第1部
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扉を開けて中へ入るとそこは、徘徊する業魔と死体が幾つかあった。
『これは酷い』
「うむむ、要塞中に業魔がいるようだな。まさかアイゼン、お前が業魔病の原因じゃないだろうな?」
ロクロウの茶化しに真面目な顔で、・・・いや。とアイゼンは否定した。
「偶然蔓延したところに俺たちが来たんだ。死神の道連れとはこういう事だ。悪く思うな」
「むしろ好都合ね。敵は組織的な対応ができなくなってる」
ふむ。どうやらベルベットたちのようなヒトとしての自我がある業魔というのは珍しいのか。
「こっちは少数だ。確かに乱戦の方が有利に立ち回れるな」
『貴方たち、ポジティブというか、淡々としてるというか・・・』
そうでもなきゃ寧ろ業魔で意識を保っているってのは難しいのかもしれない。
「アイゼン、海門を開くにはどうすればいいの?」
「開閉装置は海門の上部にあるはずだ。それを起動して、合図の狼煙をあげる」
「了解。海門の上ね」
一本道になっている通路を業魔を倒しながら進み先の扉を開くと海の前に出た。
扉を出てすぐ目に着いたのは巨大な海門の前に止まっている青い帆船。
「おい、船が残ってるぞ」
「戦艦だ。マズイな」
洞窟で説明した通りの作戦では、外で騒ぎを起こしているはずのアイフリード海賊団の方へ全部出払ってもらうはずだったのだが、そうなるとここに戦艦が1隻残ってるのはマズイ。
これもアイゼンの死神の呪いの影響なのだろうか。
幸いなのは現在あの戦艦の船員はこちらに気づいていないということだ。
「海門要塞か......海峡ごと鉄の門で塞いじまうなんて聖寮もとんでもないものを作りやがるな」
大きく高くそびえ立つ海門を見あげならがロクロウが呟いた。
「少し前には、こんなの考えられなかったのに」
ベルベットの言葉からこの要塞が古くからあるものではないのだと悟る。
確かに、自分のヒトよりも良く見える目で見てみれば要塞も海門もわりと新しい建築物のようだ。
「聖隷を道具として使えば、造作もないことだ」
「聖隷は、業魔を斬る刃にもなれば、鉄を鍛える金槌にもなるってわけだな」
アイゼンたち聖隷が使う聖隷術だったか、それは私たちハーフエルフやエルフ達でいう魔法なのだと考えれば、確かにそれを使えば人間達が一生懸命時間を掛けて竈に火を付ける事も、我々ならひとたび呪文を唱えれば一瞬で出来てしまうのだ。それを道具として使うのであればたとえ人間でも造作もないこと、と言うことか。
「そうやって聖寮や王国は、自分たちの力の大きさを民衆に知らしめてるのよ。逆らうな、従えってね」
「胸糞悪い話だ」
「むなくそわるい...」
「まったくだわ」
先に進み出したアイゼンとベルベット。そしてそれを、あ、といったように追いかける小さな聖隷くんをぼう、と見送る。
意志を奪って無理矢理道具にして、権力として振舞うか...。
身近に似たような話があったな。
「どうかしたか?」
『いえ、なんでもないのよ。行きましょう』
「応?」
首を傾げるロクロウと共に、3人の後を追った。
スキット03 ヴォーティガン~
要塞と要塞の合間を繋ぐヒト2人が通れるくらいの木製の通路を渡って、要塞の柱にある梯子を登って行く。
梯子を登りきり再び要塞内に入ると、視界に入ったのは先導していたアイゼンが何者かを殴り飛ばしたところだった。
警備兵だったのだろうか?
アイゼンは殴り飛ばしたそいつを無視して、目の前にある扉へと歩み寄った。
「この扉から海門に出られるはずだが、鍵がかかっているようだな」
その言葉にベルベットが近づき、業魔の腕を扉に振り下ろした。
「壊すのは無理か」
『あら、じゃあ鍵の場所を聞くのにちょうどいいわね』
呼吸音で気がついた私はそう言いながらいつでも武器が取り出せるよう背中のマントへ手を伸ばした。
「え?」
ロクロウと共に2人のそばへ向かっていた聖隷くんが首を傾げた。
「侵入者ども!ワシの要塞をよくもー」
その声に皆は一斉に先程ぶん殴られた兵士へ視線を集めた。
ゆっくりと起き上がるそいつに、ベルベットは睨みを聞かせた。
「扉の鍵はどこ」
「ワシは誇りあるミッドガンド騎士だ!業魔なぞに屈するものか!」
ずいぶんご立派な騎士道であるが、そう言ったが矢先、ベルベットが1歩踏み出せば少し怯えたような表情を見せた。
「俺が、この世で1番むかつくのは、生き方を他人に曲げられることだ」
そう言いながらアイゼンはずんずんと騎士へと歩み寄る。
「自分の舵は自分の意志で取る。そうでなければ本当の意味で"生きている"とはいえないからだ」
「自分の舵...」
『......』
繰り返すよう呟いた聖隷くんを横目で見て過去の自分を思い出した。
「いかにも!この要塞を死守するのがワシの生き様だ!」
騎士は怯えた様子を消しキリッとした表情を見せた。
それを見てアイゼンは、ふっ、と笑った。
「だが、それには、どんな結果も受け入れる覚悟が要る」
アイゼンは男の真正面に立ち騎士の左手を掴み後ろ手に捻り上げた。そして奥の壁へと叩きつけた。
「お前の覚悟が本物かどうか、試させてもらうぞ」
そう言って、アイゼンは...
