第1部
夢小説設定
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バンエルティア号の船室のソファに横向きで脚を伸ばして寝そべる様な形で本を読む。
この海賊船に乗り込んで数日、ある程度の文字は読めるようになった。
荒くれ者の集まりの海賊団が本なんて持ってるのか?と思ったが意外と副船長さんは本を読むらしくいくつか貸してもらった。
ギィっと音がして船室の扉が開くのを聞いて、本から目を離して見るとベンウィックが入ってきた。
「うわ、もう本読んでんのかよ」
『ええ』
「昨日まで副長に文字習ってたはずだろ」
『アイゼンくんの教え方がよかったのよ、きっと』
まあ、長く生きると文字が変わる事はよくあるし慣れてしまえばちょっとしたコツで文字を覚えれるのだ。
そもそも天使である前にハーフエルフであるし勉強は得意な方だ。
「つか、副長しらね?」
『さっきまではいたけど、なんかお手紙がきたみたいで嬉しそうに出ていったわよ?』
そういうと、ベンウィックはあ~と納得したように首を振った。
「じゃあ、邪魔しねーほうがいいな」
『彼女さんからのお手紙?』
「いーや、妹」
『へー、妹がいるの』
聖隷って家族関係があるのね。また新しい事を知った。
そう言えば、風の大精霊も三姉妹だった気がする。
『兄弟か~。いいわね』
「天使って兄弟とか家族とかってあんのか?」
『あるわよ?』
私の家族は……もう、いないのだけれどね。
「へ~」
そんな会話をしていると、突如船一帯に警鐘が響いた。
『なに・・・? 』
驚いて居れば、ベンウィックが慌てて船室から出ていくものだから、レシは本をテーブルに置いて彼の後を追いかけて部屋を出た。
ベンウィックと共に甲板へ出れば、そこには甲板へ上がってきたモンスターたちと戦う海賊の皆がいた。
さすが海の荒くれ者たちは躊躇なしにモンスターを倒して行く。
そんな中、
「うわあああああっ羅針盤が!」
1人の男の声とボチャンと海になにかが落ちる音がした。
声の主を見ると、その足に吸盤の付いた軟体の太足が巻き付いていてズルズルと引きずられていた。
その吸盤の足の元へ視線をやれば海の方へ繋がって居るようだ。
つまりこのままでは引きずり込まれるというわけで・・・。そして他の人らは自分の目の前の相手で手1杯ときた。
急いで駆け寄っても間に合わないだろう、そう思ったレシは吸盤の足に照準を定め手を翳し、短く呟いた。
『ライトニング』
彼女が呟いた瞬間、吸盤の足に稲妻が落ち、男の足を離した。
そして、攻撃された事に激怒したのか、足だけだったソレは巨躯を甲板の空中に飛び上がった。
「ヒィいいいい!業魔っ!!!」
男は情けない声を上げてその場に腰を抜かしたままズリズリと後ろに下がろうとした。
だが、業魔と叫ばれたソレは無情にも男の真上へ落ちようとした。
べちょり、と何とも言えない音がした。
『大丈夫?』
身の丈と変わらないほどの大きさのダブルセイバーでその巨躯を受け止めて、レシは後ろにいる男へ振り返った。
「て、ててて、天使サマ!!」
受け止めた巨躯はそのまま勢いに乗せて甲板に叩きつけた。
『大丈夫そうね』
とりあえず、大丈夫そうなのを確認して前のモンスターを見ると巨大なイカのような見た目をしていた。
『食べられるのかしら?』
なんてふざけた事をいいながら、攻撃しようと伸ばしてきたモンスターの足をダブルセイバーでたたっ斬る。
「やめておいた方がいい」
後ろから声がして、再び振り返ってみればアイゼンがそこにいた。
「アレは業魔だ」
先程もそうだったが、業魔という単語に海賊たちは異様な怯えを見せた。
『業魔って「
レシに向かってバネのように飛んできた足を、アイゼンが拳一つで吹き飛ばした。
レシは目をぱちくり、とさせてから礼を述べた。
『ありがとうアイゼンくん』
「説明は後だ。お前の攻撃は効くようだ。畳み掛けるぞ。他の奴らは邪魔だ、引いていろ」
副長命令がくだり海賊たちは、雑魚モンスターを沈めてその場から離れた。
10本目の足を斬り落として動けなくなった、業魔の身体をアイゼンが見えないところまで吹っ飛ばした。
