第1部
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「大砲用意・・・・・・撃て!」
アイゼンの命令で前方の帆船へ大砲が撃たれる。
ヘラヴィーサの街から船に戻り、街で聞いた事をアイゼンに話せば彼は沈黙し何かを考えた挙句、港から出ていった例の船を追うことにした。
理由は、王都へ向かうためだ。
アイフリード海賊団の彼らは王都に何か用があるらしい。
ヘラヴィーサはあの状態で調べ事どころではないし私も共に王都へ連れて行って貰うことにした。
そして王都へ向かうにはまず聖寮が抑えている海門要塞を突破しなければならないらしく(海賊船なので正規に海門要塞を通れないようだ)戦力が必要だとの事。
つまりヘラヴィーサを襲った業魔たちを仲間に引き入れようという魂胆だ。
そして数十分後には例の船に追いついた、バンエルティア号の大砲が火を吹いた。
バンエルティア号からの攻撃を受けた前方の船は陸地へと逃げ込んだ。
無論、バンエルティア号も陸地へと止まる。
船から丘へ降りた者たちをアイフリード海賊団の船員たちが船から降りて取り囲んだ。
私は降りず船の上から様子を伺った。
「うっはー!本当に業魔の集団だ。これは使えるかもな」
船から降りたベンウィックが面白いものを見たと、言ったようにようようと喋る。
「業魔と知ってやるか。いかれた奴らだな陸の上なら容赦はせんぞ!」
船から降りてきた業魔の集団というのはたった5人?だった。
左腕にグルグルと包帯を巻いた黒い長髪の美女(なかなか破廉恥な格好をしている)と顔に黒い刺青のような模様が入った和服の青年と、ぼんやりとした金髪の子供、ピンクと紫の派手な魔女。そして二足歩行のトカゲ。このトカゲは業魔かなるほど。
「命令よ、2号。こいつらを蹴散らせ」
黒髪の美女が子供にそう言ったのが聞こえた。
命令・・・。2号・・・。
「おっと。相手は俺たちじゃないぜ」
ベンウィックがそう言えば、後ろでことの次第を見守っていたアイゼンがゆっくりと彼らに近づいた。
「俺だ」
少年が札を投げたのをアイゼンは岩を出し防いだ。
少年のあれは符術だろうか?昔友人が使っていた術に似ている。
「聖隷!?」
術で防いだアイゼンを見て美女は驚いたようだが、アイゼンはそれを否定した。
「いいや・・・・・・''死神''だ」
そして戦闘が始まった。
「なんなのこいつは・・・!」
「聖隷が海賊をやってるのか!?」
向こうの人らは困惑しているようだ。
だが、私も驚いた。戦闘中美女の包帯を巻いている腕がバケモノの手に変化した。なるほど彼女も業魔なのか。となると、和服の青年もだろうか。
戦闘の最中、アイゼンくんが呟いた。
「ペンデュラム使いはいないようか・・・」
ペンデュラム?と首を傾げる。
そういえば、彼らの船長が行方をくらましたとされる場所に残ってたとか言ってたけど、もそもそそれってダウジングするときに使うやつじゃなかっただろうか。
不思議に思っていると、アイゼンは彼らと一定の距離を取った後、拳を解いた。
「・・・合格だ。力を貸せ」
「は?ずいぶん勝手な言い草ね」
そういいながら、彼女らも武装を解いた。
「ヘラヴィーサを燃やした奴らほどじゃない」
「知ってて試したのか」
「ついでに助けてもいる。あのまま進めば''ウォーティガンの海門''に潰されていた」
「あんたらミッドガンド領に向かってるんだろ?それには、この先の海峡を通らなきゃならない。けど、そこは王国の要塞が封鎖してるんだ。文字通り''巨大な門''でね」
そんな要塞が。
事実なら借りが出来たな。と業魔たちはこぼした。
「俺たちも海門を抜けたいが、戦力が足りない。協力しろ」
「海賊の言うことを真に受けるほどバカじゃない」
「自分の目で確かめるか?いいだろう。命を捨てるのも自由だ」
そう言ってアイゼンは業魔たちの間を割って進む。
「なんじゃ、断ってもよいのか?」
「お前たちはお前たちで俺たちは俺たちでやる。それだけのことだ。レシ」