騎士の腕を折った。
「いぎゃあああっ!!」
「慌てるな。まだ1本目だ」
「ま、待て!鍵は、扉の奥にある管理室だっ!」
はあ、とアイゼンは呆れたようにため息を吐いた。
「もう一つ。戦艦のある船着き場はどこだ?」
「正面の階段を進んだ先です!」
「わかった」
そう言って、アイゼンは騎士の拘束を解いた。
そして、その顔面に拳を叩きつけ騎士は呆気なく床に転がった。
ひっ、と聖隷くんから悲鳴が漏れた。
『子供が居るのにずいぶんと過激なのね』
こういう時って目隠しして上げたほうが良かったのよね。忘れてたわ。
「...手間をかけたわね」
「単なる適材適所だ。鍵も必要だが、戦艦も潰すぞ。バンエルティア号が迎撃される前にな」
「だな。管理室か船着場か、どちらに舵を取る?」
「管理室を探すわよ」
ベルベットのその言葉に我々は扉の奥へと入っていくのであった。
海門の上を進んだ先に鍵の掛かった扉があり、その部屋の窓は鉄格子で覆われていた。
恐らく目的の場所はここだろうと目星を付けた一行が周囲を見回せば建物の壁に蔦が蔓延っていて、それをロープ代わりに上に登れば、反対側にも蔦が伸びている場所があった。
『この下はわあああっ!』
除きこもうと端に近ずいたら上の方に蔓延っていた蔦を踏んで滑った。
そして、滑った勢いで前のめりに落ちた。
「レシ!」
「ちょっと、何やって……!」
アイゼンを筆頭に慌てて4人はレシが落ちた側を見下ろす。
『……びっくりしたわ……』
「びっくりしたのはこっちの方よ」
上を見上げればベルベットがほっとしたような顔をしていた。
1階分位の高さにちょうどよく少しの足場となる岩場があって、何とか海に沈まずに済んだ。
「これも死神の呪いか」
「かもしれん」
『違うわよ』
他人に不幸を撒き散らす体質だと、アイゼンは言っていたが、レシは元々自分がドジである自覚があるので、今回のコレが彼のせいだとは思わなかった。
その証拠に、
『ラッキーよ。ここの窓から入れそう』
こちら側の壁にある窓には運のいいことに鉄格子は無かった。
「ここが制御室のようね。手分けして鍵を探すわよ」
窓から室内に入り込んだ一行は目的の鍵を探す。
「俺たちは奥の部屋を探す。レシ行くぞ」
『はーい』
「奥の方が広そうだし、俺もそっちを手伝うか」
アイゼンに続いて私とロクロウも奥の部屋へ入る。
「怪我はないか?」
『ん?ああ、あれくらいじゃなんともないわ』
「そうか」
それならいいと言うようにアイゼンは背を向け室内の棚を漁り始めた。
「レシは見かけによらず頑丈なんだな!」
同じようにチェストを物色しているロクロウがハッハッハと笑った。
『ええ。私元々結構ドジなのよ。良く転ぶ分丈夫に出来てるんだと思うわ。だから、今回のも死神の呪いってののせいじゃないから気にしないでね』
「お前こそ俺に気を使ったこと、後々後悔してもしらんぞ」
『ふふふ、』
気を使ったわけではなく、全部ホントの事なんだけれど、なんて笑っていればベルベット達がいる方の部屋からゴツンと何か落ちてぶつかる音が聞こえた。
『あら、大きな音』
「音?なんか聞こえたか?」
そう言ってロクロウは首を傾げた。
扉の向こうから聖隷くんがあうう……と呻いている声と、それにベルベットが近づいていく足音が聞こえる。
『聖隷くんが頭をぶつけたみたいね』
ベルベットが聖隷くんに、これくらい我慢なさい。生きてる証拠よと言ってる声が聞こえた。
『ふふ、』
ラパン洞窟での言動から劣悪種かと思っていたのだけれど彼女、意外とそうでもないのね。後でちゃんと謝罪しないと。
「笑ってないでお前も鍵を探せ」
『ああ、それならベルベットちゃんが見つけたみたいよ』
「何!本当か!お前は耳がいいんだな」
関心するように言ったロクロウは鍵を探していた手を止めた。
『ええ。地獄耳なの』
「ハッハッハ!迂闊にレシの悪口は言えんな!」
そう言いながらロクロウはベルベットたちのいる部屋の扉を開けて戻っていく。
「それが天使の力か」
アイゼンが隣に来て小さく尋ねた。
『ええ。耳も目もとってもいいのよ。良すぎて嫌になっちゃうくらいには』
「……そうか」
聞きたくないものも聞こえるし、見たくないものも見える。
だからこそ、ウィルガイアの天使は皆、感情がないのでしょうね。
感情が無ければ、そんなこと気にしなくていいもの。
手にした鍵を使うべく船着場へ向かえばその手前の部屋で仮面で顔を隠した全身白ずくめのヒトが剣で業魔を斬り倒していた。
「一等対魔士!?」
先頭のベルベットが臨戦態勢に入る。
『へえ、これが……』
聖隷の意志を奪って道具として使っているという対魔士。
「船着場は、その先だな。通してもらうぞ」
アイゼンが拳を握れば、対魔士は剣を抜いた。
「貴様たちは侵入者か?……いや、どうでもいいか。業魔に関わるものは全て斬り伏せる。我が"ランゲツ流"の剣でな」
