮案内までもう終わってたのか。ゲームに白熱しすぎたな。
「で、寮長がキッチンに来るなんて珍しい」
それこそ、イデア先輩こそ食事は栄養さえ取れればいいと、ゼリーだのバーだの派筆頭である。
「いや、その、流石の拙者も、今日は頑張ったので、お腹が空いて………」
「ちゃんとしたものを食べようと……!」
「でも、よく考えたら疲れてるのに自分で作らないといけないとかめんどくさくなってきた」
はあ、とイデア先輩はため息を吐き、膝に頭を埋めた。
「あまりモンの焼き飯で良ければイデア先輩の分もつくりましょうか?なんかわかんないけど、冷蔵庫の中めっちゃ冷ご飯ありましたよ」
「いいの……?」
「いいですよー、ついでだから」
「神か?」
「何でもいいんで、そんなとこ座ってないで中入りましょう」
そう声をかけてキッチンの中に戻り作業を再開した。
イデア先輩は、背を丸めたまま、のそのそとキッチンに入ってくる。
「入学式どうでしたー?」
「めっちゃ、大変だった……」
「……タブレット参戦だったんですよね?」
大勢の人の前に行きたくないと散々駄々を捏ねた結果、タブレットで音声参加することにしたと聞いていたが。
「そうだけど……、なんか、入学式前に勝手に扉を開けて出た生徒がいたり、ねこたんが外に放りだされたり……」
「ねこたん?レオナさんですか?」
「デュフッ、パニー氏、さすがにそれは面白過ぎッ。ヒヒッ、入学式から放り出されるレオナ氏とかwww」
ヒィヒィとイデア先輩は腹を抱えて笑いだした。
「ラギーの話じゃ、あの人どこでも寝るって聞いてたんで、入学式でも寝て放り出されたのかと……」
「ンフッ、放りだされたのレオナ氏wじゃなくて、なんか青い炎を耳からだした猫みたいなモンスターが乱入してて……。それをリドル氏がオフへして放り出した、みたいな」
へー、と気の抜けた返事をしながら、細かく切った材料を熱したフライパンで炒め始める。
「それに、なんかその勝手に扉開けた子、魔力なしだったみたいで、選定ミス?闇の鏡の故障?みたいな」
「私の時もですけど、闇の鏡ちょいちょいそういうのあるんですねー」
「いや、学園長はここ100年で初めてとか言って………、え?パニー氏まさか、去年、学園長に報告してないの……???」
「……そういうもんなのかと思ってしてないですね」
「嘘……え、じゃあ学園長もパニー氏の事、異世界人って知らないの……」
去年一学期終わりのホリデーで鏡から元の世界に帰れなかった時に、学園長に帰れないと言おうと思ってたんだけど、あの人忙しい忙しいと言ってバカンスに出かけてて捕まんなかったから、まあいっか、ってなっちゃったんだよね。
「それどころか男じゃないって事も気づいていない可能性が………」
「……、そ、そうだった。すっかり馴染んじゃってて忘れてたけど、パニー氏、女の子だった。こ、こんな陰キャが同じ空気吸っててすみません……」
「いや、大丈夫ですよ。空気くらい好きに吸っててください」
「と、いうか、学園長も知らない秘密とか、拙者には重すぎる………!何かあった時責任とか言われたらイヤだ。僕、寮長だし、絶対何か言われる……!そんなの無理なんですけど……。パニー氏!寮長命令!今すぐ学園長に共有して来て!」
「え、今すぐはちょっと。焼き飯作ってますし」
「ええー!?寮長命令ですぞ!?」
「イデア先輩お腹すいてないんですか?」
「…………。ご飯食べたらちゃんと行ってね」
さすがに食欲には勝てんかったらしい。
「はーい」
呑気に返事をしながら、フライパンを振るのであった。