名前を呼ばれ、はいはい、と返事をして船から降りる。
業魔たちからの視線が1度に集まる。
青年と美女は剣に手を掛けているので警戒しているのだろう。
彼らの間を縫って、アイゼンの側へ行く。
「行くぞ」
協力できないようならば、私とアイゼンの2人で突破する。事前にそういう話になっていた。
『ええ』
アイゼンと共に歩き出そうとするとベンウィックが駆け寄ってきた。
「副長!レシがつえーのも知ってっけど2人だけじゃ・・・!やっぱり俺たちも一緒に――」
「足手まといだ。お前らは、計画通りバンエルティア号を動かせ」
置いて歩きだしたアイゼンを見てレシは苦笑した。
『ベンウィックくん、バンエルティア号のほうの作戦も大事だからしっかりお願いね。アイゼンくんの事は心配しなくても大丈夫よ~。天使様が付いてるんだから』
そう言ってウインクを飛ばして、レシはアイゼンの跡を追った。
こっちだ、とアイゼンに案内されたのは洞窟だった。
「このラパン洞穴を抜けた先にウォーティガンの海門がある」
アイゼンに着いて洞窟の中を進む。
『業魔っていうのは見た目がほとんど人間と変わらないものいるのね』
「ああ。だが、あいつらのように業魔になっても自我を保っている者は少ない」
『そうなの』
ヒトとしての意思疎通が出来て業魔としての強い力を持っている彼らは仲間にするにはちょうど良いという訳か・・・。まあ振られてしまったわけだが。
『あの集団のリーダーは黒髪の女性みたいだったわ、ねっ!?』
「・・・!?」
話に夢中で足元が疎かになったのか、レシは絡まった草に躓いて転けた。
呆れたようにアイゼンが手を差し伸べてきたので、それに掴まって立ち上がる。
レシはあははと照れたようにわらいながら服に着いた土を払い落とした。
『私鈍臭いみたいで、ごめんなさいね』
そう言えば、アイゼンは眉間にシワを寄せていやと首を振った。
「俺のせいかもしれん」
なんで?と首を首を傾げていると魔物の気配を感知した。
いつの間にか、蠍のような業魔が数匹そばまでやって来ていてレシはダブルセイバーを掴み、アイゼンは拳を握った。
業魔はおそらく毒があるだろう尻尾を突き刺すように振ってきた。それをダブルセイバーの広い面を盾のように使い受け流したあと、全身を乗せてプレスすし、そして刃面でたたっ斬る。
戦いながら、レシはある音に気がついた。
いち、にい、さん。
三つの足音が聞こえて、レシは小さく口元に弧を描いて業魔を殲滅した。
アイゼンが最後の1体を仕留めたところで近づいてきていた三人分の足音が止まった。
「海賊を信じる気になったか?」
「まさか。けど、要塞を抜けた後、王都まで船と人員を貸してくれるなら協力してもいい」
へえ、取引を持ちかけてくるのか。
なかなか頭の切れる娘のようだ。
「・・・いいだろう。が、こっちもひとつ言っておくことがある」
そう言ってアイゼンはコートのポケットから金貨を取り出して、ぱちんと親指で弾いた。
宙に上がったコインが落ちてきて、ソレをアイゼンはキャッチする。
「俺は、周囲に不幸をもたらす"死神の呪い"にかかっている」
アイゼンはキャッチした手を開いて金貨を見せる。そこには骸骨が描かれている。
「千回振っても"裏"しかでないほどの悪運だ。以前要塞を抜けようとした時も、五人犠牲者が出た」
『へぇ』
知らなかった。そんな呪いにかかってたのか。
「同行すれば、なにが起こるかわからんぞ」
「なぜそんな不利な情報を教えるの」
「業魔も理不尽に死にたくはないだろう」
そう言ってアイゼンは業魔の女に金貨を投げた。
彼女はそれを顔の前でキャッチする。
「知った上で来るなら自己責任ということだ」
・・・知らなかったんですけど。
「どうでもいいわ」
彼女は金貨を素早く投げ返した。
「"裏"なら自力で"表"にひっくり返すだけよ」
キャッチしたアイゼンが手を開けば、先ほどとは違う女性の絵柄が書かれていた。
「名は?」
「ベルベット。これは二号」
これ、と指された少年は静かに俯く。
『二号・・・ねぇ・・・』