ランゲツ流。その言葉は道中の戦いでロクロウが技を使うのによく聞いた。
「……どけ、アイゼン」
「お前こそ下がれ。こいつは俺がやる」
「いいや、"これ"は俺の獲物だ」
そう言ってアイゼンを押し退けたロクロウは2本の小太刀を構えた。
向かってくるロクロウに対し対魔士は獣の様な聖隷を2匹召喚した。大きなイノシシとウリ坊の様な姿で2匹とも金の仮面を付けられている。
『へぇ、ヒト方以外もいるのね』
業魔がモンスターの姿の者ばかりでなくベルベットやロクロウの様なヒトの形を保っているのも居るのと同じか。
「邪魔をするなら斬る!」
「てめぇ、死神を舐めるなよ」
戦闘に混じってきたアイゼンにキレるロクロウを見るに、本当に敵味方関係なく叩っ斬られそうだと感じ、私は聖隷くんを連れて少し離れた場所から詠唱を始める。
ベルベットは、こちらの事など関係なく向かってきた大きな方の獣聖隷に致し方ないと剣を抜いている。
援護するなら少なくともこっちがいいだろう。
『落ちろ!ライトニング!』
落雷により動きを止めた聖隷の隙を逃さずベルベットが斬り伏せた。
もう1匹の小さいのは……と見たらそちらはアイゼンが拳で吹き飛ばしていて、その間にロクロウが対魔士と対峙し、剣で薙ぎ払った。
流石に一等、一撃とは行かず倒れた対魔士はゆっくりと起き上がろうとしている。
「時間がない。お前たちは先に戦艦を潰せ」
「ロクロウ、そいつはまだ──」
「ああ。力を残してる」
それでも行けと言うようにロクロウはこちらを振り向きもせず、対魔士を見据えていた。
「……行くぞ」
先程まで、どちらが倒すかと競っていたはずのアイゼンがいの一番にそう言って船着場へと走り出す。私達3人もそれに続く。
船着場へ出れば、桟橋に止まっている戦艦の上に数匹の業魔がいた。
「はあっ!」
最後の一体をベルベットが斬り伏せた所で、バラバラに業魔を退治していたみんなが集まる。
「アイゼン、火薬は?」
「仕掛けた。こいつをバンエルティア号への狼煙代わりにする」
狼煙にもなる上、万が一生きたヒトがいた時に追っかけて来られないように戦艦も燃やせる。実に効率がいい。
さて、ロクロウはどうしたかな、と耳を澄ませる。
『………、大丈夫そうね』
「……どうしたの?」
不思議そうに聖隷くんが見上げてきた。
『ロクロウくんの方も片付いたみたいよ』
船着場から1つ前の部屋に戻ってロクロウと合流する。
「応!俺の目的も聖寮になったぞ。恩返しもできるし、丁度いいな」
笑いながらそう言うロクロウの離れたところには動かない対魔士があった。
「あ………!?」
聖隷くんの怯えたような声で、あっ、と気づく。
『また、目を隠してあげるの忘れてたわ』
こういうの子供の教育に良くないんだった。
「……あんたがやったの?」
「ん?まずかったか?」
「別に」
「死神の連れには丁度いい」
殺した事をなんとも思っていない様子のロクロウに2人は淡々とそう答える。
私は別になんとも思わない。私の知り合いではないし、最初からロクロウは獲物だとハッキリ言っていたし。
「これで準備は整った。海門を開門するぞ!」
『ふふっ、』
「おっ、受けたな!」
ロクロウのオヤジギャグに笑ってしまえば、ベルベットには白い目で見られた。
そんな目で見ないでほしい。昔から言葉遊びの様なオヤジギャグが好きなのだ。ダオスを倒す!のようなね。
海門の上部にあった2箇所の開閉装置を動かせば、重い音と共に海門が動いていく。
急いで船着場へ、戻ろうと海門の屋上を進んで居ると、アイゼンに腕を折られた後ぶっ飛ばされて気を失っていた兵士がアンデットかのようなユラユラとした動きでやってきた。
「好きにはさせんぞ……ここはワシの……」
そう呟いている男の周りに黒いモヤの様なものが浮いている。
『……なに、あの黒いの……』
そう小さく呟けば、アイゼンの視線が私の方へ向いた。そして顎に手を置いて何やら考えている。
どうにも、ずっと品定めの様な事をされている。天使というものが珍しいからかもしれないけれど。
まあ、とりあえずこの黒いモヤの件は気にしているのは私だけのようだ。反応的にアイゼンは見えているようだけど、ベルベットやロクロウは気にしていないようだ。この世界において普通の事なのだろうか。だったら2人の反応の無さにも納得がいくが……。
そう考え混んでいるうちに、羅針盤を大事そうに抱えた聖隷くんがその男に気づいて居ないようで近付いて行っていた。
「ワシの要塞たああっ!!」
ブワッと黒いモヤが大きくなって男を包み込んだと思ったら姿が化け物に変わった。
小さな門のような殻に、カタツムリのように軟体の身体が付いていた。
その姿に似合わぬすばしっこい動きで、門の業魔となった男は、気づいていない聖隷くんへと突っ込んで行った。
