第1部
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ゼクソン港からダーナ街道を南に渡れば王都の門が見えてきた。
「検問」
兵士の幾人かが街に入ろうとする人たちと話しているのが見え、ベルベットは足を止めた。
「全員を調べる者じゃない。自然にかわすぞ」
そう行ってアイゼンが先に進めばその後にライフィセットが続く。
2人は金髪だし傍から見れば兄弟か親子のように見えるだろう。
私は2人の後に続くロクロウの傍に寄った。
「応?どうした?」
『傭兵仲間っぽいでしょ?』
守人の衣装で大きなダブルセイバーを背負った私と、甲冑の付いた和服に大太刀を背負ったロクロウ。
奇抜な格好のマギルゥや、露出度の高いベルベットと一緒に居るより違和感ないだろう。
「なるほどな」
分かったと頷くロクロウと共に進めば、すんなりと門の先へ進むことができた。
残されたマギルゥとベルベットもその後ろを着いてきていたのだが……。
「そこの黒コートの女。"手形"を見せてもらおう」
門の中に入ったところで、止められて閉まった。
「ええと……」
ベルベットが振り返り他の皆は足を止めてしまう。
ロクロウさえ止まらなければ、私は知らないふりをして先に行けたのだけれど……。
仕方がないと足を止めた私の先で、アイゼンが金貨を投げる。裏しかでないと分かっているのに。
「どうした?聖寮が旅人に発行する"通行手形"だ」
私は当然だが、監獄島から逃げてきたという3人に海賊のアイゼンも持っていないだろう。
さあ、どうしたものか、と思っていればベルベットの頭をマギルゥが思いっきり叩いた。
「この未熟者!奇術師見習いの基本は、 ニッコリ笑顔と教えたじゃろーが!」
奇術師?と呼び止めた兵士は首を傾げる。
「イカにも!!御覧の通りクセ者揃いの我が一座。その名も”マギルゥ奇術団”と称しまする〜♪」
マギルゥのその言葉に街の住民達もなんだと視線をこちらに向けた。
致し方がない、と、ニッコリ笑顔で仰々しく胸に手を置いて頭を下げた。
「式典の余興か?」
「タコにもその通り!いやはや、我がバカ弟子が失礼しました。ほれ、兵士様のご不審を解くのじゃ。お前の得意芸、ハトを出してみよ」
マギルゥは無理難題をするりとベルベットに押し付けた。
「は!?」
驚くベルベットだったが、兵士に見つめられ、彼女は苛立ちを押し殺した。
「すみません……師匠。仕込みを忘れました」
ベルベットは嫌そうな顔をして、下手な演技でそう言う。
「な、な、なんと情けない奴じゃ!芸の道をイカに心得おるか〜!」
「待て、こんな所でハトを出されても困る」
そりゃあ、街に入ってすぐの所だしね。
「いいや勘弁できませぬ!お詫びにハトのモノマネをせいっ!」
調子に乗ったマギルゥの言葉にベルベットはキッと彼女を睨み付ける。
「ハ・ト・マ・ネ!」
負けじとマギルゥは睨み返した。
悔しそうな顔をしたベルベットは、口の前に右手でクチバシを作る。
「ポッポ……」
小さな声で恥ずかしそうにベルベットはハトのマネをして見せた。
その彼女の隣でマギルゥが手を降ってみせれば、数匹のハトが現れ花ぶぶきと共に空を舞った。
おおお〜!と周りから歓声が上がる。
「
『マギルゥ奇術団!マギルゥ奇術団で〜す!覚えて帰ってね〜』
ヒラヒラと周囲に集まった人達に手を振ってみる。
「こら、こんなところで宣伝をするな!さっさと散れ!」
「かしこまり〜♪」
なんとか手形の事を有耶無耶にして、兵士に見逃して貰えた。
「ははは!中々の手口だったな、マギルゥ」
「あんな子供騙しは今回限りポッポ〜」
「…………」
ギッとベルベットはマギルゥを睨みつけている。
「おお〜、怖い怖いポッポ……」
そう言ってロクロウの後ろに隠れるマギルゥは全然怖がっておらずむしろニヤニヤと笑っている。悪いヒトだ。
『ベルベットちゃん、可愛かったわよ?』
「……うるさい」
ベルベットはむくれた。
「ハト、凄かった」
「その子供騙しで入れた。王都も大したことないわね」
「それだけ守りに自信があるんじゃろうて。ライフィセット、王都の戦力を知っておるか?」
「王都に配備された対魔士さ……対魔士は千人以上。守備兵士は二個師団」
意外と対魔士って数がいるのね。
召喚士の様な者だと思っていたから数が少ないのかと思っていたのだけれど。
「……さすがは王都だな。油断ではなく余裕と見るべきだろう」