ベルベットのことはあまり好きになれそうにないかも、と思いながら、少年を見る。
「俺はロクロウ。よろしくな」
「アイゼンだ」
業魔の男性とアイゼンも挨拶を終え次はお前と言うように視線が集まる。
『レシ・カーフェイよ。どうぞよしなに』
「要塞を攻略する策があるんでしょ。聞かせて」
簡単な自己紹介を終えた後ベルベットは端的にそう言った。
「結論から言えば、ウォーティガンの守備は鉄壁だ。海から攻めても陸から攻めても、落とせない」
「おいおい」
海も陸もだめなら空から攻めれば良いのでは?なんて考えが思いつくのは天使ならではだろうか。
「・・・・・・なら、同時に攻めればいい」
ベルベットの案に、そうだとアイゼンが頷く。
「まずバンエルティア号で攻撃をかけ、警備艦隊を海峡から引きずり出す」
『その際に、私たちが要塞に侵入し海門を開く。だったわよね?』
作戦を確認するようアイゼンを見ればこくり、と頷かれた。
「バンエルティア号は艦隊を振り切って海峡に再突入。俺たちを拾って駆け抜ける」
「ひとつ間違えれば全滅だな」
「けど間違えなければ勝ち目はある」
「死神同行でか・・・」
「作戦はもう始まっている。行くぞ、要塞の入口は洞窟を抜けた先だ」
踵を返し歩きだしたアイゼンの後を皆応用に歩みを進めた。
後ろをちょこちょこと付いてくる、少年にペースを合わせて隣に並ぶ。
『ねぇ、聖隷くん』
「・・・・・・・・・」
『えーと、聖隷くん?』
「・・・・・・・・・」
無反応だ。
「話しかけても無駄よ。これは命令しか聞けないんだから」
ベルベットがやれやれといったようなポーズをとった。
『無駄、ね・・・』
「それよりも、すごいツタ・・・・・・」
洞窟の一本道に太いツタが絡み合って生えている。
「絡み合っててちぎれない」
「携帯用の"着火剤"がある。これで燃やせ」
「こんな所で火を使って平気?」
「普通は平気じゃない」
『洞窟だし酸欠になるでしょうね普通は』
そうよねとベルベットは頷く。
「だが、俺たちは業魔と聖隷だ」
「・・・レシは?」
『私も人間じゃないから大丈夫よ』
人間じゃない?とベルベットとロクロウが怪訝な顔をする。
「でも業魔ではないだろう?」
『そうね。まあ大丈夫よ』
はい、燃やします。と着火剤をツタにかけ火打石で火を付ける。
炎は一気に大きく大きくなりツタを燃やした。
『さあ、行きましょう』
「本当に大丈夫そうだな」
ロクロウの言葉に頷いて、燃えきって空いた道を歩き出す。
それにしても、とロクロウは口にする。
「少年、ずいぶん大人しいな。具合でもわるいんじゃないのか?」
「元々こうよ。二号は」
また、二号・・・と眉を顰める。
「やめろよ。二号なんてかわいそうだろ」
ロクロウはまともなヒト・・・いや業魔?のようだ。
「あんたの名前の意味は?」
「兄弟の6番目でロクロウだが」
「それと同じよ」
「同じじゃないだろ」
『同じじゃないでしょう』
なに、とベルベットが見てきた。
『いつの時代も、どこの世界も劣悪種は劣悪種と言うわけか』
「はあ?なにが言いたいわけ?」
睨んできたベルベットに大きなため息を吐く。
『・・・わからないならいいわ』
私がちゃんとした名前付けてあげようかしら。
どんな名前がいいかな、と少年を見・・・・・・っていない。
『ちょっと貴方たち、あの子は!?』
「二号がいない!?」
慌てて引き返すと、蠍型の魔物が少年に襲いかかるところだった。
少年は何故か、口元を手で抑えてしまっている。
「はっ」
アイゼンが風の聖隷術で敵を飛ばした。
「大丈夫か少年!」
駆け寄って少年を見れば、何処も怪我はないようだ。
「なんで声をあげないの!気づくのが遅れてたら死んでたわよ!」
声を荒らげたベルベットを少年は口を開けてぼーっと見てたかと思うとすぐさま俯いた。
「・・・・・・命令だから。口を聞くなって・・・・・・」
少年の言葉に、ベルベットは驚愕したようだった。
『貴女そんなこと言ったの・・・?』
「あれは違うっ!」
ベルベットは少年の肩を強く掴んで揺さぶる。