ぶつかる寸前の所をベルベットが聖隷くんの腕を引いて引き寄せる。
その反動で手から離れた羅針盤は転がって行く。
「ちっ!こいつも業魔病に!」
「ふん!だが前よりずっとマシだ」
そう言って前衛組が門を叩きに行った。
しかしなるほど、さっきのあのモヤが業魔病の病原菌みたいなものというわけだ。
触れるとすぐに感染するのだろうか。だとしたら、この要塞の蔓延さにも納得がいく。
「レシ、ボサっとしない!行ったわよ」
『こういう時は、ダオスくんの真〜似!』
なんちゃってダオスレーザーだ。いや、私がやったらレシレーザーか。
手にマナを集めて、それをこちらへ突進して来た業魔へ照射する。
手から放たれたレーザーに業魔は後ろへと押し返された。
安全を確保した所で詠唱に入る。
「こいつはどうだ!」
「捉えられまい!」
「空破絶掌撃!」
『─光よ!フォトン!』
連携が決まって、門の業魔は倒れた。
ぴくりとも動くなり、皆武器を収める。
ベルベットが屋上の端によって上から下を見下ろす。
彼女に習う様に皆、近付いて下を見てみると、船着場には先程私達が倒したよりも多くの業魔が現れて群がっていた。
「船着場は業魔の巣だ。あれじゃ、船に乗り込まれちまうな」
『せっかく片付けたのに、これが死神の呪いなのねぇ』
どこまでも不運というわけか。
離れた所からのドゴン!という大きな音に皆、ビクリと体を揺らす。
大砲の音。船が近づいてきてる合図だ。
「ちっ、時間がない」
慌てるロクロウを横にベルベットが私を見た。
「……あんた人間じゃないのよね?」
『ええ。人間じゃないわ』
ニッコリと笑ってそう答えればベルベットは小さく頷いた。
「アイゼン、船にとまらずに海門を抜けるよう指示できる?」
「それなら船は助かるが、俺たちはどうする?」
「この真下を通る船に飛び移る」
「お…………おう!?」
流石のロクロウもこの発言には驚いたようだ。
それにしても、私が人間だったら別の方法を考えてくれたのかしら。
彼女、どうして粗暴な態度を取るのか分からないけれど、根の優しさが隠しきれてないわね。
「それしかないでしょ。アイゼン、なんとか合図を──」
「必要ない。バンエルティア号は海門を突っ切る」
「伝えなくても?」
「俺も同じ策を考えた。アイフリード海賊団の流儀だ」
なるほど。アイゼンの呪いを分かってる海賊団のみんなならこういう場合アイゼンならどうするか知り得ているというわけか。
「本当に真っ直ぐ来た!」
「こっちも行くわよ!」
『ええ、ええええ?』
羽を出そうかと思った瞬間、羽を出していないのに浮いた。
胸の下に腕が回され抱え上げられていた。……アイゼンに。
……羽を出すな、と言うことだろう。
「無事で済むかな?」
見下ろしながらロクロウが不安そうにしていれば、私を抱えたアイゼンは鼻で笑った。
「死神に保証して欲しいか?」
ニヤリと笑うアイゼンに、それだけは無いなというようにロクロウは苦笑いをした。
……死神に抱えられた私は誰が保証してくれるのかしら。
いや、高いところから落ちるくらいならたぶんクルシスの輝石の力で無傷だろうけど。
それよりも、
『ねぇ、あの子……』
「せい!」
「ふっ!」
『……ああああああああ!』
足音的に離れて行っていた聖隷くんの事を伝えようと思ったのに、アイゼンはロクロウと共に下へと飛び降りてしまった。
「ちょ、なにを!?」
どうやらベルベットは飛び降りる前に気づいてくれたようだ。
「わっ…………!」
抱えられて下へ落ちていく中、少年の悲鳴とさっきの業魔が起き上がった様な音が聞こえる。
『アイゼンくん!聖隷くんが!』
「なに?」
重力に従って落ちていく中、羽を出せば私は上に戻れる。
いや、いま戻って間に合うか?それなら壁で敵の姿は見えずとも、数打ちゃ当たるで魔術を放った方が……。
『剣に秘められし、七色の──』
「うわあっ……」
聖隷くんが業魔に吹き飛ばされた様だった。
ベルベットが駆ける足とが聞こえる。
「ライフィセット!!!」
その叫び声の後、業魔に大砲が打ち込まれる音がした。
轟音が静まった後、「まったく、あんたは!」と怒っているベルベットの声が聞こえて、詠唱をキャンセルした。
「大当たりぃ〜〜〜っ!!」
下の船からピンクと紫の派手な魔法使いの様な衣装を着た女の子が喜びの声を上げている。
ロクロウも、アイゼンも船の帆に掛かったロープを上手く利用して、甲板の上へ落ちた。
ドンッ、とアイゼンが甲板に着地し、振動が伝わる。
「アイツらは無事か?」
『ええ。すぐ来るわ』
アイゼンに降ろしてもらって上を見上げる。
「うわあああ〜〜〜!」
聖隷くんの悲鳴と共に2人は帆の上に落ちて来るのだった。
『これは酷い』
「うむむ、要塞中に業魔がいるようだな。まさかアイゼン、お前が業魔病の原因じゃないだろうな?」
ロクロウの茶化しに真面目な顔で、・・・いや。とアイゼンは否定した。
