ホーリーロード編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
【黒マフラー】
第一印象は【それ】だった。
ふと、今も目に付いた。 冬が過ぎ去り、春の暖かな日差しの中、今日も【それ】が靡いている。
2年生の春にあの子が雷門中に転入してきてから1年が経つが、例えどんな暑い日だろうが、【それ】はあの子の首に巻いてあった。
「三国さん、いきますよ!」
神童の声にハッとして前を見るが、俺の横を白と黒のボールが過ぎ去って行った。
「三国さん?」
一つ下の学年で今やサッカー部のキャプテンを一任された彼は、なにごともなくゴールに入ったボールを見て不思議そうな顔をした。
「すまん、少し考え事をしていた」
拾い挙げたボールを神童へとパスする。神童は渡されたボールを受け取ったあと、なにか考える素振りを見せて、久遠監督の元へ走って行く。
その様子を目で追っていれば、【黒マフラー】のあの子が監督の隣で記録をとっていた。
そう言えば、あの子とは、あまり話した事がない気がする。同じ部活にいるのに、だ。
休憩、と神童が声を張り上げた。皆いっせいに、マネージャーの元にタオルやドリンクを貰いに向かう。 ふと、あの子を見れば他の子たちと同じように、ドリンクを配り始めた。
俺の足は自然にあの子の元に向かっていた。
あの子は近づいてきた俺を見るなり、ドリンクを差し出した。
「あぁ、ありがとう」
受け取ったドリンクを一気に飲み干す。 ふと、また【黒マフラー】が目に入った。
『そんなに気になるの?さっきからチラチラ見てるけど?』
どうやら、俺の視線はバレバレだったようだ。
「一年中着けてるよな?暑くないのか?」
俺は気になって仕方なかった、質問を投げ掛けた。
『別に……なれちゃったかな?』
「いつから、【それ】してるんだ?」
『さぁ、』
忘れちゃったよ、と彼女は、どこか寂しそうに呟いた。
「黒マフラー先輩、手伝ってー!」
『ん、あぁ、』
どうやら、彼女は黒マフラーと言うあだ名で呼ばれているようだ。そのまんまだ。まるで捻りがない。
手伝いに行ってくる、と彼女はその場を去って行ってしまった。
「三国さん、練習再開します……?」
俺を呼びに来た神童が首を傾げた。
「あれ?今の……、」
「なぁ、神童、アイツの名前知ってるか?」
「先輩達と同学年ですよね?確か…………。黒マフラー先輩って呼ばれてる事しか……、すみません。マネージャーまでは把握できてなくて……」
「いや、いいんだ。俺も覚えてなかったし。それに選手もマネージャーも人数多いしな」
ポンと申し訳なさそうにした神童の肩に手を置く。
今やサッカーの名門といえば雷門だ。過去にFFIで世界一になった選手の多くがここ出身だ。
憧れてサッカー部に入ってくる生徒は男女ともに数知れない。
しかし、両目が隠れるくらい前髪を伸ばしていて暗そうに見えるが、話してみたらけっこう気さくな子だったな。
そうだ、次は名前を聞こう。そう心に決める。
「さぁ、練習再開しよう」
神童の肩を押して俺はゴールの前へと向かった。
三国太一、雷門中サッカー部、一軍ゴールキーパー。
彼が聞かなければ、思い出さなかったかもしれない。
私はギュッと、私のあだ名にもなっている、トレードマークの【それ】の端を握りしめた 。
今や私のトレードマークだが、これは幼い私の強い憧れから、ある人を真似して着け始めたのだ。
あの頃、5歳にも満たない私は、食い入る様にテレビを見つめていた。
そのテレビに映されていたのは、次々と破壊される学校。そして、サッカーの試合。
私はそのテレビに映る、ある人が大好きだった。
『おさむにーちゃん』
顔はちょっと怖いのだが、おひさま園でいつも私と遊んでくれる優しい人。
私は同じ園内でも、真っ赤な目が怖いと他の子に怯えられていた。
そんな私に、自分とお揃いだとかっこいいだろうと励ましてくれていた。
テレビに映る、おさむにーちゃんは、デザームと言う違う名前で呼ばれていた。
いつもと少し違って見えたけど私には絶対おさむにーちゃんだとわかった。
どういう事なのか、何故、おさむにーちゃんがテレビに映っているのか、小さな私には理解出来なかったがサッカーをしている彼が私は大好きだったのだ。
そして、デザームと名乗る彼の真似して黒マフラーを着け始めたのだった。
それは、養子先に引き取られおひさま園を出た今もなお、着け続けられている。
『……大丈夫』
私は、【それ】からソッと手を離した。
ピロン、と初期設定のままの携帯のメール受信音が鳴る。
他の人たちに見えない様にメールをそっと確認する。
『入学式か……』
受け取ったメールに書かれた日にちを見て、 私は小さく息を吐いた。
1年だ。この学校に来て1年待った。ようやく動くときが来た。
『こんな部、ぐちゃぐちゃにしちゃえ』
そう小さく呟く彼女の【黒マフラー】が強い風ではためくのだった。
