お家へ帰ろう
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私と佐竹くんを助けてくれた少女、柏葉琴乃に話を聞くと彼女は同級生だった。とは言ってもこの世界にいる人間はみな、実年齢関係なく高校生にされるらしいので本来は違うだろうけど。
柏葉さんの話では、高校生以外の人間はみなゲームで言うところのNPCのようなデータだけの存在らしい。
実際、あの後家に帰って私を待ち構えていた弟も妹も母もみな一様にじゃみじゃみとしたノイズの塊にしか見えなくなってしまっていた。
事前に柏葉さんに説明してもらってなければ、家に帰った途端悲鳴をあげるところだった。
メッセージアプリのWIREで柏葉さんと佐竹と連絡先を交換して、帰ってからは2人の知っているこの世界の事を色々と教えてもらった。
学校には普通に行って、気づいていない生徒のフリをした方がいいとか。
μのファンであるフリをした方がいいとか。洗脳状態の時は気づかなかったが、確かにこの世界ではμの人気が異常だ。バーチャルドールはμ以外にもいるし、そもそもこちらでμ以外の音楽を聞いた覚えがない。
そういえば前にクラスでバーチャルドールはアリアが好きだと言ったら、知らないとか、μの方がいいでしょと速攻で話を流され、μのどの曲が好きかみたいな話になっていった記憶がある。
2人から注意すべき事を学んだ私は、次の日、普通に学校に行って、洗脳されてる生徒たちとじゃみじゃみの教員が行う授業を受けた。
佐竹くんも同じクラスであるが彼はこれまで通り、早弁したり、授業中に居眠りしたりしていた。
随分と前からこのおかしな世界には気づいていたらしいけど、いくらなんでも慣れすぎじゃないかな。
いや、まあ、現実じゃないなら真面目に授業受ける意味もないんだろうけど……。
「いいんちょー」
お昼休みに入ってすぐ、クラスの女の子の1人が間の抜けたような声で私を呼んだ。
『どうしたの?』
「なんか別の組の子が呼んでるー」
別の組の子?と首を傾げながらも教室の出入口に向かえば、扉の先に柏葉さんが居た。
『柏葉さん?何かあった?』
不安になって小声で尋ねれば、彼女は優しく笑いながらううんと首を横に振った。
「昨日の話の続きもしたいし、お昼、一緒にどうかと思って」
そう言って柏葉さんは手に持っていたお弁当袋を掲げて見せてきた。
『ああ。そういうことなら是非!』
ちょっと待っていてと彼女に声をかけて教室の中に戻り自分の弁当箱を取りに行く。
その途中で未だに机に突っ伏している佐竹くんが目に入った。
昨日の話の続きをするなら佐竹くんにも声をかけた方がいいんだろうけど……流石に、男の子を食事に誘うこの行動は普段と違って目立つよね。昨日の怖いのみたいなのに襲われるらしいしできるだけいつも通りに過ごさないと。
そう思って、佐竹くんに声をかけるのは諦めて、弁当箱を取って柏葉さんの元へ急いで戻った。
『お待たせしました。どこで食べますか?』
「そうねぇ、出来ればあまり人がいないところがいいけれど……」
そう言って歩き出した柏葉さんに着いて歩いていく。
『学校内で人がいないところ、というのは難しいかもしれないですね』
特に昼休みはみんなあちこちウロウロしているし……。
普段人がいないところでも、お昼をひっそり食べたい人達がいたりするもので……。2年の教室がある2階から1年の教室のある1階の隅々まで見たが、ここには居ないのではと思った所でもやっぱり数人だが人が居た。流石に2年の私たちが3年生のいる3階フロアをウロウロするのは変だしどうしようかと悩む。
「流石にお昼を食べる時間がなくなっちゃうわね。秘密の話ができそうな所は難しそうだし、とりあえずご飯を食べれそうな所にしましょうか」
『そうですね。でしたら外のエントランスはどうでしょう?あそこならベンチもありますし』
「いいわね。天気もいいし!ただ、ベンチ空いてるかしら?」
『あそこ意外と穴場なんですよ。カップルの横とか嫌な人達が間開けるんで』
「ああ、なるほどね」
くすくすと笑いながら2人で昇降口から外へと出ると言った通り、円形の水場を中心に花壇が並びその前に並べられたベンチには空きがあった。
カップルの横だったけど、気にせず座って2人揃って膝の上にお弁当を広げて頂きますと手を合わせた。
「やっぱりWIREでやり取りするのが1番いいのかしらね」
『そうですね。人の目を気にしなくていいですから』
「でも、やっぱり文字で説明が難しい事もあるし、あって話せる場所も欲しいわよね」
『そうですね。佐竹くんも交えて話せる場所があればいいんですけど』
お弁当の卵焼きを口に運んで咀嚼しながら考える。
『放課後なら人も減るけど……』
「ああ!そうよね。放課後なら帰宅する子もいるし、部活動で体育館やグラウンドに出るから人が減るわね」
いいじゃない、放課後と柏葉さんは手を叩く。
『それなんですけど、放課後は私、委員会の仕事があって……』
「ああ、そういえば、委員長ってクラスの子に呼ばれていたものね」
『はい。特に4月5月は学年変わって色々あるのと体育祭の準備もありますし……。体育祭が終われば少し落ち着くんですけど……』
「そうなのね……」
すみませんと謝れば、柏葉さんは大丈夫よと声をかけてくれる。
「まずは自分の身の安全を守ることが先決だもの。今までと違うことをして怪しまれる方がよくないし。今はWIREでのやりとりでもとりあえず問題はないし、おいおい見つけましょう」
ね、と柏葉さんに励まされて私は昼食を終えるのだった。