「あんたは・・・なんでそんな!」
「落ち着け、ベルベット」
ロクロウがベルベットの肩に手を置き、彼女は息をついて少年から手を離した。
「お前、対魔士に使役されていたのか?」
アイゼンの問に少年はこくりと頷いた。
「やはりそうか・・・・・・。こいつは"意思"を封じられているんだ。本来聖隷は人間と同じ心を持つ存在だ。だが、対魔士どもは強制的に聖隷の意思を封じ込めている。道具として使うためにな」
・・・・・・・・・。女神の器にするために神子の意思を封じ込める。あれとよく似た話だ。
「ずっとこのままなの?」
「わからん。対魔士の配下から脱した聖隷は初めて見た」
『・・・意思は戻る、と言うか持てるようになると思うわ』
本当に?とベルベットが目を見開く。
非情なのかそうじゃないのか、この娘はよくわからない。
『私がそうだったもの』
「は?」
『さあ、行きましょう』
再び歩き出せば、え、と後から戸惑いの声が聞こえた。
洞穴の途中にいたかめにんという商人からベルベットが巧妙に値切って必要な道具を購入し、一行は進んでいた。
キンッと金属を弾く音が聞こえ、そちらを見れば、アイゼンがまたコイン占いをしてる所だった。
「アイフリード海賊団の副長は妙な験を担ぐのね」
「癖みたいなものだ。どうせ裏しか出ない」
「その金貨ってどこの国のものなんだ?表は女神、裏は死神なんてのは、初めて見た」
確かにガルドとは違う金貨だ。
「裏側は厳密には死神じゃない。これは《魔王ダオス》だ」
『は?』
思わず目をぱちくりとさせる。
「なんか、どっかできいたような名前だな」
首を傾げたロクロウに聖隷くんが答えた。
「・・・女神マーテルと・・・魔王ダオス・・・」
『はあ!?』
「《ラグナロック》第765章《ユグドラシル戦記》より」
『はぁあああああ!???』
「いきなりなに!?」
突然大声をあげたレシにベルベットが、ビクリと肩を揺らした。
『アイゼンくん!金貨!その金貨見せて!!』
「あ、あぁ。構わんが・・・」
アイゼンの手から金貨を受け取り、それの表と裏をひっくり返してみる。
「レシはいきなりどうしたんだ・・・?」
「これは、異国の古代遺跡から発掘されたカーラーン金貨と呼ばれる貨幣だ。もしや、お前の時代ものか?」
『カーラーン金貨・・・。そう・・・。私の知ってるものではないわ。ただ・・・』
ただ?と皆が様子を伺う。
『ここに描かれている女神マーテルは私の母で、こっちに描かれている魔王ダオスは私の友人』
そう言って、金貨を表裏させる。
「「「は?」」」
聖隷くん以外の3人から揃って間抜けな声がした。
「面白い冗談だな!」
ハッハッハ、とロクロウが笑えば、ベルベットも冗談かと納得したようだった。
『ユグドラシル戦記ってののユグドラシルは私の伯父。カーラーン金貨の名は、古代のカーラーン大戦・・・もしくはデリス・カーラーンから付けられたのでしょうね。あ、アイゼンくん返すわ』
「あ、ああ・・・」
『しかしながら、かあさまの絵は割と女神マーテル像と遜色ないけれどどうしてダオスくんは骸骨なのかしら・・・。やっぱり魔王として恐ろしさを表現して・・・?』
「・・・ちょっと、レシ。もう冗談はいいわよ」
呆れたようにベルベットがいう横で、ふむ、と考えながらアイゼンが腕を組む。
『冗談ではなくてよ?あ、カーラーンの事があるってことなら世界樹についても記されてるかも・・・。ねえ、聖隷くん《ラグナロック》てのは書物よね。どこに行ったら読めるかしら』
「・・・・・・王都の図書館、ならあると思う・・・」
『そう。ならば善は急げね。さっさとウォーティガンを突破しましょう!』
意気揚々と進むレシを見てひそひそとベルベットとロクロウが呟く。
「・・・・・・、冗談よね」
「冗談だろ・・・アイゼン?」
「さあ、な」
アイゼンがお手上げのポーズをして見せながら一行は洞穴を抜けたのだった。
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スキット02 ラパン洞穴〜