第1部
夢小説設定
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翌朝、私たちは血翅蝶の依頼をこなすため、ゼクソン港へ向かった。
港の1番奥にある倉庫に集められている"赤箱の物資"の破壊。
目的の倉庫の前には警備はないが……そこまでの道中には船乗りたち、港に住む人々や商人などの姿がある。
こんな人数でぞろぞろと倉庫へ行けば、目立つことこの上ない。
『私が人目を引くわ。その間に上手くやって来なさい』
そう言ってレシは海の方への歩きながら小さく詠唱を始めた。
『御許に仕えることを許したまえ──ホーリーソング
』
詠唱を途中で破棄して効力を弱めた天使術を発動する。
すると港の一帯に桃色の羽が舞い、人々はなんだと顔を上げた。
船着場の前で足を止めた私は、両手を広げて大きく息を吸った。
『──クレギィ サファデ スレイヒア』
恐らくこの人間たちは知らないであろう言語で歌を紡ぎ出せば、人々の注目が集まった。
ベルベット達が倉庫の方へ向かう足音を聴きながら、私は歌を続けた。
『───シェジュマニ シルヴァラント クラサ メイユ シェイナ イフィール』
歌の途中で翼を生やす。薄紫色に輝くそれを見た人間たちは驚きの声をあげた。
『────ファジマニ テセアラ プレサ メイユ ネイナ イフィール』
歌いながらレシはゆっくりとできるだけ真っ直ぐ上に飛ぶ。
何か仕掛けがあって吊られているように見せるためだ。
驚きの声、息を飲むような音、人間たちから様々な音が発せられ、彼らの視線は私に向いていた。
港の奥で業魔と聖隷の集団が倉庫に火をつけたというのに。
『───ア レイヌ メイナ アルマテリア』
歌の終わりに合わせて真っ直ぐ地に降りて、そして羽を消せば、辺りは静まり返った。
その静寂の中、もう一度大きく息を吸った。
『マギルゥ奇術団、レシによる演目"天使"でございました。皆様ご清聴頂き誠にありがとうございます!』
そう言って仰々しくお辞儀をして見せる。
人間がワイヤーで吊るされ空中を飛ぶ演目の演劇を昔、企業の社長をしていた人間の友に見せてもらったのを真似してみたのだが上手くいったであろうか。
恐る恐ると顔を上げれば、1人の拍手を皮切りに、辺り一帯が拍手の音に包まれた。
「すげー!本物の天使様みたいだったぜ!」
「マギルゥ奇術団って、確か、検問の所でも鳩の奇術をやってよな!」
「すごーい!天使様ー!」
大人も子供も口々に感想を飛ばしてきた。
そんな中、1人の人間が近づいてきた。
「お代はどこに入れればいい?」
その手にはガルドが握られていた。
『あー、えっと、こちらに』
そういった入れ物は用意していなかったので、羽織っていたマントを外し袋のような形を作りその中へ入れてもらえば、他の人間達も次々とその中へとガルドを放り込んだ。
ベルベット達が依頼を達成する合間、注目を集める事が目的で、尚且つマギルゥ奇術団としてのアリバイが作れたら……ぐらいに思っていたので、まさか集金まで出来てしまうとは思ってもいなかった。
1文無しだったし、貰えるものは貰っておこう。
「火事だー!消火を手伝ってくれー!」
港の奥からかけてきた人間のひとりが大声でそう叫ぶ。
なんだって、と港にいる人間たちが総出でバケツに海水を汲んでバケツリレーを始めた。
この騒動の合間に私は、この場をひっそりと抜け出し、火をつけた犯人達と合流した。
『涙目退魔師?ってのから無事に逃げられたみたいで良かったわ』
歌ってる最中に、ベルベット達が退魔師とやらと戦っているのがレシの耳には聞こえていた。
「なんでアンタが涙目退魔師の事知ってるのよ」
訝しげに聞いてくるベルベットに対し首をかしげる。
『ベルベットちゃんがそう呼んでるが聞こえていたから』
「聞こえてって……」
「耳が良いとは前に言っていたが……あの距離で聞こえているとは本当に天使とは地獄耳なんだな!」
唖然とするベルベットの横でロクロウは愉快そうに笑った。
「天使なのに地獄とはこれ如何に」
おかしい話じゃとマギルゥが嗤う。彼女はベルベット達が退魔師と戦っている中、退魔師の使役していた聖隷を裏切り者と称し再び現れたのだが、目当ての聖隷には消えられたため、いたし方なくベルベット達と共に逃げてきたようだ。
「ところで、レシ」
アイゼンに名を呼ばれ、なぁに?と振り返る。
「なぜ飛んだ」
『あら、見えていたの?』
「ああ。逃げる時にな」
鋭い眼光でアイゼンはこちらを見てくる。
どうにも彼はレシが天使であることを隠したがる。
『あれは、アリバイ作りのためよ』
「アリバイ?」
『あの時間、マギルゥ奇術団の者たちは、"天使"の演目の空飛ぶ奇術の仕掛けのため、裏で働いていた。だから、倉庫の火付けには関与していない。ってね。ちゃんと吊り上げられて見えるように、上下にしか飛ばないように配慮もしたのよ?』
「ふーん、能天気に見えて意外とちゃんと考えてるのね」
小声で聞こえてきたベルベットの失礼な物言いに小さく笑った。
「そういうことならいい」
どうやらアイゼンは納得してくれたようだが、マギルゥがプルプル震えて拳を握っている。
「よくなーい!なに勝手にマギルゥ奇術団を騙ってくれとるんじゃ!」
『あら、ごめんなさいね。収益は貴女に分けるつもりだったのだけれど……』
「8:2じゃ」
マギルゥの言葉に、分かったわと集めたガルドを渡そうとすれば、アイゼンの片手に止められた。
「待て。お前の方が少ないのはおかしいだろう」
あっちが2だと、アイゼンはマギルゥを指す。
「そうだぞ。レシが稼いだガルドだ」
「こらー!ワシとレシとの交渉にケチをつけるでなーい!」
うんうんとロクロウも頷けば、マギルゥが騒いだ。