「偶然蔓延したところに俺たちが来たんだ。死神の道連れとはこういう事だ。悪く思うな」
「むしろ好都合ね。敵は組織的な対応ができなくなってる」
ふむ。どうやらベルベットたちのようなヒトとしての自我がある業魔というのは珍しいのか。
「こっちは少数だ。確かに乱戦の方が有利に立ち回れるな」
『貴方たち、ポジティブというか、淡々としてるというか・・・』
そうでもなきゃ寧ろ業魔で意識を保っているってのは難しいのかもしれない。
「アイゼン、海門を開くにはどうすればいいの?」
「開閉装置は海門の上部にあるはずだ。それを起動して、合図の狼煙をあげる」
「了解。海門の上ね」
一本道になっている通路を業魔を倒しながら進み先の扉を開くと海の前に出た。
扉を出てすぐ目に着いたのは巨大な海門の前に止まっている青い帆船。
「おい、船が残ってるぞ」
「戦艦だ。マズイな」
洞窟で説明した通りの作戦では、外で騒ぎを起こしているはずのアイフリード海賊団の方へ全部出払ってもらうはずだったのだが、そうなるとここに戦艦が1隻残ってるのはマズイ。
これもアイゼンの死神の呪いの影響なのだろうか。
幸いなのは現在あの戦艦の船員はこちらに気づいていないということだ。
「海門要塞か......海峡ごと鉄の門で塞いじまうなんて聖寮もとんでもないものを作りやがるな」
大きく高くそびえ立つ海門を見あげならがロクロウが呟いた。
「少し前には、こんなの考えられなかったのに」
ベルベットの言葉からこの要塞が古くからあるものではないのだと悟る。
確かに、自分のヒトよりも良く見える目で見てみれば要塞も海門もわりと新しい建築物のようだ。
「聖隷を道具として使えば、造作もないことだ」
「聖隷は、業魔を斬る刃にもなれば、鉄を鍛える金槌にもなるってわけだな」
アイゼンたち聖隷が使う聖隷術だったか、それは私たちハーフエルフやエルフ達でいう魔法なのだと考えれば、確かにそれを使えば人間達が一生懸命時間を掛けて竈に火を付ける事も、我々ならひとたび呪文を唱えれば一瞬で出来てしまうのだ。それを道具として使うのであればたとえ人間でも造作もないこと、と言うことか。
「そうやって聖寮や王国は、自分たちの力の大きさを民衆に知らしめてるのよ。逆らうな、従えってね」
「胸糞悪い話だ」
「むなくそわるい...」
「まったくだわ」
先に進み出したアイゼンとベルベット。そしてそれを、あ、といったように追いかける小さな聖隷くんをぼう、と見送る。
意志を奪って無理矢理道具にして、権力として振舞うか...。
身近に似たような話があったな。
「どうかしたか?」
『いえ、なんでもないのよ。行きましょう』
「応?」
首を傾げるロクロウと共に、3人の後を追った。
スキット03 ヴォーティガン~
要塞と要塞の合間を繋ぐヒト2人が通れるくらいの木製の通路を渡って、要塞の柱にある梯子を登って行く。
梯子を登りきり再び要塞内に入ると、視界に入ったのは先導していたアイゼンが何者かを殴り飛ばしたところだった。
警備兵だったのだろうか?
アイゼンは殴り飛ばしたそいつを無視して、目の前にある扉へと歩み寄った。
「この扉から海門に出られるはずだが、鍵がかかっているようだな」
その言葉にベルベットが近づき、業魔の腕を扉に振り下ろした。
「壊すのは無理か」
『あら、じゃあ鍵の場所を聞くのにちょうどいいわね』
呼吸音で気がついた私はそう言いながらいつでも武器が取り出せるよう背中のマントへ手を伸ばした。
「え?」
ロクロウと共に2人のそばへ向かっていた聖隷くんが首を傾げた。
「侵入者ども!ワシの要塞をよくもー」
その声に皆は一斉に先程ぶん殴られた兵士へ視線を集めた。
ゆっくりと起き上がるそいつに、ベルベットは睨みを聞かせた。
「扉の鍵はどこ」
「ワシは誇りあるミッドガンド騎士だ!業魔なぞに屈するものか!」
ずいぶんご立派な騎士道であるが、そう言ったが矢先、ベルベットが1歩踏み出せば少し怯えたような表情を見せた。
「俺が、この世で1番むかつくのは、生き方を他人に曲げられることだ」
そう言いながらアイゼンはずんずんと騎士へと歩み寄る。
「自分の舵は自分の意志で取る。そうでなければ本当の意味で"生きている"とはいえないからだ」
「自分の舵...」
『......』
繰り返すよう呟いた聖隷くんを横目で見て過去の自分を思い出した。
「いかにも!この要塞を死守するのがワシの生き様だ!」
騎士は怯えた様子を消しキリッとした表情を見せた。
それを見てアイゼンは、ふっ、と笑った。
「だが、それには、どんな結果も受け入れる覚悟が要る」
アイゼンは男の真正面に立ち騎士の左手を掴み後ろ手に捻り上げた。そして奥の壁へと叩きつけた。
「お前の覚悟が本物かどうか、試させてもらうぞ」
そう言って、アイゼンは...