アイゼンの言葉にベルベットは考え込んだ。
「民衆がニコニコなのも納得じゃの。業魔に怯えまくっとった数年前とは大違いじゃわー」
「でかい式典があると言っていたしな。そんな余裕があるほど、ここは平和なんだろう」
「……その平和は…………ラフィの……」
「ベルベット……?」
ラフィ……?ヒトの名前っぽいが……。
『とりあえず式典があるって事はそれに向けて警備も厳しそうね。どうやって離宮に入るの?』
「…………とりあえず、街の様子を見る」
行くわよと、踵を返したベルベットを先頭に我々は後へと続くのであった。
「ミットガンド!!ミッドガンド!!ミッドガンド!!ミッドガンド!!」
王城の門へ近づけは、沢山の人が列をなし歓声を上げていた。
片耳を抑える。私にはこの数の声はうるさ過ぎる。
「凄い歓声じゃのう。躾が行き届いておるわ」
そう言うマギルゥの表情はゲンナリしていていて同意するように頷く。
《王国民よ!ミッドガンド聖導王国 第一王子パーシバル・アスガードである!》
城門の向こう側から声が聞こえる。
ここまで皆に聞こえるのは高いところから声を張っているからだろうか。
《この良き日を皆と祝えることを、父王と共に嬉しく思う》
おおお〜!と民衆たちから大きな歓声が上がった。
「式典が始まった」
「こりゃあ割って入るのは無理だぞ」
門の前には兵士がいるし、その前に大勢の民衆たちもある。
《十年前の"開門の日"以来……業魔病と業魔の 脅威によって我が王国は存亡の危機を迎えていた。だが、命が朽ち、心が尽き果ててゆかんとする地に奇跡の剣をもち立つ者があった》
キョロキョロと辺りを見回していたベルベットは上を見あげた。
「あそこ!」
「登るのはいいが、ここで襲うのは無謀──」
《誰あろう…………アルトリウス・コールブランドである》
「!!」
聞こえてきた王子の言葉に険しい表情になったベルベットは、民衆たちのアルトリウスコールの中、一目散に走り出した。
《アルトリウスの偉業は、誰もが知っている。彼は、業魔に苦しむ民の救済にすべてを捧げた。五聖主の一柱たるカノヌシを降廃させ、 聖隷の力を我らにもたらした》
でも、殺した!
『え?』
聞こえた声の方……、ベルベットを見た。
他の皆には聞こえていないだろう、彼女の憎悪の声。
「ベルベット!」
階段を駆け上がったベルベットは城門の壁へと飛び移った。
左腕を化け物ののソレに変え、爪を壁へ突き立ててよじ登って行く。
《混沌の世に“理”という希望を与え。今、その希望が“絆”となって我々を結んでいる》
でも、殺した!あたしの大事なものを全部──!
聞こえてきた声とズルズルと壁から落ちる彼女を見て私は動いた。
「おい、レシ──」
《アルトリウスの偉大なる功能と献身を讃え、 今、ここに災厄を破い民を導く救世主の名一》
『羽を貸すわ』
そう言ってベルベットの肩を掴む。
「……!?アンタ……それ……!」
青く光輝く羽を背中から生やしたレシは、ベルベットの肩を掴んだまま上に飛び上がり、1番上に彼女を降ろして羽をしまった。
《"導師"の称号をさずけん!》
「導師!アルトリウス!!導師!アルトリウス!!」
「導師……アルトリウス!!」
怒りに満ちた目で彼女は城門の先を見下ろした。
城の庭には民衆たちが密集し、彼らの視線の先、城のバルコニーに金髪の男性が立っていた。
彼がこの国の王子、パーシバル・アスガードだろう。
……アスカードなら聞き覚えあるんだけどなぁ。
彼が後ろに手を伸ばせば、長い白髪の男性が奥から現れた。
「……世界は災厄の痛みに満ちています。なのに、私は皆さんに頼まねばならなかった」
この人が導師アルトリウスか。
歳は人間で言うところの30代ぐらいだろうか。
「“理”による苦痛に耐えてくれと。“意志”という枷で自らを戒めてくれと。なぜなら、揺るがぬ理と、それを貫き通す意志。これが災厄を斬り成う唯一の剣だからです」
そう言ったアルトリウスは左手を握り天に突き上げた。
「今ここに、その剣がある。私は誓おう!我が体と命を、全なる民のために捧げることを」
彼の後ろには何人もの対魔士が控えていた。
「すべての人々に聖主カノヌシの加護をもたらし、 災厄なき世に導くことを!世界の痛みは!私が必ずとめてみせる!」
『ご大層な理念ね』
私の目の前の女の子はこんなになっているのに。
「でもお前は……」
ベルベットが苦しそうに拳を握る。
「バカ!見つかるぞ!」