『それで、業魔っていうのは?』
血糊をはらってダブルセイバーを背中とマントの間にしまいながらレシは訊ねた。
それに答えたのは先程助けた男だった。
「業魔ってのは、業魔病つー病気にかかった人や動物が魔物化したもんなんっすよ天使サマ!」
『普通の魔物とは違うの?』
「業魔病は感染するらしいんっすよ」
感染して魔物になる病気??なんだそれ・・・。
『普通の魔物というかモンスターっていうかそういう動物も業魔化するの?』
「お前が言うのは、ウリボアなどの生き物の事か?」
アイゼンの言葉に、ええ、と頷く。
「無論、魔物やモンスターといわれる動物も業魔化する」
なるほど。
『ヒトが業魔病にかかった時の治療法はあるのかしら?』
「ないな。業魔になったら殺すしかない」
あっさりとそう言い切ったアイゼンをみて、妙に納得してしまった。
先程、海賊たちが業魔を恐れたのは、治療法のない感染病にかかるのの恐れからか。
「対魔士つって業魔を倒す事を生業にしてる奴らもいんだぜ」
口を挟んできたベンウィックは、げんなりとしたようすだった。
「聖寮の奴ら聖隷と契約して、業魔病にかかることなく業魔と戦えるからって威張り散らしやがって・・・!」
またよく分からない単語が出てきた。
話の内容から察するに、アイゼンくんのような《聖隷》の契約者が《対魔士》と呼ばれ、その対魔士たちがいる組織が《聖寮》って事だろうか。
「俺も奴らのやり方は好かん」
『やり方?』
首を傾げてアイゼンを見れば、彼の顔には怒りが見えた。
「奴らは聖隷の意思を奪い道具として扱う。俺はそれが気に入らん」
『意思のない・・・・・・』
それは・・・、
かつての自分のようだと、救いの塔の見ない晴れた空を見上げたのだった。
もうすぐ港に着くぞ、と言われ甲板へ出ると外の空気はすっかり冷えきっていて淀んだ空からちらちらと雪が降りてきていた。
『あ、あれが到着予定の街かしら?』
「おー、そうだぜ。静かなる北の都ヘラヴィーサ」
「今や聖寮が統治する街の一つだ」
ベンウィックとアイゼンの説明を聞きながら見えてきた陸に、レシはあら?と首をかしげた。
『なんか凄い煙が立っているけれど・・・温泉地かなにか?』
「はあ?煙??」
望遠鏡を覗き込んでホントだと呟いたベンウィックを見てそういえば普通のヒトより天使の自分は視力が増強されているのだったと思い出した。
目を凝らすとハッキリと見えて来た状況にレシは、これは、と眉を潜めた。
『船が燃えてるわね・・・火事かしら?』
「マジかよ・・・!?」
普通のヒトにも港が見える距離に近づいた頃には、どんどんと他の船も火の手をあげていて港の建物も轟々と燃えた。
「うわー、ひでーなこれ」
「この状態じゃ港へ停泊は無理だな」
あら?とまた首を傾げる。
「どうした」
『あれ見えるかしら?』
そう言って燃え盛る港から逃げる様に出てきた一艘の船を指さした。
『こんな燃え盛る港から出航するの?』
「街の船乗りなら他の船が燃えているなら火消しを手伝うだろうな」
「じゃ、あれは街の船乗りじゃねーつー事だな」
こんな状況で慌てて港から出ていくなんて考えられるのは、ひとつ。
港をこんな風にした犯人という事だろう。
レシは、バサりと薄紫の羽を出した。
「レシ?」
『空から街の様子を見てくるわ』
少し待っていて、とレシは空へと飛び立った。
雪景色に染まったその街では、真っ白い服に身を包んだ兵士のような人々が忙しなく走り回っている。
人目につかない路地裏へと降り立ち羽をしまって、港の外で燃え盛る船を見て呆然としている女性に声をかけた。
『失礼、何があったのか聞いても?』
なんだいあんた、そんな目で見られる。
『泊まっていた宿の窓から火の手が見えたので様子を見に出たのですが・・・・・・』
「ああ、旅人かい?なんでも聖寮の対魔士様に追い詰められた業魔が港の倉庫の炎石を使って爆破させたらしいんだよ!!」
女性は怒ったように拳を握った。
『まあ・・・』
「だでさえ聖寮に規制されて漁に出れないってのに港までやられたんじゃ・・・」
この街は終わりだよ・・・、そう住人は絶望の声をあげたのだった。