騎士の腕を折った。
「いぎゃあああっ!!」
「慌てるな。まだ1本目だ」
「ま、待て!鍵は、扉の奥にある管理室だっ!」
はあ、とアイゼンは呆れたようにため息を吐いた。
「もう一つ。戦艦のある船着き場はどこだ?」
「正面の階段を進んだ先です!」
「わかった」
そう言って、アイゼンは騎士の拘束を解いた。
そして、その顔面に拳を叩きつけ騎士は呆気なく床に転がった。
ひっ、と聖隷くんから悲鳴が漏れた。
『子供が居るのにずいぶんと過激なのね』
こういう時って目隠しして上げたほうが良かったのよね。忘れてたわ。
「...手間をかけたわね」
「単なる適材適所だ。鍵も必要だが、戦艦も潰すぞ。バンエルティア号が迎撃される前にな」
「だな。管理室か船着場か、どちらに舵を取る?」
「管理室を探すわよ」
ベルベットのその言葉に我々は扉の奥へと入っていくのであった。
海門の上を進んだ先に鍵の掛かった扉があり、その部屋の窓は鉄格子で覆われていた。
恐らく目的の場所はここだろうと目星を付けた一行が周囲を見回せば建物の壁に蔦が蔓延っていて、それをロープ代わりに上に登れば、反対側にも蔦が伸びている場所があった。
『この下はわあああっ!』
除きこもうと端に近ずいたら上の方に蔓延っていた蔦を踏んで滑った。
そして、滑った勢いで前のめりに落ちた。
「レシ!」
「ちょっと、何やって……!」
アイゼンを筆頭に慌てて4人はレシが落ちた側を見下ろす。
『……びっくりしたわ……』
「びっくりしたのはこっちの方よ」
上を見上げればベルベットがほっとしたような顔をしていた。
1階分位の高さにちょうどよく少しの足場となる岩場があって、何とか海に沈まずに済んだ。
「これも死神の呪いか」
「かもしれん」
『違うわよ』
他人に不幸を撒き散らす体質だと、アイゼンは言っていたが、レシは元々自分がドジである自覚があるので、今回のコレが彼のせいだとは思わなかった。
その証拠に、
『ラッキーよ。ここの窓から入れそう』
こちら側の壁にある窓には運のいいことに鉄格子は無かった。
「ここが制御室のようね。手分けして鍵を探すわよ」
窓から室内に入り込んだ一行は目的の鍵を探す。
「俺たちは奥の部屋を探す。レシ行くぞ」
『はーい』
「奥の方が広そうだし、俺もそっちを手伝うか」
アイゼンに続いて私とロクロウも奥の部屋へ入る。
「怪我はないか?」
『ん?ああ、あれくらいじゃなんともないわ』
「そうか」
それならいいと言うようにアイゼンは背を向け室内の棚を漁り始めた。
「レシは見かけによらず頑丈なんだな!」
同じようにチェストを物色しているロクロウがハッハッハと笑った。
『ええ。私元々結構ドジなのよ。良く転ぶ分丈夫に出来てるんだと思うわ。だから、今回のも死神の呪いってののせいじゃないから気にしないでね』
「お前こそ俺に気を使ったこと、後々後悔してもしらんぞ」
『ふふふ、』
気を使ったわけではなく、全部ホントの事なんだけれど、なんて笑っていればベルベット達がいる方の部屋からゴツンと何か落ちてぶつかる音が聞こえた。
『あら、大きな音』
「音?なんか聞こえたか?」
そう言ってロクロウは首を傾げた。
扉の向こうから聖隷くんがあうう……と呻いている声と、それにベルベットが近づいていく足音が聞こえる。
『聖隷くんが頭をぶつけたみたいね』
ベルベットが聖隷くんに、これくらい我慢なさい。生きてる証拠よと言ってる声が聞こえた。
『ふふ、』
ラパン洞窟での言動から劣悪種かと思っていたのだけれど彼女、意外とそうでもないのね。後でちゃんと謝罪しないと。
「笑ってないでお前も鍵を探せ」
『ああ、それならベルベットちゃんが見つけたみたいよ』
「何!本当か!お前は耳がいいんだな」
関心するように言ったロクロウは鍵を探していた手を止めた。
『ええ。地獄耳なの』
「ハッハッハ!迂闊にレシの悪口は言えんな!」
そう言いながらロクロウはベルベットたちのいる部屋の扉を開けて戻っていく。
「それが天使の力か」
アイゼンが隣に来て小さく尋ねた。
『ええ。耳も目もとってもいいのよ。良すぎて嫌になっちゃうくらいには』
「……そうか」
聞きたくないものも聞こえるし、見たくないものも見える。
だからこそ、ウィルガイアの天使は皆、感情がないのでしょうね。
感情が無ければ、そんなこと気にしなくていいもの。
手にした鍵を使うべく船着場へ向かえばその手前の部屋で仮面で顔を隠した全身白ずくめのヒトが剣で業魔を斬り倒していた。
「一等対魔士!?」
先頭のベルベットが臨戦態勢に入る。
『へえ、これが……』
聖隷の意志を奪って道具として使っているという対魔士。
「船着場は、その先だな。通してもらうぞ」
アイゼンが拳を握れば、対魔士は剣を抜いた。