ぐい、と頭を抑えられ私もベルベットもロクロウによって身を低くさせられた。
ロクロウだけではなくライフィセットやアイゼンも登ってきたようだ。
「ライフィセットを殺した……っ!!」
泣きそうな顔でベルベットは、アルトリウスを見つめている。
それにしても、ライフィセットって…………、この子じゃないわよね。
ベルベットの言葉に、えっ?と驚いている聖隷のライフィセットを見る。
悔しさに握ったベルベットの拳からは赤い血が滴るのだった。
「…………導師アルトリウス。あれがお前の標的か」
民衆が導師に釘づけの内に我々は城壁の外に降りた。
「いきなり飛びかかるかと、ヒヤヒヤワクワクしたわい」
「それじゃ、無駄死にでしょ。"理"と"意志"の剣がいるのよ。あいつを殺すためには」
「アルトリウス様を……殺す……」
「手堅くてつまらんの〜」
「それよりもレシ。さっきの羽はなんだったんだ?」
ロクロウが不思議そうな顔をして聞いてくる。
「やっぱり、聖隷だったって事でしょ」
そういうことにする方が説明楽かなぁ……、とアイゼンを見れば、俺は知らんと言うような目で見られた。
「違う、と思うよ」
そう言ったのはライフィセットだった。
「あ、いや……多分だけど…………」
不安そうな顔をして見上げてきたライフィセットの頭を撫ぜる。
『賢い子ね。ええ、聖隷ではないわ』
「じゃあ、業魔か!」
「どう見ても違うでしょ」
「聖隷でも、業魔でも、そして人間でもない。お主、いったい何者なんじゃ〜?」
マギルゥは目を細め私を見つめる。
そっと自分の丸い耳に触れる。
『私はね、天使よ』
天使、とみんな呟き返す。
「それは……聖隷じゃないの?」
『聖隷は、自然から生まれた者でしょう?天使は、人工的に作られた
「人工的に……って、……」
「……モノ……」
「ほぉ〜、モノが意志を持っておるのかえ?」
『ええ、そうよ』
ニッコリと笑って答えれば、なるほどのうとマギルゥは呟いた。
「しかしその天使が何故、世界樹を探すのに海賊船に乗っておったんじゃ?」
「……そうね。自分の羽で飛んでいけるじゃない」
「ああ。それに、ヴォーティガンでもアイゼンがわざわざ抱えずとも、飛び降りれたじゃないか」
みんなの疑問はごもっとも。
『船に乗ってたのは、永い眠りから私を目覚めさせたのがアイゼンくんで、目覚めたばかりでこの世界がどうなってるか分からなかったし……。アイゼンくんにマナを分けて貰ったとはいえ、完全回復していないのに知らない土地を飛ぶのは危険だからねぇ』
「えっ!」
「おや〜」
ライフィセットが凄く驚いた顔をして、マギルゥがニヤついた。
「何……?変なことは言ってなかったでしょ?」
「だって……真名を分けてもらったって……」
「そういうこととしか思えんよのぉ〜?」
顔を赤くしたライフィセットと嫌にニヤつくマギルゥにアイゼンは大きなため息を吐いた。
「こいつの言うマナは真名ではない。俺たちで言うところの霊力の事だ」
「なんじゃあ、つまらん」
「じゃあ、レシは眠りについてたって言ってたし、相当な消耗をしてたってこと?」
『まあ、そうね。自力では目覚められないくらいには』
「して、そのような状態で、何故ベルベットを助けたんじゃ?」
『目の前の女の子が頑張ってたら手伝ってあげたいじゃない?』
「それが復讐でもかえ?」
ニヤニヤと笑って居るが、マギルゥのその目はとても冷めているように写った。
『関係ないわ。私が助けたいかどうかよ』
「礼は言わないわよ」
『ええ。私が勝手にやったことだもの』
「以外だな。天使っての上から囁いて、悪いことはやめない!って言うもんだとばかり思っていたが」
ロクロウの言うように物語に出てくるのはそうかもね。
『天使なんて、人間への憎悪にまみれた奴が大半だけどね……』
なんせ、1人を除いて皆ハーフエルフだったのだから。
「人間への憎悪……?」
どう言うことと言うようにライフィセットが首を傾げた。
「つまり、あたし達が思ってるよりも天使サマってのは、理に反してるのね」
『人間の作った理に天使が従う理由がないわ』
「それもそうじゃな〜。そろそろ儂はおいとまするかの。なごりおしいじゃろうが、探し物があるでな」
『あら、そうなの?』
残念ね。気になる見た目をしていたからもっとお話したかったのだけれど。
「お好きにどーぞ」
「さよなら」
「じゃあの。皆の大願成就、七転八倒を祈っておるぞ♪」
ルンルンとそう言いながらマギルゥは去っていったのだった。