第1部
夢小説設定
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マギルゥが去って行ってから、まずは導師アルトリウス及び聖寮の動向を調べようと言う話になった。
「といっても王国の最重要人物だ。探るにしても手掛かりがないとな……」
ロクロウのその言葉にベルベットは顎に手を置き考えるようにして口を開いた。
「アイゼン。王都に裏の知り合いはいないの?船着場の時みたいな」
「内陸には疎いが………」
そりゃあそうだろう。海賊な上にただでさえ聖隷という身で人間の知り合いがいる方が少ないだろう。
少し考えた様子のアイゼンが思い出したように続きを口にした。
「アイフリードが懇意にしていた闇ギルドがあったはずだ。バスカヴィルというジジイが仕切っていて、確か、王都の酒場が窓口だと」
「闇ギルド……そんなものがあるのか?」
『いつの世にも裏の世界で生きる者がいるわねぇ』
まあ、そもそもアイゼンたち海賊が裏世界の者だったわ。なんて思っていれば、グゥと大きな音が鳴り響いた。
「わっ!?」
突然お腹から鳴った音に驚いたようにライフィセットが声を上げた。
「ははは、とにかく酒場へ行ってみよう。腹ごしらえはできるだろう」
恥ずかしそうに少し頬を染めたライフィセットの背を笑いながらロクロウが叩いて歩みを促す。
「そうね」
そう頷いて我々は酒場へ向かうのだった。
道中アイゼンが、ロクロウの目当ての相手がいたのか問うていたが、どうにもああいう式典に並ぶタイプじゃないらしい。
その話の流れからベルベットの敵である導師アルトリウスの右手の話しになった。上から見た様子では右手はマントで覆いかぶさっていたと思うが、ロクロウは怪我をしているのではないかと推察していて、ベルベットの話しでは昔に大怪我を負って右手は使えないとの事。言われてみれば演説の最中の身振り手振りは左手だけだった。
だけど、左手だけでも超一流とベルベットは語る。
先程の様子から、ライフィセットという(聖隷くんとは別の)子の仇のようだが、元々近しい所にいた人物のようだ。
話をしているうちに城下にある酒場にたどり着いて扉を開ける。
ズカズカとアイゼンを先頭に中に入ればカウンター付近に立っていた黒服の老婦人がこちらを向いた。
「あら、小さなお子様連れなんて珍しい。ここは酒場だけど、食事もなかなか美味しいわよ」
『わー、そうなんですね。よかったね』
半数が愛想のないメンバーだから、しょうがないと私が答えライフィセットを見る。
「いらっしゃい」
酒場のマスターだろうか、カウンターの奥にいる男がぶっきらぼうに言った。
「この子になにか食べ物を」
「この店の名物はマーボーカレーよ。1週間も煮込んでつくるの」
ベルベットの言葉に答えたのは、マスターではなく先程の老婦人だった。
「マーボーカレー……」
オウム返しのように呟いたライフィセットを見て、じゃあそれをとベルベットは注文する。
「ところで、バスカヴィルって人を知らない?ここで会えるって聞いたんだけど」
「……そのジイさんは聖寮の規律に逆らった悪人だ。とっくに処刑されたよ」
「……………そう」
ということは闇ギルドとの関係を得るのは無理ということか。じゃあどうするかと、ベルベットと考え込む横から、ロクロウがカウンターに声をかける。
「純米心水をくれ!お前たちは何を頼む?」
「オレは琥珀心水を」
「あたしは……、マーボーカレーで」
ロクロウに続いてアイゼンとベルベットもオーダーする。
『心水って?』
なに?と言うようにアイゼンを見れば、船員が飲んでただろうと返される。
『ああ、お酒のことをそう呼ぶのね』
基本的に話す言語は一緒のように思えるが時折こうやって私の知る言葉と違う言葉になっている。
「なんだ、レシは心酔を知らんのか?」
ロクロウがひょいとこちらを向く。その手には徳利が握られていた。
『呼び方が私の知るものと違ったから』
そう答えて、お酒なら……と考える。
『果実で出来た物もあるのかしら?』
「ああ!葡萄心酔も美味いぞ!」
にっこりと笑うロクロウを見て、じゃあそれをと頼めば、大きな氷が入ったグラスに琥珀色の液体が入ったボトルがアイゼンに渡されたあと、赤みの強い紫の液体の入ったボトルと持ち手の細いグラスが私に渡された。
注いですんと香りを嗅げは、覚えのある香り。間違いなくワインだろうとグラスに口を付ける。
『悪くないわね』
「だろう!」
何故かロクロウが誇らしげに笑っている。本当に陽気な人間……いや、業魔ね。
そんな酒を頂く我々の横で、ライフィセットとベルベットにはマーボーカレーが提供される。
ライフィセットは余程お腹が空いていたのだろう。左手でスプーンを握ってがっつくように食べ始めた。
「ベルベット、マーボーカレー美味しいよ」
その言葉を聞いて、ベルベットもスプーンを持つ。
マーボーカレーを運んだ彼女は無言のまま少し眉を潜めた。
「仲がいいのね、ご姉弟?」
先程カウンターの外にいた老婦人はこの酒場の人だったようで、カウンターの中でグラスを拭きながらベルベットたちに声をかけた。
「いえ……」
「そうよね。あなたの弟さんは殺されたんですものね」