「貴様たちは侵入者か?……いや、どうでもいいか。業魔に関わるものは全て斬り伏せる。我が"ランゲツ流"の剣でな」
ランゲツ流。その言葉は道中の戦いでロクロウが技を使うのによく聞いた。
「……どけ、アイゼン」
「お前こそ下がれ。こいつは俺がやる」
「いいや、"これ"は俺の獲物だ」
そう言ってアイゼンを押し退けたロクロウは2本の小太刀を構えた。
向かってくるロクロウに対し対魔士は獣の様な聖隷を2匹召喚した。大きなイノシシとウリ坊の様な姿で2匹とも金の仮面を付けられている。
『へぇ、ヒト方以外もいるのね』
業魔がモンスターの姿の者ばかりでなくベルベットやロクロウの様なヒトの形を保っているのも居るのと同じか。
「邪魔をするなら斬る!」
「てめぇ、死神を舐めるなよ」
戦闘に混じってきたアイゼンにキレるロクロウを見るに、本当に敵味方関係なく叩っ斬られそうだと感じ、私は聖隷くんを連れて少し離れた場所から詠唱を始める。
ベルベットは、こちらの事など関係なく向かってきた大きな方の獣聖隷に致し方ないと剣を抜いている。
援護するなら少なくともこっちがいいだろう。
『落ちろ!ライトニング!』
落雷により動きを止めた聖隷の隙を逃さずベルベットが斬り伏せた。
もう1匹の小さいのは……と見たらそちらはアイゼンが拳で吹き飛ばしていて、その間にロクロウが対魔士と対峙し、剣で薙ぎ払った。
流石に一等、一撃とは行かず倒れた対魔士はゆっくりと起き上がろうとしている。
「時間がない。お前たちは先に戦艦を潰せ」
「ロクロウ、そいつはまだ──」
「ああ。力を残してる」
それでも行けと言うようにロクロウはこちらを振り向きもせず、対魔士を見据えていた。
「……行くぞ」
先程まで、どちらが倒すかと競っていたはずのアイゼンがいの一番にそう言って船着場へと走り出す。私達3人もそれに続く。
船着場へ出れば、桟橋に止まっている戦艦の上に数匹の業魔がいた。
「はあっ!」
最後の一体をベルベットが斬り伏せた所で、バラバラに業魔を退治していたみんなが集まる。
「アイゼン、火薬は?」
「仕掛けた。こいつをバンエルティア号への狼煙代わりにする」
狼煙にもなる上、万が一生きたヒトがいた時に追っかけて来られないように戦艦も燃やせる。実に効率がいい。
さて、ロクロウはどうしたかな、と耳を澄ませる。
『………、大丈夫そうね』
「……どうしたの?」
不思議そうに聖隷くんが見上げてきた。
『ロクロウくんの方も片付いたみたいよ』
船着場から1つ前の部屋に戻ってロクロウと合流する。
「応!俺の目的も聖寮になったぞ。恩返しもできるし、丁度いいな」
笑いながらそう言うロクロウの離れたところには動かない対魔士があった。
「あ………!?」
聖隷くんの怯えたような声で、あっ、と気づく。
『また、目を隠してあげるの忘れてたわ』
こういうの子供の教育に良くないんだった。
「……あんたがやったの?」
「ん?まずかったか?」
「別に」
「死神の連れには丁度いい」
殺した事をなんとも思っていない様子のロクロウに2人は淡々とそう答える。
私は別になんとも思わない。私の知り合いではないし、最初からロクロウは獲物だとハッキリ言っていたし。
「これで準備は整った。海門を開門するぞ!」
『ふふっ、』
「おっ、受けたな!」
ロクロウのオヤジギャグに笑ってしまえば、ベルベットには白い目で見られた。
そんな目で見ないでほしい。昔から言葉遊びの様なオヤジギャグが好きなのだ。ダオスを倒す!のようなね。
海門の上部にあった2箇所の開閉装置を動かせば、重い音と共に海門が動いていく。
急いで船着場へ、戻ろうと海門の屋上を進んで居ると、アイゼンに腕を折られた後ぶっ飛ばされて気を失っていた兵士がアンデットかのようなユラユラとした動きでやってきた。
「好きにはさせんぞ……ここはワシの……」
そう呟いている男の周りに黒いモヤの様なものが浮いている。
『……なに、あの黒いの……』
そう小さく呟けば、アイゼンの視線が私の方へ向いた。そして顎に手を置いて何やら考えている。
どうにも、ずっと品定めの様な事をされている。天使というものが珍しいからかもしれないけれど。
まあ、とりあえずこの黒いモヤの件は気にしているのは私だけのようだ。反応的にアイゼンは見えているようだけど、ベルベットやロクロウは気にしていないようだ。この世界において普通の事なのだろうか。だったら2人の反応の無さにも納得がいくが……。
そう考え混んでいるうちに、羅針盤を大事そうに抱えた聖隷くんがその男に気づいて居ないようで近付いて行っていた。
「ワシの要塞たああっ!!」
ブワッと黒いモヤが大きくなって男を包み込んだと思ったら姿が化け物に変わった。
小さな門のような殻に、カタツムリのように軟体の身体が付いていた。
その姿に似合わぬすばしっこい動きで、門の業魔となった男は、気づいていない聖隷くんへと突っ込んで行った。
ぶつかる寸前の所をベルベットが聖隷くんの腕を引いて引き寄せる。
その反動で手から離れた羅針盤は転がって行く。
「ちっ!こいつも業魔病に!」
「ふん!だが前よりずっとマシだ」
そう言って前衛組が門を叩きに行った。
しかしなるほど、さっきのあのモヤが業魔病の病原菌みたいなものというわけだ。
触れるとすぐに感染するのだろうか。だとしたら、この要塞の蔓延さにも納得がいく。
「レシ、ボサっとしない!行ったわよ」
『こういう時は、ダオスくんの真〜似!』
なんちゃってダオスレーザーだ。いや、私がやったらレシレーザーか。
手にマナを集めて、それをこちらへ突進して来た業魔へ照射する。
手から放たれたレーザーに業魔は後ろへと押し返された。
安全を確保した所で詠唱に入る。
「こいつはどうだ!」
「捉えられまい!」
「空破絶掌撃!」
『─光よ!フォトン!』
連携が決まって、門の業魔は倒れた。
ぴくりとも動くなり、皆武器を収める。
ベルベットが屋上の端によって上から下を見下ろす。
彼女に習う様に皆、近付いて下を見てみると、船着場には先程私達が倒したよりも多くの業魔が現れて群がっていた。
「船着場は業魔の巣だ。あれじゃ、船に乗り込まれちまうな」
『せっかく片付けたのに、これが死神の呪いなのねぇ』
どこまでも不運というわけか。
離れた所からのドゴン!という大きな音に皆、ビクリと体を揺らす。
大砲の音。船が近づいてきてる合図だ。
「ちっ、時間がない」
慌てるロクロウを横にベルベットが私を見た。
「……あんた人間じゃないのよね?」
『ええ。人間じゃないわ』
ニッコリと笑ってそう答えればベルベットは小さく頷いた。
「アイゼン、船にとまらずに海門を抜けるよう指示できる?」
「それなら船は助かるが、俺たちはどうする?」
「この真下を通る船に飛び移る」
「お…………おう!?」
流石のロクロウもこの発言には驚いたようだ。
それにしても、私が人間だったら別の方法を考えてくれたのかしら。
彼女、どうして粗暴な態度を取るのか分からないけれど、根の優しさが隠しきれてないわね。
「それしかないでしょ。アイゼン、なんとか合図を──」
「必要ない。バンエルティア号は海門を突っ切る」
「伝えなくても?」
「俺も同じ策を考えた。アイフリード海賊団の流儀だ」
なるほど。アイゼンの呪いを分かってる海賊団のみんなならこういう場合アイゼンならどうするか知り得ているというわけか。
「本当に真っ直ぐ来た!」
「こっちも行くわよ!」
『ええ、ええええ?』
羽を出そうかと思った瞬間、羽を出していないのに浮いた。
胸の下に腕が回され抱え上げられていた。……アイゼンに。
……羽を出すな、と言うことだろう。
「無事で済むかな?」
見下ろしながらロクロウが不安そうにしていれば、私を抱えたアイゼンは鼻で笑った。
「死神に保証して欲しいか?」
ニヤリと笑うアイゼンに、それだけは無いなというようにロクロウは苦笑いをした。
……死神に抱えられた私は誰が保証してくれるのかしら。
いや、高いところから落ちるくらいならたぶんクルシスの輝石の力で無傷だろうけど。
それよりも、
『ねぇ、あの子……』
「せい!」
「ふっ!」
『……ああああああああ!』
足音的に離れて行っていた聖隷くんの事を伝えようと思ったのに、アイゼンはロクロウと共に下へと飛び降りてしまった。
「ちょ、なにを!?」
どうやらベルベットは飛び降りる前に気づいてくれたようだ。
「わっ…………!」
抱えられて下へ落ちていく中、少年の悲鳴とさっきの業魔が起き上がった様な音が聞こえる。
『アイゼンくん!聖隷くんが!』
「なに?」
重力に従って落ちていく中、羽を出せば私は上に戻れる。
いや、いま戻って間に合うか?それなら壁で敵の姿は見えずとも、数打ちゃ当たるで魔術を放った方が……。
『剣に秘められし、七色の──』
「うわあっ……」
聖隷くんが業魔に吹き飛ばされた様だった。
ベルベットが駆ける足とが聞こえる。
「ライフィセット!!!」
その叫び声の後、業魔に大砲が打ち込まれる音がした。
轟音が静まった後、「まったく、あんたは!」と怒っているベルベットの声が聞こえて、詠唱をキャンセルした。
「大当たりぃ〜〜〜っ!!」
下の船からピンクと紫の派手な魔法使いの様な衣装を着た女の子が喜びの声を上げている。
ロクロウも、アイゼンも船の帆に掛かったロープを上手く利用して、甲板の上へ落ちた。
ドンッ、とアイゼンが甲板に着地し、振動が伝わる。
「アイツらは無事か?」
『ええ。すぐ来るわ』
アイゼンに降ろしてもらって上を見上げる。
「うわあああ〜〜〜!」
聖隷くんの悲鳴と共に2人は帆の上に落ちて来るのだった。