老婦人の言葉に、えっと言うように顔を上げたベルベットは勢いよく席から立ち上がる。
「なぜそれを……!」
この酒場のオーナーなのかななんて呑気に思っていたが、どうやらそうではないらしい。
酒を飲んでた面々はグラスを置いて彼女を警戒する。
「闇は、ひかりを睨むものを見ているもの」
「バスカヴィルが捕まっても闇ギルドは動いているのか?」
アイゼンの問に、老婦人はええと頷いた。
「船長が消えてもアイフリード海賊団が止まらないように」
「……あなたが窓口なの?」
「御用は何かしら?」
「アルトリウスの行動予定を知りたい」
ベルベットの言葉に老婦人は顎に手を置いた。
「それは、ちょっと値が張るわね」
そう言って彼女はカウンターに1枚の紙を差し出した。
「非合法の仕事よ。"これ"を全部こなしてくれたらこちらも情報を提供するわ」
その依頼書には3つの仕事が書かれていた。
物資の破壊、失踪者の捜索、襲撃者の排除。
「わかった。依頼を受けるわ」
ベルベットの答えは即決だった。
それを聞けば老夫婦はもう1枚、紙を差し出した。
「"
その紙を受け取って目を通したベルベットは怪訝そうな顔をする。
「"マギルゥ奇術団"ってかいてあるんだけど」
「あら、門前でそう名乗っていたでしょう?」
「……そっちの力は、よくわかった」
「達成したらここに報告にきてね。でも、失敗した時は……」
「あたしが勝手にやったこと、でしょ。迷惑はかけないわ」
「その心がけに応じて今晩は宿をサービスするわ。依頼は明日からになさいな」
老夫婦の言葉にベルベットは素直に頷いた。
「じゃあ、呑もうぜ!」
と、ロクロウに誘われるが、アイゼンは俺も依頼があると老夫婦に声をかける。
私も世界樹について聞きたいが、支払える対価もないしなぁと諦めて、ロクロウとテーブル席に移動して飲み交わす。
「………わかった。アイフリード船長の行方ね。船長には借りがあるの。この件に関しては情報がはいったら無条件で教えるわ」
「頼む。あいつが失踪した現場にはペンデュラムが落ちていた。それに、どうやら特等対魔士メルキオルも絡んでいるようだ」
そう告げてアイゼンはテーブルへやって自分のボトルとグラスを置く。
こっちを飲むかと言うようにロクロウが徳利を持ち上げるが、アイゼンはいいと言うように手で制した。
「大変そうだな。俺たちに付き合ってる場合じゃないんじゃないか?」
「……お前こそ、なぜベルベットにつきあっているんだ?」
『そういえば聞いたことがなかったわね』
出会った時にはもう、ベルベットはライフィセットとロクロウ、マギルゥとトカゲの業魔ダイルを連れていた。
「ん?だから恩返しだよ。刀の在処を教えてもらった恩があってだな──」
話さなかったか?と言うようにロクロウは徳利から平盃に純米心水なるものを注いでいる。
恩義か……。私もアイゼンや海賊の皆に返すべきではあるな……。そう思い酒を呷る。
「業魔が恩だと?笑わせるな」
「海賊をやってる聖隷の方が冗談だろ?」
ロクロウがそう返せば、互いに鼻で笑って彼らはそれぞれ自分の酒を口に含んだ。
「なんにせよ、俺たちは理からはみ出したハグレ者だ。こんな理の仕切る世の中じゃ、ハグレ者は、俺みたいに開き直って化け物になるか、さもなきゃ──」
「
「だろ?なのにベルベットは、ひとりで世界に牙をむいた。なかなかできることじゃない。お前もそれに惹かれたんじゃないか?」
な?と言うようにロクロウがこちらを見た。
『……そうね。だからあの時飛び出して行った』
そう答えながら、ロクロウの徳利を取って空になっている盃にお酌する。
あの子の痛みを聞いてしまったから、と言うのは黙っておこう。
「おお、すまんな」
そう言ってロクロウはグイッと純米心水を呷った。
『いいえ。アイゼンくんもお酌しようか?』
ああ、と頷いたアイゼンのグラスに今度はボトルを持って琥珀色の液体を注ぐ。こちらはウィスキーのようだ。
「とにかく、あいつの"強さの"正体がなんなのか……俺はそれに興味があるんだ」
「つまるところ自分のためか」
「いかんか?」
「……いや、俺も同じだ。聖寮の理による支配に抵抗するために意志と力をもった仲間が欲しい。だが、アイフリード海賊団のバカな流儀につきあえるのは、同等以上のバカだけだ」
そう言ってアイゼンは琥珀心水を呷った。
「俺も、あいつがどこまでのバカか興味がある」
そう言ってアイゼンがグラスを置けば、ロクロウは口角を上げた。
「ベルベットが聞いたら怒るぞ」
そう言いながら徳利を掴んで、盃に心水を注ぐ。
そんなロクロウの盃にアイゼンは自分のグラスをカチンと当てて横に置いた。
「褒めてるんだ。そんなバカは滅多にいない」
アイゼンはボトルを掴み、寄せたグラスへと琥珀心水を注いだ。
「……そうか。お前たちの船長もそういう人間なんだな?」
そう言ってロクロウは、琥珀心水の注がれたグラスを取った。対するアイゼンは純米心水の盃を手に取る。
「ああ。アイフリードこそ、立派なバカ野郎さ」
そう言って彼は、交換した酒に口をつける。
これがヒトの世でいう盃を交わすというやつだろうか。
男同士の友情……そんなチンケな言葉で表していいのか分からないが、悪くないものだ、と思いつつ私は自分のグラスに酒を注ぐのだった。
